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WoA 設定等 物置  作者: Win-CL
WoA番外編!
17/27

2018年9月【十五夜!月下のうさうさパニック!?】―②

『……おい、ケルベロスがいないぞ』


 翌日、言われた通りにいつもの時間に≪憤怒地獄(ラース)≫のゲート前に来たものの――そこにいたのは[シトリー]のみ。嫌な予感がして尋ねると『あー、ケロちゃんはねぇ……』と言葉を濁し始める。


藍玉(らんぎょく)さんが一緒に現界へ行きたいって言うからお願いしちゃった』

『お願いしちゃったって……』


 [藍玉]っていうと――この間第二位へと上がったばかりの、あの【シトリー】か。やたらと野心に燃えていたような気がするけど……早速行動に移してんのかい。


 別行動なら別行動で仕方がないと、諦めてシトリーにどうするのか聞いたところで。なんともはや、『ついてきなよ』と招かれたのは≪地獄の宮殿(パンデモニウム)≫にあるルームの一つだった。


『第一位権限でグループルームに招待しちゃいます! ようこそ!』

『いやいや、ただのアウェイだろこんなの!』


 メンバールームには所狭しと家具や小物が置かれており、何人もの【シトリー】がくつろいでいた。


  ――想像していた以上に集まりがいい……。自分も何度か【グラシャ=ラボラス】のルームに入ったことはあるけれど、ここまでじゃなかったぞ。


「あ、シトリーさん」

「どうもー」


 近くを通った二人がこちらに挨拶する。なんだよこれ。普通にグループとして機能してるんだけど。通りがかっただけで挨拶されるとか、お前は学校の先生かよ。


「やぁやぁ。ちょっと隅っこで話すけど、みんな気にしなくていいからねー」と、簡単に挨拶を返す[シトリー]。このまま本題に入るかと思いきや、なんとルーム内のメンバーの何人かをVC(ボイチャ)に繋ぎ始めた。


『そんじゃあ、グラたんを呼んできましたので! ――総員、整列!』


 号令を受けてバタバタと寄ってきたのは、部屋の中央に座っていた二人。それと――隅のソファに腰かけていた一人がぬらりと。……総員と言っても三人だけだった。


『言われた通りに並ぶあたりが凄いな……』

『グラたんと違ってメンバーとコミュニケーション取ってるからねぇ。伊達に【シトリー】やってるわけじゃないのさ』


 ……そんな簡単な話じゃないだろ。


 たとえグループのトップだといっても、所詮は他人。他人様(ひとさま)の指示に従うのを良しとしない奴もいるだろうし、それがゲームなら尚更だってのに。


 そりゃあ軍隊のようにキビキビとなんてしてないけれど――それでも群体としての動きを考えるならば。戦況を操作したいのならば、十分過ぎる程である。


『それではご紹介いたしましょう! 【シトリー】自慢の、息ピッタリ三人組ぃ!』


『ちょこです!』

『ヴァニラです!』

『……ミントです』


 あぁ、うん。頭の上に名前が出てるから分かるんだけどな?


 自己紹介した順番に、向かって左から黒いの白いの青いのと並んでおり――三人とも頭には例のウサミミが付いている。……いや、最後の青髪だけタレ耳(ロップイヤー)をハンチング帽から覗かせていたけど、そこはウサミミには違いないだろう。


 目の前にいるのは、[ミント]と自己紹介したプレイヤーのアバター。ハンチング帽から水色の髪と、覇気も無く垂れたロップイヤー型のウサミミを覗かせて。標準から少し白めの肌にケープを羽織り、煉瓦(れんが)色のごくごく一般的な学園服を着ていた。


 残りの二人、黒髪で小麦色の肌をした[ちょこ]は何故か体操服。[ヴァニラ]は真っ黒な冬のセーラー服に白い長髪という外見をしていて。


『学生もので揃えてんのな。……ここまで統一感がないのも珍しいけど』


 背は高い順に[ちょこ]、[ヴァニラ]、[ミント]となっていて。前二人は高校生サイズで、[ミント]だけ中学生というところだろうか。ちょうど[シトリー]と同じぐらいだった。


『名前は偶然だったんだけどねぇ。服装はチームを意識してってことらしいよぉ』


 ……というか、全員女子かよ。普通にネカマの多いオンラインゲームの世界で、なんともまぁ揃うものだと。まぁ[シトリー]の言うように、三人でチームを組んでいるらしいし、元々‟同性で”と条件があったのかもしれないけれども。


『というわけで――はい! 三人揃ってー?』

『――っ!?』


 全員が小さく『えっ?』と漏らしたのを聞き逃さなかったぞ。アドリブかい。


『えっと……いくよ?』

『……うん』

『せーの――」


 それでも、上の者の無茶振りには頑張って応えようとするらしい。三人が大きく息を吸って、タイミングを合わせようとしていた。


 チョコ、バニラ、ミントと来て連想できるものなんてたかが知れているし。

 きっと何とかなるはずだ。頑張れ!


『三段マシマシ――』

『サーティーアイス――』

『うずまきソフ――』


『――バラバラじゃねぇか!』


 発言も統一性がなけりゃあ、モーションまでバラバラだった。『【シトリー】自慢の息ピッタリ三人組』とはなんだったのか。


『ひっ……』


 いや、思わず突っ込んでしまったけれども、萎縮してもらっても困る。別に責めてるわけじゃないんだ。悪いのはこいつ(シトリー)だって分かってるから。


『グラたんやめてよー。みんなが怖がってるじゃないのさー』

『少なくとも半分はお前のせいだろうが! 見りゃ分かるとは思うけど……グラシャ=ラボラスだ。よろしく』


『で、だねぇ。グラたん』

『……なんだ』


 開幕からゴタゴタしたけれども、どうやら本題に移るらしい。……この三人をわざわざ集めて何をするつもりなんだか。


『ちょいとこれからチョコバニラちゃんが忙しいということで――』


『ちょっと!?』

『分ける努力を惜しまないで!』


『お前も人のこと言えねぇぞ、シトリー。二人とも困ってるだろうが』

『なかなか細かいところに食いつくんだねぇ……もう』


 雑な紹介もコミュニケーションの内なのは、[藍玉]の時から分かっていたこと。本人も相手が理解していると分かってるからこそ、『別に気にするようなことでもないじゃない』と肩を竦める仕草をしながら話を続ける。


『――ちょこちゃんとヴァニラちゃんがいない間、ミントちゃんのスコア稼ぎを手伝ってあげて欲しいんだよねぇ』

『はぁ。スコア稼ぎの手伝い』


 ……鸚鵡(おうむ)返しである。こうしてわざわざルームまで呼ばれた以上、紹介だけだとは思ってなかったし。薄々そんな気はしていたけども――


『実質、俺が戦うことになるんだよな?』

『そりゃあ【シトリー】だもの、当たり前のこと聞くなよー』


 ちょっくらこの部下を連れて、戦場のど真ん中に突っ込んで来いと。初めて組む相手にサポートを任せるというのは、中々に勇気がいるもの。


 [シトリー]もそこは重々承知している筈だよな?


『まぁミントちゃんも実力はある方だし? 大船に乗せられた気でいなよ』


『あぁ、漕ぐのは俺の役割なんだろ』

『そうそう。分かってんじゃん』


 つまりは奴隷船なんじゃねぇか、こんちくしょうめ。






『ごめんねー、ミントちゃん』

『一位と組めるの少し羨ましいかも……』


『二人はまた今度だねぇ。お疲れさまー』


 そうして直ぐに、他の二人は例の用事のために落ちて。自分を含めた三人は、未だメンバールームの隅っこで固まったまま。なぜかというと――約一名、自己紹介が済んでから身動き一つしていない奴がいたからで。


『――ミントちゃん? おーい』

『……はっ、すいません。寝落ちしかけてましたー』


『大丈夫なのかよ、おい』


 間延びした口調といい、ダラダラとした動きといい。[ミント]とは名ばかりの、清涼感とは程遠い印象がファーストコンタクトの感想だった。


『現界に降りる前にカフェインちゃんのチェックは?』

『……カフェインちゃん?』


『……もちです。二号もばっちり』

『わお。……うん、それじゃああれだね。大丈夫そうかな』


 何やら二人でごそごそと話をして。‟カフェインちゃん”だの‟二号”だのと、自分には分からないやりとりをしていた。……この時点で不安になってきたんだが?


『さてグラたん。グラたんもベテランだし、わざわざ言うようなことでもないんだけど、行く前に注意事項があるんだよね。あくまで再確認しとくと――』

『なんだよ』


『街中では【シトリー】の言うことは厳守! 命令は絶対です!』

『そんなこと初めて聞いたんだが?』


 いや、ナビゲートに従うのは当たり前なんだけどさ。あくまで効率がいいと判断した結果で、そうなっているだけで。――かといって、絶対服従だなんて勘違いをされても困る。


『あくまでミントちゃんのお手伝いなんだからさ。オーケー?』

『……まだ納得はしてないが』


『口でクソたれる前と後に「サー」と言えぃ!』

『お前、昨日の洋画見ただろ。戦争物の』


 駄目だこいつ。口調がどこかの軍曹のようになっていた。


『あ、ミントちゃんは好きにしていいからねぇ』

『身内に甘すぎやしないか!?』


 それだけでは飽き足らず――『回復アイテムは持った? 知らない人についてっちゃダメだからね?』とあれこれ確認し始める始末。お母さんかお前は。


『あ、あとだねぇ。ついでに頼まれて欲しいんだけどさ――』


 何気なく。流れで肯定してしまいそうなぐらい、ごくごく自然を装って。そんな[シトリー]の問いかけに――自分は反射的に口を開いていた。


『……嫌だ』

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