これは使える
転送装置へと戻ってきた俺たちは、疲れ果てていた。
それもそのはずだ。
ゲームであれば、特に何も思わない移動というものが、現実では一番キツイことを思い知ったからだ。
何も思わなかったことがこれほどキツイとは……
入力すれば、思い通りに動いたときとは違うことに気づかされた。
よかったところがあるとすれば、モンスターに関していえばそれほど苦労しなかったというところだろう。
簡単というわけではないが、五階の出てくるモンスターには、状態異常をしてくるものはいなかった。
こういうところはゲームのときの知識がいかせた。
「あー、今日はおしまい」
「そうだな」
疲れ切った声でナオが言ってきて俺たちは頷く。
そして、考えるのだ。
次のエロティックタワーからはどうしようかと……
普通のゲームであれば、距離があると移動をするのに乗り物というものがあったりもするが、このゲームにはない。
まあ、ダンジョンの中で急に乗り物があれば少し以上におかしいと感じるだろう。
一つ乗り物があるとすればあるが、この考えを言葉にしてしまうと、一人の変態が覚醒する可能性があるのでやめておく。
結局のところ、何が言いたいのかというと、どうするべきかを考えないといけない。
疲れないように、エロティックタワーの中を探索するためにはどうするのかを……
「あー、これで筋肉痛にならないのだけは、いいけどな」
普通の体であれば、あれだけ歩けば筋肉痛にもなる。
もし体に万歩計をつけていれば、余裕でかなりの距離を歩いたことになっただろう。
さらにいえば、この世界の悪いところで、エロティックタワーに入っているときなどに関しては、時間が立つことがない。
そのため、ゲームのときであれば当たり前の時間経過がないというのは、今はかなりの足かせになっている。
「普通なら、時間がくれば暗くなってきたし帰るかってなるはず……だけど、それがないからな」
エロティックタワーから外へ出るタイミングというのは、こちらで決められるという点は確かいいが、それならば、体もゲームのように疲れないようにしてほしい。
「ところどころが違って、同じで……面倒だ」
おかしい。
エロゲーというのは、本来脳死でくんずほぐれつするシーンを見るためのものだったはずだ。
それなのに、考えることが多いとはこれ如何に……
今更だとは思いながらも、俺は体の疲れがピークに達していたこともあって、眠りについた。
用意を済ませて、いつものように寮から出た後、いつもとは違い体が勝手に動いた。
イベントか?
思わずそう考えたときには、その方向へと進んだ。
自分の足が勝手に向かった先というのは、一つの部屋だった。
「あな……きた……」(あなた、よく来たな)
元気な声とともに、そこにいたのは担任といえばいいのか、あの女性だ。
「どうして、俺はここに来させられたんですか?」
「どう……こに……のか……いの……」(どうして、ここに呼ばれたのか、知らないのか?)
「はい」
俺の質問に対して、不思議そうに女性はしていた。
だが、完全に身に覚えがない。
そもそも、こんなタイミングでイベントなどあっただろうか?
すでに知っているルートから外れているため、このタイミングでのイベントも、全く知らないものだと俺は思っていた。
だけど、そんなときに女性から差し出されたのは、見たことがある靴だった。
「これ……め……だ……てる……」(これを渡すためにきたんだ。知ってるか?)
「見たことはありますが……」
「そう……」(そうか……)
▶靴の使い方を聞く
聞かない
すぐに選択肢が表示されるのを見て、俺は思い出す。
確かに、こんなアイテムがあったなと……
どうして忘れていたのか?
それについての答えは簡単だ。
使いにくいからだ。
この靴。
移動速度を上げるためのもので、ゲームの世界では、速度を四段階調整できた。
靴を装備すれば、歩く速度を調整できるなんてすごい。
それもボタンを押すだけなんて簡単。
押し間違えがなければ……
ゲームで使っていたとき、よくあったのが押し間違えだった。
エロティックタワー内で使えば、速度は上がるものの、敵に見つかりやすくなったり、さらには細かい操作がしにくくなるため、探索もしにくくなる。
なのでうまく速度を切り替えないといけなかったが、速度を調整するためのボタン配置を間違えて押すことがかなり多く発生してしまっていた。
だったら、ボタン配置を変えればいいじゃないのか?
そう思ったが、このゲームではそんな親切な設定があるわけもなく、結果使わないほうが楽に攻略できてしまう……いわゆるゴミアイテムとなっていた。
こんなのがあったの忘れてたな。
いつも使わないせいでアイテムの存在すらも忘れていた。
マジかよ……
ゲームのときはゴミだと思っていたアイテムも、ここなら速度調整するときに押し間違えるようなこともない。
だけど、使うとしても一応ゲームのときとは使用感が違っているかもしれない。
俺は選択肢の説明を選んだ。
▶靴の使い方を聞く
聞かない
「そ……つか……のく……そし……ある……をま……そく……はだ……され……」(そうだな。使い方は、この靴を履く。そして、横にあるダイヤルを回す。速度についてはダイヤルに表示されている)
「わかりました」
高速で女性は靴のある部分を指さして説明をする。
それで、なんとなく言いたいことはわかった。
使えそうなアイテムをゲットできたな。
こうして、俺は女性からアイテムを受け取ると部屋を後にした。
体が自由に動くようになったところで考える。
このアイテムは俺だけがもらえるものなのかということだ。
ゲームでは、どんなものだったのか忘れたけど、こういうアイテムならエロティックタワーに入る全員がもらわないことには意味がない。
「さすがに大丈夫だよな」
俺一人だけ手に入っているなんて馬鹿なことはあり得ないはずだ。
そうは思っても、一度不安に思ってしまえば、それが解消されない限りは、その不安が続いてしまうのは、人として仕方ないことだった。
このまま出ていった部屋にいた、女性に聞けばいいのでは?
すぐにそう考えて、ドアノブを回すがうんともすんとも言わない。
さらに押したり引いたりしても意味がなかった。
まるで、部屋に入らせないという意志があるようだ。
でも、こうなってくるとヒロインたちが靴を手に入れているのかを確認する方法は、一つだ。
「くそ、会いたくないはずなのに、早く会いたいと思うことになるなんてな……」
会いに行かないといけないことが確定してしまった俺は頭が痛くなった。
よかったところといえば、ヒロインたちがいる場所がわかるところだろうか。
昨日疲れて解散をしたが、そのときに明日。
もう今日にはなるが、これからの対策を考えるためにも集まることになっていた。
「確か、ここだったな」
今回集まるのは屋上だった。
屋上へと続く扉を開けたところで、見覚えがあるやつらがいるのが見えた。
「集まってんな」
「遅い」
「しょうがないだろ、アイテムを手に入れるためだったんだ」
「アイテム?」
「これだ」
俺はそれを見せる。
このタイミングでもらえる、今後それなりに使えそうなアイテムだ。
ナオたちは、俺が見せた靴をまじまじと見ると、何かを思い出すかのように上を向く。
「あ、それって、これ?」
そして、思い出したと同時に何かを取り出す。
「お前、それ……」
「私たちは、初日にもらえたんだよね」
「まじかよ……」
使えると思っていたアイテムというのは、ヒロインたちはすでに持っていたものだったということだ。
でも、これでエロティックタワーの攻略も少しは楽になるはずだ。
「よし、全員これを履いて攻略をするぞ」
「オッケー」
こうして、エロティックタワーを俺たちは効率的に攻略できるはずだった。
「うべら……」
進むスピードが速すぎて、制御できない。
すぐにそんなことになるとは誰も想像をしていなかった。




