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Trace Heart  作者: nozomu
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若人の宣言

 セベリアに対して真っ先に言葉を発したのはラクスだった。

「子供相手にずいぶんと大人げないのね、エリートさんは。彼らがいたおかげで、あの場所にミノタウロスがいたことが分かっていたから、こんなにも素早く対応ができたんじゃないの? まだ襲撃を受けてから一日だというのに、ここまで話がまとまってきているのだから」

「それに、我々の世界は彼らの存在なくして成り立たないんだ。彼らの心が我々の世界に関わるのだから、むしろこの世界のことを知っている方が、良い面も多いはずだが?」

 ラクスに続いて、リベラムも加勢する。彼らは二人の前に出て、セベリアとの間に壁となるかのように立つ。

 その姿を見て、拓也と亜衣も少しだけ勇気が出た。

「確かに、私たちは素人です。戦いには慣れていません。知識も少ないです。だけど」

「僕たちは実際にミノタウロスと出くわしても逃げ延びました。それに、僕たちにも目的があります。ミノタウロスを倒して、もっと強くならなければいけないんです。だから、僕は戦います」

 それに、と拓也は言う。

「僕たちは初めから……あなたたちの足手まといになるつもりなどありませんから」

 拓也たちは、亜衣の問題を解決するために動いているのだ。だから、素人でも自分たち自身の生活に直結する以上、必死で勝利をつかみ取らなければならない。

 だから、足手まといになるつもりなど拓也たちには毛頭ない。むしろ、自分たちがミノタウロスを倒してやる、くらいの気概が必要だ。

 たとえ、それが今は口先だけのものだとしても。その思いをこの世界へ投影してみせる。

 その言葉に、セベリアは一瞬キョトン、とした表情を取ると笑い出した。

「ははっ! 足手まといになるつもりはない、ね。そんじゃあ楽しみにしているぜ」

 セベリアは拓也たちに背を向けて出口へと歩き出す。

「……ただ、本当に邪魔になるようだったら力づくでどかすから、覚悟しておけよ」

 最後の方はほとんど脅迫するようにそう言うと、セベリアは愉快そうに去って行った。まるで、こいつらがどこまでできるか見物だ、とでも言うかのように。

「二人とも、大丈夫?」

 セベリアがいなくなったのを確認すると、ラクスが拓也と亜衣を気遣って声をかけてくれた。その言葉に二人は大丈夫、と答えると、その後亜衣が呟くように、拓也に言う。

「勝とうね。ミノタウロスにも、セベリアにも。そして……あの人にも」

 拓也たちが倒すべき相手。その最後の敵はやはり、亜衣の元父親である。彼ら二人はそのことをもう一度確認すると、絶対に強くなろう、と誓った。

 拓也の足の震えはとっくに止まっていた。




 四人は露店で昼食をとりながら、自分たちのこれからの予定について話をしていた。今日のメニューはサンドイッチ(のようなもの)だ。

「討伐の出発は明日の正午。目的はミノタウロスの討伐、そして」

「藤沢さんの問題の、解決への手掛かりとなる『何か』を見つけること、だね」

 リベラムの言葉に拓也が続けて言うと、亜衣、ラクス、リベラムの三人が頷く。彼らには少し緊張感が見られた。

 実際の所、拓也には自分が遠回りしているのではないか、という疑問も拭えない。ミノタウロスの討伐が亜衣の家の問題に確実に関わっているという保証はどこにもないのだから。結局のところ、あの予知能力者の占いの結果を拓也たちは信じていくしか方法はないのである。

 拓也はさらに緊張が増していくのを感じた。

 リベラムがサンドイッチをほおばりながら言う。

「その『何か』っていうのが一番難しいな。実際の所、運に頼る以外に何も方法がないに等しいから」

 そもそも、『投影世界』のどの部分が『現実世界』の誰の心が投影されたものであるのかなど、分からない。だから、拓也たちが『何か』を感じ取るまで行動するか、『現実世界』に変化が現れるまで行動するかの二択なのだ。

 今までにも何度も思って来たことではあるが、ゴールがひどく曖昧である。

 それでも行動をやめないのが、『臆病』で優しいこの少年であった。

「今回の討伐でも何も見つからなかったら、またあの泉に行こうよ。この間はミノタウロスと出くわしたおかげで、あまりあの場所にいられなかったんだからさ」

 拓也はそう言って暗い雰囲気を変えるように努める。初めから絶望していたところでどうしようもないからだ。今までの拓也だったら逆の立場だったかもしれないが、この世界ではそういったことができないと生活を送っていけないため、自然とこのような言葉が言えるようになったのかもしれない。

 少し、拓也は変わったようだった。

「そうだな。とにかく、今日の午後は明日の準備をしないと。明日の正午には出発するんだから」

 その後、ミノタウロスが現れたという道の周辺だったらどういった服装が動きやすくても暖かいだとか、あの周辺にいる動物にはどういった特徴があるだとか拓也や亜衣はリベラムに全く知らないことを教えてもらい、少しでも討伐に向けて備えようとする四人。

「さて。昼食も追えたし、これからどうする?」

リベラムがそう言うと、四人がちょうど食後のお茶を飲み終えた。

「そうね。やっぱり、二人はもう少し戦い方について練習しておいた方が、良いのではないかしら?」

すぐにラクスが提案する。

「確かにな。魔法についてはともかく、武器の方は二人とも構え方から指導しなきゃならない。素人臭が出ているからな」

 ま、俺が持っている斧も我流なんだけど、とリベラムが笑って言う。

拓也と亜衣は二人の言う通り、棍やレイピアの使い方なんてさっぱり分からないので、日本人らしい苦笑いでごまかした。

「あとは動きだな。前の模擬戦の時、亜衣の方は結構しなやかな動きができていた。それに対して、拓也は魔法の詠唱は結構良かったが、体の動きの方はさっぱりだったからな」

「うん。まあ、もともと運動は得意ではなかったからね……」

 ダンス部に所属している亜衣と、図書委員であまり運動も得意ではない拓也とでは、戦闘の時の動きに大きな差があった。

 それをまずは直す、という方向で決まった。




 拓也はレイピアを腰から引き抜くと、少し腰を落とした状態でそれを構える。今まではどちらかというと、中学の時に体育でやった剣道に近い構えをしていたのだが、それを変えた。

 それは西洋剣であり、日本刀のような『叩き割るようにして切る』刀と違って、刺突用の剣なのだ。剣を横方向に振るうのは、相手の剣を払うときだけ。それも、あまり大振りをするとすぐに反撃ができないために、必要最低限の動きでやらなければならない。基本的には『突き』を主体とした近接攻撃を行うべきなのだ。

ここで必要なのは威力ではなく、素早さ。レイピアでは相手との鍔迫り合いなどしないからだ。特に初心者でもある拓也は、普段の戦法はヒット&アウェイ方式で必要以上に敵とは近づかない方が良い。

 拓也が構えを覚えたら、主に防御の練習をやらされた。

 具体的には、リベラムが弱い威力の風の弾丸を放ち、それを拓也が防ぐか避ける、というものだ。風の弾丸と聞くと一見不可視のように思えるが、実際の所は周囲の塵や埃、木の葉などを巻き込んでいるので、思っているよりも見えてしまうものである。

 これがアスファルトやコンクリートで地面を固められているなら別だが、今いる場所は地面が土であるし、そもそも街中であっても固められている地面はよく割れてしまっているので、意外と埃が舞っていたりするのだ。

「拓也、もっと腰を落とせ! 腰が高いと反応が遅くなる。あと、弾丸ばかり見てないで相手を見ろ! そっちに気を取られている間に、どんな攻撃がされるかわからねえから」

「はいっ!」

 拓也はリベラムに珍しく大声で返事をする。野球部とかサッカー部みたいな運動部に入っていたら、こんな感じにコーチと練習するのかな……なんて考え、やはり違うだろう、と思い返す。

 いくら運動部だとしても、失敗したら後ろに勢いよく倒されて後頭部が地面と激突、なんて練習はないだろう。

 始めたばかりの時、拓也はろくに受け身も取れず、身体中を地面に打ち付けて非常に痛い目にあった。訓練を初めて一時間ほどたった今、ようやく受け身が七割ほどの確率で成功できるようになり、また、弾丸に当たる確率も五割ほどに減ってきた。

 しかし、それでもやはり、

(当たると痛い)

 拓也は体の痛みに耐えながら、レイピアを握り直す。呪文では間に合わないので、拓也はそれよりも自分の魔力を剣に通すようなイメージを作り、それによって剣で風の弾丸を切り裂いてみる、ということもやって見せた。どうやら、魔力を物体に流すと剣の切れ味が上昇するようだ。

「それは恐らく、拓也の魔力に『風』の素質もあるからだろうな」

 魔力というのは人ごとに五大元素において素質があり、リベラムの場合は『風』、拓也の場合は『水』と『風』、亜衣の場合は『火』と『土』であった。

 この素質というのはあくまでも扱いやすい、というだけであって火属性であっても水の魔法は使えなくもない。ただしそれ以外の属性は精霊との契約は難しいらしく、精霊を必要としない魔法でなければならなくなってしまう。さらに、そのような魔法は実戦でまともに使えるレベルにはならないとのこと。

「例えば、拓也には『火』の素質はない。火を起こしても、せいぜいたき火になるくらいだ」

 これはあくまでも五大元素においての話であり、大地の力を借りることが多い五行や五大などにおいて、素質は一切関係ない。

 ちなみに、『エーテル』の素質を持つ者は、全くと言っていいほど見つからないレアな属性であるとか。『投影世界』においてはほとんどの人が『火』『水』『風』『土』の四つのいずれかの素質を持っており、『エーテル』の素質を持つ人間がいると、『投影世界』全体で歴史が動く、などとまで言われているらしい。

「はっきり言ってオリジナルよりも希少な存在だと言っても良い。もっとも、最近は『エーテル』の属性を持つ人間は全く確認されていないらしいからな」

 さらに『エーテル』は、どのような魔法が使えるのかさえ不明であるという。

 それは『光』を操るだとか、『闇』を生み出すだとか、どんな人間でも魔法を認識すらできずに倒されるだとか、とにかく優れたものであるとのこと。

 拓也にできることは、とにかくそんな人間と敵対することのないことを祈るのみである。

(まあ、今回の目的はミノタウロスの討伐だから、あまり考える必要はないか)

 そんな風に練習をしていると、日が暮れたので、彼らは明日に備えて早めに床に就いた。

 拓也が『投影世界』を正しく認識できるようになってから、今日で三日が過ぎた。ついに明日は、ミノタウロス討伐である。




『現実世界』に戻った拓也は、いつも通り母と妹の二人と朝食をとると、身支度を整えて夕霧北高校へと登校する。

 利用し始めてから二か月になる、慣れてきた通学路を歩いて学校へと向かう。今日は登校中には誰とも会わず、教室へと着いた。自分の席に荷物を降ろして、拓也は椅子に座る。今日は珍しく、まだ瞬も陵太も、そして亜衣も登校してきてはないようだった。

「そう言えばあの二人は、昨日は深夜アニメがあるとか言っていたなあ……」

 恐らくは、深夜の一時や二時にあるその放送を見てから寝たのだろう。とすると、瞬たちは朝のSHRギリギリくらいにならないと、登校しては来なさそうだ。

 そんなことを考えていると、亜衣が教室へと入ってきた。

 結局、瞬と陵太は拓也の予想通り、担任の国語教師、大沼先生とほぼ同じタイミングで彼らは教室に駆け込んで来た。

 SHRを終え、一時間目の数学の授業を終えたところで、拓也は瞬と陵太と話をする。話の内容は、やはり昨日のテレビだとかそういった当たり障りのない『普通の高校生らしい』内容だ。

 亜衣と話すような深刻な話や、五大元素とかミノタウロスの特徴などとは絶対に違う。そのことが、拓也の『投影世界』での経験をより一層異端なものと錯覚させているのかもしれない。

 国語、化学、体育、数学、といつも通りの時間割をこなし、昼休みになる。

「ようやく数学が終わった。飯だ、飯」

 瞬が明るい声で言う。

 いつも通り、そこに陵太を加えた三人で、弁当や購買で買ってきたパンを談笑しつつ食べる。

 ちなみに拓也は弁当派なのだが、いつもは他の二人よりもゆっくりと食べているのに対し、今日はあっさりと食べ終わってしまった。そのことに拓也は疑問を感じる。

 『投影世界』でどんなに激しい運動をしたとしても、精神的な疲れはともかく肉体的な疲れは『現実世界』に影響を及ぼさないはずだ。だが、なぜかいつもよりも食欲がわいた気がした。

「拓也が珍しく、食うのが速いな」

 そのことに気が付いたのか、瞬が声をかけてくる。

「あ、うん。自分でも不思議なくらいに、ね」

「拓也はいつも少なめだからな。俺たち男子高校生は、少しくらい早食いで大食いなくらいでいいんじゃね?」

 陵太がパンをかじりながらそう言うが、そんなことはないでしょ、と拓也は思う。文化部男子は、気を抜いているとわりと太るのが速いのだから。もっとも、拓也はもともと太りにくい体質でもあるし、一般の男子並みには食べるが大食いでもないので今までに太った経験がまるでない。

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