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Trace Heart  作者: nozomu
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討伐開始

「じゃあ、まずは亜衣の魔法から行きましょうか。あなたの属性は火、土。二つとも精霊とは契約済み。五行や五大を利用した魔法は未収得、でいいわね?」

 彼女の確認に、亜衣ははい、と返事をした。

「だったら、火と土の混合属性を考えましょうか」

「分かりました」

 混合属性というのは、複数の属性を併せた魔法のことだ。当然ながら、単属性の魔法よりも扱いは難しい。

「それで、拓也君は水属性かしら?」

「風も入っているみたいなんですが、精霊と契約済みなのは水だけです」

 リベラムの言葉を思い出しながら、拓也は言った。

「だったら、あの槍の魔法を改良していきましょうか。あとは、派生魔法を覚えてもらうわ。攻撃魔法だけじゃなくて、回復魔法もね」

 水属性は火力があまり高くないので、回復魔法や支援魔法が中心であるらしい。最も、拓也のように魔力が多ければ、激流によって攻撃することもできるが。

「今日はあの魔法の改良と、外傷を治す回復魔法。それから、高速移動用の支援魔法を身に付けましょう」

 方針が決まると、テッラは書棚の中から次々と書物を取り出した。

 勉強が始まる。

 この世界の魔法は、イメージによって大きく変わる。この場合、イメージというのは二つに分かれるようだ。

 まずは魔法を使用する術者が持つイメージ。これは当然のことだろう。

 そしてもう一つが、『現実世界』の人々が持つイメージ。

 これこそが、『人間の心が投影されて生まれる』という『投影世界』の最大の特徴だとも言えた。

 拓也はすでに『トリアイナ』を基準とした魔法を考えている。つまり、彼の水の魔法に対するイメージというのは、海神が起こす津波や嵐などに相当する。

「あの水に風の魔力を混ぜてみるの。それで、この壁に向けて撃って見なさい」

 拓也は彼女のオフィスが面している宮廷の庭で、練習をさせられていた。

「“水の精を通じて海の神に請う。その力の象徴をこの手に握らせ、母なる海の恵みと怒りを”」

 拓也の手にあるレイピアを中心として、三又槍が生み出される。

「“水の精よ。海神の銛の爪痕をたどり、風と共にその地を切り開き、河と成せ”!」

 激流が、風を巻き込んだ。

 以前のようなただまっすぐ突き進んでいくものではなく、風と共に回転しながらドリルのように水が地面を削り突き進んで行く。そしてそれは、先にある木に当たるとそれを木端微塵に粉砕した。

「すご……」

 拓也は思わず呟く。今までの物とは威力がけた違いに感じられた。

「純粋な破壊力では、今までのものに比べて二割も増えていないわよ」

 しかし、テッラはそう言った。

 どうやら、今まで余計なところへ逃げていた衝撃が一点に集中したということらしい。

「攻撃力に関しては、時間もないのでそれで良しにしておきましょう。あとは、回復魔法と支援魔法ね」

 テッラは、基本的な切り傷と擦り傷を治してくれる魔法を教えてくれた。傷の種類によって、使用する魔法にも違いがあるとのことだ。

 しかし、拓也が呪文を覚えると、突然テッラが自分の左手の甲をナイフで切った。

「て、テッラさん!?」

「早く、回復魔法を!」

 拓也は慌てて呪文を詠唱する。

「“命の泉より湧き出でる水よ。その慈悲により刃の痕を癒せ”」

 すると、次第に流れる血が少なくなっていき、そして傷跡も残さずに消えた。

「うん。及第点、といったところかしら。あと、魔力のこめ過ぎには気をつけなさい。すぐにガス欠になるわよ」

「あ、はい……って、そうじゃないですよ!? 何危ないことやっているんですか!」

 拓也は叫ぶが、テッラは一向にかまわない様子であった。

「治癒系の魔法を教えるときは、このやり方が基本的に用いられているのよ。いざ本番で人が傷ついたことに動揺して、呪文を紡げないなんてことが起こらないためにね」

 確かに、本番で使えないのであれば教える意味がない。だが、個人的な感想としては納得できないのが拓也であった。

「じゃあ、高速移動用の支援魔法を教えるから、あとは自分でそれを使った練習をしておきなさい。私は亜衣の方へ行ってくるわ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 拓也がお礼を言うと、テッラは亜衣を待たせている自分の書斎の方へと消えて行った。

 拓也は一人で高速移動の練習をする。しかししばらく経つと、魔力がだいぶ消費されたので、一度休憩することにした。

「明日、何だよなあ……」

 だが拓也は空を仰ぎながらそう呟いた時だった。


 ドォン! と爆発音が起こる。


「何!? 何が起こったんですか!?」

 拓也は慌てて亜衣とテッラがいるところへ駆けつけた。

「分からないわ。だけど、あの方角から察するに……目的は王立魔法図書館」

「魔法図書館?」

 聞き覚えのない単語に、二人が首を傾げた。

 しかし、テッラの声には焦りが見られる。

「魔法に関する資料や魔導具を保管しているのよ。一般的に触れられる文章のほかに、特殊な結界によって、貴重な文章や危険な魔導具の保管もしているのだけれど……それを奪われたらまずいわね」

 テッラは二人を連れて駆け出す。

 すでに王宮前広場には、多くのビギルやミリタリスが集まっていた。今日は、先日のミノタウロス討伐関連の事後処理を行っていたのだという。

 不幸中の幸いというべきか、これならすぐに現場へと向かえそうだ。

「すぐに人を集めて! 調査隊を派遣。ポール大尉を呼んで。早く!」

 ポール大尉とは、ミリタリスの大尉のことで本名はヴィース=ポールという。

「ポール大尉ならミリタリスの本部に!」

「分かったわ。私から向かいます」

 そう言った時、人ごみが割ける。その奥からはポール大尉が現れた。

「アース様。先ほど魔法図書館の第一結界が破られたとの連絡がありました。我々はこの事態をドリムト・レス王国における第一級警戒態勢に当たるものと判断し、大隊を連れて至急現場へと向かいます!」

「了解しました。それでポール大尉。お願いがあるのだけれど……この二人を連れて行ってくれないかしら?」

 テッラのお願いを聞いて、ポール大尉は拓也と亜衣をじろりと見た。

「ミノタウロス討伐に参加した、オリジナル……でしたか」

「ええ。魔力量が多いから、魔法図書館にある魔導具も大抵は使えるはずよ。ある程度基本的な魔法も覚えさせたから、魔力バカとしてでも使って頂戴」

「了解しました」

 魔力バカ、という言葉は魔力量が多いにもかかわらず魔法が下手な人間のことを指すが、事実であるために拓也も亜衣も苦笑いをするだけで言い返すことはできなかった。

「では、準備はできたか? 出発!」

 彼らは走ったり、あるいは馬に乗って出撃した。

 この国では軍事用の通路と避難用の通路が存在しているようで、混乱している市民とは一度も接触することはなかった。

 拓也と亜衣は、馬を使った戦車の後ろに乗せてもらって移動する。

「敵はエーテルの使い手という話だな」

 ポールは二人に確認する。

「はい。光の矢と光の剣、そして光の柱の三つの攻撃方法を確認しています。あとは、光の壁のようなもので防御していました」

「どれも尋常ではない破壊力を持っていると同時に、広範囲への攻撃が可能です。そのため、回避ではなく、集団での防御に集中するべきだと思います」

 拓也が自分の知っている情報を話すと、亜衣も補足した。

「とすると、盾持ちや防御術式の使い手を前面に出し、後ろから弓矢や中距離攻撃魔法で攻撃するべきか……」

「はい。とは言っても、どれほど防御が通用するかが問題ですが」

 相手の攻撃力は規格外。その上防御手段があるのだから、厄介極まりなかった。

「その上、今度は何かしらの魔導具や新たな魔法を身に着けている可能性があるのよね……」

 下手すれば、『光の柱』に匹敵するかそれ以上の攻撃を相手は身に着けているかもしれないのだ。

 しかしそんな話をしている間に、彼らは魔法図書館へ到着してしまった。

「隊列を組んで前進しろ! 盾持ちを前にすることと、防御術式を使用し続けることを忘れるな!」

 その時、例の光の矢が降り注いだ。拓也はすぐに呪文を紡ぐ。

「“水の精よ。守るべき者をその慈愛に満ちた恵みで包め”」

 水のドームが発生し、光は遮られる。その中で亜衣が呪文を詠唱した。

「“火と土の精霊よ。その手を取り合い、忠実なるわがしもべ、煙の巨人を召喚せよ”」

 そこから煙の巨人―――イフリートが現れた。

 それは、元はイスラム教における堕天使だ。ジン(魔神)の頭のイフリートに、アラーの命によりすべての天使がアダム(最初の人間)にひざまずいたときそれを拒否したために、アラーに天界から追放されたとされる。

 しかし、もっとも有名な話は、『アラジンと魔法のランプ』に出てくるランプや指輪の魔人としてであろう。

 その巨大な掌の上に亜衣は乗ると、彼女は魔人の肩に移動する。そして立て続けに詠唱すると、その棍の先から炎が噴き出した。

 拓也も呪文を詠唱してトリアイナを再び形成する。

 魔法図書館の中から、魔力でできた光が検知されたことが報告された。彼らは一斉に攻撃を仕掛ける。

「イフリート、敵を撃って!」

「“水の精よ。海神の銛の爪痕をたどり、風と共にその地を切り開き河と成せ”!」

ミリタリスの人々も続けて、一斉に魔法が発動される。

その中を一本の光の剣が切り裂いた。

そしてその後に姿を現したのは、つい先日出会ったばかりの男だ。そして、なす術もなく拓也と亜衣、リベラムが敗北した相手である。

 ついに目の前に現れた敵に、討伐隊全体――特に拓也たち三人の緊張が高まる。

「あの男で、間違いないのか」

 ポールが、ゆっくりと確認する。

「はい……間違いありません。あれが件のエーテル使い、ミノタウロスの騒動を引き起こした男です」

 拓也がその問いかけに答えた。その答えを聞いたポールは、ゆっくりと討伐隊の前に進み出る。

「ドリムト・レス王国ミリタリス大尉、ヴィース=ポールである!」

 彼は堂々とした態度でエーテル使いの男の前に立つ。

「貴様には、国王直々の討伐命令が下されている。ただし、自らその身を差し出すというのであれば、国王は寛大な処置で済ますこともお考えである! 余計な傷を負いたくなければ、速やかに投降せよ!」

 だが、男はそれには答えずに呪文を詠唱した。身構える彼らの前で、男の手に巨大な光の剣が発生する。

 それを確認したポールは、ただ一言命令した。

「では全軍――戦闘開始!」

 その言葉の直後、光の剣が振り下ろされた。

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