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怒ってないわよ!

「ごめん、どうしても話がしたかったんだ… 」


 そう言う南央樹の言葉に、どう答えて良いのか判らず口ごもる遙香

 いったい自分はどうしたいのか、どうして自分は呼び止められて立ち止まってしまったのか、その答えを探して考えていた。


「…… 」


 南央樹という男の子がどういう人間なのか、自分も話をしてみたいと思ってはいた。

 しかしそれを、この場から逃げるように立ち去ろうとした自分が口にする事が何故か憚られる。


「この間は、ありがとう」


 満面の笑みとはこの事を言うのだろうと思える笑顔で、南央樹が繰り返すお礼の言葉。

 只のお礼を言うために呼び止めたのならば、返せる返事はありきたりなものになってしまうが、それだけに口にはし易い。


「あれは、見てる間にどんどん遠くへ行っちゃうから誰かに教えなくちゃって思って、それだけだから…… 」


 当たり障りの無い、謙虚な言い訳の言葉が遙香の口から出てくる。

 それは表面的には事実であり、それ以上の意味は無い。


 だから、自分をわざわざ呼び止めてまで南央樹が気にする必要は無いのだ

 そして、自分が何かを期待して立ち止まる必要だって無かったのだと、独り自己完結しようとする遙香であった。


「お礼を言おうと思って帰ってきたら何処にも居ないから言いそびれちゃって… それで次に会ったらお礼をしようと思ってたんだ」


 素っ気ない遙香の言葉にも気落ちすること無く、遙香を呼び止めた理由を話す南央樹。

 言いたいことがお礼の言葉だけならば、もう遙香の答えで話は済んでいる。


「それだけなら、もう用事は済んだわよね」


 それ以上の用件が無いのであれば、自分は日課通りに図書館へ行く時間なのだ。

 だから、この場に留まる必要は無い事になる。


「え、そう言われちゃうとそうなんだけど…… 」


 歯切れの悪い南央樹の返事に、何故かもやもやと心の晴れない遙香は最後通告を投げた。


「じゃあ、用が無いなら行くね」

「待って!」


 遙香の言葉を受けて、間髪入れずに南央樹が叫んだ。

 何かの踏ん切りを付けたかのように、南央樹の表情が真剣なものになる。


 そして一瞬だけ躊躇してから、状況を変える一言を南央樹が放った。


「あのっ! 本当は遙香ちゃんと話をしたかったんだ」


 ドキリと大きな音を立てて、遥香は心臓が一際大きく鼓動したような気がした。

 南央樹にそれが聞こえてしまったのでは無いかと気になり、顔を上げて南央樹を見る。


「遙香・ちゃん?」


 その動揺を誤魔化すために、南央樹の放ったどうでも良い言葉尻に拘って見せた。

 いつの間にか、ちゃん付けで呼ばれていた事に戸惑いがあるのも事実だ。


「あ、あの、 つい… (いつも自分の中でそう呼んでるからつい)、馴れ馴れしくてゴメン」


 そう言えば、自分も『南央樹』とか『バカ南央樹』とか勝手に呼んでいたなと、遙香は思い出して恥ずかしくなる。


「ふぅ…… 」


 南央樹の顔から少し下に目を逸らして、自分の中の何かを吹っ切るように長い溜息をつく遙香。

 自分と話がしたかったといいう南央樹の言葉を聞いて、自分も南央樹という男の子と話をしてみたいと思って居たことを再認識させられたのである。


(まったく、わたしは何をやっているんだろう)


遙香は、自分の心の中でも長い溜息をついていた。


「えっと、ごめん」


 その溜息の理由を悪い方に誤解した南央樹が反射的に謝ってくるが、別に謝って欲しくて遙香も溜息をついた訳では無い。

 いったい自分は何を恐れて、南央樹と直接顔を合わせる事を避けていたのだろうか?


 毎日、何を求めて南央樹の姿を海の上で探していたのだろう……


 心の底では判っている事を素直に認めることの出来ない自分と、目の前で遙香に謝っている南央樹の鈍感さにもやもやとした気持ちが収まらない。

 この状況では自分が悪いことも南央樹が悪くない事も判っているのに、南央樹を前にすると何故か素直になりきれない自分がもどかしかった。


「もう、なんで謝るのよ! いきなりでビックリしただけでしょ。 私も勝手に南央樹くんとか馴れ馴れしく呼んでたんだから、そこはお互い様よ」


 自分が少し複雑な感情を込めて『バカ南央樹』と彼の事を呼んでいたのは、さすがに本人を前にして言う事はできない。

 まだ、自分でそれを認めた訳では無いから、それを素直に認められない自分が最後の抵抗をしていた。


「じゃ、怒ってない?」


 あまりにも素直に安堵した様子を見せる南央樹の姿に対して、まったく素直になれていない自分を自覚している遙香は、恥ずかしくなってしまう。

 自分に対する好意を隠しきれていない南央樹を、経験の足りない遙香は、どう扱って良いのかが判らない。


「怒ってないわよ!」

「いや、その言い方は怒ってるって」


 自分の戸惑いと恥ずかしさを誤魔化すために、自然と強い口調で答えてしまう遙香。

 そう言った瞬間に、自分の放った言葉の強さに自分でも驚いてしまい、反射的に南央樹の反応を伺ってしまう。


 どうして自分は南央樹に対して感情を露わにしてしまうのだろうかと、心の中では反省し後悔もしていた。


 南央樹も強く言われればカチンと来るものはある。

 それでも普段の南央樹であれば、それを飲み込んでいただろう。


 何故か遙香に対しては、そういう抑制なしに対応が出来ている自分に、彼もまだ気付いていない。


「もう、怒ってないって言ってるでしょ! 遙香ちゃんでも遙香でも好きに呼んで良いわよ」


 自分が内心で失敗したと思っていることを面と向かって突かれれば、遙香とて素直に「ハイ」とは言えるものではない。

 それ以上、先ほどの自分の発言を突かないで欲しいという気持ちをこめて強く否定する。


「マジ! じゃ遙香って呼び捨てにしても良いの?」


 遙香の言葉の裏が読めない程に鈍感なのか、南央樹が言葉通りに受け取ったようにも見える返事を返す、

 しかも、あからさまに嬉しそうな表情で。


 心の中で葛藤している遙香にしてみれば、そのあからさまな感情の発露は羨ましくもあり、反面では腹立たしくも感じられてしまう。

 イエスと答えるのを期待しているのが判りすぎるくらいに判る反応を見てしまうと、素直にイエスとは言えない心の綾。


「(それはまだ)イヤ…… 」


 下を向いて南央樹から目を逸らして、小声で呟く。

 二人は気軽に名前を呼び合うクラスメイトでもないし、ましてや名前を呼び捨てで呼び合うような特別な関係でも無いのだから……


 当然南央樹としてみれば、そんな返事を期待していた訳では無いから、関係を悪くするというリスクを承知の上で、文句の一つも言いたくはなる。


「ちょっ、それって矛盾してるって」


 南央樹が反論してくるけれど、それは当然の反応かもしれない。


「付き合ってる訳でも無いのに、呼び捨ては無いわよ。 そもそも私は南央樹くんの事何にもしらないし…… 」


 そこまで言って、思わず口ごもる。

 自分は、いったい何を言おうとしていたのか?


「俺も、遙香ちゃんの事知らないから話がしたいなって、そう思って呼び止めたんだよ。 だってそうしないとまた逃げちゃうだろ?」


 そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。

 しかし、最後の言葉が遙香にイエスと言わせなかった。


「誰が逃げたのよ、逃げてなんか無いわよ」


 避けていただけで逃げてはいない、遙香はそう言いたかった。

 しかし、見る立場が違うだけで行動としては同じなのだ。


「だって、この間は俺が手を振ってるの判ってるくせに、すぐに居なくなっちゃったじゃん」


 逃げたと表現した事を、事例を挙げて責める南央樹。

 ついつい言葉の中に、言いたくも無い不満が混じってしまう。


「何言ってるのよ! 一人でどんどん見えなくなるまで遠くに行っちゃえば、また遠くまで流されたんじゃ無いかって、どれだけこっちが心配すると思ってるのよ!」


 あの時の自分の気持ちとか不安とか心配とか、そういうものを知らない南央樹の無神経な言葉に、突っかかりたい訳では無いが言わずにはいられない。

 どれだけ私が不安になって心配したと思って居るのだ、そう言いたかった。


(わたしの気持ちなんて、判らないくせに勝手な事を言わないで!)


 だけど、付き合っている訳でもないし友達にもなっていない遙香が言える台詞では無いと思って、それ以上の事が言えない。

 それでも、自分が心配して不安になっていた事は、目の前の鈍感な南央樹に対して、言わずにいられなかったのだ。


「いや、あれは風も強くなかったし天気も良かったし…… 」


 遙香の気持ちを判っていない南央樹は、遙香の勢いに押されて見当違いの言い訳をしてしまう。

 それは、遙香が聞きたかった答えでは無い。


 南央樹の鈍感さに苛立った遙香は、堰を切ったように自分の心配を不安を訴えてしまう。

 しかし、その遙香自身もまだ、自分が本当は何を求めているのかに気付いていない……


「風が急に強くなれば、また馬鹿な誰かさんが流されるんじゃ無いかって一応気になるし、それで心配で様子を見に来てみれば暢気に手なんか振ってるし、なんだか私だけが馬鹿みたいじゃないのよ!」


(私の気持ちを少しは理解しろ、バカ南央樹!)


 それが遙香の、面と向かって口に出せない心の叫びだった。

 本当に言いたいことが言えないもどかしさは、遙香を苛立たせる。


 私の気持ちとは何か?

 それに気付こうとしていない表層の心理と、気付いている深層の心理が遙香の中で密かにせめぎ合っていた。


「え~っ、だからプイって居なくなっちゃったの? そんなのって子供じゃん」


 そんな事も知らない南央樹は、あくまで自分の側からみた遙香への一方的な不満を漏らす。

 南央樹の側にも言い分はあるのだ。


 会いたかった、話をしたかった、そんな南央樹の気持ちを判ってくれない遙香への不満が口に出てしまったのだ。

 南央樹には、相手の心の機微を捉える敏感さはまだ無い。


 お互いに「会いたい」「話をしたい」という点では同じなのに、それが少しの行き違いでどんどん遠くなってしまう、言葉の遣り取りのもたらす不思議。

 流れは二人の気持ちとは裏腹に、互いを引き離して行く。


「そうよ! 私は子供だから南央樹なおきくんと、これ以上話すことは無いわ」


(だから? 私の不安や心配する気持ちは、この人にとって「だから」で済ませちゃう程度の事だったの?)


 些細な言い間違いかもしれないが、ちょっとした言葉遣いに人の本心とは垣間見えるものだ。

 それは自分勝手かもしれないけれど、頑張っている南央樹の姿を見ていた遙香からすれば、とうてい許せる言葉では無かった。


 南央樹の些細な言葉への反発から、素直になれない以上は、そう言うしか無い遙香。

 後悔が胸を過ぎる。


 こんなはずじゃ無かったのに……


 自分でも整理が付かない自分の気持ち、それを認めてしまう事への恐れ、そして不本意な会話の流れ、全てが裏目にでてしまった結果、遙香はその場から逃げだそうとしていた。

 そんな遙香の気持ちを知らない南央樹から見れば、それはあまりに過剰な反応で驚いてしまう。


 反射的に引き止めようとするが遥香に気圧けおされたのか、呼び止める声にも力が無い。


「あ、ちょっと……(待って!) 」


 遠慮がちに呼び止めようとして伸ばした手は、虚しく空を切った。

 その時、南央樹の耳に聞き慣れた嫌な声が聞こえた。


「なんだよ、下野のくせにナンパかよ、しかも失敗とかだっせーな」


 振り返れば、そこには遥香の知らない男がいた。

 それだけではなく、やや後ろで遠慮がちに女の子も立っているが、どう見ても付き合っている風には見えない。


 苦手な相手と想定外の場所で出会ってしまったとでも言うように、南央樹の体が反射的に身構えているように見えた。


 遙香も、南央樹に投げかけられた悪意のある言葉を聞いて、何が起きたのかと立ち止まって振り返る。

 それは友人と言うにはあまりに悪意と侮蔑に満ちた言葉だったから、思わず南央樹の反応を伺ってしまう。


「お前がナンパとか100年早いんじゃないの、下野のくせに」


 あまりに侮蔑に満ちた言葉に、遥香はそれを口にした男の顔を見て、次に隣にいる女性を見る。

 他人を侮蔑するときの愉悦に満ちた男の顔は、顔の作りとは別の次元でとても醜かった。


(ナンパ? 私と南央樹くんの関係をただのナンパだと思って居るの? この人は何者なの?)


 南央樹の方を見て、反応を伺う。

 私たちは今日ここでナンパで知り合ったような軽い関係では無いと、否定して欲しかった。


「なんだよ、お前ら付き合ってたのかよ」


 南央樹が、男に向けて放った言葉は遙香の期待とは違っていた。

 南央樹の発する呆れたような態度は、その男が南央樹の好ましからぬ相手だという事を如実に物語っている。


 この二人は、いったい南央樹とどういう関係なのだろう?

 そんな疑問が浮かぶ。


 遙香の知らない南央樹の世界への興味と、無遠慮な男への反発が遙香をその場に留めていた。


 隣の女の子は、男の彼女なのか?

 だとしたら、どうしてこんな男と付き合っているのか?


 僅かな時間だけだが、遙香はこの男と付き合うのは有り得ないと思って居た。


「しかも超可愛い子じゃねーか。 お前下野のくせに、生・意・気・で・す・よ!」


 繰り返される「下野のくせに… 」という言葉に反発を覚える遥香。

 この男が、南央樹の努力と上達の何を知っていると言うのだろう。


「クズデブが、いっちょまえにお前もウィンドサーフィンやってんのかよ、どうせ俺と違って碌にボードの上にも立てないだろうけどよ」


 どうして、ここまで言われて黙って居るのかと、遥香は不満げに南央樹を見る。

 南央樹は男の隣に、やや引いて立っている女性の方を見ていた。


 その女性は南央樹と目を合わせず、寂しそうな悲しそうな、複雑な表情で視線を逸らした。

 南央樹と、この子の間には何かある!、いやあったのだろうと遥香は思った。


 それは、何か確信のようなものとして閃いたのだった。

 気になる、すごく気になる…… と遥香は思った。


「多少は痩せたみたいだけどよ、お前にはこの子は無理無理、ぜってぇ~無理ですからぁ~!」


 南央樹を芯から馬鹿にしたように、見下した口調で嘲り笑う男が遥香に手を伸ばしてきた。

 こんな奴に触れられたくないと遥香の心に怖気が走り、反射的に避けてしまう。


「こんなクズデブに言い寄られて嫌な想いをしたんじゃないか? 根暗な奴だから逆恨みされると危ないよ」


 しつこく、更に右手を伸ばしてくる男

 その手の動きが、南央樹に手首を掴まれて止まった。


「止めろよ、嫌がってるだろ!」


 ホッとしたと同時に、嬉しくて南央樹の方を見る遥香。

 遥香の顔には、無意識に僅かな笑みが浮かんでいた。


「この…クソ力出しやがって! 」


 南央樹の力は思ったよりも強いらしく、男が苦痛にうめき声を上げていた。


(やるじゃん! 南央樹)


 ピンチを救われた感のある遥香は、心の中で南央樹の行動に快哉を叫ぶ。

 この時遥香の中で、バカ南央樹はヒーローに変わった。


「てっめぇー、下野のくせにふざけやがってぇ…… 」


 南央樹に止められて男が激高している様子に、思わずビクリとして後ずさる遥香。

 誰が一番悪いのか一目瞭然だというのに、見当違いの怒りを見せる男に腹が立つし、驚いて下がった自分にも腹が立つ。


 自分に手を出してきた男に対して、いちばんダメージを与える方法は何かと頭を巡らせて出た結論は、南央樹の腕に自分の腕を絡ませて仲の良さを見せつける事だった。

 同時に、南央樹とはどんな関係なのか判らないが、何かありそうな女の子に対する牽制にもなると判断したのは遥香の女の勘である。


「南央樹、いったい何なの? この変態は自分がモテるとか勘違いしているんじゃないの?」


 自分自身を納得させられる理由さえあれば、大胆になれるのが人の常である。

 遥香は、南央樹の左腕に自分の右腕を絡ませて密着して、二人に見せつける。


 遥香にとっては明確に目的を意識しての行動ではないが、その行為はそれぞれに対して異なる意味を持っていた。


 南央樹を嘲り馬鹿にする男に対しては、お前など眼中に無いと言うあからさまなデモンストレーションと、お前などよりも自分は南央樹を選ぶという意味。

 要するに、お前など何の価値も無いと言っているのと同じである。


 南央樹と何かがあったと感じた女の子に対しては、二人の間に何があったのかは知らないけれど、南央樹の隣に居るのは自分だという意味。

 言わば目の前の女の子にだけ判るであろう、過去は何であれ南央樹の隣に今居るのは自分あると言う強烈なアピールでもある。


 南央樹の前に居る二人に対する対抗心が、遥香の行動を普段よりも過激にしていただけなのだが、それは押し隠していた遥香の心に対しては、より素直な行動でもあった。

 だから、行動に迷いは無かったと言える。


「悪いな多田おおた


 遥香の行動の意図をどう解釈したのか判らないが、しばしの混乱が収まった南央樹も多田という男に見せつけるように胸を張って笑った。

 自分の腕を南央樹の腕に絡みつけた結果、ピッタリと南央樹の左胸にくっついてしまう自分の顔。


 ドクンドクンという、早鐘を打つような南央樹の心臓の鼓動が嫌でも遥香の耳に入ってくる。

 自分のしている事を理解して、見る見るうちに朱に染まってゆく遥香の顔


 離れようという気持ちは無い、今恥ずかしさから離れてしまえば勇気をふるった遥香の嘘が多田という男にも隣の女の子にもバレてしまうからだ。

 赤くなった遥香の耳を流れる血液の音が、南央樹にも聞こえているのでは無いかと気になる。


「てんめぇぇぇぇ、ざけんなよ!」


 驚いて、南央樹と遥香を交互に見ていた多田という男が、馬鹿にされた事への憤怒からか、真っ赤な顔をして詰め寄ってきた。

 暴力の予感に思わず目を瞑りそうになる遥香だったが、南央樹が強くしがみついたままの遥香を庇うように位置を変えて前に出た。


 その行為に、自分は南央樹に守られているという実感と多幸感が、遥香の心を熱くする。

 自分も守られているだけでなく南央樹を守らなければと気づき、顔を上げた遥香の耳に後方からパンパンと手を叩く音が聞こえて振り返る。


「はい、そこまで、そこまでだよー、みんな」


 そこには、南央樹が流された時に見知った朝比奈真琴という逞しい男の人と、真っ黒に日焼けした大柄で筋肉モリモリな荒巻來斗という男の人が笑顔で立っていた。


 先程までの緊張から解放されてホッとした遥香は、安心のあまり思わず涙が溢れそうになっていた自分に気付く。

 多田という男も手を振り上げたまま止まっていたが、やがてバツが悪そうにゆっくりと手を下ろした。


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