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異次元の革命者  作者: 頴娃伺結有
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【03】永遠の戦争Ⅱ


二〇十四年七月十日六時七分


バスを待って家の前のバス停で止まっている。そこには知った顔も多いが、話し掛けない。向こうも一緒で、自分には気づいているが話しかけるには足らず、とかそこら辺。

五人位のメンバーの内一人は、三ヶ月まえの怪我がまだ残っているようで足を引きずっているのは見た通りで。

その怪我については思い出したくないので触れたくはないが、簡単に云えば、自分が暴れて約二十名の人間が意識不明の重体になった、そんな感じ。

しかし、この男はその事件には関係ないが巻き込まれて足を複雑骨折をしてしまった。まだ、普段通り歩けるまではないが生活が出来る程度には復帰したようで。


三ヶ月前は色々ありすぎた。そのせいで無くしたモノが数え切れないようになってくる。

特に友好関係を持つ権利を失い、これからの未来を失いそして何より幼なじみを失った。

最初に行っていた高校は、暴れて学校側が自分の登校を拒絶し、勝手に違う高校に転校させられた。

なので、今後ろにいる五人グループとは、面識があっても同じ学校では無い、と云うことだ。

幼なじみも学校を辞めてしまい、自分が暴れた時の被害者は一人を除きまだ寝たきりで目覚めないそうだ。

考えれば考えるほど、自分が哀れに思う。人の人生を三ヶ月も奪っておいて何が勉強しろ、だ。


そんな時、ポケットに入れたスマホが震えたのが判った。まだマナーモードを解いてなかったか、と取り出して画面を見る。

都の警察の番号で電話が掛かっていた。

この番号を知っているのは佐々木のおじちゃんだろうと、親戚で高官職のおじさんを思い浮かべる。

電話に出ると残念そうにおじさんは云った。

『すまない、惣ちゃん。捜索は昨日で終わってしまったんだ、報告が遅れてしまって心配だったろう。彼女を見つけられなかった……。似てる人、九分九厘そうであろう人はいたが名前も違ければゆづちゃんじゃ無いことは俺でも判ったさ。個人では捜索はするが、全国の察が協力してくれないからたかが知れてる。すまない』

「おじちゃんが謝ることはないよ。全部自分が悪いんだ、あの時あいつを守れなかった自分が悪い。それに……いいゃ。ありがとね。後は自分でやるから」

小さくおじさんは「そうか」と呟いてケータイの通話を終える。たった一分にも満たない会話でどっしりと人生のほとんどの疲れを抱えたようだ。

もう、これは一生消えない心残りと、何事も無く過ごしている自分を永遠に怨むだろう。

怨んで怨んで怨みまくって最後には、精神が壊滅していく。よくある話しではないか。


プシュー

バスが目の前で停まる。盛川高校前に停まる唯一のバスだ。これに乗り遅れるわけには行かないので降りてくる人間は少ないのだが、それを待って自分は乗り込む。

同じ制服を着ている人が目立つ。一本しか通っていない盛川高校へのバスなので居ることに不思議は無い。

しかし、同じ道、同じ道を通っているこのバスは二ヶ月同じ人しか居なかったのに今日は、知らない人がいた。

新しい、開けたばかりのようなしわのないスカートからは綺麗な両足が揃って伸びていて、膝の上に鞄を置いてそれに両手を乗せている。背筋は伸びている。

全校生徒三百人弱の盛川高校では見ないクリーム色の髪をしていた。

見とれて止まっていたか、後ろから舌打ちが聞こえてくる。

自分はバスの入口で止まって居たようだ。大して謝りもせずにバスに乗り込んでいつもの席に座る。

その指定の席が、その女の子の隣であった。

しまったなぁ、今日は別の場所にすればよかった、なんて思うがもう遅く、「ねぇ」と話し掛けられる。

「何?」

素っ気なく返答すると女の子はジーッと僕の逸らそうとする目を引き付けるように見てくる。


「君は……盛川生だよね。見たところ一年と思うけど…あってるかな?私はね、今日転校してきたの。色々教えて欲しいな~?」

ニッコリと微笑むのだが、何だか心がこもっていないようで気味が悪い。

盛川は全国の精神がおかしな人が集まるのだそうだ。

じゃあなんで寮じゃ無いのか、なんて思うだろうが最低限世界とのふれあいをさせようとの盛川高校の責任者は云うそうだ。

頷いて「いいよ」と答える。

前通っていた私立碧小見学園の生徒も一緒に乗るのは最近気付いたが、怪我をした男もそこにいた。

ゆっくりとこちらに近づいて自分の横に座る。


『発車いたしまーす』

棒読みな運転手はこの頃ブームの芸人に似ている。しかし、今は隣の女の子、僕の隣に座った怪我をさせてしまった男に挟まれている状況に気が向く。

「三ヶ月前のあれ……。謝らないとって思った」

こちらは向いていないが、自分に話し掛けているように感じらた。でも、正面を向きながら云っているので、独り言とも考えられる。少し考えて自分はそれを聞くことにした。

「君、惣次は悪くない。絶対にそう思う」

力んでいるように聞こえたから隣を見る。凄く歯を噛み締めているようだ。

「僕がフォローすればよかった。友達の僕が。でも、遅いね。僕は他の人と一緒に君を悪者にしてしまった。許されないんだ、そして君をあの盛川に行かせる結果にしてしまった」

と、そんな男の言葉を黙って聞いていたが、何故か自分に半分のしかかりながら女の子が男の肩を叩く。


「あの盛川ってなに?あのって……なに?」

「知らないの?…君も盛川生か。盛川ってね云っちゃ悪いけど常識が外れた人が通わされる……云えばそっちの学校さ」

瞬間的に視線がその男に集まるが、僕の存在がそれを打ち消す。盛川はランクが生徒間で決められている。僕はそれの最上位に位置する。唯それだけだ。

想像は人が居る分だけ沢山あるが、盛川高校は何故か指し示す意味は一つしかない。

「そ……っか。今までお母さんとかお父さんが私に干渉して来なかった意味が判った気がする」


そんな女の子に自分はフォローを入れたかった。しかし、自分の単語のボキャブラリーが少ないことを実感して溜め息をついた。そして

「君は僕が会って来た人間の中でも、そこまで変ではない。精神がどうとか、そこは勝手に他校が云ってるだけだ。確かに、そんな人は多いが君はそうでは無い。今会ったばかりの僕が云うのはおかしいが第一印象はそう感じたよ」

なんて行ってみる。

自分の膝の上に覆い被さるようになっていた彼女は、「ん~~」と唸って顔を隠した。

その間にもバスはゆっくりと目的地に向かって進んでいる。




バスを降りるのは七時五分。課外は無くて、一時間目は八時半から始まる。その間、いつもは本などを図書館で読むことが二ヶ月間の楽しみであったのだが、今日は状況が違う。

自分の傍らには女の子がいる。

一緒にバスを降りる。他の盛川生は見向きもせずに一心に校舎に向かってはや歩きになり、もうそこには二人しか居なかった。

「また明日」

降りるときに男が云った。よく思い返すと、入学式の次の日に話し掛けて来た御崎秀虎だったと、思い出せずにいたのはそれ以降一度も話した事が無いからだ。

と、云っても入学して二週間目に事件が起きたので大した友達もいなく、家に一ヶ月閉じ込められていたのだが。

「明日」

感情も無くそうかえす。感情もまた、三ヶ月前の事件で失ったモノの一つで。恐らく、失踪中の彼女が感情を持っているのではないか?なんて、そんな事も考えていた時期もあったが、もうこれが自分。薄い表情を不気味に引き攣らせて彼女に問う。

「…この学校を案内したほうが良いのかな?」

精一杯の笑みをどうだろう、なんて顔で見つめて

「君が私を連れ回したいのなら」

と、笑う。彼女は、そこまで顔立ちは悪くない。いや、良すぎる。こんなに可愛いのかなんて思うほどに。フランス人形とかで、綺麗な物も比較にならない程に。

体程の男子は振り向くが、この学校は仮にも盛川だ。普通の感覚の人間は数少ない。

更に、自分よりランクの高い人間を極度に嫌って話し掛けて来ない。自分より低いランクの人間を見下す傾向にあり、教師は見て見ぬ振り。

そして一番ランクが高いのは自分で、その隣の彼女も陰口は仕方ないが、近づかれる事は二度とない。

「多分、僕以外の人達は話しかけても避けられるから、僕にしか質問しないでね」

一瞬嫌な顔をするが、すぐに自分は説明を加える。

「僕は嫌われてるんだ。僕は全校生徒の敵、例外は無い。そんな僕と一緒に話していた事は皆の情報網から知れ渡っているから。嫌がらせじゃないよ、君は話しかける相手を間違えた。君に非はない」


そんな彼女は、「む~」っとむすくれてそっぽを向いた。

青葉が草々と揺れるなか、ゆっくりと二人は校舎にへと歩いていく。

「…君、名前は?」

不意に彼女に聞かれた。笑っているが僕も彼女の名前を知らないので普通に答えた

「僕は、傍望惣次。二つ名は撲殺者。酷い名前だろう」

彼女は笑って

「知ってるよ。私は南加奈子。南ソーシャルネットワークグループの責任者。そして、君の過去をを知ってる人」

ニヤリと微笑む加奈子に憎悪を覚える。そして、そこを無言で離れて校舎に早足で逃げようとした。

呼吸が浅い、ちゃんと深呼吸をして。腕がぞくぞくする、ゆっくりとそれを撫でて。

南加奈子にこれ以上近づきたく無い、はっきりと記憶に姿が現れ始める。


あいつは、僕の幼なじみをいじめ始めた南加奈子だ。


どうして判ら無かったのか、どうして忘れていたのか、どうして此処にいるのか、どうして入院していないのか。

そうか、復讐に来たんだ。

あいつは二度と生活が送れないようにと集中的に背骨を砕いたハズだ。

あの時、感覚はあったんだ。そう思っていた。

それは外れていた。彼女は目を覚まして歩いている。一生追うはずの障害など見つからない。


「私ね知ってるの、未来のゲーム。過去が舞台の二度とこの世界に帰って来られない悪魔のゲームなの。一緒に行きましょう、そして私と永遠に――」




そこで頭をバンと叩かれて目が覚めた。どうやら眠っていたらしい。秀虎は笑う。時刻は七時丁度。親切に起こしてくれたらしい。何処から寝ていたと云えば、バスに乗り込んで男、秀虎が謝った所から。

もし、彼女が南加奈子なら秀虎はすぐに気付いたろう。

まず、さっきのが夢で安心する。そして彼女に目を向けると、僕の肩を使って寝ていた。

やけに体が重いと思ったが、そういうことか。

「おい、秀虎。こいつの顔は見たことないか?」

夢であったことが心配になり、ちょっと聞いてみた。

すると、予想外の反応で

「…南ソーシャルネットワークグループの、お前の敵ね。の養子と思う。俺の親はそこの秘書をやってるから写真は見せて貰った」

そうか、と頷き「ありがとう」と云っておく。

夢を見たのは最悪であるが、こいつと南加奈子は血の繋がりはないと。

最低限、盛川では僕以外とは話しが出来ない、と思う。カースト制度は絶対だから。こんな可愛いい娘を手なずけた暁には何が戻ってくるか。


「変な事を考えるなよ、惣次。性格は超が付くほどめんどくさいそうだからな」

此処で判る。何で親が自分に目を向けてくれないのかを。

めんどくさい性格なのは構ってちゃんなのではないか、と予想しておく。更に、三ヶ月まえの事件で愛娘をああいう形で引取、だから今は仕事をしとかないと気が動転しそうとか、そんな感じで親が手放す感じにここに入れた、というわか。

まぁ、予想であるが。

そして、バス停が見えて来た。

『次は盛川高校前~。生徒の方は早めにお降りになって下さい。今日は半からイベントがありますから』

いつもは無いようなアナウンスが聞こえて来た。しかし、慌てる様子も無いのは根っこからの盛川生と云うからで。


そして、僕の肩に頭を乗せる彼女を起こす。

寝起きの美少女は良いものだ。なにせ、自然なよだれが見えるのだから。

「ゲットーー」

ぱしゃりとカメラの音がする。隣の秀虎で、この写真を撮ったようだ。なので

「おい、秀虎。ここに今の写真を送れ」

無表情で手渡したのは自分の電話番号と、メールアドレス。リネと呼ばれる無料通話アプリのidである。


「よし、じゃあツーショットで」

と僕を入れて写そうとしたので、瞬間的によけてまぁ、ベストショットが撮れたんじゃないか?という体勢に彼女がなってしまった所を激写。

シートに横になる美少女。へそ出しぱんちらです。

なんて題名がついてネットに流出しそうだったので、「これは、僕と秀虎だけの物だ。人に絶対に見せるなよ」と注意しておく。

「隊長、わかりやした」

返事をすると、丁度良いタイミングでバスが停まる。


「また明日」

夢であった事は、たまに良いことも生むんだな。そう思って南の養子のバッグを自分のと一緒にからって彼女を引っ張りながらおりていく。

「おう、また明日」

秀虎が笑い返してくれたので、少々吹き出してしまう。

僕らが降りたときすぐにドアが閉じてバスは行ってしまった。


いつもと違う日常が送れそうで、僕は久しぶりにワクワクしていた。


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