やると決めたなら
逃げるためには、最低でも誰かが攻撃をさらに受ける必要があった。
盾をもっているから俺でもいいが、先ほどの攻撃によって、俺以外のメインヒロイン五人たちのほうが服にダメージが入っている。
よって、俺が考えるのは一つで、どうやって逃げる状況にするかだ……
「予想外だらけだな」
俺の口からはそんな言葉が出る。
だって本当のことだ。
本来であれば……
そんなことばかりを頭で考えるのは、この世界がゲームと同じだからだ。
だったらゲーム通りに全て動けと思ってしまうのは仕方ないことだった。
さらにいえば、攻略に書かれてる通りにすれば、思い通りの結果を得ることができる。
そんな世界じゃないのかと……
感電して動けないメインヒロインたちを見る。
すでに予想外の結果にしかなっていない。
ああ……
どうすることもできないか……
まあ、逃げれなくてもゲームだ。
もし、自分がうまくできなくても、他の誰かがクリアすればいい。
「いい、それで?」
俺がそんなことを思ってたときに聞こえたのは、リーヤからの言葉だった。
「いや、いいんじゃないのか?」
「そう……だったら期待外れ」
「期待外れだ?勝手に変な世界に連れてこられてるんだぞ、それに期待外れもクソもねえだろう」
俺はそこまで言っておかしいことに気づく。
確かにリーヤは何かを知っているような感じだった。
だけど、ゲーム内のリーヤと雰囲気は同じだと思っていたというのひ、今は全くの別人だとしか考えられない。
「じゃ、逃げろよ」
「!」
さらには畳み掛けるように、リーヤではない口調でそんなことを言う。
俺はというと、驚いて何も言えない。
「どうした?逃げないのか?」
「お前は、誰だよ」
「はは!今は、そんなことはどうでもいいだろ?選択に迫られてるのはお前なんだからな」
「どういう意味だ?」
「わからないか?それとも理解したくないのか?どうやったって、全員を救えないだろ?」
「何を言って……」
「理解していないのか?したくないのか?」
リーヤはそう言って、悪役のような笑みを作る。
「ガアアアアア」
また、キメラの咆哮が鳴り響く。
先ほどの雷が俺たちに効果的なことがわかったからこそ、同じことをしてくる。
違うところがあるとすれば、雷の威力が少し弱いことだ。
くそ、また範囲攻撃。
守れねえ!
俺は盾を構えて攻撃を防ぐことができるが、他のメインヒロインたちは攻撃をまたもらう。
すでに感電によって痺れていたため、動くことができないため、避けることもできないためだ。
こうなってしまえば、少し前にあった眠らされて何もできなくなるときと全く変わらない。
こんな状況ならば逃げるのも普通だ。
だけど、先ほどリーヤの体を使って俺に煽ることを言った何者かの言葉が頭がグルグルと回る。
逃げる。
普通のことだ。
ゲームなのだから危険になったら逃げるということは当たり前だ。
それが、現実に近いものになっているとはいえ、ゲームだ。
そう、わかっているはずなのに俺はキメラへと盾を構えてダッシュする。
何をしているのだろう。
今の自分をゲームとして画面の向こう側で見ている俺ならば、そう思っていたことだろう。
エロゲーの主人公だから、ヒロインたちを守るのに必死になってバカみたいだな。
そんなことを思ったりもするだろう。
でも、今の自分はどこか違った。
この世界にいた時間がそれなりに長くなっているからなのか、それとも逃げるという言葉に嫌気がさしたのかどちらかだ。
ゲームではない現実で、俺は挑戦することもない人生を送っていた。
実際には何もやってこなかったというべきか……
無難な方向へと進む。
面倒だなとか、挑戦しても時間がかかるだけだなとか、そんなことを考えると、結局はその選択からは逃げるようにしてきたのが俺の人生だった。
面白みはあるのかないのかわからず、唯一の何かしているといえば、ゲームだった。
そんなゲームでも、よくよく考えれば何もかもを手探りでやるわけではなく、攻略を見ながら進めることが多かった。
普通のことだと思うだろうが、それは面白いというよりも、作業へとなっていた。
ゲームだから、いつかは作業のようになるのは仕方ないと言い聞かせていたが、それでいいのか?とは、確かに考えたことがあった。
戦いにだって、勝てなければリセットし、勝てるようになるまでレベルを上げてから戦う。
もしくはキーアイテムなどを駆使して戦う。
普通……
日常においても、ゲームにおいても普通だ。
だけど、このエロゲーだけは何度もやってきた。
未だに見つからないルートを探して周回するというのは、バカなのかもしれなかったが、誰も知らない景色を見ることができる唯一の方法として、俺は挑戦を繰り返していた。
キメラに対してどうするのか?
▶戦う
逃げる
自分の中に選択肢があるというのなら、決まった。
戦う、だけだ。
盾を構えると、キメラに向かって走る。
こんなモンスターくらい。
俺は何度も倒してきたのだから!
盾。
このエロゲーでは、主に攻撃を防ぎ、さらにはカバーなどを使ってダメージを調整することで、主人公やメインヒロインたちの制服がどれだけ破けるのかを好みに仕上げることができるものだ。
よって盾とは紳士に好まれる装備となっているが、攻撃の威力についてはそこまで強くない。
だったら、キメラを倒すことなどできるはずがない。
普通なら無理だ。
じゃあ、普通じゃない攻撃を使えば倒せるのか?
これも答えはいいえだ。
普通なら倒せない、普通じゃなくても倒せない。
なぞなぞのようになっているが、実際にそんなものだ。
「お前が誰かはわからない。だけど、俺のやり方を真似するなよ」
「はあ?何を言ってる?」
リーヤの中にいた男は笑いながら、それを見た。
※
「なんだったんだ、あれは!」
リーヤの体を乗っ取っていた男は焦りながら声を荒げる。
何が起こったのか、理解するのに時間がかかった。
このゲームは、男が本来のゲームを作り変えたものだ。
だからこそ、こんな序盤に理不尽と呼べるキメラと戦うことになる。
こうすることで全ての主人公と、それに選ばれたヒロインは敗北し、さらには男が望んだとおりに壊れていく。
今回もそうなるはずだった。
だが、このゲームにあるとされていたハーレムルートをまさか引き当てる。
それだけでも予想外ではあったが、壊すことができなかった最後の一人であるナオを壊せると男は喜んでいた。
「煽ったのがいけなかったのか?」
だが、男はああすることで、これまでと同じようにヒロインたちを見捨てて逃げていくと考えていたが、違った。
今回の主人公になった男は、盾を構えたままキメラへとツッコんだ。
そんな主人公をバカにしたかのようにキメラは突進をすると、そこから何を思ったのか、主人公は盾を放り投げた。
すると、キメラは何を思ったのか、突進の向きを変えた盾に向かっていったのだ……
最初はどうしてそうなったのか理解できなかったが、男はゲームの仕様を利用していた。
この世界は結局のところ、男がゲームと現実を掛け合わせた世界なため、ゲームの要素も多く残っている。
特に攻撃や防御で使う装備を使うときには、ゲームのときにはいろいろと制約があった。
例えば、ヒロインたち武器で攻撃をしてくるとき、どうやって防御するのかをモンスターは考える。
そして、逆もしかりで、モンスターが攻撃をするときには、どうやって相手にダメージを与えるかを考える。
よってモンスターは思ったのだ、向かってくる主人公へ突進をしてしまえば衝突のダメージで盾ごと破壊できると……
でも、主人公は動きを読んでいたかのように盾を放り投げたのだ。
バカなモンスターは、それに釣られて飛ぶ。
でも、着地さえできればいいのではないか?
男だって少しは期待した。
だが、最初のときは主人公の男が攻撃を受け止めたから大丈夫なだけで、モンスターの体重はかなり重いく、さらにはキメラということもあって体はつぎはぎのようなものだ。
よって、耐えられることもなく、キメラは足が砕け動けなくなる。
そこまでを見届けたところで、男はリーヤの体から抜け出した。
「ああ、くそ、くそ、くそ!おかしいだろ!」
そして、男の声は暗闇の部屋で響くのだった。




