同じ顔
私は、満員電車のドアの前で唖然とした。
同じ顔が5つ並んでいた。
躊躇していたが、発車のベルで慌てて乗り込んだ。
電車の中で私は、その5人に囲まれる形になった。
彼らは私より頭一つ分高く、同じ顔、同じ体付き、
服装や持ち物以外、全部一緒だった。
『5つ子だ』
私は驚いて、密かに彼らを観察した。
どんなに見ても、違いは分からなかった。
一緒にいることに慣れすぎているのか、
彼ら5人は全く話さず、それぞれ別方向を見ていた。
スマホを見る者、本を読む者、
立ちなから半分寝ている者、様々だった。
私は自分が降りる駅まで、
バレないように興味津々で見ていた。
教室で友達に話したら、半信半疑で、
「本当なら、スマホで撮らせてもらえば良かったのに」
と無茶なことを言われた。
次の日、
満員電車のドアの前で、私は愕然とした。
電車の中の人全員が、昨日の5人と同じ顔だった。
躊躇したが、発車のベルで慌てて飛び乗った。
当然私は、同じ顔の集団に囲まれる形になった。
何が何だか分からなかった。
私は目を丸くして、彼らを眺めた。
様々な服装、様々な持ち物、
互いに気にせず別々なことをしている。
そこだけ見れば、普段と変わらない電車内の風景だ。
彼らの顔と体付きが、全員一緒であることを除けば。
私は困惑した。
素人へのドッキリを疑ったが、
どんなに見ても特殊メイクの跡はなく、
そっくりな人を集めたにしても、
耳の形、顎の線、ホクロの位置、
細かい所まで、全て一緒だった。
私は、
はっと気付いて、慌てて鏡を取り出した。
私の顔は、私のままだった。
ほっとした。
次の駅に着き、ドアが開いた。
振り向くと、
同じ顔の人々が乗ってきた。
頭が真っ白になった。
私は自分の降りる駅まで、
目を丸くし、赤い顔になりながら、
同じ顔の集団の中で、ぎゅうぎゅう詰めになっていた。
友達に伝える元気もなく、
教室に入ると同時に、私は机に突っ伏した。
次の日、
満員電車のドアの前で、私は拍子抜けした。
そこに、あの顔は一つもなく、
いつも通りの色々な顔があるだけだった。
私は周りを見渡しながら、ゆっくりと乗り込んだ。
電車内を見回しても、やはりあの顔はなかった。
その次の日も。
あの顔は一切、見かけなかった。
ふと、電車の外でも探したが、やはりいなかった。
1週間後、
乗り込んだ電車の中、
ふと見渡すと、あの顔を見つけた。
一人だけだった。
私とは別の高校の制服、
私より年上のようだった。
男友達と話していた。
風邪で休んだと言っていた。
思い出した。
何度か電車で
遠くから彼を見掛けたことがある。
でもそれだけで、何かあった訳ではない。
私が見ていると、
彼が顔を上げて、
目が合った。
綺麗な瞳だった。
私は、慌てて目を伏せた。
顔が赤かった。
自分の心臓の音が聞こえた。
私は、
その時初めて、
自分の想いに気付いた。
しばらくして顔を上げると、
私を見つめている彼と
目が合った。
彼は目を逸らした。
その顔は赤かった。
友達にからかわれていた。
私は、
目を丸くし、彼以上に赤くなった。
自分の心臓の音で、
電車の音が聞こえなかった。




