伝説の武器は高値で売れるのを知ってるか?
日が落ちていく夕方。
俺は教室で壁を背にしていた。
「どういう状況だよ」
「どういう状況?私のスカートをめくったからこうなってるってのを理解してないの、坊ちゃま?ねえ?」
「あれはほら、不可抗力ってやつだろ?」
「不可抗力で、幼馴染美少女メイドのスカートめくりをするやつがいるわけ?」
「自分のことを美少女っていうのか?」
「ま、当たり前でしょ、私の顔と姿を見て、美少女じゃないというやつがいるのなら、逆に教えてほしいくらいね」
自信満々にそんなことを言うナオは確かに美少女ではあるが、その性格は俺が知っているものではなく、少し前に発覚したあり得ないと思っていたものになっていた。
天然で可愛い枠であったはずのナオではなくなっている。
「で?どうなのよ?」
「どうとは……可愛いんじゃないか?」
「そ、そのことを聞いてるんじゃないわよ!わかってるでしょ?もうチュートリアルは終わったのよ。ここからがゲームとしてはスタートになるんだから!」
何を言ってるんだ?
とはならないよな……
こう言葉にするってことは、ナオも俺と同じで転生者?というべきなのか、ゲームの世界に連れてこられた人物ってことだよな。
とはいっても、最初からはいそーですかと返事するのはなんか嫌な予感がするな。
しょうがねえ。こういうときは無難な返事をするか……
俺は、このときに同じ存在だと明かさないと決意すると、とぼける。
「何を言ってるんだ?」
「あーん?そんなとぼけてもいいわよ!」
「とぼけているつもりはないんだが……」
「ええ?本当に?これまでは主人公は全員このゲームをやってるやつばかりだったのよ」
ナオは見当違いだというように髪をかく。
こんな内容で誤魔化せるのか?
普通に考えれば、これだけ不遜な物言いをしていれば、同じ存在だと疑いそうなものだが、俺以外のメインヒロインたちの言動がおかしかったり、そもそもエロゲーの主人公がどう話すなどについてはあまり気にする点で、今はわからないとナオも感じたのだろう、先ほどまでの勢いが少し弱まる。
「はあ……じゃあ、今回はいつもみたいに誰かが選ばれてないのは、なんでなのよ。せっかくこれまでとは違うから、喜んでいたのに!」
「そ、そうなんだな」
「そうなのよ。私なんてこれで十回目のゲーム世界なのに!」
まじかよ……
そんなにこの世界にいるとか、頭が狂うだろ。
「最初は確かにちょっとはやったことがあるゲームだったから、そのゲーム通りにすれば、簡単にゲームの世界から出られるって考えていたのに、出られないのよ!どうなってんのよ!」
「それを、俺に言われてもなあ」
「はあ?でもねえ、ようやく今までじゃあり得ないストーリーになってるのよ。あんたが別に何かを言わなくても、私に手伝ってもらうからね!」
「あ、ああ……」
いろいろ言いたいことはあるが、どうやら使いっぱしり……頼りにされるらしいことはわかる。
さすがに使いっぱしりだと、俺が悲しいからな。
俺のそんな心情を知るよしもなく、嬉しそうに頼み事をしようとするナオは、本当に違う存在なのだと思い知らされる。
「じゃあ、早速なんだけど」
「すぐに何かをさせられるのか?」
「当ったり前でしょ。せっかく自由に動けるようになったんだから、こうなったからにはいろいろやってもらわないと」
ナオが言っていることを簡単に整理すると、ゲームのチュートリアル中はヒロインたちは自由に動き回ることができない。
ようやく自由に動き回ることができるようになったからこそ、こうして俺に絡みに来たということだった。
ナオは何かしてほしいことについての内容を考えているようで、そういう仕草をする。
考えているうちに逃げるか?
俺は頭の中でそう考えたものの、いやと思い直す。
逃げたところで、探してまたすぐに会いに来る可能性が高いからだ。
転生者の名前がわからないので、そのままナオとするが、そのナオはチュートリアルが終われば、本格的に自由行動ができるということをわかっていた。
先ほどの会話から、どうやらこのゲームについてはそれなりにやったことがあるというのと、この世界を繰り返すこと十回目にもなるらしく、どのタイミングで自由になれるのかということくらいはわかるらしいことを考えても、明日以降についても俺よりもこの世界に詳しいと考えるのが無難だ。
俺がやっていたときでさえも、ここからというのは、ヒロインたちもその日によっている場所が違うし、さらには時間によって移動もするので、探し回ったりしなくちゃいけないことも多く、イラッと……本当に苦労した思い出がある。
本来であれば、ここからというのは俺のほうから会いに行くという流れでストーリーというものは進んでいくはずであり、俺もそう思っていたからこそ動き出そうとしていたが、その前にこうしてナオに詰められてしまったのだ。
「思いついたんだけど!」
「何をだよ」
「何をって、坊ちゃまにやってほしいことに決まってるでしょ?」
「できることならな」
「できることに決まってるでしょ?他の四人にキスをしてくるのよ!」
「はあ?」
「はあ?じゃないでしょ。必要なことなの!」
もしかして、次の好感度の上げるときのことを知っていて話しているのか?
確かに次の好感度を上げるものとしてキスがあるが、適当にすることがどれだけ危険なのかをわかっていない。
どういう意味と言われれば、不用意にキスなんかをすれば簡単にゲームオーバーになってしまうのだ。
何を言っているのかと思うだろうが、このゲームはエロゲーだ。
スカートめくりは大丈夫で、キスがダメな理由がわからない。
ほとんどの人がそう考えるだろうが、俺だってわからなかったが、ストーリーを進めていくうちにキスがダメでスカートめくりが大丈夫な理由というものがわかるところがある。
それは、肌が触れ合っているかどうかというものらしい。
確かにスカートめくりについては、肌には触れていないが、肌を見ていると思う。
さすがはエロゲー……適当だなと当時は思った。
まあ、何が言いたいのかというと、キスのようにこのゲームに出てくる女性キャラの誰かに触れ合う行為には、それなりに深い好感度が必要だということだ。
そうしないと、せっかく違う展開になったこのゲームが早々に終わるし、ゲームオーバーになりたくない。
それだけは避けたかった結果、俺から出た言葉は……
「じゃあ、ナオが俺としてください」
これだった。
瞬間、ナオは何を言われたのか理解できなかったようで数秒止まっていたが、すぐに先ほどよりもさらにキツイ目付きで俺のことを睨む。
「坊ちゃま?言っていいことと悪いことの区別くらいつかないの?」
本当にキレているトーンで言われた俺は怯みそうになるが、こんなところで負けてはいられなかった。
「誰でもいいのなら、ナオでもいいはずですよね」
「くう……はあ……」
俺の言葉に、さすがに何も言い返すことができなかったナオは、言葉につまる。
「わ、わかったわよ。今はしなくていいわよ」
ほんの少し頬を染めながら言うナオに、俺も戸惑う。
エロゲーの世界も十回目なら、さすがに自分のルートになったりしないのか?と……
実際には、ナオはこのゲーム世界に来て、一度も自分のルートにはならなかった。
というのも、ナオと同じようにこのゲームにやってくる主人公というのは、ゲームをやっていた誰かだ。
本来であれば、天然キャラでドジっ子であり、主人公を支えるためのポジションである女性が今のように荒い言葉使いで喋ってこられたりすれば、ゲームと違うと幻滅することが当たり前で、今回のような対応をされることなどなかった。
(さっきからの少し会話が嚙み合わないし、今回はゲーム本来の主人公の可能性があるわね。そうなったら、私のルートに入られると嫌だから、少し様子を見るしかないじゃない)
ナオは思わずそう考えるが、実際には主人公はいつものように同じ存在だ。
騙しているようで申し訳が少しないが、この世界のことをもっと知ったあとじゃないとと考えてしまう。
「それにしても、十回も同じ世界を体験してるということなのか?」
「そういうことよ。まあ、ヒロインが確定したら、別に私の出番がなくなるからいいんだけど」
「どういう意味だ?」
「説明するのが、面倒なのよ。だから、いい相手をさっさと選びなさいよ」
「だったら、幼馴染美少女のナオでいいんじゃないのか?」
「だから!それはダメなの!」
誰かを選べばいいといいくせに、自分を選ぶのはダメらしい。
「他の人にするしかないのか……」
「そうよ、そうしなさい」
俺に強めにそう言うが、どう答えていいのかわからない。
そもそも、俺のことをこのゲームにいるAIのような存在に強めに言うのは正解なのだろうか?
いや、さすがに十回もこの世界をループしているのであれば、それくらいのことはわかって言っているに違いないだろう。
「じゃあ、話は終わりなのか?」
「終わりね」
「だったら、離れてほしいんだが」
「あー、はいはい。そうだったわね」
ようやくというべきか、壁に押し付けられていた俺は解放される。
ナオはというと、これからのことをどうするべきかを考えてでもいるのか、頭を乱雑にかいている。
ま、確かに言ってた通り、今の状態でも絵にはなってるな。
自分のことを美少女というだけはあるというのか、もしくはエロゲーだからビジュアルがいいのは当たり前だろといえばいいのかはわからなかったが、何をしても変にならない。
むしろ、天然のときよりも乱雑のほうが、言ったら確実に怒られる自信があるが大きな胸が揺れている。
「一つ聞いていいか?」
「何?」
「さっき言っていた女性というのは、誰を選ぶのがいいんだ?」
「だから、それは私じゃなかったら誰でもいいって」
「でも、ナオと同じように他の女性たちもこの世界に来ているのだとすれば、どうすればいいんだ?」
「た、確かに……言われてみればそうね……」
どうやら、そのことを考えていなかったらしい。
まあ、俺はあり得ないと思ってはいるが……
その理由は単純だった。
あのとき……スカートめくりをした後の対応というものが、ゲームでは見えていなかったそのキャラ本来の姿とすれば、一人を除いてほとんどがあり得ないようなものだったからだ。
現実であんな見てほしい痴女と筋肉大好き女性に下着売りの女性という三人は確実にいないはずだ。
いないよな?
「何?私の顔をジッと見て」
「いや、なんでもない」
さすがにいないよなとは思いながらも、目の前にいるナオが、本来知っているナオとは全く違う性格だと考えるとあり得るのでは?と思えてしまう。
「失礼ね。じゃあ、頼んだわよ」
「わかった」
念押しするナオに俺は頷く。
それを見届けたナオは去って行く。
「どうするのがいいのか……」
見送った俺は、悩む。
本当にこの世界というのが、うまくいかなければ、何度も繰り返すことになるということがわかってしまったからだ。
「正解がわからないからなんともいえないけどな。ミスると何度もエロゲーの世界にいることになるなんて、絶対に嫌だよな……」
あー、くそ……
新しいルートに喜んでいる場合じゃねえのかよ。
どう行動する?
今は深く考えても仕方ないか……
俺は教室から出る。
ナオに壁ドンをされなければ、本来やりたかったことがもう一つあった。
それというのは、新しい装備を見繕うものだ。
うん?何を言っているんだ?お金がないのに装備を買えるのかと、思うこともあるだろう。
でも、この世界がゲームと同じであれば、裏技というものが存在しているはずだった。
一つが、無限増殖バグだ。
これについては、メニュー画面を開くことができないため、わからない。
じゃあ、素材やお金はどうやって保存しているのかというのは、どういう原理かはわからないが、最初に配られた袋には素材が勝手に入るし、小さなコイン入れのような財布にはお金が無限に入る。
ゲームのときにはなかったアイテムというもので、メニュー画面がなくても大丈夫なようにわざわざしているように思えてしまう。
どうやっても、この世界を堪能させたいらしい。
「だったら、無限増殖バグくらい許してくれや」
アイテムやお金など、いくらあってもいいのだが、使えないとなれば、この世界にある重要なアイテムというのを手に入れておきたいと思う。
この世界はゲームと同じだというのであれば、伝説の武器というものがジョブごとに存在する。
性能については、それほど強くはない。
メニュー画面の表記でもそうなってはいるものの、実はちゃんとした設定がある。
エロゲーだからなんとなくどんなものかわかるとは思うが、設定というのは好感度だ。
好感度が高いときにお互いに伝説の武器を装備している場合に起こることが、”愛と力”という必殺技だ。
原理は理解できないが、ゲームでは必殺技を使うと、主人公とヒロインの服が弾け飛ぶのだ。
そして、二人の肌が合わさると必殺技が発動するのだが、服が弾け飛ぶ面積と必殺技の威力については好感度が高いほどよくなる。
初めて見たときは、エロゲーにありがちな技だなと思ったものだ。
後、いいところとして、専用の武器ということもあって装飾が凝っており、それなりの値段で売れるのだ。
「あんな恥ずかしい技は、現実で使いたくないからな、さっさと回収して売るか」
好感度が低くても使えるところからわかる通り、伝説の武器となっているわりには入手するための条件というものは簡単だったりする。
その入手条件は、リズムゲームである。
はあ?
何を言ってるんだと思うかもしれないが、おかしいとは思っていてもそういうものだと理解しておいてほしい。
リズムゲームでは、好感度が高くなくてもヒロインと挑戦できる。
好感度が高いほど、リズムゲームは簡単になり、好感度が低いと難しくなる。
そう、ここで誰もが疑問に気づいたと思う。
エロゲーだというのに、誰かと一緒にやることが前提のコンテンツがあるのかと……
普通はあり得ないことでもすることに挑戦するのが、エロゲーのいいところだったりはするが、それでも挑戦的すぎた。
大抵の人たちは、好感度を上げて簡単になった状態のものを一人でプレイしている。
当たり前である、エロゲーを誰かとやるなんてことは、あり得ないからだ。
だけど、一部の猛者は違う。
難しい状態であっても、リズムゲームを完璧にクリアしてしまうのだ。
「手にはコントローラー、足にはアケコンを使ってたな」
全ての武器にそれぞれのリズムゲームが存在しており、猛者たちは最初の段階でこれをクリアして、金策をしていた。
「やるか!」
俺は伝説の武器が入手できる場所へと向かうが、そこでは衝撃の事実があった。
「はあ?挑戦ができないだと!」
学園の中にある、体育倉庫のような場所に不自然に置かれている足で入力するコントローラーだ。
ゲームセンターなどに置かれているのを見たことはあるが、こうして現実ではあり得ない位置にあるというのだけで、現実ではありえないことがわかるのだが……
二つあるそれは、動くことはない。
「ゲームだとコントローラーが二つあったら挑戦はできたんだぞ!どうなってんだよ」
俺は怒りで思わずそう言葉にするのも仕方ない。
足で操作するゲームだからか、二つあるものを同時に踏まないことには起動しない仕組みになっているようだ。
「無駄な要素を増やしやがって……こんなのゲームと同じでいいじゃねえかよ!一人じゃ誰とやれってんだ?」
悪態をさらにつくが、そんなことでゲームが起動するわけではない。
「俺に許された金策だったのに……」
ガックリと項垂れた俺は、ゆっくりとその場を後にするしかないのだった。




