キメラは強すぎた
キメラとの戦いには絶対に逃げられないということか……
三度目にして、ようやく俺は覚悟を決める。
ここまで逃げたかった理由というのも、確実にキメラに勝つことができないだろうという考えがあったからだが、結局のところは逃げたところで戦わないといけない。
逃げ続けたところで、現実からは逃げることができない。
そんなことを思い出させるような感じなのかもしれない。
落とし穴に落ちた俺とリーヤ以外の四人はというと、逃げていた。
というよりも、攻撃がどういうわけか届いていない。
「ん……げ……い」(ん……逃げられない)
「だから、やるんだろ」
「そう」(そう……)
リーヤとさらに会話をする。
だけれど、この内容に関しては話したことなど一度もなかった。
キメラと戦わないといけないということしか今はわからないが、仕方ない。
こいつを倒すことでしか前に進めないというのであれば、やるしかない。
危なければ、また全裸になって明日やり直せばいいのだ。
いつものように、体は勝手に動く。
「俺がなんとかしてみせる!」
カッコイイセリフを言っているところ悪いが、俺にはそんな気概などない。
よって言っているセリフのようなカッコいいことは絶対にないのだが、俺はさらに見た目かっこよく盾を構える。
「うおおおおおおお!」
「ぼ……ま」(坊ちゃま)
「ほん……すね」(本当ですね)
「さ……」(さすが)
「やる……ねえ……」(やるじゃねえか)
キメラに追われていた四人はそんな言葉を発しながら、イベントとして間に割り込んだ俺が盾で攻撃を防いだところを見守る。
イベントだからということもあるが、簡単に受け止めることをしている俺のことをカッコいいと少しは思った。
俺もあんな風にできれば、カッコいいだろう。
できないけどな。
イベントなどのシーンは言ってしまえばいいところを見せすぎだ。
こんな無駄にカッコいい場面を見せたところで、俺からすれば恥ずかしいだけだ。
ゲームのキャラがやるのならちょっとはいいなって思うが、中身が俺だからな普通に恥ずかしい中二病にしか感じないのだから、完全に羞恥プレイだ。
そして、盾を構えて警戒している俺の横にマイペースにリーヤが並ぶ。
「おく……」(遅れた)
「い……しろ……たい……ね」(いいえ、むしろナイスタイミングですね)
「え……がで……たく……で」(ええ、さすがですわ。わたくしの魔法で!)
「いい……しゃ……のさ……」(いいや、ここは拙者が剣の錆にする)
「なに……だ……の……ふく」(何言ってんだ?あたいの銃が火を噴く)
「やるぞ!」
全員が横一列に並んだ。
まるで最終決戦に挑むみたいだが、全くそんなわけではない。
でも、戦うことに変わりはない。
イベントが終わって体が自由に動くようになる。
「があああ!」
あのときと同じようにキメラが咆哮をあげると、俺たちに向かって突進を仕掛けてくる。
俺はすぐに前に立つと盾を構える。
「うおおおおおお、おら!」
後ろに押されはするものの、タイミングよく盾をずらすことで多少のダメージは入るものの、完全に防ぎきるよりも多少マシになるこのテクニックは、本来であればさらにレベルが上。
後十は上がらないと使えないスキルであるこれは、パリイだ。
まあ、よくゲームとかでも使うことが多いため、真似をしてみたいとは思っていた。
特に今回のような攻撃の威力が明らかに強いモンスターであれば、余計にこういう少しのテクニックが役に立つと思っている。
「ナオ!」
「うるさいわね。何をすればいいのよ」
「攻撃、通りそうか?」
「ほんの少しならね」
すぐにナオに声をかけると、言いたいことがわかっているようで、すぐに反応してくれるが、あまりいい言葉が返ってきたわけではない。
やはり、俺たちが戦うレベルに達していないように思うものの、始まった以上はやるしかない。
そのことは俺とナオはわかっているが、他の四人に関してはどう声をかけていいのかはわからないが、強敵相手なので、一緒に戦ってもらうことしか選択肢はない。
「リーヤ、頼む」
「ん」
一応言葉を一番多くかわしたことになるリーヤへ声をかけると、リーヤは頷くと槍を構えて俺に近づいてくる。
他の三人は武器を持ってはいるものの、先ほどのイベントの時に見せた勇ましい感じはどこにいったのかと思うほどどう戦うべきか戸惑っているようだ。
欲をいえば、リーヤと同じように近くにいてくれれば守ることもそれなりに可能なのでいいのだが、逆を考えれば、固まってしまうといざというときに逃げることが難しい。
よって簡単に全滅してしまうことだってありえてしまうということもあるため、近づいて来てくれとも言いにくいのは仕方なかった。
そんな中キメラはというと、俺に攻撃をいなされたからか、三度目の戦いだからなのかはわからないが、ゲームにはない動きを始める。
「ぎゃがああああ!」
咆哮とともに、キメラはゴリラの腕を地面に突き立てると、それを使って思い切りジャンプをする。
「嘘だろ!」
あり得ない動きに思わず俺はそう声をあげるが、キメラが飛んで向かっているほうを見て、俺はすぐにスキルを使う。
「カバー」
これによって、リーヤへと向かっていたキメラの前に立つと盾をしっかりと構える。
モンスターが単純な攻撃しかしてこない。
それがゲームのときだけだったことにようやく気付かされる。
「くそがあ!」
俺は悪態をつきながらも、攻撃を盾で受け止めた。
「おおおおおおおおお!」
最初の突撃で、キメラの攻撃を俺がいなしたから、いなせないような攻撃をキメラはしてきたということなのだろう。
モンスターは人よりも大きい。
よって上から攻撃をしてくるというだけで、かなりの威力がある。
突撃であれば最初のように盾を構えながらも横に体を移動させることでかわすようなことはできるが、上からであれば盾がそれなりの重さがあるということもあって、いなすようなことは難しい。
防ぐということができないというわけではないが、最初のようにダメージを抑えてということは確実に難しいことに気付いて俺は思わず悪態をついたのだ。
突撃のときにはほとんど傷つくことがなかった制服がこの攻撃ではそれなりに激しく傷がつく。
それだけで、どれほどの威力があったのかわかった。
ヤバい……
予想外の攻撃と角度のせいで、ジャストガードにならなかったじゃねえかよ。
次はジャストガードをするとしても、後五発も耐えられる気がしない。
「リーヤ、突いてくれ」
「ん……………………………………スピアー」
だが、カバーを使ったことで、リーヤの近くにいれたことで、指示をすることでスキルを使ってくれる。
鋭い突きのこの攻撃は、確かに大ダメージを狙うというものではないが、このような攻撃も効きにくいようなレベル差があるモンスターに対しては、防御を無視する形でダメージを与えることができるものとして、かなり有効だ。
問題があるといえば、発動までにかなり時間がかかるというところだ。
ゲームであれば命中率がかなり低いスキルだったが、現実に命中率を下げようとすれば、攻撃のスピードを遅くしてしまおうと、誰かが考えたのだろう。
スキルを使うまでが、本当に長過ぎたものの、リーヤのスキルはキメラへ突き刺さる。
「ギャギャアアアア」
傷をつけられたことによって痛みが発生しているのだろう。
キメラは、かなりの大きな叫びをあげて、俺の盾を弾くように腕で殴ると距離をとる。
「ナイスだ」
「ん!」
いいダメージに、さすがに褒めておく。
リーヤはほんの少しだけ、声を弾ませて返事をする。
ダメージを与えられただけで、嬉しそうにするなんてな。
「ボサッとしてないで、攻撃をもっとしなさいよ」
だが、そんなちょっとホッとしたタイミングで、ナオの声が響いたため台無しだ。
ナオが言いたいことはわかるが、そもそも俺とリーヤには離れたモンスターを狙うための攻撃はない。
そのため、言われたところでどうしようもない。
まあ、俺だけに言っている言葉ではないのかもしれないが……
ナオが言ったことによって、わちゃわちゃしていた三人の中にいたチカが銃を撃つ。
とはいえ、慌てて撃ったことによって弾はキメラに当たっているものの、そこまでのダメージが入っている感じではない。
それとは対照的にナオは、リーヤが傷をつけた場所を重点的に狙うように攻撃をしている。
こういうところを見ると、やはり俺と同じだということを再認識する。
「俺もやれることをやるか」
ここからやれることというのは、いまのところ一つだ。
タイミングを見ながら盾で攻撃を防ぐこと。
これだけはしっかりとやらないといけない。
「もう、硬すぎんのよ」
キメラに何度も短剣を投げつているものの、倒せる気配がなくてナオも悪態をつく。
まあ、このキメラが俺の思っている通りであるのなら、まだまだ倒せない。
傷をつけ、さらには執拗にナオがそこを狙うことによって、常に傷を負っている状態になり、ちょっとずつではあるが、キメラが動くたびにダメージが入っているはずだ。
でも、油断はできない。
キメラはすでにゲームと違う攻撃をしてきたのだから……
キメラはというと、両腕で傷口を庇うようにナオの短剣から体を守っている。
このままなんとか押し切ればいいが……
最低でも、少しは休憩できるだろう。
俺は油断していた。
キメラは、それをわかっていた。
「ヤバい!」
ナオの焦った声が聞こえる。
そのヤバいという意味をすぐにわかる。
先ほどまで当たっていたはずの短剣が雷によって弾かれた。
「マジかよ」
だけど、驚いている時間はなかった。
「ガアアアアア!」
キメラから大きな咆哮が放たれるとともに、それと同時に雷が周りを支配する。
範囲攻撃だと!
俺は、その雷のヤバさを理解したと同時にどうにもできないが盾を構える。
「きゃああああ」「くうううう」「バチバチします」「くそがよ」「しびれる」
当たり前だが、守れたのは自分だけだった。
他の五人はというと、雷によってダメージと状態異常、感電をもらって動くことができないはずだ。
一瞬で劣勢になった状況を見て、俺は今日は勝てないと気持ちを逃げることに切り替えたのだった。




