冒険の夜明け
「主」
……っと。ボーッとしてた。
「悪いな」
声をかけてくれたディメロウスに礼を言う。
「いえ。それより、ここはどこですか?」
ディメロウスに言われて辺りを見渡す。
「……さあ?」
俺にはさっぱりだ。周りは木々ばっかで森らしいし。
「……私は人間界に来たことがありません」
ディメロウスがきっぱりと言う。
「俺は王として皆を納めていたからな」
グランディアも知らないようだ。
「私も群れから離れたことはないです」
メティラティが少ししょんぼりして言う。
「私は元仲間から逃げ回ってたわよ」
フィネアが何でもないことのように言う。
「要するに、誰もここがどこだかわからない、と」
異世界に来ていきなり迷子か。幸先悪いな。
「グランディアが空飛んで街を探せばいいんじゃない? ご主人様の居場所はなんとなくわかるから帰ってこれるでしょ?」
フィネアが提案する。
「確かに。俺が適任だと思うが、シューヤ?」
ふぅむ。
「そうだな。じゃあ、俺らは森から出られるようにその辺うろちょろしてるから」
「了解した」
グランディアはバサッと俺の肩から飛んでいった。
「……どっかで情報収集しないとな。何かいい案ないか?」
出来ればパーティーに入ってくれる人とか。
「パーティーを組んでくれる人がいればいいのですが、後ろから刺される場合もありますし、私達が魔物だとバレても他言無用で、欲に眩んで裏切らないとも限りません」
ディメロウスが説明してくれる。
「なるほど。軽々しく人を信用しちゃダメだよな」
となると、微妙だな。
「私は、情報屋でもいいと思いますよ。……情報を売っているお店らしいんですけど、ニセ情報を売られる場合もありますしね」
情報屋も無理、と。
「用心するに越したことはないだろ」
「……他人が信用出来ないなら、身内にすればいいんじゃない?」
「身内?」
俺は意味がわからず聞き返す。
「そうよ。この世界は奴隷制度があるわ。それを利用するのよ」
……。
…………。
奴隷制度か。嫌な言葉だな。
「確かに、奴隷なら主人に従いますから」
俺はちょっと遠慮したかったが、ディメロウスがフィネアに乗っかった。
「そうですね。確実性ならそれが一番だと思います」
さらにメティラティも乗っかる。
「……まあ、そうだよな」
仕方なく肯定する。……あわよくば性的方面でも! と思う俺はバカだろうか。いや、男だな。
「シューヤ!」
グランディアがかなりのスピードで滑空してくる。
「どうした?」
その鬼気迫る声に雰囲気が引き締まる。
「この森はグロウウィングフォレストという魔界きってのモンスターだ!」
「モンスター?」
この森自体がか?
「グロウウィングフォレストはずっと成長し続ける森だ! 早く出るか倒すかしないと出られなくなるぞ!」
マジか!
「周辺に街があったりとかは?」
「ない。本性を現して討伐も出来る」
「……じゃあ、いっちょ戦うか。初陣だぞ、皆。張り切っていこうぜ」
術式も試したいし。
「了解しました」
ディメロウスが言って、全員戦闘態勢になる。
ディメロウスとグランディアは本来の姿に戻り、フィネアは服装が和服から黒い鎧に変わる。頭にも軽い兜があって、背に黒い鳥のような羽が生えていた。右手に両手剣を持っている。もちろん黒。
メティラティと俺は特に何もしない。
「この辺の木を一蹴するので、宙に逃げてください!」
メティラティが両手を前に突き出す。
「俺は?」
「誰かに乗ってください!」
「私は?」
「羽があるでしょう!」
「それもそうね」
フィネアは飛翔していく。
「グランディア、頼めるか?」
「承知した」
俺もグランディアの背に乗って、宙に逃げる。
「グラビティ!」
無造作に魔法を使う。詠唱破棄ってヤツだろうか。
まず、メティラティの正面の森が地面ごと潰れる。重力による攻撃だろうか。
「ーーっ!」
メティラティはそのまま、一回転する。
「……スゲェ」
辺り一面が陥没していた。
「グラビティでこれほどの力を持つのか。場合によってはドラゴンより強いな」
マジか。さすがメティラティだな。
「出来ましたよ」
「おう、サンキューな」
俺達は地面に降りる。
「地面が壊れてるわね。グロウウィングフォレストどころか、草木一本生えないわよ」
何つう恐ろしい。
「まあ、こっからグロウウィングフォレストをボコボコにしようぜ」
「了解した」
ンバサッと豪快に羽ばたいて、グランディアが飛翔する。
「私もいきますね」
バサッとディメロウスが飛ぶ。
「前線に出てくるわ」
ヒュン、と神速でメティラティの作った円の端まで一気に走った。