【01】永遠の戦争Ⅰ
二二〇〇年五月九日--世界同盟技術開発局議会場
傍望幸之助は今年で四十になる。しかしこの百年、三十人と云う人間が世代交代をしてきたこの技術開発局は、今年に今までの時代を全て探したとしてもこれまでには無い発見をすることとなった。
それは、時間と空間を司る粒子の発見である。
しかし、唯何の手掛かりも無いまま探すだけでは世界中の砂漠の中の一粒が金だったとして、それを探すほどの苦労だ。つまり、一生掛かけて、百人使っても千人居ても恐らく不可能で。
それを発見したのが現局長の傍望幸之助である。
「何だね、こんな所に各国、国の代表を呼び出して。貴様ごときにわし等を呼ぶ権利など在るものか」
一番大きい国の面積を誇る元メアル連邦のお偉いさんは自分の立場を忘れているのか、世界同盟が大きな国になったのは百年も前なのに。少なくとも今の自分の立場は今集まった人間より高いはずなのに、皆が皆偉ぶって居る。
「恐らく、これが世に知れると理が一夜にして…いや、一瞬で世界が死ぬでしょう。それが可能な程の仮定の証明をします」
「世界が死ぬ?そんな馬鹿な」
「そうです、馬鹿な事んですよ。しかし、本当の事なのです」
「早く言えばいいではないか。そうしないと皆は飽きてくる」
そう云ったのが日本帝国の総統、傍望の当主である。そして、幸之助の実の親だ。
幸之助は深呼吸をしてからPCに手を伸ばす。
「では。仮説の中に在るもの、プロトメトンと、アイシスメトンについてを公表したいと思います。二十年前の私の論文は見ていただいていると思いますが、それを先日遂に発見したのです。あの、時と空間を変化させる粒子を」
ざわめくお偉いさん達の声に混じって一人はニヤリと笑う。それを幸之助は見逃さない。
パワーポイントVER五十と云うソフトを起動して、皆が座っている椅子の正面に設置されている巨大スクリーンに、その証明が写し出される。
《PmtとAmtの発見と利用価値について》
そうかいてあった。発見までは良いものの、それを何に利用するかが問題になっていた、それを今回で明かすのだろう。
「プロトメトンはある刺激を加えると時を移動します。しかし、簡単に発見出来るものの、それが何の為に存在するのかも見当もつきませんでした。そこは置いといて、何の刺激かと云えばそれは、脳波です。大きく云えば、夢の影響が関係します。何故、夢で過去の景色がいりみだって見えるのか、それがプロトメトンの影響です」
髭のおじさんが立ち上がって幸之助に問う。
「誰でもそのプロトメトンか?それを自由に使えるのか?」
それに対して溜め息をついて答える。
「簡単にはそうですが、発言はこれが終わってからにしていただけませんか」
ムッと黙り込んだ髭のおじさんは目を見開いたまま自分の席に座る。そこまで驚くことなのか、そう思っていた。
「対してアイシスメトンは空間の物質を造っています。この机も、機械も云えば、人間も基の基をたどればアイシスメトンと云うことになります。これも、外から起動式を与えれば自由に使えます。しかし、使い過ぎると世界が崩壊します。何故なら、世界にある物質は有限で在るからですが、今の燃料であるサイクロサイドは特に影響を受けるからです。なので、この時代で実験は出来ません」
サイクロサイドとは、粉末状の新世代エネルギーである。水に溶かすと百グラムに対して十トンの固体が手に入る。燃やしても水蒸気しか出ないので環境にも優しく、車などはガソリンなんて捨ててサイクロサイド用に開発された火力発電をして電気で走る、ハイブリット車が主になっている。
それの基本的な混合物はアイシスメトンと云うのだ。元の木は気体に含まれるメトン粒子を取り込んで成長する。進化の過程で気付いた、水も要らない新エネルギーとこの発見は壁一枚隔てて危険だ、と云うことだ。
しかし、それを知らないお偉いさん達は叫ぶ
「此処で、実験ができないだと?ふざけるな。何故私達が多忙のスケジュールを縫って来たと思っている」
いろんな人間からブーイングが起こる。すくなくとも一国を任せられる責任者であるのだから、そんなことは絶対に無いと思っていたのだが。まぁ、立場が上の人間の演説が聞けないと云うのなら、そいつ等は底辺の人間と一緒と云うことだ。
「…その先も在るんだろう。早く云った方が良いといったろうに」
傍望当主も呆れるが、幸之助は
「発言を止めて欲しいと云ったハズですが。」
ニヤリと笑う男はまだここに居る。そして幸之助は
「プロトメトンは時を越えます。肉体が無理なのは実験済みです。しかし、情報、人間の人格、意識は過去に跳ばせるのは成功したのです。つまり、それで何が云いたいのか、それは」
「過去に行って国を開くんだろ。現代の技術を使って」
遮るように被せてきたのは笑っていた男で、そして続ける
「意識が過去に遡れる。するとどうだ、誰も、領土だの何とか云ってる人間はいない。更に、今の人間は歴史を知っている。そいつ等がどう滅んだかを知っている。後は、何が云いたいかは判るだろ、自分が支配できる国のできあがりだ。」
「歴史が変わるなど在ってはならない。この時代は無かった事になる」
髭の男とそれの周りがうるさくわめきだす。
「変わった世界が今だとしたら、どうします?」
幸之助が云う。この男とは面識があるのだ。プロトメトン、アイシスメトンもこの男の協力で見つけられなかったアイシスメトンの起動式を発見した。
「ま……まさか!?」
髭の男は驚いた顔をする。同じ顔ばかりするので表現がどういえば良いか判らない、そんなレベルで。
「そうですよ。ここは事後の世界なんです。しかし、本気で過去に人間が行きはじめるのは今から二百年後なんですけど」
「私は、今から二百年……未来から来たのですよ」
男は両手の親指を自分に向けてポーズを決める。
にわかに信じられないが、そうじゃないと説明がつかない。この男の存在は、未来に隠さないといけないそうだが。
云えば、未来は自分が今、何をしようと変わらないと云うこと。よく判らないので、深くは考えない。詳しく考えるといろいろ矛盾点が多すぎるからだ。
「この事実を信じられる人間様はここに残り、それ以外は帰って貰って結構です。では、五分後に、解散です」
残ったのは十人に満たない人数で、そのなかには髭のおじさんもいた。
「説明します。二四〇〇年の世界の事業は、『二度と帰って来れないオンラインゲーム』の作製です。もう完成していますが。そして舞台は、二六〇〇年前の地球」
「ちょっとまて、説明が早い。判りやすく言え」
傍望の当主は云う。
「二六〇〇年前に文明を造りました、それも、二十一世紀の小説がモデルです。《エターナルウォーズ》と云います。それが、問題と云っているんですね」
「しまったな、こいつは自分が知っていることは大体知っている、という前提で話すんだった」
傍望当主は手で額を押さえる。そこに、「こういう事です」と、PCのエンターキーを押す音が大きく聞こえる。
大きく視界が歪むと思ったら、脳に元々は入っていなかったであろう情報があった。
「プロトメトンの使い方には色々在るんです。自分の記憶を、重要な部分だけ共有しました」
「と、いうことは。二四〇〇年で古書として扱われているライトノベルと云うジャンルの本が人気になってそれを再現しようと二六〇〇年前に文明を築くと云うことだな。……それをオンラインゲームにする必要は在るのかは意味深だが、まぁそうなって居るんだな」
傍望の当主は、一周廻ってその事を理解したようだ。
つまり、今から二百年後の世界では、歴史が改変されそうな問題に陥っているようだ。それも、自分達が作ったと云うオンラインゲームが原因で。
「過去の事だろ、もう終っていることじゃ無いのか?」
今までの会話と、共有された情報ではどうあっても歴史は変わらないと云っていた。しかし、今はそれが覆される言いようで。
「そこは共有不足ですね。ごめんなさい」
謝ると同時に、「そこは」と男が話し出す。
「傍望総統の二代目様と三代目様に会えるのは光栄です。
詳しく云えばですね、ここは事後の世界で在ってそうで無いのです。多少の改変は何時にでもずっと行われていますよ」
またおかしな事を言い出した。もう、気にしない。そう思っていると、当主は理解したように
「そうか、変わっても気付かない。と云うことか。しかし……それでは、そのオンラインゲームが判らない。未来からの技術で過去が変われば、間接的に未来の技術は消えてその改変も無かった事にならないか?」
「二代目様も頭の良い事に。だから、傍望家がずっと続いているのでしょうな。まぁ、そうやって理解されがちだが、パラレルワールド、平行世界の存在は知っていますか?この時間軸を中心に他に幾つもそんな世界が存在る。それの一つが、そのオンラインゲームになった、と考えて貰えれば……」
へこへこと媚びを売る感じに男が告げる、気にしないと云うふうに当主は
「なら、この世界に変化は無いじゃないか。意味がわからんぞ」
「元の時間軸から離れすぎた、近すぎる平行世界は統一されます。それがどんなにおかしな理屈でも、世界の理に逆らうことは出来ない」
三人以外全く話しについて行けていない。それに、当主で在っても、理解するので精一杯だ。しかし、幸之助は解釈を含めて説明をする。
「そこら辺は理解している二百年後の人達ですが、離れすぎた平行世界から記憶に不備が無いように統一された一つのパラレルワールドが原因になるそうです」
「なんのだ」
呆れて返す当主は、もう優しさは感じられない。
「戦争です。遠く離れた世界で、組織された軍隊が攻めて来たんです。…それが、人選選択を需要として、絶対に一線を越えない人間を選んでいる運営側が、理不尽なチーターを迎え入れてしまったそうなんです」
焦るように幸之助が答えて「ならば」とまさにああいえばこう言うと、そんな感じに
「その人間を過去に行きその事実を消せばいい」
「その人間の情報が、無いのです。それで、特定はできません。何処から入ったのか、ログの確認すら出来ませんでした」
そんな次元が違う話をされて「そうか」なんて頷く方が馬鹿げていると思う。髭のおじさん…中華平和主義国代表の利・ヨウスはそう思ったが、ふと何かを思う。
「この時代のその組織を見つければいいのでは?」
しかし、未来人と云う男は首を振る。
「その結果あの未来です。頭の悪い方と思っていましたが、そのようですね」
苦笑いと同時に、当主は笑う。机をバンと叩いて
「過去に行けばいい」
「それが、一番と思いますが……敵が判りません。いつの時代で何人なのかも。この時代の人としても、ログインすると誰だか判りません」
男がもう手のうちようが無いのですよ、と云いたいのかそんな感じにこちらを向いた。
「判らん事づくめだな。では、何で来たのだ」
当主の心許ない言葉には即答する。
「未来の決定ですので」
多分、未来の仮説は行きすぎている。
幸之助はそう思った。何故なら、変わったのであればそれは感じれないから。変わった根元は判明するのは頷いておくとしてどう変わったかなんて、誰にも判らないだろう。
まぁ、その点を含めて余生を研究についやしておこうか。
もうすぐ、四人目が生まれるのだ。別にこの件に首を突っ込む義理もない。
そう、思っておこう。幸之助は、当主と未来人の会話を聞き流すことにする。
感覚的には未来人も判っていた。しかし、仮定でもそう云っておかないと不安でしょうがないのだ。
敵のリーダー格の人の名前は判っているのだから。
それが、世界に在ってはならないタブーであるから。
未来人の男が震える。