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Trace Heart  作者: nozomu
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ミノタウロスとの遭遇

 三人は町のはずれにある泉にいた。

 占いの結果、ここに来るように指示を受けたのだった。

「なんだか、平和な感じの泉なんだけどなあ」

 拓也は呟く。森の中にあるためなのかわからないが、少し肌寒い感じもする場所だった。だが、拓也の『投影世界』での衣服は初めて来たときのまま、つまりあの青と緑の騎士のような服装だ。立派な見た目に相応しく防寒性もあるようで、特に問題はなかった。

 リベラムはリベラムで荷物の中から厚手の服を取り出してきたのでやはり大丈夫そうだ。

 一方で寒そうなのは亜衣である。彼女は布地の少ない、半袖シャツにミニスカートと言った感じの服装であり、とても寒そうにしていた。そのため、リベラムは持っていた上着を亜衣に貸した。

「言われた時の場所には来たけど、どうすればいいんだろうね」

 亜衣は不安そうに言う。するとその時、何かの声がした。

 かん高い、鳥か獣のような声だ。

「何か来るぞ」

 リベラムは斧を構える。拓也と亜衣も、それに続いてそれぞれレイピアと棍を構えた。もっとも、構えると言っても素人臭さが感じられるものであったが。

 近くの茂みが、かさっと音を立てた瞬間、三人の間に緊張が走る。

 そこから出てきたのは。

「やばい。ミノタウロスだ!」

 ミノタウロス。ギリシア神話に登場する牛頭人身の怪物だ。

「それって確か、乱暴な性格をしているんじゃなかったっけ?」

 亜衣が小声で言う。

「うん。伝説では、迷宮に閉じ込めたうえで九年ごとに少年少女を七人ずつ、計十四人生け贄として送ったという話があったと思う」

 拓也は過去に本で読んだ知識を思い出しつつ、答える。

「とにかく、気づかれたら――」

 まずいからとりあえず逃げようよ。

 拓也がそう言おうとした瞬間、ミノタウロスがこちらを向いた。

「走れ!」

 リベラムが叫ぶのとほぼ同時に三人は駆け出していた。しかし、その後ろから確かに迫りくる足音がする。

「えっと、“地の精よ。大地を砕き敵を地の底まで落とせ”」

 亜衣が走りながら呟くと彼女の棍の柄尻が黄色に輝き、ミノタウロスが走る地面に裂け目ができた。

 ミノタウロスはその中に落とされる。

「やった!」

 拓也は思わず立ち止まりかけるが、

「だめだ! 立ち止まるな、拓也!」

 リベラムが叫ぶと同時、地面が爆発するのを見ると再び走り出した。

「全然効果ないんだけど!?」

「一個中隊が束になってかかったところで倒せるような相手じゃないからな! 三人なんかじゃ話にならねえ! 逃げ延びることだけを考えろ!」

 リベラムにそう言われるが、拓也にはどうすればいいのかが全く分からなかった。

「というか、まさかあの化け物を倒さなきゃ『現実世界』は変わらないって訳じゃないよね!?」

「いや、さっきから何も感じないから大丈夫だと思うけど……っていうか、あんなのが原因であってほしくないよ!?」

 亜衣が走りつつも叫ぶ。

 先ほどから三人は森の中をジグザグに走ることで追いつかれるのを防ごうとしているが、このままでは追いつかれてしまうのも時間の問題であった。

「おい! 亜衣が使える魔法はさっきの地割れを起こすやつでいいんだよな?」

 リベラムが聞く。

「あれと、もう一種類火属性の魔法が使えるよ! それが、何!?」

 いきなりの質問にとまどいつつも、亜衣が答えた。

「もう一回できるか? そのタイミングに合わせて俺と拓也が魔法をかける! 拓也、頼めるか?」

「「わ、分かった!」」

 リベラムの指示に従い、各々が走りつつもその武器を構え魔法の準備に入る。

「“地の精よ。大地を砕き敵を地の底まで落とせ”」

 亜衣の呪文の詠唱に合わせて、拓也とリベラムも魔法を発動する。

「“水の精よ。守るべき者をその慈愛に満ちた恵みで包め”」

「“春に芽吹く木々たちよ。地と水の下にその命を燃やせ。願わくばその大地とともに我らの敵を封ずることを”」

 三人の詠唱が全て終わると、すぐに変化が訪れた。

 まず、亜衣の魔法によって大地が割れ、再びミノタウロスがその中に落とされる。そして、拓也の魔法によって水の膜がその体を取り囲んだ。

 少し遅れてリベラムの魔法が発動する。大地から突然芽が吹き出し、一斉に急成長してミノタウロスを雁字搦めに拘束し始めた。

 ミノタウロスはしばらく抵抗していたが、やがて木と水の檻から出ることが叶わないまま、地面の中に閉じ込められていった。

「あれでも二十秒持てばいいほうだ! 急ぐぞ!」

 三人はひたすらに走った。




「はあ、はあ……そろそろ大丈夫だろうな」

 リベラムのその声で、拓也と亜衣も走るのをやめた。

「はあ、それで、結局、何の意味があったんだろう?」

 拓也は占いの結果に疑問を呈する。

「何か感じたりとかは、なかったし……」

 自分の『現実世界』の事情に関わっている亜衣は、より不安そうな表情を浮かべた。

「だけど、あの人の占いが大きく外れるとはあまり思えないんだよな……」

 リベラムが言った。確かに、この世界の占いは『現実世界』とは違って特殊な能力によって支えられ、裏付けされたものである。そう考えると、その中でも評判が良いとされている人間の占いが大きく外れるとは考えにくかった。

 つまり、まだこの周辺を調べる価値はあるということだ。

「じゃあ、どうするの? あの怪物に会わないように、調査を続けたいと思うんだけど……」

 拓也は言うが、亜衣もリベラムも考え込んでしまい、何も答えが出ない。




 三人はミノタウロスに会わないように歩いていたが、次第に疲れてきてしまったので一度戻って作戦を練りつつ昼食にすることにした。

 城下町の喫茶店でオリジナルの世界に比べると非常にまずいサンドイッチを食べながら、三人は話をする。

「ミノタウロスは魔物の中でもパワーにかけてはトップクラスだ。正直言って三人では勝てる気がしない」

 リベラムが最初にそう言った。

「ねえ、あんな怪物だったら王国の方で何とかしてくれないの? 討伐隊を編成して送るとか」

 亜衣が彼に尋ねる。

「いや、あそこはまるで人がいない地域だからな。実質的な被害が出ない限りには、ビギルやミリタリスに報告しても町の人たちに注意がされるだけだろう」

「実質的な被害って……むしろあんな怪物がいるのに本当に何も出ていないんだ?」

 拓也はそのことにそもそも疑問を呈する。あの怪物が人を襲いに街にやってくることはないのは安心するものの、不自然な気がするのだ。

 拓也のその疑問に、リベラムが答えた。

「この街、ドリムト・レス王国の城下町には魔物を含め動物が寄せつかないように特殊な結界が張られているんだ。人間には何も効果がないが、他の生き物は人間と一緒でない限りには外から来ることも、中から出て行くこともできない」

 流石は王国の城下町といったところか、と拓也は思う。確かに、国民が安心して暮らせる場所でないとあまり大きな町は形成されないのかもしれない。

 それに、だ。とリベラムが言う。

「そもそもミノタウロスを倒したとしてもそれで亜衣の事態が改善すると決まったわけではない。俺たちの目的はあくまでも、あの泉の周辺を探し回って亜衣の『現実世界』での突破口を見つけることなんだからな」

 つまり、その突破口になるものと接触するまではいつ終わるのかもわからない、危険な散策を続けなければならないということなのだった。拓也はそのことが少し億劫に感じられた。

「突破口、か……」

 拓也は考え込む。

 その時、喫茶店の扉が開いて一人の女性が入ってきた。

「あら? リベラムじゃない」

 三人は振り返ってその声の主を見る。

 その女性は、猫の顔をしていた……つまり、キャニスタ族であった。しかし、見た感じでは(少なくとも外見上は)リベラムと同じくらいの年齢であった。柔和な表情をしていて、とても優しそうな感じの人だ。

「おう、ラクス。久しぶりだな」

「そうね。一年ぶりかしら?」

 その女性はそう言って、拓也たちが座っているテーブルに近づいてきた。

「えっと……?」

 見知らぬ人、それも今までにあまり話したことのないキャニスタ族の人が現れたことで頭に疑問符を浮かべる拓也と亜衣。

「あら、珍しいわね。リベラムがこのくらいの年の子を連れているなんて」

「ああ、それがだな……」

 リベラムは少し声を落として言った。

「オリジナルなんだ。こいつら二人とも」

 その言葉に驚いたように目を大きく開く女性。

「えっ? なんであなたがそんな人たちと!?」

「あの、リベラム。そろそろ説明してよ」

 亜衣も言うので、リベラムはまず互いの紹介をすることにしたようだ。

「えっと、こっちの男の子が拓也。で、女の子が亜衣だ。二人は向こうの方でも同じ学校に通っているらしい」

「滝川拓也です」

「藤沢亜衣です」

 リベラムが紹介するのに合わせて頭を下げる拓也と亜衣。

「で、こいつが……」

「こいつとか言わないの。拓也君、亜衣ちゃん、はじめまして。私はラクス=ライト。見ての通りキャニスタ族なんだけど、リベラムとは子供のころからの知り合いなの」

 簡単に言えば、彼の幼馴染であるらしい。

 そこまで自己紹介をした彼女は、突然身を乗り出すと言った。

「で、オリジナルっていうのは本当なの? 二人の関係は? 今は何のために――」

「おいおい、あまり人のことを詮索するなよ、ラクス」

 色々と聞き始めたラクスを制するように言うリベラム。

「ああ、ごめんなさいね。オリジナルの人と会えるなんてとても貴重な機会だから」

「“貴重な機会”? オリジナルの人って、この世界にはそんなに少ないんですか?」

 亜衣はその言葉に引っかかったようで、彼女に尋ねる。すると、ラクスは「リベラム、あなた何も言ってなかったの?」とリベラムに言うと、説明してくれた。

「この世界に生きていて、オリジナルの人と会えるのは滅多にないわよ。そうね、一生のうちに一人に会えるかどうかってところかしら」

 だから二人もいるだなんて驚いているわよ、とラクスは言う。

 その言葉に、むしろ拓也たちのほうが驚いていた。

「そんなに少ないんですか?」

 『投影世界』ではっきりと自我を持って行動ができるようになってからすぐに亜衣と出会えた拓也は、いかに自分の運が良かったかを知る。

「ああ。それなりの人数が来ているはずなんだが、この世界だって広いからな。それに、オリジナルが初めにこの世界で現れる場所は特に決まっているわけではないらしいし」

 だから珍しがられるのさ、とリベラムは言った。

 しばらく談笑していた彼ら四人だったが、ふとリベラムが何かを思い出したように「そうだ」と言った。

「なあ、拓也。亜衣もそうだけれど、二人はいつから魔法が使えるようになったんだ?」

 その言葉を聞いた亜衣は「う~ん。いつだっけ?」と、あまり覚えてないらしい。その一方、つい最近使えるようになったばかりの拓也はすぐに答えた。

「藤沢さんと会ったとき、頭の中に声がしたんだ。それに答えたら使えるようになった。とは言っても、一つだけだけれど」

「あの、水の膜をつくる魔法か。様子からして、精霊と契約を結んだのか」

 契約? とリベラムが言った言葉に疑問符を浮かべる拓也。

 それに答えたのは亜衣だった。

「西洋系の魔法は精霊の力を借りることで発動するって言ったでしょ? その、力を借りるためには『契約』が必要なの。とはいっても、ある程度素質があれば誰でも四精霊のいずれかとは契約ができるけどね」

 だけど、と亜衣が続けた。

「四精霊のうち、どの精霊と契約がされるかははっきり言って運次第だね。とはいっても、私たちオリジナルはある程度推測はできる。初めに与えられた武器でね」

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