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第七十話~西光寺丸城攻め~


第七十話~西光寺丸城攻め~



 鉢伏城より独断で出陣し、途中で甲賀衆の妨害も受けたがそれも退け観音丸城に到着した印牧能信かねまきよしのぶは、その足で朝倉景健あさくらかげたけの元を訪れる。 到着が随分と遅い事にいささか不信感を覚えたが、今はその様な事を言っているいとまはないと考え、少し表情を引きつらせながらも景健は出迎えていた。

 そんな総大将の様子を見て、能信も眉を寄せる。 しかしこちらも今は危急の時であると考え、特にその件には触れずにただ景健の無事を喜んでいた。 


「孫三郎(朝倉景健)殿。 御無事で何より」

「ふふふ。 まぁ、何とかのう」


 その様な能信の言葉に景健は、先程とは打って変わり皮肉気な苦笑を浮かべていた。

 どう見ても完全な負け戦であり、今は辛うじて観音丸城に籠る事で敵を防いでいる状況にある。 それも何時まで持つか分からず、どうにか味方を生き延びさせる事を考えなければならない。 つまり景健には、苦笑を浮かべるぐらいしか出来無いのが実情であった。


「兎に角、孫三郎殿は撤退なされませ。 殿しんがりは拙者が務めます」

「いや。 殿しんがりは拙者が務めよう、そなた達こそ撤退するのだ」


 例え西光寺丸城に籠る山崎吉家やまざきよしいえ達に降伏を勧める使者を出したと言っても、その使者が無事に辿りつけるかなど分からない。 そこで景健は、責任を取るという意味も込めて殿しんがりを務める気でいたのだ。

 能信と言った味方の将を逃がした上で総大将が討ち死になりすれば、もし使者が西光寺丸城へ到着していなかったとしても抵抗は最早無意味だと雄弁に吉家らに伝える事が出来ると彼は考えたのである。 そんな景健の対応から、死ぬ気だと朧気ながらも察した能信は、何気なく近づくと当て身を喰らわせる。 彼は富田流を修めており、その為かその動きに不審な点がない事が当て身を許した原因であった。


「ぐっ! や、弥六左衛門(印牧能信)殿。 何を……」

「左衛門五郎殿。 お頼み申す」


 意識を失った景健を肩に抱えると、そのまま左衛門五郎こと前波景当まえばかげまさへ近づく。 そして彼に総大将を託そうとしたが、景当は首を振って断る。 しかして自分の代わりに、弟の前波吉継まえばよしつぐへと景健を託した。

 兄から指名された吉継は顔を顰めたが、やがて諦めた様に一息漏らすと受け取る。 本来であれば彼も残りたかったのだが、兄が断りそして弟も断るという訳にもいかなかったのだ。

 吉継が景健を受け取ると、兄の景当は薄く笑みを浮かべる。 それから振り向くと、ゆっくりと能信へと近づいていった。 するとその時、二人に対して一人の男が声を掛けてくる。 その男とは、真柄直隆まがらなおたかであった


「印牧殿、前波殿。 一人より二人、二人より三人。 拙者も殿しんがりに残るとしよう」

「兄上!」

「直澄、孫三郎殿と息子を頼む」

「くっ……承知しました」


 兄から愛用の大太刀を差し出された真柄直澄まがらなおずみは、その大太刀を受け取ると確りと背中に背負う。 何故に背負ったのかと言うと、その託された大太刀は五尺三寸程あり、とても腰に佩ける様な代物ではないからだ。

 それから直澄は能信と景当と兄の直隆の三人に頭を下げてから、吉継と頷き合う。 そして景健を託された二人は、気絶中の彼を抱えて撤退へと入って行った。

 こうして観音丸城より落ち延びてく三人を一頻ひとしきり見送った能信と景当と直隆の三人は、程なくして視線を城内へと戻す。 そして能信が何の気負いもなく、まるで隣家に出かける様な気軽さで声を掛ける。 すると景当と直隆もまた、気軽に応じていた。


「では、最後の一花を咲かせに参りましょうか」

「そうだな」

「うむっ」

 

 その後、彼らはやはり殿しんがりとして残った朝倉の兵と共に攻め手の浅井勢に躍り掛かっていく。 兵力差などまるで考えていない死出への道とも言える攻撃であるにも拘らず、彼らの顔には悲壮感など微塵も感じられなかった。



 さて森可成もりよしなり森長可もりながよし親子、そして佐々成政さっさなりまさが攻めている西光寺丸城だが、尾根伝いに木の芽峠城と繋がっている。 その為、木の芽峠城からであれば、西光寺丸城へ向かう事は左程難しくはなかった。

 その尾根伝いに、木の芽峠城を出陣した義頼の軍勢が進んでいく。 彼の軍勢の先鋒を務めているのは、木の芽峠城に攻め掛かった時と同様に本多正重ほんだまさしげであった。 そんな木の芽峠城からやって来る軍勢を見て、最初西光寺丸城の城主である山崎吉家は味方の援軍が来ているのかと喜びを表す。 しかし徐々に近づいてきた彼らを見て、その考えを改めざるを得なかった。

 その理由は、軍勢が掲げている旗印にある。 彼らの旗印は、隅立て四つ目であったからだ。

 旗印として四つ目結を使用する家はそれなりに存在するが、隅立て四つ目を旗印とする家は六角家の一家しかない。 いや、少なくとも彼が持つ知識の中では、六角家しか当てはまらなかった。

 これには、吉家も慌てる。 木の芽峠城の方から敵が来るなど考えてもいなかった為、彼は最低限の兵しか残していなかったのである。 敵が来ない場所に兵を置いておくより、一人でも防衛に回そうと言う考えに基づいての兵配置であった。 しかし、それが裏目に出てしまった形である。 運よく攻められる前に気付けた事で、吉家は慌てて前線より兵を回す決断をしたのだ。

 彼は弟の山崎吉延やまざきよしのぶに命と抽出した兵を与えると、木の芽峠城へとつながる尾根筋に作られた門へ向けて派遣する。 彼は即座に、門を守る応援として向かったのであった。

 とは言え兵が減れば、当然ながら抵抗は減る。 それは僅かな変化であったが、歴戦の将である森可成に気付かせるには十分な要素であった。 


「はて? 朝倉勢の抵抗が落ちた様な気がするな」

「殿。 六角様より御使者が参っております」

「うん? 使者だと? 分かった、通せ」

「はっ」


 家臣より義頼からの使者が来訪していると聞いた可成は、直ぐにこの場へ連れて来る様に命じる。 やがて現れた使者の顔を見て、少し考えた。 どこかで見た様な、顔だったからである。 しかも、六角家の家臣としてではない。 だが、確かに見た顔であった。

 程なくして近づいた使者は、軽く頭を下げる。 それから挨拶の様に、可成へ声を掛けた。 その声を聞き、誰であったのか漸く思い出す。 使者を務める男が、嘗ては織田家の直臣であった事をだ。


「……おおっ! 隼人佐殿か如何された」

「はい。 我が主、左衛門佐(六角義頼ろっかくよしより)様からの書状にございます」


 可成の元を訪れた使者とは、木村定重きむらさだしげであった。

 前述した様に彼は、織田家の直臣であった時期がある。 しかしその前は、六角家に仕官していた。 そして織田家と六角家が初めて直接ぶつかった【観音寺城の戦い】後、織田家に降伏して織田家直臣となったのだ。

 その後、近江衆として近江代官となった義頼の与力であったが、その義頼が伊賀に領地を下賜されると本人の希望で再び六角家に移動している。 その様な経緯から、可成も定重を見知っていたのだ。


「左衛門佐殿からの? 聞こう」

「では……」


 そう言うと、懐より書状を差し出した。

 開くと簡潔に、文章が書かれている。 その内容は、援軍として木の芽峠城より尾根伝いに移動して西光寺丸城を攻めると言う物であった。 そこまで読んだ可成は、何気に視線を書状から尾根へと向ける。 するとそこには、西光寺丸城へ向かっている一団の姿が目に留まる。 確かに彼らは、尾根伝いに進んでいる様子であった。 


「なるほど……それが原因か、城に籠る朝倉勢の抵抗が落ちた様に感じたのは」

「では、三左衛門様。 拙者は殿の元に戻ります故、お暇致します」

「あ、うむ。 左衛門佐殿にお伝え下され「援軍感謝」と」

「はっ」


 定重は可成からの伝言を聞いた後、軽く頭を下げると主たる義頼の元へ戻っていく。 少しの間定重を見送った可成だったが、すぐさま西光寺丸城へ視線を戻すと兵に新たな指示を出す。 それは、総攻撃の指示である。 この命により、一斉に西光寺丸城へと軍勢が攻め寄せて行くのであった。 

 その一方で西光寺丸城に籠っている将兵だが、此方は苦しいと言わざるを得ない。 何せ木の芽峠城と行き来する尾根方面に兵を回してしまった為、正面の兵数が少ないからである。 この状態で、可成と長可と成政の攻撃を凌ぐのは非常に厳しい。 兵を前線から抽出した以上、それは尚更であった。

 さりとて、兵を回さねば敵勢に突入されるのは間違いない。 そうなれば、待っているのは落城の二文字しかなかった。


「詰まるところ、どちらであっても落ちる運命だったか……吉延へ伝令を出さねばの。 誰かある」

「はっ」

「吉延へ伝えてくれ。 我は打って出ると」

「御意」


 吉家は尾根伝いに攻め寄せて来る敵を迎撃する為の兵を回した際、前述した様に弟の山崎吉延に兵を与えて向かわせている。 その吉延へ自らが大手門より打って出るとの伝言を託すと、吉家は前線に視線を向けた。


「さて、と。 では逝くか、死出の道を……目指すは森可成! 者ども続けー!!」

『おおー!!』


 それから程なくして義頼の軍勢を待ち構えている吉延の元に、兄の吉家から伝令が届いた。

 打って出る事を伝えられた吉延は、兄が死を覚悟している事を悟る。 少しの間目を瞑っていたが、やがて目を開くと伝令に対して一言だけねぎらいの言葉を与えた。 すると一つ頭を下げた伝令は、西光寺丸城の本丸ではなく大手門の方へと向かっていく。 その行動に、伝令が兄に殉ずる気であると察する事が出来た。


「兄者に遅れる訳にはいかんな……門を開け! 打って出る」


 門を開かせると吉延は、門の守備兵すらも率いて雄叫びと共に義頼の軍勢に躍り掛かっていく。 いきなりの敵襲に先鋒を任されていた正重は少し驚いたが、そこは猛将の彼である。 直ぐに気を落ち着けると、慌てずに迎撃の態勢を整えるのであった。



 西光寺丸城の大手門が内側から開いた事は、当然だが可成と長可と成政も気が付く。 すると長可は返り忠でも出たかと喜色を表したが、可成と成政は逆に警戒を深くした。

 確かに敵の勢いが当初より落ちたとはいえ、つい先程まで頑強に抵抗していた者達である。 その様な状況で、とてもではないが返り忠があったとは思えなかったからだ。 だからこそ可成と成政は、旗下の兵に油断するなとの下知を出す。 果たして、二人の警戒は現実の物となった。

 何と西光寺丸城城主を務める山崎吉家を先頭に、朝倉勢が一斉に打って出てきたのだ。

 ここにきての突撃に、先程まで門が開いた事に喜んでいた長可が思わず父親を見る。 すると可成は、不敵な笑みを浮かべていた。


「ここで打って出てるとはな……ならば望み通り死に花を添えてくれよう。 長可、我らも打って出るぞ!」

「は、はい」


 可成も猛将として名を馳せた男である、吉家の考えを即座に理解したのだ。

 そしてこの可成の動きとほぼ連動するかの様に、成政もまた動いている。 彼もまた、兵を率いて朝倉勢に突貫した。

 その成政は、西光寺丸城を攻める際に軍勢の中ほどに陣を取って兵を指揮していた。 そのせいで、本陣に居た可成と長可よりも早く吉家とぶつかったのである。 朝倉勢の先頭を切って突撃して来た吉家と、彼の姿を見咎めた途端にこれまた先頭にて迎撃する成政。 しかしてこの二人が激突したのは、至極当然であった。


「これ以上は進ませぬ!」

「邪魔をするな! 端武者がっ!!」


 接敵した吉家は即座に槍を繰り出すが、成政は巧みに避ける。 するとお返しとばかりに、槍を突き出していた。 これには吉家も驚き、咄嗟に距離を取ることで成政の槍を避けてみせる。 しかしその体捌きに、成政は改めて気持ちを引き締める。 また、己が繰り出した槍を躱しつつ反撃して見せた成政に対し、吉家もまた警戒を露わにした。

 お互いの警戒感が高まる中、徐々ににじり寄る二人。 その直後、成政が弾ける様に接近すると手にした槍を振り降ろす。 だが吉家は、確りと成政の攻撃を槍の柄で受け止めてみせた。


「若い割には、中々の槍捌き。 何者だ」

「織田黒母衣衆が一人、佐々内蔵助成政」


 吉家は受け止めていた成政の槍を弾くと、まるで返答するかの様に名乗りを上げた。


「そうかっ! 我は、山崎長門守吉家! 参る!!」

「おうっ」


 ほぼ同時に踏み込んだ二人は、一気に肉薄すると槍の柄同士をぶつけあう。 すると若い成政の地力が勝ったらしく、吉家の槍が弾かれた。 好機と見た成政は間髪入れずに攻撃を行おうとしたが、吉家の動きは彼の思惑をも超えていた。 何と自らの槍が弾かれた勢いすらも利用して、吉家は円を描く様に槍を操ったのである。 そのまま、下から掬いあげる様に槍を振りあげる。 その直後、吉家の槍は成政が止めを刺そうと繰り出した槍とかちあっていた。

 この遠心力すら利用した吉家の槍は、止めを刺そうと繰りだした成政の槍の軌道を逸らしてしまう。 そのせいで成政の槍は、吉家が着込んでいる鎧の袖を傷つけるに留まっていた。

 咄嗟にその様な動きをした吉家に、成政は思わず感心する。 だがそれも一瞬であり、構えると再び対峙した。 それから二人は時には弾き、時には避ける事で五合、十合と槍を合わせ続ける。 相応に年を重ねている吉家だが、まだ三十台と若い成政を向こうに回し、老黄忠ろうこうちゅう宜しくほぼ互角の戦いを演じていた。

 とは言え、年が若い分だけ力は成政の方が上である。 それ故に、全体的にはやや吉家の方が不利であった。 しかしよわいを重ねた経験なのか、彼は巧みに成政の攻撃を避けている。 それだけに留まらず、少ないながらも時折り反撃していた。


「む? 内蔵助が先にやり合っておったか」

「父上! 手助けせねば」

「長可、余計な手出しをするな。 よいな」


 そんな成政と吉家が戦っている場所に、可成と長可が現れる。 すると息子の長可が助太刀をと願い出るが、可成は釘を刺した。 父親からあからさまに止められてしまっては、長可も従わざるを得ない。 結局、親子二人して成政と吉家の戦いを見守り続けたのであった。

 その一方で木の芽峠城と西光寺丸城を繋ぐ尾根伝いに設けられた西光寺丸城の門の付近でも、一つの戦いが起きていた。

 戦っているのは、山崎吉延と本多正重である。 だが彼らの戦いは、吉家と成政が繰り広げている一騎打ちとは違い兵同士の戦であった。 どうしても戦場が尾根に限定される為に、多数が広がってぶつかる事など出来やしない。 その地理的条件を利用した吉延は、少ない兵で防衛していたのだ。

 前線で思わぬ苦戦を強いられているとの報告を受けた義頼は、何とか現状を打破出来る方法はないかと思案を巡らす。 丁度その時、義頼の視界に重高の姿が入る。 六角家弓奉行である彼の姿を見たその瞬間、義頼の脳裏にある策が浮かんでいた。


「そうだ! 重高!! 弓衆を率いて続け。 援軍に向かうぞ!」

「え? ぎ、御意」


 義頼は味方が万が一にも滑落しない様、慎重に兵を進ませる。 お陰で思いの外時間が掛かったが、それでも矢を放てる場所まで近づく事が出来た。 それから敵勢と大凡おおよその距離を目視した義頼は、正重と吉延の兵が戦っている前線のやや後方辺りを目がけて矢を放つ様に指示を出す。 基本的に六角家の弓衆は、日置流の弓達者などで主に構成されている。 その為、前線から多少ずれた辺りを狙えば味方に誤射するなど先ずあり得なかった。


「よいか。 狙うは前線のやや後方だ、決して前線には向けるな」

「皆、聞いたな。 殿の言う通りの場所を狙え」

『はっ』

「放てー!」


 義頼の号令一下、弓衆から一斉に放たれた矢は寸分違わずとまでは言わなくともほぼ狙い通りのところに撃ち込まれる。 そして義頼も、織田信長おだのぶながからの褒美である雷上動らいじょうどうを使い矢を放っていた。

 この射撃の直後、吉延の軍勢で前線と後方の連携に乱れが生じる。 そんな朝倉勢に生まれた隙を、正重ほどの者が見逃す筈もなかった。 

 彼は手にした槍を振りかざし、突撃の指示を出す。 それと同時に、己自身も前線目掛けて突き進んだ。

 突然、後方との連携を崩された為に朝倉勢は一気に押し込まれてしまう。 将としてだけでなく、武人としても相当の強さを持つ正重の攻撃に成す術もなく崩されていく。 そこに義頼の命が再び下り、朝倉勢に矢の雨が降り掛かった。

 これでは体勢を立て直す時間など、生まれる筈もない。 朝倉勢は正重と彼に続いた兵達、それから弓衆の矢によって完全に瓦解してしまう。 そんな中、正重が西光寺丸城の門にまで到達した。 すると、怒声と共に吉延が突撃してくる。 しかし慌てず騒がず、正重は数歩下がり槍を避ける。 そして改めて構えると、突撃してきた相手を誰何した。


「何者か!」

「朝倉家家臣、山崎七郎左衛門吉延」

「ここの守将か!」

「応よっ! その方こそ何者ぞ!!」

「六角家家臣、本多三弥左衛門正重!」


 正重が吉延へ名乗ったのを契機とし、お互いが槍を繰り出した。

 すると二人の槍は、火花を散らしながら激しくぶつかり合う。 だが、この衝突を制したのは正重の槍であった。 それだけではない、その威力故か吉延の体は流されている。 このままでは体勢を確実に崩すと咄嗟に判断した吉延は、槍を手放す事で何とか踏みとどまった。

 しかしその直後、強烈な一撃が吉延を襲う。 正重が放ったその一撃を吉延が認識したのは、吹き飛ばされた後であった。 あまりの衝撃に、一瞬意識が遠のく。 しかし此処で意識を飛ばせば負けだと、何とか踏みとどまる。 そして手を突き立とうとしたその時、彼の腕に激痛が襲ってくる。 よく見れば、己の腕があり得ないところで曲がっていた。


「痛っ! う、腕が……」

「勝負あったな、山崎殿」

「……その様だな」

「覚悟なされよ」


 槍を突き付けながら吉延の前に立つ正重が、厳かに宣言する。 その正重を見上げながら、吉延は肯定する。 そんな彼の目には恨みなどという物は存在せず、代わりに諦観とよく似た色が見て取れた。

 すると正重は、手にしていた槍を地面に突き刺してから刀を抜く。 その仕草に吉延は一つ頷くと、背を向ける。 直後、正重は「御免っ!」という言葉と共に、刀を振り下ろした。


「敵将が首、本多三弥左衛門正重が討ち取った!!」


 これにより、西光寺丸城の門は正重によって確保される。 即ちそれは、西光寺丸城の陥落とほぼ同義であった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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