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Life-Line  作者: Jack-Lion
1/1

序章:首都、崩壊。

発:極東共和国統合司令部

宛:共和国政府機関各位


昨日午後九時二十八分、共和国陸軍生物研究所より実験体が奪われたとの通報有り。

国家警察隊に出動要請が下されるも、都内にて生物兵器を使用された痕跡を発見。

生物兵器による被害拡大を阻止すべく、都内全域に非常事態宣言を発令し完全封鎖するものとする。

尚、この事態により政府中枢部はその権限を凍結。以降の指揮は臨時政府が執る事。


以上、極東共和国大統領 神谷豊



――12月31日 午後23時50分 23番街――


『車両を盾に戦闘用意っ!! いいか、絶対に奴等をこの先へ進ませるなっ!!』


雪が降り積もり、凍えそうな闇夜の中を大勢の警察官が汗だくになって走り回っていた。

首都へと通じる大通りを、警察車両が塞ぐように止められている。

その中に彼、『黒木 昇』巡査の姿もあった。

支給されたオートマチック拳銃―ベレッタ 92FS―の安全装置を解除し、車を盾に構えた。

その照準の先は、闇夜。何者の姿も無かった。

雪だけが降り注ぎ、辺りは静寂に包まれた。

誰かが喉を鳴らす音が聞こえる。

このまま時が過ぎれば良い。しかし、黒木の思いは直に裏切られる事となった。

ザク、ザクという大勢の足音が聞こえ、指揮官の怒声が闇夜に響いた。


『構えろっ!!撃てぇー!!』


黒木は、一心不乱に引き金を引いた。

銃声が何百と発せられ、ライトから照らされる”奴等”の姿が浮き彫りにされる。

虚ろな目をし、ふらふらとこっちに向かってくる何千とも見れる群集。

それが、”奴等”の姿だった。


「クソッ! 撃っても撃っても切が無い!」


「駄目だっ! 弾が切れたっ! 誰か弾倉をくれ!」


「うぁぁぁぁ!! いやだ、助けてくれぇ!」


辺り一面に悲鳴と怒声が響き渡る。

黒木は慣れない手付きで弾倉を交換し、装填する。

そして、眼の前に迫ってきた”奴等”に向かって発砲しようとした瞬間、後ろから掴まれた。


「どうした!?」


彼が最期に目にしたのは、腸を喰いちぎられ、血だらけの姿になって襲い掛かってくる指揮官の姿だった。




Life-Line 序章 『首都、崩壊』



――1月1日 午前4時00分 東海区共和国陸軍駐屯地――


『僧院に告ぐ。第一級非常事態宣言発令。繰り返す、第一級非常事態宣言が発令された。全職員は指定された場所にて、指示があるまで待機せよ。繰り返す――』


「非常事態宣言? 一体、何が起こったんだ?」


ロッカールームで着替えていた俺の耳に突然、非常事態を知らせる放送が耳に入った。

ただでさえ正月勤務でついてないってのに・・・・・・なんてこった。どうやら、今年は最低の年明けになりそうだ。


「怜っ! 一体、何が起こったのか知ってるか?」


ロッカールームへ騒々しく一人の男が入ってきた。

その姿は、寝起きらしく素足だ。冷たくないのか?この男は。


「・・・・・・章吾、まさかお前今まで寝てたのか?」


「うっせ、正月くらいゆっくり寝てたって罰は当たらねぇよ。 で、一体何が起こったんだ?」


「さぁね? 俺も今聞いた所だ。 取り合えず、俺達は指揮所へ向かおう」


「・・・・・・俺、まだ着替えてないから待っててくれない?」


「即効で着替えろ!」



――駐屯地 作戦指揮所――


部屋に足を踏み入れたとき、その騒々しさに気を取られた。

怒声が飛び交い、書類用紙が錯乱しているのにも関らず誰も気に止めようとはしない。

いつもなら、書類落としただけで怒声が飛んでくる場所でだ。


「鏑木、河内来たか」


部屋の奥から士官服に身を包んだ屈強そうな男が現れた。

この人の名は、『竹内 徹』大佐。この駐屯地司令であり、俺達直属の上司でもある。


「大佐、第一級非常事態宣言が発令されたってマジですか!?」


「章吾、せめて敬礼くらいしろよ」


「いや、構わない。見ての通り非常事態でな。一秒でも惜しい。」


敬礼もしない章吾を嗜めるが、大佐はそれを気にせずに俺達をひとつの机へと呼んだ。

机の上には一台のモニターが置かれており、そこには静止画状態で大通りが映されていた。


「これは、午後11時の23番街に設置された監視カメラの映像だ。再生するぞ?」


大佐が再生ボタンを押すと同時に、画面全体に警察車両が止められた。

セダンタイプのパトカー、バンタイプのパトカーから大勢の武装した警察官が駆け下り、盾や拳銃、ショットガンを構える。


「何が起こったんです?」


「昨日、午前9時頃に陸軍研究所から実験中の生物兵器が奪われたらしい。その兵器の詳細は不明だが、検討はつく」


「どうしてです?詳細は分からないんじゃ?」


「この先を見れば分かる、そう言うことですか?」


「そうだ」


大佐が早送りし、画面は警察官達が一斉に発砲する所で再生される。


「なっ!?」


「嘘だろ・・・・・・何百発と銃弾を受けてるのに歩いてるなんて」


そう、画面の中にはゾンビのように彷徨う群集が銃弾を受けながらも、警官隊に向かって行く場面が映し出されていた。

やがて、右側が突破され警官達はパニックに陥る。


「何てことだ・・・・・・こんな事が現実に起こるなんて」


「まったくだぜ。 まるでB級ホラー映画見てるみたいだ」


襲われた警官達は息絶え、動く者達が居なくなる。

すると、群集は我先にと言わんばかりに警官達の死体に『齧り付いた』。

頭に、腕に、腹に、足に齧り付き、真っ赤な血で辺り一面を染める。

腸が飛び散り、喰い残された眼球が転がる。

高性能カメラで撮られたB級ホラー映画のような現実。今にも、吐き出したい。


「眼を背けるな。ここからが重要だ」


大佐がそう言うと同時に、群集の口から何百ものヒルが出てきて喰い散らかされた死体に群がった。


「これが――生物兵器の正体ですか?」


「多分、な。このヒルに寄生されるとアンテッドとなる」


「アンテッド?」


「あぁ、この群集の事だ」


やがて、一人、二人と死んだはずの警官達が起き上がり、彷徨い始める。

喰いちぎられたはずの足には、新たな筋肉が剥き出しのまま再生し、腹からは内臓が飛び出たままだ。

それでも、痛さを感じないのかゆっくりと歩き始める。


「隊長、今首都は――東京はどうなってるんですか!?」


「分からない。生存している兵士が戦っているかもしれないし、全員寄生されているかもしれない。 今の所、緊急に張られた封鎖線には引っかかっていない」


「――と、言う事は俺達の出番って事ですよね?」


「そうだ。 鏑木少尉、河内伍長に命ずる。首都、『東京』に降下し現状の確認及び生存者を探索せよ。生存者を発見した場合、あらゆる手段を使ってでも保護する事」


「「了解」」


俺と章吾、二人一斉に敬礼する。

どうやら、俺の新年は最悪な展開になる事は間違いないようだった。

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