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第十八話~あと一歩~


第十八話~あと一歩~


 明けて早朝、つまりは六角勢が決戦と織田勢が上洛によって起きる戦の一つと捕えていた戦場の野洲川沿いに義頼が予想した様に霧が発生する。 その霧は六角勢と織田勢を含む戦場全てを覆い尽くしており、お互いが見えづらくなっていた。


「霧か、厄介な。 まぁ、そのうち晴れるであろう。 長頼」

「はっ」

「前線に使いを走らせろ。 気を緩めるなとな」

「御意」


 織田信長は、菅谷長頼すがやながよりに命じて使いを走らせる。 馬に跨り前線へと向かう使いの姿は、霧の中に消えて行くのであった。

 それとほぼ同時刻、六角勢本陣の中で義頼は喜色を浮かべていた。

 前日に予想した通り、霧が発生したからである。 これにより、敵勢へ奇襲を掛けられるからだ。 その時、義頼は視線を兄である六角承禎ろっかくしょうていに向ける。 すると彼は、手にした配を掲げていた。

 戦に先立ち義頼は、六角承禎に配を預けている。 義頼は前線に向かうので、全体の指揮を取れない。 そこで代将として、兄へ配を預けたのだ。 隠居したとはいえ、六角家内に隠然とした力を持つ六角承禎である。 義頼の代わりとしては、十分すぎる人選であった。

 弟より配を託されている兄は直ぐに使いを出し、昨晩のうちに組織させた別動隊を率いる蒲生賢秀がもうかたひで沢清光さわきよみつに命を出す。 それから六角勢全軍に届けとばかりに声を出しながら、振りあげた配を降ろすのであった。

 

「正に千載一遇の好機! 一気に攻めたてよ!!」

『おーー!』


 義頼の代将を務める六角承禎の命令一下、先鋒が霧に紛れてその先に居るであろう織田勢目掛けて突き進んでいった。

 霧を突いてのまさかの奇襲により先手を取られた織田勢の第一陣は、六角勢に突き破られてしまう。 しかし、織田信長の出した命が届いていた事もあり、何とか安藤守就あんどうもりなりが率いる美濃衆で構成された第二陣で六角勢の攻撃衝力を抑えたかに思われた。

 だが、その瞬間に六角家の策が発動する。 時間経過と共に近距離であれば何とか敵味方の判別が出来る様になった戦場に、沢清光が率いる別動隊が織田勢の第二陣に襲い掛かったのである。 まさかの撃に、何とか耐えていた美濃衆で構成された織田家の第二陣は動揺してしまった。

 その様な隙を、義頼が見逃す筈もない。 愛用の得物である打根を振りかざしつつ、織田家の第二陣を突破したのであった。

 安藤守就は何とか動揺を抑えようとしたが、その様な事を沢清光が許す筈もない。 彼は力を尽くした攻勢を仕掛け、更に織田勢の動揺を広げていく。 此処ここまで動揺しては、流石の安藤守就でも纏め上げるのは難しい。 精々、周りの味方を統率するだけであった。

 そして第二陣の後方に配置されている第三陣を率いる佐久間信盛さくまのぶもりは、感心していた。

 まさか己にまで出番が来るとは、思ってもみなかったからである。 しかし、長閑のどかに見ていた訳ではない。 彼はしっかりと迎撃する体制は、整えていた。

 そんな第三陣に、六角家先鋒が勢いのままに突撃する。 だが流石に、大軍の二陣を突破し第三陣までとなると攻撃衝力は大分落ちてしまう。 そのせいもあり、六角家と織田家の最前線となった織田家第三陣は混戦模様となっていた。

 その様子に、織田信長も感心する。 同時に、この近江の国人達を更に引き入れる有効な策はないかと模索も始めていた。 


「ほう。 三陣まで到達したか。 だがそこまでよ」

「その様……信長公」

「何だ義弟ど……何っ!」


 浅井長政あざいながまさに声を掛けられた織田信長が反応した正にその時、六角家のもう一つの策が発動した。

 蒲生賢秀が率いるもう一つの別動隊が戦場に現れたかと思うと、第三陣目がけて突撃を敢行したのである。 織田家第三陣を、斜めに抉る様に攻勢を仕掛ける六角家の別動隊。 混戦模様となっていた事もあり、佐久間信盛の反応が遅れてしまう。 その為か、織田家側の前線がいささか混乱してしまった。

 するといつの間にか霧が晴れた戦場を、真っ直ぐ織田本陣へ向かって突き進む一隊が織田信長から見て取れたのである。 それは六角家先鋒より、織田勢の隙を見て離れた義頼率いる突撃隊であった。 彼らを見た瞬間、信長の武将としての本能が警鐘を鳴らす。 間髪入れず信長は、黒母衣衆を率いる河尻秀隆かわじりひでたかと赤母衣衆を率いる前田利家まえだとしいえへ命を出すのであった。


「秀隆、利家! 母衣衆を率いて、あの一団を止めよ!!」





 織田勢との前線が混乱したと感じた六角承禎は、残り全兵力を戦場に注ぎ込むと自らも二人の息子と共に出陣した。 その様な理由もあり、織田勢が混乱したのである。 そこに生まれた隙を義頼は感じ取り、六角家先鋒から分かれて自らも突撃を敢行したのだ。

 義頼は馬廻り衆と共に、混乱の度合いを深めた織田勢の中を放たれた矢の如く突き進む。 しかし彼らの前に、織田信長から命を受けた黒母衣衆と赤母衣衆が立ちはだかった。


「此処からは行かせぬ」

「退け! 信長以外に用は無い」

「そちらに無くとも、こちらにはある。 行くぞ!!」


 彼ら母衣衆は、織田信長の親衛隊と呼べる存在である。 その名に掛けて、此処を突破させるなぞ許す訳にはいかなかった。

 そんな織田家の母衣衆と義頼の馬廻り衆が、あちらこちらでぶつかり戦いを始める。 すると当然の様に、義頼にも向かって来た男が居る。 その者とは黒母衣衆の一人、佐々成政さっさなりまさであった。

 彼は義頼に肉薄したかと思うと手にした槍を突くが、義頼は巧みに馬を操りてその槍を避けて見せる。 同時に義頼は、己の脇を駆け抜け振り返った成政に対して打矢を幾本か投げた。 振り向きざまの視界にいきなり入って来た複数の打矢に驚愕の表情を浮かべた成政であったが、それでもかろうじて皮一枚で避けてみせる。 しかし、馬上で取った無理な体勢に動きが鈍ってしまう。 その生まれた隙に義頼は、愛馬に鞭を入れると織田信長の居る敵本陣目掛けて馬を駆けさせた。

 慌てたのは、佐々成政である。 まさか、ここで己が放っておかれるとは思ってもみなかったからだ。 即座に追い駆けようとしたが、義頼の馬廻り衆の一人に足止めされた。


「のけぃ!」

「そうはいかん! 殿の邪魔はさせぬ!!」


 佐々成政の前に立ちはだかったのは、横山頼郷よこやまよりさとだ。

 彼は寺村重友てらむらしげともと同様に、義頼が元服した際に付けられた家臣である。 当時はまだ彼も元服していなかったので、小姓としての身分であった。

 後に彼が元服した際に義頼から一字を賜り、横山頼郷と名乗ったのである。 その横山頼郷が成政の前に立ちはだかり、邪魔をしている。 彼を排除しなければ、佐々成政が義頼を追えるとは思えなかった。


「ち、失せろっ!」

「断る!!


 声と同時に、佐々成政の槍と横山頼郷の槍が火花を散らすのであった。



 横山頼郷のお陰で佐々成政を振りきった義頼。 そんな彼に付き従うのは、四人の馬廻り衆である。 その面子は蒲生頼秀がもうよりひで布施公保ふせきみやす、それから瀬田城主の山岡景隆やまおかかげたかの嫡子である山岡景宗やまおかかげむね。 そして、父親の命で義頼に仕えている犬上郡出身の国人である藤堂高虎とうどうたかとらであった。

 義頼と馬廻り衆の四人は、襲ってきた母衣衆を突破すると脇目も振らずに織田本陣に居るであろう織田信長を目指す。 しかし織田勢本陣まであと少しというところで、またしても彼らの前に織田家母衣衆が立ちはだかった。


「決してこの先は行かせん!」


 決意の声を張り上げながら現れたのは、赤母衣衆筆頭の前田利家である。 彼は愛用の槍を振りかざしながら、義頼へと襲い掛かった。

 槍の又左との異名を持つ前田利家に対した義頼だが、彼は慌ててはいない。 義頼は懐に手を伸ばすと、時間差をつけて打矢を投げる事で相手を牽制する。 打矢が同時に投げられれていれば避けるなり払うなりして進めるところであるが、流石の前田利家も時間差を付けられてはそれもままならなかった。

 その牽制を受けて彼は苛立ったが、それでも避けながらでも前へ進もうとする。 そんな彼を見て義頼は、いきなり打根を投げつけた。 義頼が取ったその行動に驚き、前田利家の僅かに行動が遅れる。 それでも彼は寸でのところで避けたが、続いて義頼が投げつけた打矢が視界に入ると反射的に手にした槍でそれを打ち払っていた。

 しかし打根を避ける為に取った無理な体勢のままで槍を振るった為、前田利家は自らの槍の勢いに引っ張られるかの様に大きく体勢を崩してしまう。 そこで義頼は、手にしている打根で彼の槍をしたたかに打ち付ける。 すると前田利家は、義頼の打根によって弾かれた己の槍に引っ張られる様に落馬してしまった。

 義頼はその様な隙を見逃さず、間髪入れずに馬で利家の脇を駆け抜ける。 慌てて立ち上がった前田利家が馬に跨ろうとしたが、布施公保がすかさず足止めに入った。


「殿! ここはお任せを!!」

「頼むぞ!」


 前田利家の対応を布施公保に任せた義頼は、蒲生頼秀と山岡景宗と藤堂高虎の三人を引き連れてその場を立ち去った。

 急いで馬に乗り義頼達を追い駆けたい前田利家であるが、目の前に居る男がそれを許すとは思えない。 彼は不本意ながらも、布施公保と対峙するしか無かった。

 そんな前田利家の感情を表すかの様に、槍を握る手に力が入る。 またその感情は顔にも現れ、彼の表情は非常に厳しいものであった。

 そんな前田利家の様子に、布施公保もまた気を引き締める。 槍を再度握りしめた後に、大きく振るった。 すると、まるでそれが合図であったかの様に前田利家の槍と布施公保の槍が交差する。 僅かな火花が散ったかと思うと、お互いの槍はまるで反発するかの様に弾かれたのであった。


「やるな」

「そちらこそ」


 その瞬間、前田利家の顔に微かな笑みが浮かぶ。 先程まで浮かべていた厳しい表情はなりを顰めており、むしろ楽しげですらある。 そしてそれは、布施公保もまた同じであった。


「我は赤母衣衆筆頭、前田又左衛門利家!」

「拙者は六角左衛門佐義頼が臣、布施忠兵衛公保なり!」

『行くぞ!』


 お互い名乗った後、二人は槍を交わすのであった。


 

 さて黒母衣衆と赤母衣衆を突破して漸く織田本陣へと辿り着いた義頼を含めた四人であったが、彼らはその勢いのままに織田本陣へと乱入する。 同時に四人は、まるで転げ落ちるかの様に馬から降り立った。

 こうして到着した織田本陣であるが、そこには織田信長の他に義頼の見知った顔がある。 しかし今は、その男が目的では無い。 義頼は気にも掛けず、織田信長に攻撃を仕掛けた。

 だが、彼の打根は手前で受け止められる。 義頼の攻撃を止めたのは、織田信長の脇に居り義頼が無視した男であった。


「長政っ!! 邪魔をするな、ねいっ!」

「そうはいかん。 義弟として、義兄を見殺しにするなど出来ん!」

「ならば死ねっ!!」


 そう言うと義頼は、打矢を投げて浅井長政を牽制する。 彼が投げられた打矢を避けた隙に、織田信長に近づくと手にした打根で突きを放った。 しかし信長もさる者、手にした太刀で攻撃を受け流すと返す刀で義頼を斬りつけて来る。 義頼は織田信長の太刀を受け流す事には成功したが、そこへ浅井長政が斬りつけて来たので大きく距離を取った。

 

「このっ!!」


 義頼は悪態をつきつつも、浅井長政に対して打矢を三本ほど投げつける。 その事に気付くとすかさず避けたが、一本だけ避け損なってしまう。 義頼の打矢が下腕を掠めた為に、彼の動きが僅かだが鈍った。

 かろうじてでも浅井長政の足止めに成功した義頼は、一気に踏み込むと織田信長へ再度突きを放つ。 だが体を開く事で突きを避けると、横薙ぎに刀を払っていた。

 すかさず義頼は、下から打根を掬い上げて刀の軌道を逸らす事で避けながら少し距離を取る。 そこにまたしても浅井長政が踏み込んで来たので、打根で十字を作って長政の刀を受け止めた。

 その瞬間、織田本陣の陣幕のすぐ外から幾人かの気配を感じる。 直後、陣幕を払って複数の人物が乱入して来た。 そこに現れたのは、黒母衣衆筆頭の河尻秀隆である。 そして彼の後ろには、二十名弱の兵が付き従っていた。 しかし幸いな事に、山中俊好やまなかとしよしが甲賀衆と共に現れ黒母衣衆を相手をした。 お陰で混戦模様となり、義頼は無論のこと織田信長も浅井長政もお互い近付けなくなってしまう。

 そんな時、混戦を突破した黒母衣衆の一人が義頼に切りつける。 しかし義頼は、打根で受け止める。 その直後、彼は首に棒手裏剣を受けて絶命した。


「孫六か!」

「殿!! 吉田重政よしだしげまさ殿、蒲生氏信がもううじのぶ殿討ち死に。 また、弾正少弼(沢清光)殿と出雲守(永原孝房ながはらたかふさ)殿などが深手を負った模様。 それといい難い事ですが……」

「早く言え!」

「我が方が、押し返されております!!」


 鵜飼孫六うかいまごろくからの報告に、義頼は奥歯を噛みしめた。

 元々の彼我の兵数が違いすぎる為に、織田家に一度でも押し返されてしまうと六角家としては手の施し様が無い。 その様な状況が生じる前に織田信長を打つ手筈であったのだが、浅井長政の存在が最大の邪魔となり時を掛け過ぎてしまったのである。 すると義頼は、この状況に一つの決断をしたのであった。


「……これまでか……あと一歩であったのにな……」


 義頼は苦々しい表情を浮かべながら、織田信長と浅井長政。 更には二人を守る様に立つ河尻秀隆と黒母衣衆を睨みつける。 やがて息を大きく吐くと、己の気持ちを代弁するかの様に手にしていた打根を地面に叩きつけた。

 そしてその場から少し下がると、地面に胡坐をかいて座る。 同時に義頼は、織田信長に向って頭を下げたのであった。


「六角定頼が二男、六角左衛門佐義頼。 信長殿に……降伏致しまする」



 降伏した義頼を見て蒲生頼秀ら馬廻り衆や甲賀衆も、悔しさを滲ませながらも己の主の行動に従う。 彼らは全員織田家の母衣衆によって捕えられ、縄をうたれた状態で織田信長の前に座らされた。

 そんな義頼達を見やり、義頼達もまた見返す。 暫くその様な状態が続いたが、やがて義頼は織田信長に声を掛けた。

 

「伏して信長殿に、お願いの儀がございます」

「願いだと? 面白い、言ってみろ」

「我が首と引き換えに、この戦に参加した近江武士の助命をお頼みしたい」


 義頼に後ろでじっとしていた馬廻り衆と甲賀衆であったが、流石に今の言葉に驚愕した。

 すると馬廻りの中で一番若い蒲生頼秀が声を上げて抗議する。 そんな彼へ視線を一度流してから義頼は、織田信長に失礼と一言断った後でゆっくりと後ろを向いた。 

 義頼の目は澄んでおり、とても今己が命を捧げようとした者の目には見えない。 思わず蒲生頼秀は、訳も分からずに緊張していた


「頼秀、それに他の者も聞け。 俺は出陣に当たって、全てを掛けると言った。 それは、俺自身にも当てはまる。 こうして降伏した以上は、お前達を束ねた者として一人でも多く生き延びさせる事を考えねばならん」

「ですが……殿がお命を掛けなくても……」

「六角家の家督を引き継いだ時より覚悟していた事だ」


 そこで義頼は蒲生頼秀に掛けていた言葉を切ると、再び織田信長へ目を向ける。 そんな彼の視界の端では何とも言えない顔をしている浅井長政が見て取れたが、義頼は敢えて気にしなかった。


如何いかがでありましょう、受け入れてもらえるでしょうか」

「そうよのう……一つ聞くが貴公が当主とはどういう事だ? 六角家の当主は、高定という者であろうが」

此度こたびの戦に当たって、某が六角家の家督を引き継いだのです」

「ほう。 なるほど、なっ!!」


 義頼の話を聞いた織田信長は、顎に手をやり思案をしている様な仕草をした。

 しかし突然刀を抜くと、横薙ぎに払う。 だがその刀は義頼を傷つける事など無く、ただ彼の目の前をすり抜けただけであった。

 要は信長は、義頼の言葉を試したのである。 言葉通り命を掛けているのであれば、あからさまに避ける様な行動は抑えるであろう。 だがただ言葉だけならば、大きく避ける筈だからと。

 しかし義頼は、目の前を刀が通過してもまばたき一つせずに織田信長を見返している。 いや、それどころか身動みじろぎ一つしなかったのだ。 ただただ義頼は、織田信長の目をじっと見据えつつ返事を待っているのである。 暫く二人は睨み合うかの様にお互いを見合っていたが、そんな二人に対して掛けられた浅井長政の言葉によって睨み合いは終わりを告げたのであった。 


「左衛門佐(六角義頼ろっかくよしより)殿の助命、拙者からお願い致す」


 まさか浅井長政から義頼の助命の願いが出るとは到底思っていなかった為に彼や馬廻り衆、それから甲賀衆は思わず目を見張る。 そんな義頼達の反応を見つつ織田信長は、楽しげな顔を長政に向けた。


「まさか、義弟からそんな言葉が出るとはな。 お前達は不倶戴天ふぐたいてんの敵ではないのか」

「確かに我が浅井家と六角家は長年敵対してきましたが、その六角家もこうして義兄上に降伏した事で滅んだとほぼ同じです」

「だから助命と?」

「それだけではありません。 江南国人及び六角家臣において、恐らく最も信頼されているのがこの男です。 今後の事を考えれば、生かしておいた方が得なのではないかと思われます」


 浅井長政の言葉に、織田信長は再び考える仕草をした。

 確かに義頼に対しては、元六角家家臣からも悪い話は聞いていない。 またこの戦に置いても僅かな時間で万を越える兵を集めた事や、動揺の広がった味方の将兵に対しても自らを危険にさらす事で抑えて見せた行動も将としては好感が持てたのも事実であった。

 つまり浅井長政が言う通り、此処で殺してしまうよりは生かしておいた方が使い道がある。 特に江南を抑えるに当たっては、六角家が旗下に居た方がやり易いのもまた事実なのだ。

 そこまで考えると織田信長は、確りと義頼の目を見ながらゆっくりと口を開いた。


「よかろう。 他ならぬ義弟の言だ、無碍むげにはすまい。 義頼と申したな、お主の願い聞き届けよう。 またその首は、義弟に免じて預けておく」


 こうして、織田家による江南平定はほぼ達成された。

 此処に江南の名門として君臨し続けた大名六角家は終わりを告げ、これからは織田家の一員として働いていく事となったのであった。


ご一読いただきありがとうございました。

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