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WoA 設定等 物置  作者: Win-CL
WoA番外編!
14/27

2019年3月【再認識~re:alize~】―②

「それじゃあ、駅前のファミレスにGO!」

「おい待て。……まだ四人しかいないぞ?」


 待ち合わせ時間まであと十五分もあるだろうに、何をこいつは意気揚々と歩き始めているのだろうか。企画した本人なのだから、誰が来ていないのか分かるだろうに――ってまさか……。


「これで全員だけど?」

「……え?」


 案の定、そのまさかだった。


 自分と[シトリー]、そして新旧[ケルベロス]。

 あのとき『オフ会をしよう!』と言い出した時の面子そのままである。


 おっかしいな……。『面子と場所はなんとかするから!』とも言っていたような気がするんだが。何をどう“なんとか”したらこうなるんだ。初めてのオフ会で男が自分だけって、結構なアウェイ感だぞ今。


「ちゃんと[ダンタリオン]とか[括木]くんも誘ったの! ただ、[括木]くんは家が遠すぎて難しいって言うし、[ダンタリオン]からは『この面子でまずは一回行ってみたら?』って言われたし……」


 自分では気づかなかったが、無意識に怪訝な表情になっていたらしい。一応、他の人にも声をかけたのだと、[ケルベロス]が慌てて言葉を付け足す。


「あー……なるほど……」


 [ダンタリオン]らしいと言えば、確かに[ダンタリオン]らしい対応だった。


 きっと[ケルベロス]が言われたことを翻訳するならば、『その面子だと、僕はお邪魔になっちゃうからね』あたりだろう。……できれば『女三人に男一人じゃキツイだろう』という所まで考えて欲しかったのだけれど。[ダンタリオン]のことだから、そこまで織り込み済みでこの反応なのだと思う。


「やっぱり最初だし、誰に声をかけるか迷ったりもしたの……」

「いや、まぁ、なんだ。こうやって企画してくれただけでも十分だよ。お疲れさま」


 一応、このメンバーの中で最年少にも関わらず――こうして企画して実行に移しただけでも十分過ぎるぐらいだと。ここは素直に[ケルベロス]を労うことにする。


 ――というよりも、そうしろと直感が告げていた。

 この状況ではどこからどう見ても、完全に自分が悪役である。


「――おい、もうウダウダ文句言うのはいいのか?」

「……っ!?」


 後ろから[ЯU㏍∀(ルカ)]さんに急に肩を組まれ、ドキリとする。

 心臓が跳ね上がり、喉から飛び出そうになった。


 考えてみれば、異性にここまで距離を詰められたのは初めてで。身体になにか当たってるような当たってないような、そんな‟お決まり”がもしやと意識を集中したところで、更に自分の左耳に[ЯU㏍∀(ルカ)]さんの赤々とした口元が寄せられ――


『まだ続くようなら、もう一発殴ってやろうと思ったんだが』と呟かれた。

「ヒェッ――」


 ――全身の血液が冷える。というか変な声出た。

 ほらみろ危ねぇ! 言わんこっちゃなかった!


「い、嫌だなぁ……まるで僕が駄々っ子みたいじゃないですか……」

「はっ――お前のためのオフ会じゃねぇんだぞ。黙ってついてくりゃいいんだ」


 ……鼻で笑われた。


 とりあえず言うことは言ったと、自分を解放して(ついでに背中をバシンと叩かれた)[ケルベロス]の後ろを付いて行く[ЯU㏍∀(ルカ)]さん。こちらの様子を気にしながらも、[シトリー]がその後を追っていく。


「はぁ……それじゃ誰の為なんだか……」


 [ケルベロス]だろうか? それとも[シトリー]?


 ――[ЯU㏍∀(ルカ)]さんが姉で、[シトリー]が妹で。


 確かにそう言われると、という部分も無きにしも非ず。自分が出会う前から二人で動くことがあったというのも、身内ならば十分在り得ることだし、四月のあたりにケルベロスと喧嘩別れした時も、『シトリーから聞いた』と言っていたような気がする。


 こうして見ると、姉にべったりな[シトリー]も――


「[ЯU㏍∀(ルカ)]さんには付いて行かなかったんだよな……」


 味方で組んでいたと思いきや、今度は敵として戦って。そうして今では、仲良く二人揃ってオフ会に参加である。……なんとも絶妙というか、微妙な距離感の姉妹だった。






「それでは! 適当にスイーツを楽しみながら、適当にお喋りしちゃおう!」


 ……適当に進め過ぎじゃなかろうか。


 ――時刻は昼過ぎ。丁度ランチタイムも終わったところで、人の入りも少なくなったファミレスの店内である。四人用のテーブル席で、自分の向かい側に[ЯU㏍∀(ルカ)]さん。隣に[ケルベロス]。斜向かいに[シトリー]という位置取り。


『ファミレスなんて普段行かないから、何頼むか迷っちゃうよねー』と言いながら、メニュー覗き込む[ケルベロス]。ホントに女子会みたいなテンションで進めるつもりか……? デザートうんぬんでいちいち弄られても面倒だし、自分はガトーショコラあたりの無難なところにでも抑えて――


「俺は――()ったぁ!?」


 テーブルの下で脛を蹴られた。それも結構な威力で。


 油断していた上に弁慶の泣き所、人体の急所を狙われて。

 思わず悲鳴が出てしまうのも、仕方のないことだった。


「…………?」

「どったの、グラたん」


 挙動不審な自分に対して首を傾げる[ケルベロス]と[シトリー]、それと[ЯU㏍∀(ルカ)]さん。……いや、絶対にアンタの仕業だろ!


「――リアンスパゲッティと……か……?」

「べ、別に止めないけど……。グラたん、デザートにパスタ食べるの……?」


 誤魔化そうとして、訳のわからないことを口走ったせいで軽く引かれる。まるで異星人でも見るような目つきだった。……未だかつて、こんな屈辱を味わったことがあっただろうか。


「くっふふっ」


 [ЯU㏍∀(ルカ)]さんの口から笑い声が漏れる。

 絶対に遊んでるだろこの人!?


「ふふっ」


 ――[シトリー]もつられて笑っていた。というところで、ようやく[ЯU㏍∀(ルカ)]さんが何を言わんとしているのか気付く。……薄々分かっていたけども――もしやこの人、重度のシスコンなんじゃないだろうか。


「あー、先に[シトリー]が選ぶか? 俺は選ぶのは最後でいいから」

「あ……うん……ありがと」






「それじゃー自己紹介! 私からね!」


 そうしてデザートも出揃ったところで、ようやく本題のWoAの話となる。


「えーと、藤宮(ふじみや)(あおい)。WoAでの名前は、そのまんま[o葵o]でした」


『今は[ケルベロス]だけどね』と、[ЯU㏍∀(ルカ)]さんの方を窺いながらそう付け加えた。まだ再開して一ヶ月程度、いまだ【ケルベロス】第一位の座は変わりがない。とは言っても時間の問題だとは思うけど……。


「へぇ、本名をそのまま使うのか」

「んー……? 何か言いたそうだけど?」


『セキュリティ意識が低いな』とか『安易だな』とか、そんなことを言おうとしたところで――遮る様に[ЯU㏍∀(ルカ)]さんの自己紹介が始まった。


「……泉川(いずみかわ)瑠夏(るか)。WoA内では――そのまんま[ЯU㏍∀(ルカ)]なんだが?」


 頼んだガトーショコラをさっさと平らげ(注文が被るのも気が引けたので、自分は泣く泣くモンブランを頼んだ)、腕を組んでいた[ЯU㏍∀(ルカ)]さんが、何か言いたそうにギロリとこちらを睨んでいる。


「な、なにも言ってないじゃないですか……」


 こっちもそのまま本名をキャラ名に使ってんのかよ!

 何なんだろう、この面子。やりにくいったらありゃあしない。


「えっと、姉妹ってことは[シトリー]も――?」

「い、泉川(いずみかわ)瑠璃(るり)……です」


 [ケルベロス]に話を振られ、苺のプリンアラモードを食べていた[シトリー]が慌てて答える。


「へー本名は瑠璃さんって言うんだ」

「名前で呼ばれるとくすぐったいから、[シトリー]の方でお願い……」


 今までに聞いたことの無いような口調で、必死に否定する[シトリー]。


 そんな様子を気にすることもなく、[ケルベロス]は『瑠璃だなんて素敵な名前なんだから、そのままプレイしちゃえばいいのに』だなんて言い出す始末。[ЯU㏍∀(ルカ)]さんも気にはならないみたいだし、本名使ってる組は本名使ってる組で変な線引きがある様だった。


 ……まぁ、瑠璃って名前は確かに悪くないと思うけど――?


「――あー、なるほど」

「……なるほど?」


「[lazuli]って瑠璃(ラピスラズリ)から来てるのな。やっぱりHN(ハンドルネーム)には、最低限そういう捻りだとか(もじ)りは欲しいよなぁ」


[lazuli]というのは【シトリー】第一位になる前の名前らしい。[シトリー]へと名前が変わる以前に見たことがあると、[藍玉]が言っていたのを思い出したのだった。……個人情報はあまり出したくないけど、やっぱり自分らしさは欲しいというか。その点で言えば、[シトリー]の命名法は好みな方ではある。


「ふーん……。そう言うグラたんはどうなの?」

「……俺も言わないとダメか?」


「当たり前だろ、何言ってんだぶっ飛ばすぞ」

「流石に、グラたんだけパスっていうのはズルいと思う」


 まさか初日から本名公開まで行くとは思わなかったからな……。


 ……心の準備がまだできていなかった。そういう意味では先陣を切って自己紹介した[ケルベロス]は肝が据わってるというか、怖いもの無しなんだなぁと感心する。


「……若さって凄いな」


 [ケルベロス]が十七、八歳あたりで、[シトリー]が二十、一歳あたりだっただろうか。[ЯU㏍∀(ルカ)]さんには聞いたことがないけれども、そもそも聞く勇気もないけれども、少なくとも自分より年上だろう。二十六、七歳……そんなところだと思う。


「おじさんみたいなこと言ってないで! 自己紹介、ハリーハリー!」


 お構いなしに急かしてくる[ケルベロス]。これは知ってるぞ……時間をかければかけるだけジリ貧になっていくやつだ。『はぁ……』と大きくため息を吐き、覚悟を決めることにする。再び脛を蹴られても敵わないし。


「俺は空木(うつぎ)――」






 一通りの自己紹介が終わって。キャラ名についてだったり、【グループ】名に思う所があったりと、他愛のない話が進んでいく。全員がデザートを食べ終わり、テーブルに残されたのはドリンクのみになった頃には、年始の出来事についてへと話題が変わっていた。


「――でも、本当に凄かったよね……年明けの大事件は」

「大事件って言っても、表向きはイベント中に起きたただのサーバーエラー(・・・・・・・・・・)。バグの発生による再ログイン不可状態ってことで済まされたけどな」


 なんてことないオンラインゲームのサーバーエラー。そんなものがニュースに取り上げられるはずもなく。復旧明けに申し訳程度にお詫びのアイテムを貰ったぐらいである。


「……年末年始で人が少なかったってこともあるしね」


 WoA中のプレイヤー全員が集まっていれば、あの黒いモンスターデータにやられることは無いだろうけども――結局のところ、城を囲んでいた進入禁止エリアに入ることができたのは、自分と[ケルベロス]ともう一人だけだったのだからどうなのだろう。


「……一歩間違えれば詰んでいたと考えると、ゾッとしないな」

「進入禁止エリアと言えば、あそこで[ЯU㏍∀(ルカ)]さんが助けにきてくれたのはビックリしたよね」


 次々と現れる黒いモンスター。侵食されていくワールド。決めてしまえば最後、後戻りのできない状況の中で――城へと向かう最後の一人を誰にするのか、本当に自分が向かってもいいのか、そんな葛藤に身動きが取れなくなってきたところに、[ЯU㏍∀(ルカ)]さんがまさしく嵐のように現れたのである。


「そりゃあ、わざわざ電話をかけてくるんだからなぁ。『お願い、グラたんを助けて……お姉ちゃん……』って――」

「わ゛ーーーーーー! 言わないでって言ったのに! 怒るよホントにもう!」


 さっきまで影に隠れるように物静かだった[シトリー]が急に立ち上がり、慌てて口を塞ごうとする。こうなることが予想済みだったのか、当の[ЯU㏍∀(ルカ)]さん本人はひらりと上半身の動きだけで躱していたのだけれど。


「[シトリー]、静かに静かに」

「――――あ……」


 気が付けば他の客が何事かとこちらを見ていた。[シトリー]も一瞬で我に返ったようで、再び顔を真っ赤にしながらおずおずと席に座り直す。


「ご、ごめん……急に大声出しちゃって」

「大丈夫大丈夫、今のはいつもの[シトリー]っぽかったし」


『つまんなかったんじゃないかって心配しちゃったよー』と、ケラケラと笑う[ケルベロス]。一応、いつもと様子が違う[シトリー]のことは気になっていたらしい。


「別にこんなもん、恥ずかしがることでもないだろうに」


 ……僕は現実なら少しはマシになってるんじゃないかと期待してたんですがね。


「――()ったぁ!!」


 再びガツンと脛を蹴られていた。


「何も言ってないじゃないですか!」

「お前の目が訴えかけてんだよ。どうか蹴ってくださいって」


 自身に向かってくる殺気に敏感だとかそういうことだろうか。……というか、こんなのでも反応するのか。エスパー顔負けの察知能力に、普段から殺し屋稼業でもやってるんじゃないかと疑いたくなる。


「まぁ、[シトリー]も――中途半端に照れるよりは開き直った方が楽だぞ」


「……はぁ」


 ――三人の溜め息が重なった。


 自分に向けられる視線がジトジトと重たい、にも関わらずチクチクと痛い。

 いや待ってくれ、何も間違ったことは言ってなくないか?


「……グラたんがそれ言う?」

「お前が言うなよ」

「ここで“俺は違うオーラ”出されてもねぇ……」


「お、おおう……」


 ……四面楚歌とはこのことだろうか。ついさっきまで中立を保っていた(であろう)[シトリー]までもが、女子勢力へと取り込まれてしまう。


 それから少しは緊張も取れたのか、女子会さながらの会話に混ざる[シトリー]。『もうこんなやつ放っておこうぜ!』みたいな雰囲気で、雑談は再開され――


『ケロちゃんも傍から見てて危なっかしいところがあるよ?』『えー? そう見えてるだけだってー』みたいな女子会さながらの会話へと移り変わる。


 ……当然、男である自分がその流れに付いて行けるはずもなく。それを傍目に眺めながら、肩身の狭い思いをしながら、グラスに残ったドリンクをチビチビと飲んでいた。


「……なんか俺に対しての風当たりだけ強くないか?」

「……? そんなのいつものことじゃん」


 ――“いつものこと”。

 あぁ、“いつものこと”だった、そういえば。


 [ケルベロス]にそう言われ、肩を落とす。と、同時に――

 これが、この光景こそが、俺たちの“いつも”だったなと苦笑いした。


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