【08】永遠の戦争Ⅶ
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「僕は今度こそ友達を助けるんだ」
デスクトップのパソコンのディスプレイには《エターナル・ウォーズ》のサイトが開かれていた。
一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
現時刻は朝の十時を少し過ぎたところ。僕は古代日本武術連合の騎士になる。
そう決めてゲームスタートの文字にカーソルを合わせ、右クリックをした。
○
ーー天使になる。
《エターナル・ウォーズ》のゲームを見つけて四日目。
友達のソウジに先を越されたが、私は直ぐに追い付く。ゲームは初めてなのだが、私にも出来そうなゲームだ。
きゅうきょ、揃えてもらったデスクトップPCに向き合って私は、ゲームスタートを押した。
7
天才的な才能は天才にしか再現しないのではないだろうか。
凡人には到底天才に敵わない。
天才は凡人に目もくれない。最終的にその差ははっきりとしたものになる。
だから、自分にはこの気狂いには敵わないことははっきりとした。
何で、神は天才にしか力を与えないのか。
武器を持ち帰る時間が無い。武器そのものを変化させているみたいに動きも滑らかなモノであった。
勝てはしない。そのまま自分は死ぬのだろう。
混沌だ。教室には、日が差しているが、赤く染まったカーテンに日差しを遮られて少し薄暗い。
そこに一人が立っていた。
「生きてる人は居ないかな。なんて、君が邪魔だけど」
はっきりと自分に向けられた殺意だと自覚した。
「でも、永遠に僕の従者になるなら見逃しても良い」
傍望惣次は低めのトーンで云う。そんな人間とは思わなかった。僕等は何故殺されそうになったのか、それは判らない。
「近い未来に、君等三人に人を超越した力が舞い降りる。だから殺さない。起きてよ」
僕のほかにも二人居たと云うことか、それとも僕が頭数に入っていないか。
立ち上がったのは二人。と云うことは、僕が内の一人であったと云うことだ。
「じゃあ、君は僕に従わないんだね。死んで」
「いや、まってまって。足に力が入んなかっただけ」
嘘だが。
周りに惨殺死体があるのだからそのくらいの嘘は大丈夫。と思う。
「従う。判ったから、おんぶして」
僕の頼みに一人の男が答えてくれた。三人のうち一人が女子で、結構可愛い子だ。人気も結構あるらしい。
なんて、いまの状況からすれば関係ないことだ。
自分のでは無いのは明白だが、血が制服と顔に赤黒くこびりついていた。
内一人の男が僕をおぶってくれて移動を開始した。
何処からか通報されていた傍望の行動は外に特殊警備隊の壁が何十にもできており、発砲の許可もあるそうだ。
こんな所に出れば即死決定で、袋の鼠とはその通りだなと思った。
各クラスを廻っていた様で窓は元より、教室は赤い水溜まりが出来ていた。
ドアの隙間から流れるその水は、少しねばりけがあって、グロテスクなものであった。
二年二組の三人の中の僕は、傍望の次に普通の人だと云われていた。狂った性格でもなく、死ぬことに対して凄い恐怖を持っている。
殺人鬼の出現の時はビクビクと震える始末。
それが、……逆だろう。
何で、僕がこんな殺人に協力しているのか。いや、協力はしていない。自主的に連れ去られていると云うところか。
しかし、この状況では僕らまで協力者と間違われて殺される事は何となく予想は出来た。
「禁忌書の二説。全ての物質を切断する魔剣アリスベル」
傍望が云えば、風が手元に集まり剣の形を取る。
その風が消えればそこにいびつな形をした剣が握られているのが判った。
横に凪ぎ払うように剣を振るうと風が再びおこり壁を削る嫌な音がする。校舎が分断されたと知るまでに廊下が崩れだすまで分からなかった。結果、三階が塵となり風に吹かれて消え失せた。
「禁忌書第六七説。威力が隕石となんら変わりは無い遠距離銃魔装ディアロブカス」
剣が光り、短く収まっていく。
その形が定まる前に、その屋根の無い校舎から特殊警備隊の壁の方に引き金を引いた。
ずどぉぉーーんと云う音と共にこの近かくにいる生きた人間は此処の四人だと判るまでに、先ほどより長くはかからなかった。
もう、後戻りは出来ない。進めばいいじゃないか。
僕等は、こんなに凄い傍望惣次に必要とされた。
何がしたいか判らないが、楽しそうだ。
やっぱり、精神的には僕も盛川なんだな。と少し後悔したが、興奮した自分を抑えるには少ない理由だ。
○
歴史の改革。
第三の戦力、【零】は特殊能力を持っている。
二千年後までの出来事が詳しく記されている書物はどこをとっても一つしかなかった。
【零】の聖書である。創ったのは傍望小唄。《エターナル・ウォーズ》の交代者で、特殊能力の体言者と云っても良いだろう。
他のメンバーは聖書によって選ばれた特殊能力者である。
歴史の改変で起こった【零】の出現は未来を奪われたと云っても良いくらいだ。
全ての歴史的内容が書かれた聖書があるのだから。
そして、二五○○年台に最悪の戦争が起こるとされている。
傍望本家と傍望【零】の衝突。
云えば、惣次と小唄の戦いである。
○
降り立ったのが綺麗な大通りであった。
細かい装飾や色とりどりの町並みはファンタジーによくある神々しさが伺えた。
天使には羽根がありそれを動かすには、感覚なのだそうだ。
まぁ、チュートリアルという使い方の手ほどきを受ければ大丈夫だろうと、そんな軽く見ていた。
ピロリーン
何処か聞いたことのあるような変な音がして耳を澄ませた。
《クラウドユグドラシルに招待されました。参加しますか?》
目の前に《Yes》《No》が現れて、私はイエスをタッチした。
私は見たことがある。
ユグドラシルとは本編で、ストーリーを進めるに当たって重要なクラウドであった。異端者を切り捨て、主の意思に背けばそいつを殺す、そんなチームだった。
それの名前を使った同人チームのような気がしたので参加を決意する。と、それは建前で、実際は誘ってくれるのが嬉しかったのだ。
「頑張ろう」
自分にそういい聞かせてそのファンタジーな町並みを歩きはじめた。道行く人は全て真っ白なふわふわしている羽根を持つ。
ああ、触りたい。なんて思考を持っていると、私の目の前に大きい神殿があることに気づいた。
それは、中心が膨らんだ柱を何十本も周りに置いてそのうえには四階分の階層が乗っている。
五階構造の神殿は、現実世界のどれよりも美しかった。
と、ここで気付くことがあった。この天界にはガラスがなかったのだ。
なんで無いんだろうと少し考えると凄く強い風が吹いてきた。
「判るかい?これは神風と言ってね、運営が天界に他種族を来させない様にこんな風を吹かせているのさ」
「悪魔さんは来ますよね」
「太陽に弱いから、来ることも無い」
「ところで」
「どうした?」
「あなたは誰でしょう」
突然に喋りかけて来たのは真っ黒なローブを身につけて、肩に等身大の剣を担いでいる天使であった。
「いや、新メンバーを案内しようとしてね」
「あ、それはどうでもいいですけど」
「飛び方の記憶は在るかい?」
「記憶?私は盛川高校に転校四日目で此処に飛び込んだ事以外在りませんよ。まして、飛び方なんて」
「ビンゴ」男は指を鳴らして「当たりだったとは」
何なのかさっぱりだった。そして、話しているがこの男の名前は何なのか。不思議だ。
「僕は庄司。ユグドラシルの使いさ」
そして、庄司は何か目の前を操作する動きをする。
「立ち話は何だから、此処に行こうか」
私の前に地図が開かれ×が付いている店は飲食店と書かれた場所で
「あ、お金は運営が払ってくれるから。ユグドラシルの特権さ。心配しないで、この店はオススメなんだ」
庄司は白い歯を見せて笑った。爽やかに、そして私は自己意識とは裏腹に何故か頷いていた。
○
騎士として覚醒した僕は普通に周りの人達に馴染んできた。
まぁ、僕のこのアバターの人が凄く好印象を与える容姿で、パラメータの高く階級は中将であった。
今は、自室でアバターの記憶に浸っている所である。
現日本からみて韓国の所に植民地エリアがあって、僕はそこ出身だと云うこと。記憶に新しい《イリア》の名前もあった。
黒髪の少年といつも一緒に居たこと、僕が一年前に本部の騎士になると云って此処に来たこと、少し覚えていることを思い返して唇を噛む。
恐らく、この男の出身地は一昨日壊滅したアルバ村なのだろう。
「虎さん、出撃要請が着ています。何も、植民地エリアの臨海で異例の戦闘が行われているそうで、それの調査であると」
僕の部下であるそうな小将の林道時が来た。
「判ったよ。直ぐに行く」
主要武器はSRのディザスター、防具が古代日本武術連合の騎士団服である。
少し寂れた連合本部は日清の塔を中心に円い塔が幾つも建っている、そんな集合体である。
外に出る。煉瓦作りのその廊下は湿気た空気が張り詰めていて少し気分が悪くなる。
「虎さんには少しお耳に入れて頂きたい情報が」
「なに?」
「未確認の少年の事です。アルバ村の生き残りの称号を持っているそうで……」
「そうか。急ごうか」
僕は走り出した。アルバ村の住人には少し聞きたかった。《イリア》とは誰なのか、それとその名前に関係する惣次の行方。
少し早足になり門を出る。馬に乗った何十名かの騎士は僕を待っていた様だ。
「悪い。行こうか」
鎧を翻し準備された馬に乗った。脇を蹴り馬を飛ばした。
○
「だから、ユグドラシルは運営直属の部隊なんだよ。あのねーー」
遮るようにハルキは云う
「じゃあ抜けます。私は自由で居たいんです。そんな束縛は嫌です」
テーブルには異国の料理だという沢山の気味の悪い色の肉や変な具材の入ったスープが並ぶ。私は飲み物のカルピスだけを飲みながら続ける。
「そんな事知りませんでした。抜けたいです」
「無理なんだよそれが。君は運営の用意したアバターに乗ってしまった。それで運命は固定されてしまったんだよ」
ズゴーとカルピスを飲み終えてもう一度一緒の物を頼む。
「い・や・で・す」
「鏡を見て」
そういって庄司はアイテムストレージから鏡を取り出した。
写っていたのは私、ではなくショートの髪の少し美青年的な顔立ちの女性だった。
瞳はエメラルドグリーンをしているし、小さい顔は女のこだが、男と云われれば「そういえば…」的に半信半疑になる位あやふやな立ち位置の娘なんだろうなと思う。
それが今の私だが、それがどうしたのだと庄司に問う。
「君はもうユグドラシルの一員だ」
どういうわけか体が動かなくなり私のそれからの記憶がずっぽりと欠け落ちてしまっている。
目覚めると、天蓋付きのベッドに寝かされていた。しかし、手足は鎖で繋がれているようで寝返りもうてないようにピンと張られている。
首は動かせるので、周りを見てみたが、そこは雲が多分足元に在るんだろうと云うくらいに高い。
「ねぇ。私をどうするの」
「犯します」
「そうすれば抜けても良いんですか?」
「潔いですね。まぁ、抜けても僕の奴隷になるだけですが」
庄司は気持ちの悪い笑い方をするが、どこにいるのか声しか聞こえない。
「……嘘ですよ。少し君には痛い事をします。嗚呼、貞操はやりませんよ。記憶を少し弄ります」
「キモいわね。勝手にすればいい。」
空間が書き変わった。
鎖も無くなり、私は立ち上がっていた。
『命令を与える。未確認のプレイヤーを戦闘不能にすること』
脳に直接来るその声は、キャラ設定のそのままだった。
少し吐き気が襲う。
もう、めんどくさい。勝手にしてください。
クラウドは自分から抜ける事が出来ることを知るのは、まだ少し先になりそうだ。
庄司は思う。自分から抜ければ良いのに。これだから初心者は。抜ければ、ユグドラシルに関連ずいた記憶は消える。しかし、アバターの記憶が無いとはどういう事なのか。
それを、運営の創ったと云うのはもちろん嘘だが、こんなに信じるとは思いもしなかった。このまま、洗脳されれば良いのに。
意味不明に庄司はため息をついた。まぁ、未確認プレイヤーを倒せば、残りは僕だけで出来る。その時は、解雇してあげよう。
せめてもの人間らしい心を庄司は思った。
○
何か近づいてくる。
そう気づいたのは結月だった。波を着る音は確かに船であった。それを奪い取ろう、これは僕の提案だ。
僕にはそれが出来る。
結果的に敵の攻撃は『運よく』当たらない。
日本の騎士団なら少し乗せてもらえるように交渉しよう。
とにかく、死んだ者が生き返れるのかが心配であった。
結月とであった時に云っていた異世界とは何なのか、それに、本当にこの世界がゲームなのか心配になってくる一戦だった。
とにかく、僕は生きる事を優先すれば良い。
それと、同じくらい大事な事。結月を守ること。
「頑張りますか」
僕は呟いてみる。