Blessed encounter ②
○玉山道子
ヒロイン。リア充を嫌悪する非リア充だが…
○源田時貞
敬虔なクリスチャン。
○藤本弥太郎
教会に住む司教。
翌日――すなわち12月25日。特にする事も無いので、ぶらぶら歩いていた。
今日はクリスマス当日だが、親は朝から爆睡していた。まったく、何なんだもう。
考え事をしながら歩いていると、昨日の教会にいつの間にか辿り着いていた。
そういえば、昨日のお礼を言い忘れていたな。ついでだから寄ろう。
2m代はありそうな木の扉をノックする。と、10秒も経たずに昨日の老人が出てきた。
「おぉ、昨日の御嬢さん。いらっしゃいまし」
相変わらず、人懐っこい笑顔だ。
「せっかくじゃ、儂らの仕事の手伝いでもどうかの?」
「えっ…あ…あの…」
「おぉ、そうじゃった。もう準備は終わったんじゃったな」
何だ、終わってたのか。身構えて損した。
「少々お待ちを。葡萄ジュースをお持ちしますよ」
昨日の食卓に座る私を背に、老人は部屋を出た。
部屋を見回すが、そんなに物は無い。ふと目に留まった本棚に近づく。
中にある本は……百科事典くらいあるかと思う分厚い本が数冊、見知らぬ言語で書かれたこれまた分厚い本が数冊……どれもとっつきづらいものばかりだった。
と、いちばん下の段に置かれた本らしくないものが目に留まる。開いてみると、アルバムのようだ。表紙には「源田時貞 成長日記」と書かれた紙が貼ってある。その紙の下側には「記録者 藤本弥太郎」とも書いてある。開いて中を見ると、男の子が写っている写真が幾つも出てきた。金髪で笑顔がかわいい男の子の写真が……
「御嬢さん」
呼び声にビクッとなって振り返ると、さっきの老人が葡萄ジュース入りのゴブレットを乗せたお盆を持って立っていた。
「はっ!! すっ…すみませんっ!!」
「いやいや、大丈夫じゃよ」
食卓にゴブレットを置いて、老人が静かに歩み寄る。
「時貞に興味があるんかの?」
時貞。あの人の名前だろう。確かに、ほんの一瞬、本当にごく稀に、ちょっといいかもと思う時はあったが、素直に頷けない。
「なっ…何であんなのに興味持つのよ!? ヘラヘラしてるし、馬鹿丁寧に話してくるし、お節介だし…」
「ふぅむ、どこに行ったんじゃろ? 『けいたいでんわ』とやらを持ってれば、すぐにでも連れ戻せるんじゃが…」
「いっ…いいですいいです!! 昨日今日とありがとうございましたっ!!」
照れ隠しも兼ねて急いで帰ろうとする。が、老人が言った言葉を聞き、体が勝手に止まった。
「時貞はの、捨て子だったのじゃ」
「すてご」。「捨て子」としか変換できない。親に捨てられた赤ん坊だ。
「時貞は境遇が境遇なだけにの、困ってる者を放っておけないのじゃ。御嬢さんはまだ慣れていないようじゃがの、どうか僻まずに受け止めてやってほしいのじゃよ」
何て言い返していいのか分からず、逃げるように家に帰りついた。
家には親はいなかった。いつもこうだ。私の事なんて、どうでもいいのか。
無性に腹が立ってきたので、とりあえず不貞寝した。
親が今どこで何をしているのか知らないまま――。
―続く―