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異次元の革命者  作者: 頴娃伺結有
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【04】永遠の戦争Ⅲ


案外彼女は従順で、物分かりの良い優等生であった。

僕が案内していると、判らない事は質問してくるし、僕の後ろにちゃんとついて来るのでそう思う。

今は、図書館の入口に立っている。

「ここは本の倉庫ね!貸し出しはOKなのかな?」

興奮気味の南を少し押さえるように

「まぁ、多分出来るけど南は何処のクラスに行くのか決まって無いんだろ。借りるのはそこが解決してからだよ」

「そうだね」

頷いてから中に入る。心地の良いクーラーの風が吹いてくる。

現在七時十五分。バスの運転手が云っていた七時半にはまだあるだろう。

しかし、そう思っても皆の態度は変わらずに図書の先生すらも何かあるなんて聞いてない、と云うふうにゆったりとしている。

「先生、今日は何かイベントがあるのですか?」

入ったときに、新刊コーナーと云うところに本を並べていた先生に尋ねてみた。運転手は人気の芸人に似ているんだ。少し気にするくらいやっていいだろう?なんて、どういう理屈かそんな感じに思って先生の返答を待つ。

「今日ですか、何も無かったと思うよ。というか、今は何時なの?ここは時計が無くて時間が判らないから」

「今は二十分ですが」

「七時!?」

驚くように云うと、図書館の中で本を読んでいた数人に舌打ちされる。先生は少し抜けている。いや、ここは天然であると云った方がいいのではないかと思い訂正する。

「三焼先生、会議とかそんなのがあるのですか?」

「そうなの。十五分からなのに……また、やられるわ」

溜め息をついて少々早足で図書館からでていく。

それを黙って聞いていた南が問う

「その会議で三十分からの何かと関係あるのかな」

それは、ただ呟いただけなのかも知れないが、それに僕は返すように

「多分、先生達は関係ないイベントなんだろうね。月に一度の五十分会議なんだ、職員室は鍵が掛かって入れ無くなる」

「ここに入って二ヶ月なんだよね。色々知っててびっくりだよ。同い年なのに調べ学習が日課なの?」

変な事を云う南に少し優しく頷いておくと、頬を膨らまして「も~、馬鹿にしないで」と云う。

何だか彼女に似てるな、と幼なじみを思うが、これはもう忘れたほうがいいのだろうか――。

と、新刊コーナーに南が近付いて行くと顔がニヤけるのが判った。何を見ているのだろうと自分もそこに近づくと《エターナル・ウォーズ》の一巻から五巻までがおいてあった。

最近、《ロドリゲスは空を飛ぶ》で有名になっている小説家、日吉影戸と云う人の別レーベルの作品である。

ファンは特に女性に多いそうだが、日吉先生も女性だ。だからなんだって話しだが、力強い表現が特徴の作品ばかりなのに何故女性がはまるのか、謎だ。


「これね、私の叔母さんが書いてるの」

自慢するように南が云うと僕は

「叔母さんっ!?何歳なの?」

叔母さんと云えば、一般的に自分より四十位離れていると思う。まぁ、人によるが、だが。

なので、僕らが十六、では六十近い人が書いているのか。にしては発行ペースが速い。

日吉先生は一ヶ月に一冊のペースで巻更している。歳の割に元気なのか、予想より若いのか。後者の確率の方が高いのは考えた通りで。

「叔母さんは十七だよ」

予想を遥かに上回った歳である。三十そこらを考えていたが、一歳しか変わらないなんて……

まて、一歳しか変わらないとかどんな家族構成であろうか。

南は何かを云いたそうにこちらを向いている。

「おじいさまは、養子を一年に一度くらいで引き取るの。叔母さんはその一人なの」

納得。PCが普及した当初から会社を立ち上げ、利益は兆を越える、そんなネットワークサービス会社がそんな遊び混じりの事をしないわけはない。

悪く云うが、この世界自分が楽しめる遊びを見つけるのは必須事項で。

東京のど真ん中で養子狩りとはなかなか楽しそうじゃん、なんて思うけど、それは少し人間の感覚から離れていそうなので口にしない。


「まあ、次は何処に行きたい?売店なんてショッピングセンター並でビビると思うけどな」

案内が楽しくなってきた。しかし、南は丁度一の二の教室の前で止まった。そこには研修旅行という名の遊園地へ遊びに行った時の写真が飾ってある。

「君……今は楽しそうだね」

目が虚になっていて光りが燈っていない。ぼーっとしているのはなんでだろう。

「み……南さん?」

もう一度呼ぶと、はっとしたように「ごめんね、何?」と云う。そんな所がいけないのだろうか。謎は深まる。

「ん~。そうだね、私は南遥季って云うからハルキって呼んでよ」

唐突にそう云われたので「じゃあ」と自分もソウジでいいと云う。

「じゃあ、ソウジ。文芸部行きたい!」

ニッコリと満面の笑み。しかし、何かが足りないと思うのは多分自分がマイナス過ぎるのではないだろうか。

そして楽しかった時間がもうすぐ終わろうとしている。



八時半になり、先生が転校生ですとハルキを紹介する。二組しかないこの学校でハルキも自分と一緒の二組に配属となった。

席は僕の隣。まぁ、悪くは無い。どうせ女子も男子も歓迎ムードにはなっていないから。

ふと思っても、運転手の忠告は何だったのかが気になる。

どんなに探しても、七時半を過ぎてもそのイベントは何も無かった。

「ハルキはさ、何処から来たの?」

まえの高校を聞いてみる。僕の元いた所はバスの中で話したので、ハルキに問い掛けてみたのだ。

どうせ、お嬢様高校だろうと期待していたのだが、そこらの公立の学校だそうだ。

親の力で勝手にこっちに入学させられた、と。

何故此処かは知らないが、やはり南ソーシャルネットワークグループ会社の社長はすごいと実感。

ぱんぱんと手を叩いて注目を先生が集めると、皆はそちらを向く。そして、黒板に地図を描きはじめた。

「校舎の地下に殺人鬼がいます。捕まえに行った教師二人が出血多量で搬送された病院で死にました。今日は緊急閉鎖をします。先生の誘導に従い下校してください」

――イベント……か。殺人鬼、ね。しかし、盛川の生徒だな。こんな時にも動じないなんて。

それは、死を恐れすぎて逆に受け入れてしまった人間の顔で。

先生は続けた。

「もし、殺人鬼を捕まえたならば、賞金が貰えるそうです」

これにも微動だにしない。

盛川高校は偏差値七十の超エリート学校。理由は、勉強しかすることが無いから。

更に、学校のテストで悪い点数だった人の全国模試の答案は、集計されないように、別の場所に保管されるそうだ。

それで今の位置である。

他校から色々と云われている訳は、部活も適当で作文コンクールなどでは全国レベル。しかし、人間性は感じられない冷血な文章。盛川生はそんなイメージが何年にも渡り歩き過ぎて、変な目で見られるようになった。

子供を脅すときも、「ちゃんとしないと盛川に連れていくよ」だと。どれだけ悪いイメージだと云いたいが、もう遅いし、先生達もそれを撤回する動きを見せない。

力はあるから。まぁ、そんな感じで。

「以上。解散」

「「「さようなら」」」

皆の声が重なって教室に響く。

折角の転校初日が殺人鬼のお陰でぱぁになったハルキを向く。

「最悪だね」

しれっと、今の感情を告げたようだ。同情するよ。



僕達は校舎を後にする。バスは、行きと帰りで二本のみ。なので今から帰るとしても歩きしか無い訳で。

蒸し暑い中をハルキと並んで歩く、蝉の音が耳を掻きむしるようにうるさい。森の中にある高校の校舎の外は森だ。

そのままである。だから、ハルキに聞いてみた。

「今日、遊べる?」

「なんで、今日なの?」

不思議そうに傾げる。しかし、少し考えて

「別に大丈夫だけど」

「ね。聞いた高校は此処から遠かったからさ、この町を案内しようかと思って」

その言葉に、「ああ」なんて頷いて、そして

「……でもさ、どのくらいかかるの?」

廻りの木々を見てから云う。僕は少し苦笑いをしてから

「ま、三十分位歩かないとだけどね」

ハルキの表情は「えー」っと云うふうに変わる。とても嫌がる表情をしているようだが、それもまた可愛いと云う人もいると思う。しかし、こんな青春っぽい帰り道も心の底からは楽しめない。

幼なじみが見つかるまではまだ、僕の歯車は動かない。

「何か悩み事?」

考えていて気づかなかったが顔を覗き込まれていた。顔がすぐそこにあって、一瞬目が合う。すこしその状態が続きすぎいたか、ハルキの方から顔を赤くして退いた。

「今日はあっついね~」

顔の赤さを「今のじゃ無いよ」と云うようにぱたぱたと手で仰ぐ。目が泳いでいるのはテンパっているのか。

そして僕たちはそんな調子で歩いて行った。

中学校の話しをしたり、両方の共通点の友達の居ないから言えることを話し合ったり、案外充実していたような気がした。


そしてバス停についた。

近くのショッピングセンターなどが密集している所は錦織町。

バスで十分ほど行ったところだ。そこからのバスセンターは色んな所に通じている。帰るとしてもそこに行くことが近道だろう。

「あと、五分。……ちょっと待ってて」

と云ってとたとたとバス停の近くの公園に駆けていく。

「ちょ、待てって。どこ行くの」

「女性にそんな事は聞かないのーぉ」

笑い声と一緒に消える。まぁ、トイレだろう。

「一緒……」

その幼なじみともこんな事があって、それが予想を安易にさせる。

「ま、あいつとの遊びがこんな時に役に立つなんてな。何処に居るんだよ、結月」

空に向いて呟くと、いきなり

「女子をデートに誘っといて、違う女の子の名前を呼ぶなんて酷いよぉ」

「あ、ハルキ。早いね」

「何がっ!?」

身の危険を察知したか、胸の前で腕をクロスさせて「む~」と唸る。

学習した、何故かハルキは唸るんだ。自分の嫌な事とかあったときに。しかしそこがまた、遥季と云う女性の良いところであって。

そしてバスが来る。案外ハルキとは気が合うのかな。そんな事を思っていた。




「わー。綺麗なとこね~」

ショッピングセンターの中にある噴水イベントが丁度行われていてそれを見ていた。此処は小さい町であるが、この噴水は国内三位なのだそうで。

そこは、窓の光りが届かないとこなので、今のように証明が落とされていると噴水イベントの醍醐味と言えるイルミネーションが光る。

両手には沢山の袋を抱えて僕らはそこに居た。

特に衣類が多い。なんか判らない黒一色のカードを渡すと、店員は驚いてへこへこと頭を下げる。

ホントに何なんだろう。この罪悪感と云うか、何と言うかそんな感覚。

「あのさ、ハルキ」

「なに?」

変な空気のそのさきに待っているモノは何だか恐くなって。だから、もう帰ろうか、と提案しようとしたその時

ピロリーンピロリーンと携帯の着信音のような音が大きく聞こえた。その音の音源はハルキのバッグからであったのは、ハルキが取り出したからで。

「Helloーーーーー」

あれ…?なんて云ってるんだろう。

ハルキは英語のような、でも何かイントネーションとかちょっと違うような気がするし、違う言語と思う。

携帯の切るボタンを押してハルキはため息を付く。僕は聞いてみた

「何語?」

「日本語だよ。少し、英語も混じってるけどね」

よく聞き取れない単語は日本語だったのだろうか。しかし

「わかんないけど、三十年後位に使われはじめるから覚えとけってお父様がね。今は、執事の有澤さんから、帰ってこいって」

「よかった。僕も時間が凄い過ぎたなって思ってたんだ」

これで、帰れると僕たちはあるきだした。

と数十歩歩いた所で、またハルキは壁を見つめて止まる。さっきもいくつかあったのは、前のように目の光りが失われていなかったが、今回は教室の写真を見ていた時のようにぼーっと目が死んだように暗くなっている。

その壁には、《エターナル・ウォーズ》プレイヤー募集!と書かれていたポスターで。




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