Blessed encounter ③
○玉山道子
ヒロイン。リア充を嫌悪する非リア充だったが、時貞と出会い変わっていく…
「僕は友達が少ない」の三日月夜空を部分的に参考にしている。
○源田時貞
主人公。敬虔なクリスチャン。ちなみに、洗礼名は「ヨハネ」。
名前の元ネタは、言うまでも無く「増田時貞」。
○藤本弥太郎
教会に住む司教。捨て子だった時貞を拾って育てた。
目を覚ますと、どこからかいい匂いが漂ってきた。
ダイニングに向かうと、信じられない光景が広がっていた。
テーブルの上にご馳走が広げられていて、父さんも母さんもにこやかな顔でそこにいた。
「おぉ道子、やっと起きたか。ささ、座って座って」
訳が分からない。これって夢ではないのか。試しに頬を抓る。痛い。現実だ。
「冷めないうちに食べましょ。いただきます!」
「いただきます!」
母さんの音頭に続いて、父さんが挨拶をした。私も慌てて後に続く。
「い…いただきます…」
久々に3人揃って食べたご飯は、とても美味しかった。ちょっと涙が零れたのは、ここだけの話。
食器を片づけた後、食卓に就いて久々に親子水入らずの会話をする。
「いつも寂しい思いさせてごめんね…2人共仕事が忙しいから構ってあげられなかったのよ……」
「え……あ…うん……」
「いやはや…あの子の説得がなければ、今日もまたお前を傷つけてたかもしれんからな…」
母さんも父さんも、こんなに私の事を心配しててくれたのか……
……ん?
「父さん、『あの子』って誰?」
「おぉ、その事だな。今日の昼前にお前のクラスメートだっていう男の子が来てな、『道子さんが構ってもらえなくて傷ついてる』とか『イエス様曰く『何でも人にしてもらいたいと思うことは、その人にしなさい』』とか言ってたんだよな…あ、あと、生徒手帳も拾っといてくれたそうだぞ」
「綺麗な金髪だし、かっこいいし、礼儀正しいし……道子、あんなにいい友達がいて良かったじゃない!!」
もしかして。いや、もしかしなくても。
「…っ…ちょっと行ってくる!!」
「あらあら、ケーキあるのに……」
「事故に気をつけろよー!!」
玄関でスニーカーを引っかけて、外へ飛び出す。犯人は粗方、見当がついていた。
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玄関を出てすぐに後ろ姿を目撃して、歩道を走り、横断歩道を飛び越え、商店街の人込みを押しのけ、ようやく追いついた。商店街の中でも開けた場所で、大きなクリスマスツリーが置いてある。
「ふふっ、やはりあなたは面白いですね。玉山道子さん」
なぜそうしたかは分からない。しかし気がつくと私は、左手で時貞の右頬を叩いていた。何か怒鳴ろうとしたのだが、思い出せない。
と、時貞が左頬をこっちに向けた。
「…何の真似?」
「イエス様曰く『右の頬を打たれれば、左の頬も向けなさい』です」
私の中で、何かが切れた。
「バッカじゃないの!? 何が『イエス様曰く』よ!! もう余計な事するな!! 私にお節介なんてかけるな!!」
お望み通りに左頬も叩いて、まっすぐに家へ帰ろうとした。
が、突然何かに包まれた。それが時貞の腕だと分かるのに、少し時間がかかった。
「すみません……僕はただ、あなたの幸せを思って行動したんです……あなたがご両親と和解して、幸せなクリスマスを過ごせるようにと……」
途中から涙声になって聞き取れなかったが、ともかく、2度も叩いたのが急に申し訳なくなってきた。
「私の方こそ、すまなかった……」
声が小さくなってしまったが、時貞の耳にはしっかりと届いていたようだ。
ふと見上げると、空の彼方から白い雪が降り始めていた。ホワイトクリスマスにはしゃぐバカップルを見て、いつも通り嫌悪感が湧き上がり始めたが、時貞にこう言われて一気に萎えた。
「僕らももうリア充なんですから、憎んじゃダメですよ」
「うっさい、バーカ」
悔しかったけど、同じくらい嬉しかった。
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そもそも私は、運命なんて信じてない。「運命の出会いだ!!」と思った矢先の破局なんて、私にはよくある事だから。
年は明けて新学期。相変わらず友達もいないまま、残り2年と3ヶ月を過ごすのか。そう覚悟していた。
だがその時、不意に私の前に人影が現れた。
「おや。また会えましたね、道子さん」
聞き覚えがある声に驚き、顔を上げる。そこには柔和な笑みを浮かべた金髪の青年――時貞がいた。
「…って、えぇ!? お前、高校生だったのか!?」
「はい。あなたが同じ学校で、しかも同じクラスだと知った時はもう嬉しくて嬉しくて…」
え? 嬉しい? それって……
「こらそこ!! もうすぐホームルーム始めるぞ!!」
担任の怒号が聞こえてきた。驚く私の右手を引き、時貞が教室へと走る。
繋がれた手は力強く、そして誰よりも優しい。
―完―
本編はいかがでしたか?
主題歌は菅原紗由理の「明日になる前に」ですが、例のごとく訳あって歌詞は載せないことにしています。
すみません。