逃げたければ
立ち尽くす。
くだらねェ。
鉄と鉄がぶつかる音。
くぐもった爆発音。
何かが風を切る音。
タタタタン。軽快な音と共に倒れる人型。
セピア色のような、どこか色あせた世界。
空に舞う、赤い花びらばかりが鮮明で。
――行け!戦え!
――何のためにそこに居る!
――何のために、お前を生かしたと思っている!
馬鹿馬鹿しい。
現実感など、とうの昔に捨てた。
道具だ。兵器だ。自身の意思なんか、あってないもんだと諦めたのもずいぶん前の話だ。
それでも、死ぬのは怖い。
怖い。いっそ終わってしまいたいと、楽になりたいと。それでも決断できないのは、強さなんかではない。ただビビっているから。
軟弱だ。馬鹿らしい。あれだけ奪っておいて、奪われるのは怖いとでも言うのか、この口は。
――壊せ!殺せ!
――役立たずめ!お前のせいで、負けたのだ!
――お前のせいで!お前のせいで!
笑える。
ああ確かに、俺はそのように作られたもんだ。それが俺の意味だ。
落胆?何かを期待していた?今更。ああそうかもしれない。認めよう。そうかもしれない?認めてたまるか。端から他人なんて信じていない。
でも、あいつらは、どうなっただろう。いや、もういないか。確かあそこは特にひどかったと聞いた。
この国は、戦いに負けたんだ。
仇は討ってやった。仇?違うね、ただの敵だ。あいつらも所詮他人だ。だから俺はいつもどおり敵を壊してやっただけだ。ザマァミロ。
ああ、憎い、くだらない、馬鹿馬鹿しい、怒りでどうにかなりそうだ。
何の茶番だ。ああ、笑える。笑える。感情のままただ壊し続ける。
……疲れた。考える事に疲れた。案外体力を使う。
戦場の真ん中で、ただ立っているだけだというのに、誰も俺には気付かない。もう、終わりが近い。
怖い。否、怖かった。今は案外そうでもない。
あいつらは死んだ。そうだな。これは戦争だ。わかってた。
考えろ。そう言っていた。でももういいだろう?
――逃げたければ、逃げればいい。
――そうなったら俺らも逃げるけどな!いや俺らだけじゃ無理だろ。殿はお前な。
――……かっこわりぃ。
――うるせぇ!!
そしていつも馬鹿笑い。あほらしい。なにが楽しい。
馬鹿馬鹿しい。血が止まらない。笑える。最後に聞いたのは恨み言。罵声。くだらない。
最後に思い出したのは馬鹿笑い。あほらしい。それももう終わりだ。
いつの間にか背中にあるごつごつとした地面。目の前には薄暗い空。
いつも空は変わらない。濁った色。それを見て落ち着く俺もどうにかしている。
「……逃げたければ、逃げればいい」
そうだな。逃げればいい。
何も考えず、ただ逃げればいい。この場所から。この世界から。
ただ逃げる事の、なんと楽なことか。
荒れ狂う感情に、名前をつける気もしない。
……泣き方なんて、知りたくもねェ。