違和感に気付け
どれほどの時間練習したのだろう。
「みろ、トリプルアクセルだ!」
「私なんて、前宙できるわよ!って意味ないことしてても、仕方ないでしょ」
「は!俺としたことが、楽しくなってしまっていた」
わからないほどには練習した結果、靴をそれなりにはうまく扱えるようになっていた。
どれほどの時間練習していたのか、あまり思い出したくないが、これで形にはなった。
「なんとかなったな」
「なんとかなったというよりもしたでしょ」
「そうとも言うな」
時間は確かにかかったもののこれで、エロティックタワーを探索できるはずだ。
「こんな世界に来てまで、やらないといけないことなのか……」
「だったら、またモンスターに突っ込んで行きたいわけ?」
「それを言われたら、何にも言えねえよ」
「なら、素直にこれからの冒険に胸を輝かせてなさい」
「嫌な冒険があったもんだな」
「仕方ないでしょ!そうでも思わないと、やってけないでしょ!」
俺とナオはそんな会話をやいのやいのとする。
それを見ていた四人は、どこか遠くを見ていたのか、それとも……
二人は会話を終えた後、四人のほうを向く。
「じゃあ、今度こそ行くわよ!」
ナオの号令によって、俺たちはエロティックタワーの五階へと向かった。
五階については順調だった。
時間をかけて靴を操る術を練習したこともあって、これでエロティックタワー内で無様な姿を見せることは、五階ではなかった。
出てくるモンスターについても、面倒くさいことをしてくる存在ではなかったということも関係していた。
さらにいえば、攻撃についても靴という機動力を手に入れたおかげなのかはわからないが、格好よくは全くないが攻撃を少し避けれるようになったのもいい。
俺がいつでも盾を構えて助けることが難しいことを、キメラと戦ったことでわかったからだ。
六階に上がったところで、休憩をする。
今日の目標は、この階を探索して経験をさらに積むことだ。
予想していた通り、ここ六階からはモンスターの種類は変わっていないものの、モンスターの数が多くなっている。
ここからは、ある程度考えて戦っていかないといけない。
そう考えてモンスターの配置などを見ていたとき、リーヤがこちらへ寄ってくる。
「ん」
「リーヤ、どうした?」
「槍二本のほうが強そう?」
「まあ、カッコよさはあるな」
「そう」
聞きたいことが聞けたというのだろうか、リーヤは少しの質問だけをすると、槍を二本構えてモンスターへと向かっていくと器用に攻撃をかわし槍を当てる。
二本を構えるリーヤは確かにカッコいいが、欠点もあった。
それはスキルを使えないことだが、それでも二本装備していることで、通常の攻撃威力は上がっているようで、何度か靴で加速して突くことでモンスターも簡単に倒せていたりする。
順調だ。
よって油断をしていたのは確実だろう。
だけど、キメラのことがあったため、警戒もしっかりとしていた。
それでも予想外のことは起こる。
少し前から、なぜか俺にだけ声をかけたり、近寄ったりをリーヤはしていた。
どうやら意識されているらしいということはわかったが、理由がわからない。
確かにキメラと戦ったときには、それなりなことがあったが、あれはあれで終わったはずだ。
そこから何かがさらにあるとは考えられなかった。
「何か気になるのか?」
「ん、少し」
「そうか」
こんな世界なのだ……
リーヤが結局俺たちのような存在なのか、それともゲーム世界の住人なのか。
そのどちらかの確証が得られていないので、どういう反応するのが正解なのかはわからない。
リーヤは少しどこかをジッと見つめた後に、両耳を抑えると近くにいる俺にさえ聞こえることがない声で何かを口にする。
で、電波でも受け付けたのか?
俺はそんなことをふと考えたタイミングで、リーヤは
「行くかはあなた次第」
俺にだけ聞こえる声で言ったときだった。
体の動きが悪くなる。
イベント!?こんなタイミングで……
体が動く前に聞こえたリーヤの言葉に嫌な予感しかしなかったが、すぐにリーヤはある方向を指さす。
「ん……こが……にな……」(ん……あそこが何か気になる)
▶違和感を確認する
確認しない
選択肢が出てきたのはいいが、このイベントはどう考えても、罠のような何かだろう。
どちらを選ぶべきか、考えていたところで違和感に気づく。
いつもあるはずの本を開くとかいう選択肢がない。
どういうことだ?
いるか、いらないかでいえば、いらない選択肢ではあったが、情報を整理するためには必要な気もする。
面倒なことを起こさないようにするなら、確認しないにはなるが、それを選択した結果。
俺は後悔をしないだろうか?
エロティックタワーというゲーム世界の中に急に来させられたとはいえ、俺はこのゲームのイベントシーンをコンプリートするために元々ゲームをやってきたはずだ。
だったら、ここで選択するのはイベントを進めるほうじゃないのか?
そうだ。
エロティックタワーなんてゲームくらい、何が起ころうとも別に気にする必要はない。
俺はやるぞ!
▶違和感を確認する
確認をしない
そして選択する。
「ん……う」(ん、行こう)
すると、リーヤに手を引かれて俺たちは二人でこの場から抜け出した。
だけど、まだ俺の体は自由には動くことはない。
よって、イベントが継続しているというのがわかる。
どこに行くつもりなのかはわからない。
こうなった以上はなるようになれ!
俺は流れに任せていく。
問題は、引っ張られる手がいつものように倍速のせいで勢いが強すぎるところだ。
おかげでいつか手がもげるだろうと考えてしまうほどだ。
こうして、俺とリーヤの二人だけはどこかへと向かうことになる。
さあ、向かう先はどこなのか……
不安しかないが、それは仕方ない。
連れてこられたのは、隠し部屋のようなところだった。
「なんだここは?」
「うち……つよ……しょ」(うちには、必要な場所)
「そうなのか」
俺は納得したように頷きながらそんなことを言うが、どういう会話で納得したのかわからない。
何を言ったんだ?
「ここ……んわ……」(ここの違和感わかる?)
「わからないな」
「そう……た……」(そう……だったら、これ)
わからないまま、俺は枕をもらった。
うん、確かにリーヤにはかなり必要なものだ。
でも、これをもらってどうしろと……
そんなことを考えているときに、体が解き放たれる。
手には枕をもったまま、急に動くようになる体。
うん……ここからどうしろと?
俺はわからず、目の前にいるリーヤに聞く。
「これは、どうするんだ?」
「……」
「あれ?」
声をかけても無反応だ。
からかっているのか?
そう思った俺は目の前で高速で体を動かす。
だが、リーヤの無反応は変わらない。
「何かをしないと動かないってことなのか?」
急に始まった何かのイベントに戸惑いながらも俺は部屋を見渡す。
ここの部屋というのは、何かがあるというわけではない。
簡素な休憩所のようなものといえばいいのか、ソファのようなものがあったり、ベッドのようなものがあったり、明かりが灯っていたり……
「なるほど、ラブホか!」
なんとなく見覚えがあるのは、気になって調べたことがあるラブホのようだった。
だが、余計に意味がわからない。
どうしろというのだろうか?
だから俺は無意識に口にする。
「今、このラブホは必要ないな」
何気ない言葉だった。
だけど、すぐに固まっていたリーヤは動く。
「ん……り」(ん、その通り)
そして、何かを言ったかと思うと、部屋がぐにゃりと歪みながら目を開けてられないほどの光を放つ。
光が収まって、目を開くと、そこにあったのは一本の木だった。
「も……り」(元通り)
「だな」
何がだななのかはわからないが、余計に違和感を感じるような室内になったのは言うまでもなかった。




