【05】永遠の戦争Ⅳ
《エターナル・ウォーズ》先ほども云ったように作者はハルキの叔母さんという。略称《EW》、しかしまだそこまでの巻数は出ていないはずで、それもゲーム化するなんて聞いていない。まだ、イラストの方はそこまでパッとした要素も入ってないのに、作者名だけで売れているような小説はアニメ化もしない。
「ハルキ。おいハルキっ!!」
しかし、反応が無いので、肩を大きく揺さぶって見る。
「んー~~」
伸びをするように両手を上に伸ばして「あれっ?」なんて云う。何が起こったのかなんて判らないんだろう。
ポスターに目が入らないようにこちらを向かせ無理矢理に右手を引いてその場を離れた。
そんな光景を周りの人がどう思ったかなんて考え無くてもいいだろうね。
「どうしたの?そんなに急いで」
「帰るんだろ、時間だよ時間!」
あんな状態が続くようではダメな気がして。
二人はそれぞれ、駅とバス停まで歩くので今日はそこで解散になった。
翌朝、いつもの時間にいつものバスに乗る。今日も同じ席に座りいつも通りに本を読むハズなのだが、隣に秀虎が座り僕の右隣りはハルキが座っている。
ハルキはスマホをいじりながら座っていたので、僕が隣に座った時に驚いていた。
「おい、惣次よ。昨日休みになってたんだって?」
「いや、そんな嬉しいことじゃ無いから。夏休みに一日学校だぜ?」
はぁ、とため息をついて嫌がるそぶりを見せる。
しかし、バスに盛川生は居なかった。まだ、気づいてはいない。
「ソウジッ!!見つけたの、サイト!」
そう突然に画面をこちらに見せながら飛び掛かってきそうなハルキを見て秀虎は
「……昨日の休みで何をしていた」
「別に、何もしてない。唯、この町を案内してただけ」
「それは、何もしてなくないだろう、俺も紹介しろ」
なんて話していると、ハルキはまた僕の膝の上に身を乗り出してばんばんと秀虎の足を叩いて
「私と友達になりたいの?」
なんていうから
「喜んで!!」
まだ何も云ってないよというハルキの顔は気にせず、っていうかんじにその返答は何かな。
「で、ハルキ。サイトってなに?」
「昨日の《エターナル・ウォーズ》のログインサイト!」
興奮しているようだが、僕はまだ判っていない僕である。
しかし、それを判った感じに秀虎は真面目な感じに
「……。そのゲームはやめたほうがいいと思う」
何か、難しい顔をして語りだす
「そのゲームをやろうと話していた俺の友達が数人学校に来なくなったんだ。そのうち一人は、精神が侵されて入院している。原因は知らないけどね。それで調べると少なからず全国で失踪者が増えて居るんだ。それも皆、最後に訪問したのがこのサイトでね」
「まさか」
それはどういう冗談かと思った。しかし、ネットにはそんなスレッドすら建っている程で、検証結果からしてログインした瞬間にその人間は人格とか血液すら変わった別人になるという。
あくまで噂なのだが、結月の件もあったので、まぁそんな事にしておこう。
「楽しそうじゃない!説明文を読むに凄く楽しそうじゃんさ!私は今日帰って行くから!」
はきはきと「もう決めたの」なんて云ってその状態のまま僕を見る。僕の膝にのしかかっているので、下から見上げる感じに。
「ソウジも行くでしょ?」
「いや、止めとくよ。……行ったとして、ハルキは何になりきるんだよ」
半分笑いながら問い掛ける。
「私は天界の堕天使になるの」
EWは昨日あらすじだけ読んだ。種族間で永遠の戦争が行われている話。そのなかで主人公は人間と云う一番弱い種族。聖剣を手にして種族の統一を目指し、戦争を傍観しているだけの神を倒す為に戦う、微妙に感動的なストーリーである。
「ね!」
と、スマホを差し出す。スクリーンショットと云うより、写真というほうがしっくり来るような、ゲームではない…ゲームと云って信じる方がおかしな位に綺麗な、高画質なスクショ。
スクリーンショットの説明では、四種類の主要都市を外から撮ったモノらしい。
一番みすぼらしいのは、地上界人間の古代日本武術連合の首都と村。そして、一番綺麗なのは天界、天使の要塞。アルバトロス戦艦と云う人間の最大限の技術を持ち逃げして今の人間の立場に追い込んだ天使は、主に人間を監視しているだけだが、技術を提供してくれたといって少しは守ってくれるそうだ。
全部、ウィキ○ディア情報であるのだが。そして、ハルキは
「ソウジは人間だからね!!堕天使は一番この世界で自由に出来そうだから合流できるの!」
なんて云う。だから
「僕が行く前提になってるけど行かないからな」
と、左の肩を叩くのは秀虎だ。
「これ、九条さんじゃね?」
自分もスマホを見せつける。そこには『アイドル発見』と云う番組。新人アイドルの旅番組である。
今日のレポーターは九条結月の顔で、声で喋る女である。
しかし、生きていても感動も涙も出ないのは、瞬間的にこの人は違うと判断したからだろう。
幼なじみなので判るが、結月は僕以外の人と話さない。それは、極度のコミュニケーション障害だからだ。
幼なじみと云う特権とかがないと喋れない。しかし、高校ではそうはいかなかったようで、いつも僕としか喋らないし、喋りかけても僕以外の呼び掛けに答えないので、そういうのが色々重なっていじめが始まった。
最初は、全く気づかなかった。此処で気付いていればこんな事にならなかったハズだ。なのに、………。
「多分、あれだよな。《エターナル・ウォーズ》の効果かもしれない。雰囲気が全く違うぜ」
じゃあ、そんなことが解るなら何故見せたのか。一瞬でも期待したのに。
バスは信号で止まる。その放送は生放送だったか、そこにある番組で特集されている店には大きなバンや、カメラマン、プロデューサーのような人がいて、そのなかに、結月が居る。
「マジだぜ!?」
「運転手さん、降ろして下さいっ!」
荷物を持ち、ドアが開くのを待つ。芸人に似た運転手は状況を理解してドアを開ける。
「あ、待てって」
「私もいくから」
僕に続いて二人も降りる。僕は、千円を運転手に渡して「無茶と、三人分代ね」と云う。無茶を云ったのだ、少ないくらいのお礼だろう。
僕ら以外の乗客が少なかったのも幸いしたので、降りた瞬間に走り出す。
向かいの道だったので信号を待つ。四つ角の対角にある店だ。
周りには新人だろうが関係ないと、云うふうにファンがいるのか、または、テレビに写りたい一心なのか、沢山の人が見えるのは何の影響なのだろう。
少なくとも本気で人が嫌いな人間が行くところ、居るところでも無いと思う。僕は、そんな心情を押し潰して信号が青に変わるのを待つ。
僕について来た二人も後ろで待っていて、焦っている惣次を見て話し掛けられずにいる。それが良いことなのか、悪いことなのか、判らないが今の状況では好都合と考えるのが良い。
変な説明をしなくても良いし気を使う事もない。
右足の貧乏揺すりが激しくなってきた所で信号が青に変わる。
「っ!!」
最初から全力で走る。惣次は周りの事なんて考えずに、信号なんて無視するように四つ角を右に曲がる。
ふと、最初に渡っていればと思ったが、もう関係ない。
最初に居た場所の斜めに反対側にたどり着いた。もうすぐ結月に会える。それでいっぱいだった。
しかし、それは似ている人なのかもしれない。その《エターナル・ウォーズ》で変わった結月の抜け殻かもしれない。でも、普通の結月とは違うことは確かで。
でも。とそれを打ち消して今の、目の前の結月に問い掛ければ早い。と、野次達をおしどけ道を作り、そこを通って行く。後ろにはちゃんとついて来ている様子はない。
愛想を尽かしたのか、二つ目の信号を待っているのか。
あの時は丁度、車が通らなかったので走り渡ったが、二人はマナーを守っている。ついて来ると云っておきながら、と心のなかで非難するが、今は目の前に集中だ。
掻き分けていくと、撮影中と看板を持ったスタッフもいるが、惣次はそれを無言で通り過ぎる。
気付いていないのか、隣の揉め事に気を取られていたスタッフはスルーする。
僕は、そのまま歩いて行く。なるべく短時間で終らせたい。一度質問をするだけだ。「僕を知っていますか」と。それで全てが判るし、もう諦めが付く。それが聞きたかった。
店の前にたどり着いて、スタッフを見る。こちらに気付いて、監督か誰かに耳打ちする。
「CM入ります」
演出スタッフの呼び掛けで、その番組が一旦中断する。そして、監督が近付いてくる。白い髭を顎に伸ばし、オレンジのキャップを被りサングラスのその人は、誰かに似ていたが、それは身近な人ではないと結論が出てそこには何も云わない。
「君は何だね、邪魔なのだよ」
「キャスターと少し話しがしたい。失踪した幼なじみに似ているんだ」
と僕はスマホに保存している写真を見せた。唯一あった結月の写真。入学式で撮ったツーショットである。
「この女の子だ」
右側の結月を指す。さすがに、似ているの比では無いことに気付いたのか、そのキャスターであるその人を連れてこいとスタッフに命令する。
「二分だけだ。それ以上は局に関わる」
嫌々ながら店から出てきた結月もどき(?)は僕を見つけると、一瞬でも顔が明るくなった気がした。
でも、それも気のせいですぐに暗い顔に戻る。正面に立つと、決めていた質問を問い掛けた。
返ってきた答えは、予想のどれも外れていた。
「……私は君を知っている。友好的な関係を気付いていたと思う。でも、それはこの人の記憶だけ。今の私は君を知らない、今初めて会ったわ。……十分かしら、この恵まれた身体でこの国を私の物にするのよ。だから、……でも、君と喋ると胸が苦しいの。もう私の前に現れないで」
と、知っているが知らない。意味が判らない状況で。しかし、結月の身体で、声でそんな事を云われるのであれば、もうこちらが求める理由など無い。だから僕は頷いてその場から離れることにした。
戻ると、スタッフに止められた二人が居た。
「おい、どうした」
「話せたの?本人だったの?」
そんな声は聞こえ無くて、振りをして、無言でそこから離れて行きたかった。誰とも喋りたくなかった。
もう、此処には僕を必要としてくれる人は居ない。全てが僕に敵意を向けて居るようだった。死んでも良いかもしれない。
それも一つの手だ。でも
「今日は家に帰るよ。僕の存在理由を見失ってしまって…立ち直れないかもしれない」
今にも倒れそうなあしどりで惣次はそこを離れて行こうとする。
そんなに九条結月を思っていたのか、とそんな顔をする秀虎に気にするなと、そんな目で応える。
そこに、結月の声が聞こえてきて
「そこの君、一旦戻りなさい。渡すものを思い出したわ」
もう二分を過ぎているハズなのに結月がこちらに歩いて来る。
「テレビの生放送の時間を守れないようじゃ、この国を取れないですけどどうしたんですか、九条さん」
精一杯に搾り出した言葉は、結月に対してではなくそいつに似た別人に向けての敬語で。
「私の荷物にこれが入ってたの。勝手に読みなさいな。この身体の意識の最後の手紙らしいの。よ…読んでないわよ、ぷ……プライバシーですものね」
初恋の人にラブレターを手渡しする感じに顔を赤らめて右手の手紙を差し出す。
この際、無限に聞こえるシャッター音なんて気にしない事だ。しかし、僕は何も感じなかった。さっきの言葉が精神を壊すぐらいに深く刺さっているから。
「ありがとう。家で読むよ」
遠目で見ていた二人は、「家に帰るのは決定済みなんだ」と呆れていたが、ホッとしているようにも見えた。