【07】永遠の戦争Ⅵ
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秀虎とハルキは困惑していた。昨日の衝撃の事実が知れて次の日。今日だ。
バスには惣次であろうが、そうではなさそうな男が座っている。そこまで覇気が感じられなかった惣次が今日はニコニコとしているのが気に障った。直感で惣次では無いようなきがする。
そう、これは結月の時と一緒のような感じ。
惣次は《エターナル・ウォーズ》の世界に行ってしまったと見るのが自然だろう。
少なからず、この男の存在は証明されるのでは無いのだろうか。
「えっと。ハルキさんですよね」
とはなし掛けられるが、無視したい気分になる。
「なに?」
「いえ、記憶の通りで何となく嬉しいのです」
「そう」
無関心に返答をして、それに春虎も参戦する。
「君の名前は?僕らが知っている君では無いんだ」
「そうですね。判りません。自分はこーきと云いますが、貴方達は今日の夜にでも向こうの世界に行くのでしょう?」
心が読まれたような。向こうの世界の人は元々から変な能力を持っているような気がするから、そこには触れないでおこう。
「では、少しアドバイスをしましょう」
ソウジの姿のこーたは右手の人差し指を口元において、片眼を閉じる。
「は?」
「惣次さんは僕と入れ代わったのなら古代日本武術連合に所属したようですね。そして、公式なログインでは無いはずです。しかし、運営からは見つけられません。それは何故でしょうか、至極簡単で意思の力が強いから誰かに引き付けられたのでしょう。と」
「それはどういう事?」
秀虎は不思議そうに傾げる。
「すぐに会いたいなら連合に所属すれば良いです。でも、向こうでは顔や声が違いますから敵として勘違いされますから【イリア】と、云えば少しは信用してくれるでしょう」
何がなんだか良く判らない感じに二人は聞いていた。
バスの中はエアコンの音だけがめだっている
「君はどうしたいの?元に戻りたいとか、思わない?」
「僕は未来が見える能力を貰いました。他の人もそうですが、こちらに来た向こう側の人間には特殊能力が備わるそうなんです。別に、帰る理由も無いですし、ね」
ーー僕だけなんだけど、と心のなかで付け加える。
「そうなんだ。私帰る。早く行きたい、向こうに」
ハルキは立ち上がり様にそういう。現時刻は七時でもうすぐハルキの高校に付くのだが、そんなものは知らない。と云うふうに直ぐに座る。
「僕は少し学校で考える。どうせ行くしか無いけど」
「嫌々なら行かない方が良いですよ。そこまで簡単なゲームじゃ無いですから」
こーたはそんな注意をくれた。体勢は変わらずずっと背筋を伸ばして座っているから興味を失ったのかと思っていたが。
「そうですね、ハルキさんと入れ代わるだろう彼女と仲良くさせてもらいますね」
「そこは私知らないから」
無関心に返した後、携帯を開いて、《エターナル・ウォーズ》のサイトを調べる。
少し変わっていた。
アップデートされたようで、バージョンが1.0.5となってたので追加データをみる。
エフェクトの光線の可視化。スキルの微調整。と、少しだけのアップデートだ。
なんだ。とそこまで思わない。どうせ私は天使になるんだ。
そして惣次を助ける。
そんなハルキを見ながらこーたは言い出せずにいた。
『君はユグドラシルの一角に選ばれてストーリーの重要任務を与えられ、惣次の敵になってしまう。』なんて。
少なくとも、天使職以外を選べば良いのだが。
こーたがどう云っても意思を変えない未来しか見えない。
こんな力はどう使えば良いか判らないので、自分の行動で未来が変わるなんて思いもしていない。
ならば、どうすればいいのか。
「僕には関係ないね」
そう、思い込むことで自分の罪を見ないふりだ。どうせ、こーたの特殊能力がなければ判らない事であるので良いのではないか?とも思う。
バスが盛川高校に着いてこーたは一人そこで降りる。
『どうやってこの能力で遊ぼうか。』
世界連合を邪魔する計画の最初が此処だった。
○
「隊長、《フェイス》の奴等が進行してきます」
「第四、第五部隊を派遣し、戦力の半分を削ぐことに集中」
「今回の《フェイス》進行には最大戦力の半分を投資しています。その二部隊に第三位がいるのは判りますが、黒剣の三騎士の二人の反応が在りますので……」
「……えぇい。ゴトー将軍を出撃させろ」
「独立部隊の将軍様には強制召集の権限が在りません」
「くそっ」
ブラッダは机を叩く。
現在、《フェイス》と呼ばれる組織が国際連合に対立している。
ついこの間まで一緒に共闘していた人間の立ち上げた組織だ。
国連軍最強の将軍が敵側のスパイだったのだ。
その将軍が従えていた部隊は実に国連軍の半分に値する。それが一気に寝返った。混乱しない訳はない。
指令室には全員で八人しか居ない。ほとんど前線に駆り出されたからで、今回の現実の書き換えは違和感が凄く感じられた。
「副将様が戦死なされました。《フェイス》側も多数の部隊の壊滅は確認出来ましたが、黒剣の三騎士はまだ前線に来ていません」
「しかたない。電磁砲発射用意」
数ではほぼ変わらないとされていた《フェイス》は何処からか増えていて一人が一人を殺しても、敵わない。
どうせ黒剣の三騎士が出ればほぼ壊滅と云っても過言ではない。
いま、雑魚と称される一般兵を削ることが最優先とされた。
「電子充電回路切断。……もう諦めましょうよ。傍望家の戦略は私達に手段を選ばせないモノです。どうせ、電磁砲を使わせるための数何でしょうね。その発射後に黒の三騎士が出てくるん出ようね……私はもう諦めました」
メインコンピュータをシャットダウンしてお手上げだと云う風に一人が指令室を出ていく。
勝手に入ってきた軍隊の一人の癖に勝手に出ていくなんて。
もう負けなのだろうか。
そんなとき、時間の変化を感知できる装置、時変装置が反応した。
○
未来を変えること。それは、何処の未来にも属さない選択肢を選ぶこと。
つまり、思考と体の動きを変えれば良い。
と、云うことは。
僕はこの盛川高校の生徒を片っ端から殺していけば言い訳だ。
……だが、そこからの未来は見えない。
僕が死ぬんだろうか。まぁ、やってみれば判るさ。
こーたは、バッグから刃渡りが三十くらいあるナイフを実態化させる。
基本は向こうの世界と同じ。恐らく、サイクロイドのせいでアイシスメトンが少なくなっているのだろう。
でも、少し意識を強めれば物体の実態化に支障はなかった。
「残虐のはじまりだっ!!」
歩いて登校する生徒も、自転車登校者も全て僕が殺して上げるよ。
逃走経路も確実に。捕まるようなへまはしない。
そのためには、全ての未来を見ていかないといけないが、自分が楽しめればそれでいい。
未来を変える。
それ以上に魅力的な事はなかった。
向こうに帰ったとしてもイリアがいないんじゃ意味が無いから。
【特殊能力発導】
特別に、僕だけが与えられた能力。未来視と実態化武器を有効に使わせて貰う。
○
古代日本武術連合へ行くには少なくとも海を越える必要がある。
【月影の太陽】は船を造ったようだ。造船スキルなど聞いたこともない。そりゃそうか、昨日来たんだからな。
海を越えた島国、古代日本武術連合は少しだけ大陸を支配している。首都となると海の先の島にある。
大陸の日本武術連合の支配領が此処で、【月影の太陽】は本土を狙うようだ。
草影に隠れながら、行動を見ていた。隣には結月がいて一緒に見ている。
追いついたのは先ほどで、海岸で立ち往生しているところを見つけた。それが良いことなのか悪いことのか。
数は見る限りじゃ二百人位である。正確な人数までは結月も把握していないみたいでその量に少しだけビビっていた。
「副業って云うのがあるの」
「なに?」
「副業は、一プレイヤーにつき二つまで習得出来るの。でも、何処のイベントで、どんな条件なのかも全くわかんないの」
「【月影の太陽】はその珍しい副業持ちが居ると云うこと?」
「そう。ほら」
彼女は海に向かって手を動かしている。メニュー画面を操作している様で、その正面の浅い海には少しずつ木組みが積み上がっているのが判る。
「あー。マネージャーのゴリさんだ」
「しらね」
懐かしい目をしながら結月はニヤニヤとしていた。
ここで、ふと思ったのだが飛び出してみようか。と。
平地なので囲まれるが、当たらなければ意味が無い。でも、実戦経験のない惣次は少し悩む。
腰に聖剣を実体化させ立ち上がる。
「な…なにしてんの?しゃがんでよ、ばれちゃう!!」
「いざ、皆様殺しへっ」
強く地面を蹴り、坂を駆け降りる。
大した距離も無いので直ぐに【月影の太陽】のメンバーが気付く。
しかし、そこまで気にしない様で副マスターが顎で指示する。
「……レベル一かよ」
そんな戯れ事が聞こえてくるが、そんな幻想は打ち壊される。
聖剣を引き抜き右側に構える。筋力パラメータも尋常ではなかったので、思った以上に体が動く。
怠そうに駆け寄ってくるメンバーは、技を出すのか変型的なポーズを取る。
微妙な発光の末、敵の技は繰り出された。右から来た切り下ろしを聖剣で弾き、左のメンバーは『運悪く』攻撃がレベル一の彼に当たらなかった。
三人目は投げナイフのような物で攻撃するが、それは『運悪く』彼に当たると耐久がゼロになり消滅する。
「どうした、カスに何をしている。早く殺してしまえ」
このチームの説明には、PKは無しだとか言っていたのだが。
まぁ、実験の結果本当に運が関係している様だ。
ゆっくりと彼は歩み始める。赤い防具が敵の憎悪を引き立てる。先ほどのメンバーは強い、の部類に入るらしくそれより弱い奴は流石に攻撃はして来なかった。
弓は飛んできたが、『運悪く』当たった瞬間に消え失せた。
そして、マスターの元にたどり着く。
「結構結構。君、僕のチームに入らないかね」
「無理です。もっと良いとこいます」
「残念だ。そして、君は何しに来たんだい?」
当然の疑問に惣次はニヤリとして答えた。
「敵の、戦滅ですが、何か?」
聖剣に技の起動式を与える。秘伝書と言われる技を覚えるための紙で、一度見れば消滅する。それを、結月が持っていて惣次にそれを渡した。
「《改革の新障》」
剣先が黒く変色して、その黒い所でその厳つい肩幅の広いその男を、軽く触れる。それだけで十分だと思った。
実戦は初めてだが、ゲームを全神経でやるだけだろう。思考と手先でやるゲームは飽きていた。
そして、たいていのゲーム内のアイテムや技やその他は直ぐに覚えられる。
そして、この技はブラックホールが人工的に創れると。
剣先が触れた男には黒い色がこびりつく。
「あーあ。汚れちまったなー。殺っちまえよ野郎ども」
がちゃがちゃと武器を構える。しかし、惣次は一刻も早く此処から離れるようにそんな男達を無視し真逆に走り出す。
「逃げんのか?」
ゆっくりとその隙間を埋めていくように近づいてきた。
《発動》
黒い染みは面積を増やして行き遂に男を全て黒く塗り変える。
「あー?なんだこれ」黒く変色した手の平を見る「どうしちまったんだ。助けろよ」
黒が時間とともにこゆくなり天を仰ぐように男はそのまま動きが止まる。
メンバーは「どうした?」なんて混乱して統率が取れなくなっている。
惣次はその混乱に常時て逃げた。
「なにしてんの?ドキッとしたじゃん」
戻るなり結月に云われる。「もー」っと頬を膨らまして腹を立てている彼女は可愛いとさえ思う。
動かなくなったマスターはモノを引き付ける重力が加わり、触れたものを破壊する。
人工的なブラックホールは吸い込むことが出来ないらしい。しかし、これでも結構強い。
死ぬと生き返るのか、それは解らないが、二百人は一人のレベル一に崩壊させられた。
ピロリーン
と、何処か懐かしい音が聞こえた。
《一九八人撃破。レベルが十三に上がったよ》
ーーああ、そうか。とってもどうでもいい事だ。
黒い塊が崩れて行く直後に唇が動く。
『おぼえておけが。この借りは絶対に返す』
「まぁ、無理だろうな」
「何か言った?」
「いやなにも」
結月は首を傾げる。
可愛かったので無防備なデコにぺちんとデコピンをしてみた。