#18 彼女の正体
墓地で偶然にも皐月とばったり会った。
彼女の様子からして偶然とは考え辛かった。
どこか待っていたような気がした。
彼女と話したのは茜に会った日以来ではないだろうか。
連絡も取れなかった。
茜「わぁ久しぶりだねぇ皐月ちゃん。元気だった?」
皐月「茜さん以前より明るくなりましたね。なによりです。これも雪さんのお陰です。ありがとうございます。」
今更親し気に。
連絡も拒否してたくせに。
雪「いえ、あなたが茜の居場所を教えてくれたお陰よ。お礼を言うのはこっちだわ。」
茜の立ち直りには百合の力が大きい。1番は彼女のお陰だ。
あたしを支えてくれて茜を叱ってくれた。
それであたしたち姉妹は前向きになれた。
雪「所でなんでこんな所にいるの?」
皐月「なんでってお墓参りですけど?」
雪「とぼけないで。あなたは一体誰?」
皐月「聞いたんですか。」
雪「なんであたしが心臓病だって知ってたの?」
皐月「片親が医師だからです。」
皮肉だな。
雪「なんで茜の家に住んでた訳?」
茜「お姉ちゃん?怒ってるの?もしそうなら悪いのは…あっ…。」
雪「あたしは怒ってないよ。真実が知りたいだけ。」
皐月「そうですか。ならいずれ分かる事なので先に言います。私はあなた方姉妹の事故の被害者です。」
雪「被害者?」
皐月「私も親が死んでいます。」
雪「待ってよ!じゃああなたは一体誰の子よ⁈あの事故は22年前のもので未成年な訳がないじゃない!少なくともあたしたちが会ったのは1年前…あの時から既に20歳以上だったって事?」
皐月「そうです。あなた方姉妹のお父様が私の母を事故の道連れにしたんです。」
茜「じゃあ…私は
雪「茜は黙ってて。なら何故そうと知って茜の家に住んでたのよ⁈」
皐月「それはもちろん言うまでもないじゃない。復讐のためよ。幸いにも私は童顔で小柄だから懐かしの制服引っ張り出して着ても違和感は無かった。ここでお母さんの仇を討つの。」
雪「ちょっと何考えてるのよ⁈」
皐月は喪服で腕にかけてたバックから刃先10cm程のナイフを出した。
茜「皐月ちゃん!やめてよ!悪いのは私だから!お姉ちゃんも被害者なの!罰を受けるのは私だけにして‼」
雪「ちょっと何言ってるの⁈皐月さん‼考え直して‼自分が何しようとしてるか分かってるの⁈」
皐月「父は私の事を娘だなんて思ってない。だからここであなたたちを殺してお母さんの所に行くの。」
雪「何故茜を殺さなかったの?いつでも殺せたじゃない?」
皐月「あなたに辿り着く手がかりが茜さんしかいなかった。それだけの事。」
茜「やめて‼お姉ちゃんだけはやめて‼私が死ぬから‼悪いのは私だから‼」
雪「茜は黙りなさい‼どうして手術を勧めたの?ほっとけばあたしは死んだのに。」
皐月「私のこの手で殺さないと意味がないからよ。もう話す事なんてない。」
雪「皐月さん‼」
皐月「死ねぇ‼」
皐月はナイフを突き立てて走って来た。
雪「危ない‼」
あたしは茜を横に突き飛ばしその反動であたしも避けた。
あたしたちは避けたがまた皐月が狙って来た。
皐月「えぁぁ‼」
皐月はあたし目がけて来た。
刺される。
殺される。
覚悟した。
そんなの出来なかったけど。
雪「うっ…っ⁈」
皐月「放せぇ‼」
茜「やだ‼放さない‼お姉ちゃんは悪くないから‼お願いだからお姉ちゃんは見逃して‼その代わり私がなんでもするから‼言う事きくから‼」
皐月「うるさい‼放せよぉ‼」
茜は皐月のナイフを持った手の手首を掴み格闘していた。
皐月の表情は歪み涙の筋を作り怒り震えていた。
皐月「放せってばぁ‼」
茜「嫌だ‼」
皐月「放せぇ!!」
皐月は茜の手を振り切った。
その刃先は茜に向かう。
それは茜を抉った。
脇腹を紅く染めた。
茜は微々たる痙攣を起こし倒れた。
皐月「……。」
雪「茜ぇ!!」
あたしは茜に駆け寄る。
茜「……お…姉………ちゃん…
絞り出すような声を出して
『お姉ちゃん』
と言った。
皐月はどうなったか知らない。気づけばその場から消えていた。
雪「大丈夫!すぐに救急車呼ぶからね!大丈夫だよ!あたしが居るからね!」
そして病院に搬送された。
幸いにも急所を外れていたため一命は取り留めた。
しかし意識を回復するのに凄く時間がかかった。
あたしの呼びかけに返事もなくボーッとしていた。
医師によるとショック状態だと言う。
原因は言うまでもない。
そのまま入院になった。
雪「茜。はい、お見舞い。ちょっと待ってね。ココア淹れるから。好きでしょ?ココア。」
茜「………。」
雪「出来たよ。ちょっと熱いから気をつけてね。」
茜「………。」
茜は音もなくココアを啜る。
ただ一点を見たままボーッとしていた。
あたしは茜に編んだマフラーを持って来た。
まだ早いけど茜の首にそっと巻いてあげた。
茜の健康状態は決して悪いと言えるものでもないので退院する事になった。
一時的なショック状態なので時間と共に治るそうで。
茜はボーッとしてあたしに手を引かれながら家に帰った。
まずは茜をお風呂にいれてあげた。
珍しく姉妹で一緒に入った。
普段は下着を見られるのすら恥ずかしがる子で一緒にお風呂に入るなんて考えられなかった。
だから以前お風呂に入ろうと茜に言われた時はビックリした。
それでも茜はタオルを巻いて入ったけれど今は一糸纏わずに入っている。
茜はどこも洗おうとしないのであたしが茜の代わりに洗ってあげた。
ふざけておっぱいとか揉んだり弄ってみたりしたけど効果無しでされるがままだった。
茜をベッドに連れて行って添い寝する形で寝た。
時間も経ち少しずつ元に戻りつつあった。
あたしの呼びかけに返事はしてくれる様になったし家事も自分からする様になった。
しかしそれも束の間、元に戻ろうと頑張る茜の努力を殺したのは彼女だった。




