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どん底

 はじめまして。琴原宰です。

 本作は、なろうでの二作目になります。毎日更新するつもりですが、もしお暇であるならば一作目の投稿作品でもある「神恵の子ら」もお読みください。よろしくお願いします。

 今作の舞台は、上空十万メートルの天空都市です。地上界の戦争や格差に嫌気がさした人々が、新たに移住してつくったのが、『天空都市』であり、そこは地上の世界とはことなる化学技術・天空術(魔法のようなもの)が、存在する世界です。そこで、天空闘竜というスポーツが行われており、地上界のサッカーやテニスなどと同じくらいの人気を博しています。主人公は、その天空闘竜のプロ選手です。

 では、前置きはこれくらいにして、お楽しみください。

 

(天空都市群グングニル・中央島セントラル街)

 


 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ!


 五月蠅い。


 なんだっけ、これは。


 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ!


 そうか、目覚ましの音だ。

 

 つまり、今はAM11:00。そろそろ正午になっちまう。


 空いたままの窓から、忌々しい朝日と風が流入してくる。腹立たしいことだ。


 が、それ以上に気にかけなければならないことがあった。


 ……頭が割れそうだ。昨晩、飲み過ぎたようだ。地上製のジンを二瓶、空けてしまった。最後の最高級グレード舶来品だったのに、ほとんど味わった意識がない。たぶん、酔いつぶれたんだろう。

 

 気持ち悪い。吐きそうだ。だが、トイレまで行ける余裕もない。だが、寝ているソファでぶちまければ、引退後の生活資金がそこそこ減るだろう。ゲロでコーティングすれば、高級リサイクル業者の提示する査定価格が暴落するからだ。


 しかたがないから、ソファから起き上がる。

 

 途端に、津波のような吐き気が喉元をせり上がってくる。


 こうなれば、徒競争のようなものだ。吐き気が喉元から口内、そして口外へと怒涛のスパートをかける間に、純金と檜で装飾されたトイレのドアを乱雑にこじ開け、昨日小便をしたまま開けっ放しになっている便器に感謝しながら、胃の中を空っぽにする。


 安堵と一種の爽快感が一時的に訪れた後、言いようのない敗北感と挫折感に襲われる。惨めな気持ちだ。


 荒い息を付きながら、レバーを捻って、吐瀉物を流す。心底不快になる色と形をした物体は亡くなったが、そこに残る腐臭だけは消しようがない。


 訪れた静かな水面に、血色のない惨めな17歳の男(※天空都市での成人は17からだ。だから、飲酒も許される。他の国ではどうだか知らないが)が一人。


 詳しく品定めしなくても分かる。青白いそれは、負け犬の顔だ。


 この氷息帝ザザ・ムーファランドが、天空都市隋一のプロスポーツで頂点を極めようとしていた男が、情けない。今すぐ、インペリアルリーガーの誇りに泥を塗らぬよう、服毒自殺でもすればいいのかもしれない。本気でそう思う。


 だが、俺にはその度胸すらない。何と甲斐性のない。住んでいた億ションも追い出される訳である。


 心中を投影したように揺れる水面を眺めて、浮かぶのは仮定の話ばかりだ。あの出来事以来、俺は女々しくそればかりを嘆いている。



 ――怪我さえ、なければ。あの怪我さえなければ、全てうまくいっていた。なのに、なのに、……。



 現役時代は一滴も呑まなかった酒に溺れたのも、この成功者しか住めないタワーマンションを追い出されるのも、先月購入した時速333キロまで一瞬で到達するラグジュアリー・カーを差し押さえられたのも……。


 ――あの怪我さえなければ、違っていた。翼さえ、翼さえ傷めなければ……。全てはあのままだった。輝かしい日々が、享楽に溺れ、栄光を手にする日常が、そこにあったはずだった。



 だが、現実はどうだ。俺は、今日正午にこの億ションを追い出される。二度と住めないランクの豪邸で最後にしたのは、ゲロを吐くことだ。惨めにも、程がある。



 おまけに、次の住居も、仕事も、恋人も決まっていない。今までの豪奢な生活と築きあげた栄光のキャリアを捨て、職なし宿なし恋人なしのホームレスに転落するとは。なんと情けない。



 こんなことなら、貯金をしておくんだった。税理士や恋人の意見も聞かず、散在に次ぐ散在に明け暮れた日々……数億ミスリル(※1ミスリル≒地上界の島国の一円)あった稼ぎも、ほとんど残っていない。たぶん、普通の市民として半年生活できるくらいだろう。



 悪夢みたいなbefore/after。でもこれは現実だ。



 俺は、此処からまたプロの世界に返り咲けるのだろうか?





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