表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

平成のヘンゼルとグレーテル

作者: 薮野真崎

 「ヘンゼルとグレーテル」という童話はご存知だろうか。グリム兄弟が集めた童話伝承の一つの、あの作品である。

 ご存知ではない方のために、あらすじを少々。昔々、あるところにヘンゼルとグレーテルという兄妹が、父と継母と住んでいました。家計が火の車だったために、ある日継母が兄妹を森に捨てようと計画します。初めこそ、ヘンゼルが森へ向かう際に石を落して、それを辿って家に帰り、難を逃れましたが、結局二人は森に置いてけぼりにされてしまいます。空腹の二人は、そこでお菓子の家を見つけ、そこに住む人食い魔女に捕まってしまいました。ヘンゼルは檻に閉じ込められ、グレーテルは延々と料理を作る羽目になりました。しかし、目が悪いという魔女の弱点を利用し、グレーテルは魔女をかまどに押し込めることに成功し、お菓子の家のお宝を持って、二人は無事に家に帰ります。家に帰ってみると、継母は死んでいましたとさ。めでたしめでたし。

 おおまかには大体こんなお話です。


 さて、ここからは一味違ったお話。この「ヘンゼルとグレーテル」の舞台が、もしも平成の日本だったら。想像してみてください。一体、どんな物語になるでしょうか。




 ごくごく最近、西暦で言うならば二〇一三年頃のことでしょうか。日本のあるところにヘンゼルとグレーテルという兄妹がいました。日本人の名前には見えませんが、この頃はキラキラネームといって、そのような名前が流行っていたのです。二人は父親と継母と暮らしていて、貧しくはないものの、兄妹がインターネットのゲームに勝手に課金してしまうために、どんどんその生活は切り詰められていきました。

 ヘンゼルとグレーテルがベッドに入った後、継母は父親に言いました。

「あなた、このままじゃ、あの子たちに財産を全て使われてしまうわ。言っても全然聞かないし。いっそ、明日捨ててきてしまいましょうよ」

「そりゃぁ……でも、それはまずいだろう」

「何を言っているの! それならあなたが残業を増やして、もっと稼いできてちょうだいよ!」

 継母がそう強く言うと、父親は口ごもってしまいました。

「そんなこと言ったって……うちはブラック企業だから、そんなの、ただのサービス残業になっちまうよ。この歳じゃ新しい仕事も見つけられないし……」

 父親の声はどんどん小さくなっていき、継母に睨まれるとついに首を縦に振りました。

 両親がそんな話をしているのを兄妹はベッドの中で聞いていました。

「私たち捨てられるみたいだね。外に出るのめんどうくさいなぁ。お兄ちゃんどうする?」

「んーまぁなんとかなるだろ。とりあえずスマホの充電器は持ってっとこうぜ」

 こんなに落ち着いているのは、さとり世代だからでしょうか。


 次の日の朝、二人は継母に起こされました。

「いつまで寝てるの! 今日は森にピクニックに行くわよ!」

「やだぁ、外出たくないー」

「ネトゲの今日のログインボーナスもらうから、ちょっと待って」

 兄妹はぶーぶー言いながらも支度を整えて、両親の運転する車に乗りました。森の奥の奥まで来ると、継母は二人にお弁当箱を渡しながら言いました。

「これが今日のお昼だからね。日が暮れる頃迎えに来るから、それまで好きに遊んでなさい」

 そうして両親は車で去っていきました。グレーテルは、辺りの写真をスマホで一通り撮りおえると、これからどうするのかをヘンゼルに尋ねました。

「焦ることはないさ。スマホの地図を使えば、簡単に帰れるんだから」

「そうじゃなくて。ここまで来たならすぐに帰らないで、遊んで行きましょうよ」

「それもそうだな。この辺りなら穴場スポットとかもあるかもしれない」

 二人はスマホで森の情報を集め始めました。このご時世、森の奥深くでも電波は良好です。

「お兄ちゃん、この辺りにお菓子の家を見たっていう人がいるわ。確かめに行ってみない?」

「そんな馬鹿みたいなもの、あるわけがない。けど、見つけられたらいいネタになるな」

 こうして二人はお菓子の家を探し始めました。


 お昼頃まで二人が歩き続けると、なんとお菓子の家が見えてきました。二人は驚き、まずは家の前で記念撮影をしました。グレーテルはそれをフェイスブックに投稿します。「いいね!」がたくさんついて、グレーテルは嬉しそうです。それから二人はお菓子の家を食べようと思いましたが、何せ外にずっとさらされていたお菓子です。さすがに食べる気にはなれません。そう思った二人が内側を食べようと扉の前に行くと、中からお婆さんが出てきました。

「まぁまぁ、どうしてこんな森の奥に来たんだい? さぁさぁお入りなさいな」

「人が住んでいるとは思わなかったなぁ」

「知らない人の家に入るのもねぇ……」

 二人は考えました。

「まぁ、せっかくだし、お・も・て・な・し。おもてなし、してもらいましょうか」

 二人はお婆さん一人なので危険はないだろうと思い、中に入ることにしました。

 

 しかし実はこのお婆さんは、人を食べてしまう怖い魔女だったのです。魔女はヘンゼルを小さな犬小屋に閉じ込めて、グレーテルには、ヘンゼルを太らせるための料理を作らせようとしました。しかし、グレーテルは家で包丁を握ったことがありません。魔女がキッチンを覗くと、異臭がして、粉がまき散らされ、野菜が転がり、何かの液体が入ったボウルやこげこげのフライパンが並べられていました。魔女は驚き、あわてて料理をやめさせ、他の家事をやらせようとしましたが、どれもこれもグレーテルは出来ませんでした。魔女は嫌になって、先にグレーテルを食べてしまうことにしました。かまどで焼いてしまおうと考えたのです。

「かまどに火がよく回っているか見ておくれ」

「よくってどのくらい?」

「そりゃぁお前……。いいよ、私がやろう」

 そう言うと魔女はかまどをのぞきこみました。すると、散々家事を馬鹿にされて、いらついていたグレーテルは魔女を突きとばし、かまどの扉を閉めてしまいました。その様子をヘンゼルはスマホで撮影し、ツイッターに書きこみます。

『妹がばあさんをかまどで焼いてるなうwwwwww』

 ツイッターはすぐに炎上しましたが、グレーテルに犬小屋から出してもらったヘンゼルは、

「炎上した魔女をつぶやいたらツイッターも炎上した」

と言って、グレーテルと一緒に笑いました。


 二人が家の中のお菓子をたらふく食べ、偶然たくさんのお宝を見つけ、それを持てるだけ持って外に出た頃には、だんだん日が暮れてきていました。

「お兄ちゃん、私、ログインボーナスをまだもらってないから、早くパソコンを開かないと」

「それじゃぁ帰るか。それにしても、かわいい俺たちを捨てるなんてひどい親だよなー」

「土下座して詫びてもらいましょうか」

「いや、それより今までの倍、課金してやろうぜ」

「いいわね。じゃあ、あれ、言いましょうか。せーの!」

「「倍返しだ!」」

 二人はそう言って、スマホを使って無事に家に帰りましたとさ。


 え? その後?

 実は、二人が家に着くと、すでに両親がパソコンやゲーム機を全て処分した後だったみたいですよ。両親が捨てると言っていたのは、本当は機械の方だったのです。今までゲームに課金した分は、持って帰ってきたお宝で全額取り戻して、家計はずいぶん楽になったのですって。めでたしめでたし。

2013年に書いた作品に加筆してみました。

一昨年を思い出して、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 2年経つんですねもう・・・ 激おこぷんぷん丸もあの時期でしたっけ?
2015/10/15 08:37 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ