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第五十八話~和睦~


第五十八話~和睦~



 高槻城近くに布陣する荒木勢の本陣、そこで荒木村重あらきむらしげは内心頭を抱えていた。

 彼は織田信長おだのぶながが大軍を率いて伊勢国長島に出陣すると言う情報を入手すると、機を変える頃合いとして摂津国での戦の矛先を変えている。 頑強に抵抗し続ける伊丹親興いたみちかおき伊丹忠親いたみただちかの親子が籠る伊丹城を一先ず置いておき、兵の大半を和田惟政わだこれまさの居城である高槻城へと変更したのだ。

 この荒木村重の動きを得た和田惟政は、芥川山城の高山智照たかやまともてる高山重友たかやましげとも、それから茨木重朝いばらきしげともに出陣を促す。 同時に彼らが合流するまでの時間稼ぎの為に、郡山城主の郡正信こおりまさのぶを派遣して時間稼ぎを行った。

 しかしこの企みは荒木村重によって看破されてしまい、和田惟政と茨木重朝の軍勢が揃わぬままに戦端が開かれてしまった。 すると荒木村重は、短期で決着をつける為に和田勢を野戦へと引きずり込むべく敢えて隙を見せる。 その隙を見つけたつもりとなった和田惟政は、荒木勢攪乱の為に騎馬による攻撃を命じるが、その命に郡正信が制止を掛けた。


「弾正忠(和田惟政)様、村重は時間稼ぎを見破った男です。 その様な者が、そう簡単に隙を見せるとは思えません! 此処は慎重になるべきかと」

「正信。 その方は村重ずれを恐れているのか? それとも敗北主義者か」

「なっ!!」

「そうでないならば、黙って従え! 良いなっ!!」


 そう言うと和田惟政は、嫡子の和田惟長わだこれながと共に出陣するべく踵を返した。

 その後ろ姿を暫く見送った郡正信であったが、やがて意を決したかの様に表情を変える。 そこには、決死の覚悟がにじみ出ていた。 諫言しても受け入れられなかったばかりか素気無くされてしまった彼に取り、最早和田惟政は仕えるに値するとは思えなくなっている。 しかし此処で、味方を捨てて落ち延びると言う気にもなれなかった。

 

「事ここに至り、致し方なし。 ならばせめて、一人でも多くの敵を道連れにするまでよ!!」


 少し遅れて出陣した郡正信は、白井河原の辺りで大将の和田惟政が討たれた事で窮地に陥っていた味方を助けるべく突撃を仕掛けた。 己が命にすら既に見切りをつけている彼にとって、多勢など恐れる要素とはなりはしない。 先にこぼした自身の言葉通り、敵勢を縦横無尽に暴れるだけ暴れ尽くした。

 しかし人である以上、どうしても疲労から逃れる事は出来ない。 疲れから来る僅かな隙を突かれて、彼は討ち取られてしまう。 しかし彼が討った者は数十ともそれ以上ともされ、長く語り継がれる事となった。

 その一方で、和田惟政と共に出陣した嫡子の和田惟長は、郡正信の突貫により一時的に混乱した荒木勢の隙を突いて脱出に成功する。 彼は途中で偶然にも援軍の為に高槻城へと向かっていた高山勢と茨木勢に合流すると、彼らと共に籠城したのであった。 

 後に【白井河原の戦い】と呼ばれる様になるこの戦に勝利した荒木村重は、そのまま和田惟政の居城である高槻城を包囲している。 また息子の荒木村次あらきむらつぐを大将に別動隊を組織し、高山勢同様に高槻城へ向かった為に手薄となった茨木城などを落としたのであった。

 しかしその勢いも、義頼が軍勢を率いて現れた事でご破算となってしまっている。 高槻城を包囲した後、阿波三好家の篠原長房しのはらながふさなどの協力を得て兵数で圧倒する事に成功した。 これにより高槻城落城まであと少しというところで現れたのが、義頼達である。 その援軍のせいで、兵数の優位など完全に吹き飛んでしまったのだ。

 それでも荒木村重は、援軍の大将である義頼が茨木城に向けて出陣すると、援護の意味を兼ねて戦を仕掛けている。 高槻城を牽制しつつ、細川藤孝ほそかわふじたかの軍勢に攻勢を掛けたのだ。 しかし大将の細川藤孝や、義頼が派遣した沼田三兄弟の巧みな指揮により、大した戦果を上げられないままである。 そればかりか折角抑えた茨木城ばかりか、味方の安威城すらも取られてしまったのだ。

 とは言え荒木勢は両城から撤退して来た者達を吸収したので、兵数は増えている。 しかしそれでも、細川藤孝率いる幕府勢や義頼達を上回ったとは言えなかった。

 兎にも角にも荒木村重は、何とか現状を打破しようと悩みもがく。 だが、彼以上に頭を抱えている者がいる。 それが、松永久秀まつながひさひでであった。

 彼は荒木村重と同様に、織田信長が出陣した隙をついて摂津国に介入したのである。 そこまではいい。 しかし、まさか織田信長が援軍を送って来るとは思ってもみなかったのだ。

 これは完全に、想定外の状況である。 有り体に言えば、松永久秀は織田家の持つ底力と織田信長自身を見誤ったのだ。 とは言え、いつまでも悩んでもいられない。 まだ戦による混乱が収まっていない内に、摂津国にきたことを正当化しなければならないからである。 その為には、多少強引でも構わない。 こじつけでもいいから、彼は理由を欲していたのであった。


「参ったのう。 何とかせねば……久通は何かあるか」

「そうですな。 普通であれば和議を結ぶなどがありますが、現状ではそう言う訳にはいかないでしょう」

「……待て、久通! 今何といった!!?」

「は?」

「は? ではない! 今何といったと聞いているのだ」 


 なぜ父親に詰め寄られているのか分からない松永久通まつながひさみちだったが、彼は何とか距離を取り気を落ち着けると先程口にした言葉を一言一句違える事無く口にした。

 再度、息子の言葉を聞いた松永久秀は喜色の雰囲気を醸しつつぽんと両の手を打つ。 その様子は、正にいい事を思いついた子供の様であった。 そんな父親の激変に目を白黒させている久通であったが、当の松永久秀は全く息子の様子に頓着していない。 彼は一人納得した様な表情をしながら本陣を置いた寺の部屋から出て行く。 説明もされずに一人残された松永久通は、成り行きの激変に唖然としながらもどこか不満気な表情を浮かべて父親を見送ったのであった。

 部屋を出た松永久秀は、その足で僅かな供と共に寺を出ると荒木村重の本陣へと密かに赴く。 先触れの無い訪問に訝しげな表情を浮かべたが、松永久秀は一応味方であるので断る理由などない。 彼は程なくして、荒木村重との対面に成功する。 すると松永久秀は、その場で和議を結ぶよう提案したのである。 そんないきなりの提案に驚いた荒木村重だったが、彼は直ぐに気を取り直すと松永久秀に返答した。

 現状、確かに和議を結べればそれに越した事はない。 しかし幕府側には織田家の援軍も現れ、阿波三好家からも此方の味方として援軍が派遣されている。 どう考えても、そう易々と和議を結べる舞台が整うとは思えなかった。

 無論、その様な事は松永久秀にも分かっている。 だが、和議を結べずにこのままいけば味方の劣勢であるし松永家の破滅である。 そんな未来を防ぐ為にも、荒木村重の言葉に同意は出来なかった。

 そこで、自信満々に和議の仲介を引き受ける。 それならばと荒木村重も同調し、此処ここに戦の結果は松永久秀にゆだねられたのであった。

 荒木村重から一任を取り付けた彼は、その足で篠原長房を訪ねている。 そこで荒木村重と同様に、和議の提案を行うのであった。


「織田との和議か」

「ええ。 戦の和議さえ結べれば、今起こっている此処の戦も取りあえず終わる。 色々と懸念の材料がある阿波三好家に取り、そう悪い話ではなかろうて」


 松永久秀の言葉に、篠原長房は一瞬だけだが驚きの表情を浮かべる。 まさか彼に阿波三好家内での事を察知されているとは、思ってもいなかったのだ。

 と言うのも阿波国は篠原長房の主、三好長治みよしながはるが国主を務めている。 しかし三好長治が父親の三好実休みよしじっきゅうの死により家督を継いだ頃はまだ若かった為、篠原長房や彼の弟である篠原自遁しのはらじとんなどの重臣が若い三好長治の補佐をしていた。

 しかしこの重臣の中で篠原長房は傑出し過ぎていた為、他の重臣から妬まれてしまう。 それでも彼が阿波国に居る間は、問題は噴出していなかった。 だが約一年近くに渡り阿波国から離れざるを得なくなってしまった事で、篠原長房に対する不満が噴出し始めたのである。 阿波国で留守を守る重臣の一人である赤沢宗伝あかざわそうでんからの密使でその事実を知った篠原長房としては、早々に国へ戻り緩んだたがを締め直す必要があったのだ。

 それゆえに彼は、この提案を飲む決断をする。 しかし、ただで受け入れる訳には行かない。 そこで篠原長房は、正式に織田家と阿波三好家の間で和議が結ばれる事を条件とした。 

 言われた松永久秀は驚いたが、彼としても今が瀬戸際である。 それ故に、彼の条件を飲まざる得なかった。 実情は兎も角、どうにか両名から一任を取り付けた松永久秀は早急に書状を認める。 書状の宛名は、義頼と細川藤孝の二人であった。

 さてその義頼と細川藤孝だが、如何にこの戦を収めようかと頭を突き合わせて思案していた。

 そんな彼らのところに、書状が届けられる。 差出人は松永久秀であり、二人は、訝しがりながらも彼からの書状を読み始めた。

 そこには阿波三好家、及び荒木勢との和議について認めてある。 松永久秀から飛び出したまさかの提案に、残りの者達は思わずお互いを見やる。 やがて二人は小さく笑みを浮かべると、机の上に書状を置いた。


「どうやら本気の様ですな、弾正少弼(松永久秀)殿は」

「うむ、その様だな」

「しかし、これは本気でしょうか。 一人で来る。 とありますが」

形振なりふり構っていられないのであろう。 だが悪い話では無い、そうではないか左衛門佐(六角義頼ろっかくよしより)殿」

「確かに」


 細川藤孝、いや足利義昭あしかがよしあきにとってこの摂津国から争いの種が一つ消えるという事は悪い話ではない。 そしてそれは、織田家にとっても同じである。 そこで義頼と細川藤孝の両者は、松永久秀との会合を決めた。

 どの道、戦が続こうが続くまいが詳細について彼と話す必要がある。 ある意味でこの提案は、丁度いいと言えたのだ。 意見を刷り合わせた義頼と細川藤孝は、二人の連名で返書を認める。 書状が届くやいなや松永久秀は動き、素早い事に翌日には義頼と細川藤孝の元へ書状に認められた通り単身現れたのだった。


「兵部大輔殿、左衛門佐殿。 お久しぶりですな」

「松永殿もご壮健そうでなによりです」

「ははは。 まだまだこれからです、細川殿」


 人生五十年と言われた時代、果たして久秀は既に六十を越えている。 だが彼の肌艶や醸し出される雰囲気からは、とてもではないが老いという物を感じる事があまりなかった。 有り体に言えば、矍鑠かくしゃくとしている。 そして彼の在り様からも、尚更そう簡単には亡くなる様な者には見えなかった。

 松永久秀の寿命については一先ず置いておくとして、今は彼の提案してきた和議についてと何より大和国ではなく摂津国に居る点について話し確認を取る必要がある。 その点について義頼が確認すると、彼はしれっと答えていた。


「これは心外ですな、左衛門佐殿。 何やら誤解がある様ですが、拙者がこの地に居るのは和議の仲立ちをする為です」

『はぁ?』


 意外そうな表情をしつつ、そしてさもいけしゃあしゃあと言った松永久秀の言葉に義頼と細川藤孝は揃って声を上げた。

 そもそもの点で、彼の言っている事は時系列的に無理がある。 松永久秀が摂津国に現れたのは、荒木村重が高槻城へ兵を向ける頃と前後している。 戦の決着がついた後ならばまだしも、戦が始まったか下手すれば始まってもいない時期に和議などどう考えてもあり得ないからだ。

 その為か、暫く彼ら三人がいる場には何とも表現しづらい空気が漂っていたのだが、その空気を打ち破るかの様に細川藤孝が松永久秀に尋ねる。 すると彼は、自信満々に頷いていた。 そんな彼のふてぶてしいまでの態度を目の当たりにして、義頼と細川藤孝は毒気を抜かれた様になる。 しかしいち早く義頼は我に返ると、ゆっくりと答えたのであった。


「……松永殿、貴公の言いたい事は理解できないが分かった。 兎も角、暫く待ってくれ」

「ふむ、いいでしょう。 返事をお待ちしております」


 そう言うと彼は、細川藤孝の家臣である松井康之まついやすゆきに案内されて一先ず離れると自らの陣に帰っていく。 そんな松永久秀を何とも言えない表情で見送った義頼と細川藤孝は、やがて二人揃って大きく溜息をついた。

 それはそうだろう。 どう考えても松永久秀の言った言葉には、無理と言うか齟齬そごがあるのは明白なのだ。 しかし彼は、臆面もなく和議の為にこの地を訪問したのだと言い放っている。 度胸があると言うか潜った修羅場の数が凄まじいと言うのか、つまりどう表現し良いか分からず二人にしてみれば溜息ぐらいしか出せなかったのであった。 


「……全く。 喰えない爺だ」

「確かに。 最も、喰いたいとは決して思いませんが」

「それはそうだな、左衛門佐殿」


 義頼の言葉を聞き、細川藤孝は笑みを浮かべた。

 やがて彼らは、どちらからともなく笑いだす。 そんな二人の様子を見て、細川藤孝の兄で幕府軍の副将を務めている三淵藤英みつぶちふじひでも、そして義頼の与力である森可成もりよしなりや彼の息子である森長可もりながよしも、更には佐々成政さっさなりまさまでもが内心で頷いていた。

 なお、この中で一人、本多正信ほんだまさのぶだけは違う反応をしている。 嘗ては主と仰いだ松永久秀の変わらぬ様子に苦笑を浮かべていたのであった。


「さて、戯言ざれごとはここまでとしよう」

「そうですな。 それで兵部大輔殿、弾正少弼殿の申す和議ですが受けますか?」

「うむ。 和議自体、悪い話では無いので受けるつもりだ。 兄上はどう思います?」

「大将は藤孝だ。 大将が決めたのであるならば、それに従う」


 兄の三淵藤英からも同意を取り付けた細川藤孝は、一つ頷く。 それから視線を、義頼達へ向けると織田家の対応について確認した。

 義頼としても、何時いつまでも摂津国での騒動に係わるいとまはない。 何と言っても織田信長から、早々にけりをつけろとまで言われている。 早めに決着がつくのならば、それに越した事はなかった。

 それに何より、阿波三好家と和議を結ぶと言うのも悪い話ではない。 畿内を挟んで西と東に戦線を持っている織田家としても、戦を行う対象が一つ減ると言うのはありがたかったからだ。 そこで浮かせた兵を、別の戦場へ回す事が出来る様になる。 そうなれば結果として、戦の時間を短縮することが出来るかも知れないのだ。

 とは言え、ことは大名家同士の和議となる。 荒木村重や池田家程度であれば義頼の一存でも可能かもしれないが、この案件についてとなると一家臣では流石に無理である。 織田信長にはからず、独断で行うには少々はばかれたのだ。

 そこで織田家重臣である森可成や軍監の飯尾尚清いいのおひさきよに諮り、彼らから了承を得る。 その上で義頼は、急いで伊勢国長島へと使者を派遣した。 使者となったのは、藤堂高虎とうどうたかとらである。 彼は義頼と弟子として日置流と佐々木流馬術を学んでいたので、抜擢したのであった。 


「摂津から義頼の軍使だと?」


 高槻城に攻め寄せた荒木勢に関しては義頼に全権を委任したつもりだった織田信長であるから、まさか使者が来るとは考えてなかった。 であるからこそ、義頼からの使者に眉を寄せたのである。 何であれ軍使が来た以上は、会う必要がある。 織田信長は取り次いだ堀秀政ほりひでまさに命じて、軍使を通させた。

 間もなく、堀秀政に案内された藤堂高虎が現れる。 彼は中々の威丈夫であり、体つきはかなり大柄の武将であった。 しかも義頼に弟子入りしている事からか、礼節もわきまえている。 そんな藤堂高虎の仕草に、織田信長は内心で感心していた。


「そなたが義頼からの使いか」

「はっ。 御拝謁を賜り、恐悦至極に存じ上げます。 拙者は六角左衛門佐が臣、藤堂与右衛門高虎と申します」

「うむ。 して、用は何だ」

「我が主、左衛門佐からの書状にございます」


 そう言うと藤堂高虎は、懐より差し出した。

 書状を受け取った織田信長は、じっくりと読み始める。 しかしてその内容は阿波三好家と荒木村重との和議についてであり、その内容ゆえに織田信長は義頼が知らせを走らせた事に納得した。

 読み終えた書状を堀秀政に渡しつつ、藤堂高虎を下がらせる。 いや彼ばかりでなく堀秀政も下がらせて一人になると、織田信長は思考に埋没した。 様々な事を検討し何が一番かを熟考した後に纏めると、祝重正はふりしげまさを呼び出した。

 程なくして現れた彼に対して、義頼からの書状を見せた上で名代の役目を与える。 それは代理として阿波三好家、及び荒木村重ひいては池田知正いけだともまさとの和議を纏める為の物であった。

 また護衛として、黒母衣衆と赤母衣衆から一人ずつ護衛の将を同行させている。 黒母衣衆からは毛利良勝もうりよしかつが、赤母衣衆からは猪子一時いのこかずときが同行を命じられていた。

 一方で別室へと下がっていた藤堂高虎へは、堀秀政から織田信長の決定を伝えられる。 書状も渡されたと言う事もあって、藤堂高虎は先触れとして先に摂津国へと戻る。 やがて到着した義頼の陣で、彼は織田信長からの書状を渡した。 すると摂津国と伊勢国の往復で流石に疲れたのか、報告を終えた彼はがっくりと腰を下ろす。 そんな藤堂高虎を、義頼はいたわるのであった。

 それから数日程すると、祝重正を正使とする一団が織田信長からつけられた一部の黒母衣と赤母衣衆を護衛として摂津国に現れる。 早速祝重正は、義頼と細川藤孝を交えて和議の条件を詰め始めた。

 その内容は二つあり、一つは荒木勢と援軍の阿波三好勢が高槻城の包囲を解く事。 そして今一つは、芥川山城の攻囲を解く事であった。 芥川山城は高山友照の居城であり、今は高山家の家臣が必死に守っているのである。 だが城主が不在と言う影響は大きく、何時いつ落城するか分からない状況にあったからだ。

 とは言え、落城間近の城の攻囲をそう簡単に解くとは思えない。 その為、もし相手が首を縦に振らなかった場合を考え代わりの物を用意する。 それは、義頼が落とした茨木城であった。

 この決定には、義頼としても不満はある。 折角落とした城を再び明け渡すなど、腹立たしいと言う思いであった。 だが、それも現状では致し方無いかとも義頼は思う。 それに何より茨木城は落としたというより、荒木勢が撤退した後の空き城を拾ったという方が正確である。 その事実もあって、その考えに拍車を掛けていたのだ。


「では残った問題は、篠原長房と三好康長みよしやすながとなりますかな?」

「条件は和泉国の半国、但し堺は除く。 これが、殿より出された条件です」

「となりますと、泉北せんぼく泉南せんなんですな。 それならば大丈夫ではないかと」

「うむ」


 以上の条件が、松永久秀を通して織田家より荒木村重と篠原長房らに提案された。

 その条件に篠原長房は無難かと考えたが、一方で荒木村重は不満を表している。 事ここに至っては高槻城と芥川山城を諦めるのは致し方ないとしても、茨木城までというのは納得できなかったのだ。

 そこで、祝重正は茨木城は荒木勢に譲渡する代わりに安威城は破却する事を改めて提案する。 その条件に此処ここが折り合い時かと荒木村重も判断し、その条件で和議に合意した。 そしてこの日以降、荒木村重は三好家との繋ぎを保ちながらも織田家との繋ぎを模索する様になって行くのであった。


一つ戦が終わりましたが、摂津はまだ安定してません。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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