Blessed encounter ①
短編のつもりだったのですが、長めなのでやむを得ず分割する事にしました。
12月25日はクリスマス。その前日である24日はクリスマスイブ。
そもそもクリスマスとは、イエス・キリストの誕生日。リア充共がイチャつく日ではない。断じてない。
リア充じゃない私が言ったところで、僻みとしか取られないのは目に見えているが。
一般家庭では、クリスマスを家族や友達と過ごす人が大多数だ。しかし、両親は共働き、兄弟姉妹&友達無しな私の場合、どうすればいい。
やっぱり、1人寂しく過ごすか。私のような人間には、その方がお似合いだろう。
道をぶらぶら歩いているうちにふと見上げると、教会が近くにあった。
商店街はすぐそこだが、ここもクリスマス気分真っ盛りだ。
まぁ、商店街よりはリア充率が低いからいいだろう。
まったく、リア充なんて爆発しちまえばいいのに。
「こんばんは。何かご用でしょうか?」
突然、誰かに話しかけられた。ぎょっとして振り返ると、黒い服を着た金髪の青年が立っていた。首から下げられている数珠の先には、小さな十字架が付いている。確か「ロザリオ」というアイテムだったような。
それにしても、結構いい男じゃないか。笑顔が素敵だし……
じゃない!! 色気付いている場合か!! しっかりしろ私!!
「早く帰らないと、お家の人が心配しますよ」
「…っ…子ども扱いするな…」
そう強がった矢先、グーという音が響く。私の腹が、空腹を訴えているようだ。
「空腹になっても尚お家に帰らないとは、何か事情があるようですね」
「…だから何だ…」
「ちょっと来てください」
思えば、この時すんなりついて行ったのが分水嶺となったのだろう。
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数分後、私は食卓に座っていた。
目の前には質素な食べ物、近くには暖炉。向かいの席にはさっきの男。食卓の、私が座っている右隣の端には白い髭を蓄えている痩せた老人が座っている。他には誰もいない。
2人の顔はまだ、歓迎している人特有の快活な表情だ。ついさっきも「どうぞ食卓へ!」と元気よく案内された。
と、振り返っている間に老人と男が両手を組んで目を閉じた。そして、老人が何か言い始めた。
「主があなたを祝福し、あなたを守られますように。主が御顔をあなたに照らし、あなたを恵まれますように。主が御顔をあなたに向け、あなたに平安を与えられますように。アーメン」
「アーメン」
む? これって……そうだ、思い出した。確かキリスト教だと、食事の前とかにこうやって祈るんだった。慌てて私も、「斯くあれ」の意味合いを持つ言葉を言った。
「さぁ、どうぞお食べください」
老人が自ら注いだスープを差し出して、そう言った。
料理は薄味だし物足りない感じもするけれど、暖かい。コンビニの弁当やインスタント食品では出せない味が出ている。予想してたよりも遥かにおいしい。涙が出るほど――言葉の綾のつもりだったが、本当に出てきてしまった。
「えっ、ちょっ…何で泣くのですか!?」
「なっ…泣いてない! 目から汗が出てるんだ!」
男が泡を食ってフォークとスプーンを置く。強がりはしたけど、本当はすっごく感動した。誰かが作ってくれたご飯がこんなにも美味しいなんて、と。
「ふぉっふぉっふぉ、お気に召したならここにお住みくださっても構いませんぞ。何せ今の時期、儂とこの者だけでは猫の手も借りたいという状況じゃからのぅ」
人懐っこい笑顔で、老人が言う。…いや、待て。ここに住むって事は……
「ふふっ、猫かぁ…この子にぴったりかもしれませんね」
こいつとも一緒に過ごさなきゃダメなのか!? 何か腹立つ!!
「あのっ!! もうお暇致しますっ!!」
そう言って鞄を持ち、大急ぎで出て行った。
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「ふむぅ…ありがとうも無しとは、寂しいのぅ…」
食卓に残された老人と青年は、客人が去って行った扉を名残惜しそうに見つめていた。
しかし青年の方は、さっきの表現で未だに笑っている。
「あの子、結構面白いですね」
その右手には、客人の少女が落としていった鹿野高校の生徒手帳があった――。
―続く―