暴走するもの
「ねえ、これは何?」
「俺にだってわからねえよ」
イベント的な会話が終わり、速攻でナオに絡まれる。
何故何かあれば、俺に文句を言うのだろうか?
俺だってわからないことが多くあるというのにだ。
「ほんとに?」
「さすがに、こんなときに嘘はつかねえよ」
「それならいいんだけど」
どこまで信用がないのかはわからないが、すごい疑いの目を向けられる。
本当に知らないのに、どうしろと?
そもそも、こんなに速くモンスターが出てくること自体予想していなかった。
「何が出てくると思う?」
「わからないわよ、そんなの……」
「だよな」
お互いにこの世界を知っているはずなのに、わからないことが起こってしまう。
確かに現実として考えれば、予想外のことが起こるのが普通なのではある。
だが、ゲームの世界ですらも、そうなってしまうのはストレスでしかない。
俺とナオが先行する中で、後ろの四人は何かを話すこともなくついてくる。
最初は、まあNPCだからなと思っていたが、少し違和感を感じていた。
確かにゲームでは移動中に会話などしないが、だからといってゲームが現実になった今。
完全に会話をしないというのは逆に違和感だった。
そうは言っても、ここで何か話そうか?
なんてことを言い出すこともできないため、俺はチラチラと気にする程度だった。
「ねえ!」
「なんだよ」
「嫌な予感しかしないんだけど」
急にナオがそんなことを言い出す。
嫌な予感とは曖昧なとは思いはするが、実際に俺も少しは感じていたことではあった。
そして、よく考えるとすぐに理解する。
モンスターに出くわさない。
これについてはあり得ない。
ゲームであっても、ボスと呼ばれる存在に出会うまでに、普通のモンスターたちと戦わされる。
そこで消耗させられるからこそ、ボスと戦うのか、また違うタイミングにするのかなどを選択することになるからだ。
でも、今回はまるで戦うことが前提条件とされているようだ。
今引き返せば、エロティックタワーから出れて、さらには勝手にゲームがクリアされないか?
なんてバカなことを考え始めたところで、体の自由が利かなくなる。
「何かいるな」
「ぼ……きを……く……い」(坊ちゃま、気をつけてください)
「ああ」
倍速の会話とともに、警戒しろと言われているはずなのに高速で歩きだす。
確かに足音などはたてていないので、いいのかもしれないが、逆に不自然だった。
ある程度そんなふうにして進んでいったが、何もいるようには見えない。
すると、後ろからチカが前に出る。
「あた……えを……な……る……と」(あたいに前を任せな、スキルディスタント)
チカが使ったスキルは、俺の記憶が正しければ、最近レベルアップしたことで手に入れたスキル。
遠くまで見えるもので間違いはないだろう。
ということは……
「な……るぞ」(なんかいるぞ)
今核心に迫る何かが頭によぎった気がしたが、すぐに◯の声で現実に戻される。
何かいるという言葉で、俺たちはゆっくりと近づいてくる何かがわかった。
キメラかよ……
そこにいたのは俺とナオが二人で戦うことになった結果逃げることにしたモンスターだ。
一応少しは装備を新しくしたため、少しだけ戦える可能性があるかもしれないが、少しだけだ。
ちゃんと戦えるかと言われれば、絶対に無理だ。
「キメラだ」
「ぼ……きの……もん……ね」(坊ちゃま、昨日逃げたモンスターですね)
「ああ……まさか、もう一度戦うことになるとはな」
だが、俺から発せられる言葉は、戦う前提だ。
やりたくねえ。
そうは思っているものの、今度も逃げるとなると、また全裸になることは確定だ。
前回のようにうまくいけばいいものの、そうでなかった場合。
誰か……
というよりも俺が犠牲となるのはいうまでもない。
強制的に俺たちとキメラの戦闘が始まってしまうのだった。
「テンテーン、タラタラー……」
「何を口ずさんでるのよ」
「仕方ないだろ、戦闘の音楽みたいなもんだ」
すでに現実逃避気味な俺に対してナオは呆れている。
キメラと二度目の戦闘。
どうしてこうなってしまったのか……
一度負けることがわかって逃げているのだから、見逃してくれてもいいじゃないかと思ってしまう。
「で、どうやって戦うわけ?」
「どうもこうもない。普通に倒すしかないだろ」
「また、全裸になって逃げれないの?」
「逃げてもいいが、明日も同じことにならないか?」
「うぐ……確かに……」
昨日の今日でこんなことになったのだ。
それを考えると、今日逃げ切れたところで明日も同じようなことが起こる可能性が高い。
全裸になれば確かに逃げられるかもしれないが、言ってしまえば応急処置のようなものだ。
「ねえ、まだ襲ってこないけど」
「俺たちが近づく必要があるんじゃないのか?」
「そういうこと?」
ただ、すぐに始まると思っていた戦闘は始まっていない。
これはたぶんにはなるが、俺たちに装備を整える時間というものを与えているのだろう。
よって近づけば、戦闘が始まることにかわりはないが……
では、後ろに逃げればいいと考えるかもしれないが、昨日のように見えない壁があったら難しい。
「覚悟を決めろよ」
「うるさいわね、わかってるわよ」
俺とナオがそんなことを言い合いながら、キメラに近づこうとする。
他の四人に関しては、NPCだからか、何も話さず後ろからついてくると俺たちは考えていたときだった。
「ん、ああああああ!」
「なに!?」
「リーヤ!?」
普段からは考えられないくらいの大きな声とともに、槍を構えたリーヤが突撃していく。
「くそ」
俺はすぐに盾を構えると、リーヤに続くようにしてキメラへと向かっていく。
何がどうなってやがんだよ。
「ゴオオオ」
キメラが咆哮するとともに、魔法が放たれる。
雷の魔法は、一直線にリーヤへと向かっていく。
くそ、タイミングを合わせろ!
「カバー」
俺はスキルを使って、リーヤへと向かっていたキメラの魔法を盾で受け止める。
それと同時に前進をやめないリーヤに後ろから押された俺は、一瞬体が潰れそうだと感じながらも、なんとか攻撃を防いだ。
「邪魔しないで」
「リーヤ!」
だが、すぐに前にいた俺のことをリーヤは押しのけるとキメラへと向かっていく。
「いてえ……」
押しのけられた俺は、さすがに体の痛さで呻いた。
止まらないリーヤに、どうするべきかを考えていたところで、横をナオが駆け抜けるが、その速度は普通ではなかった。
ゲームでは、確か攻撃の回避率を二倍にあげるスキル。
その名もアクセルだろうということはわかる。
それを使ったナオは容赦なくリーヤの足を払いのける。
「ふぶ……」
前のキメラしか見ていなかったリーヤは、前のめりに盛大にコケた。
「坊ちゃま!」
「人使いが荒いんだよ、カバー」
「ギャアアアアア」
言われるがまま俺はスキルを発動して前に躍り出ると盾を構えて攻撃を受け止める。
二つの攻撃を防いだことで、反動によって俺の服は少しではあるが破れてしまう。
前よりも強い盾のおかげで服の破れは最初に戦ったときよりもマシにはなっている。
「おい、結構きついぞ」
「盾なんだから、攻撃は防ぎなさいよ」
「防ぐくらいはするけどな。何度も無理だぞ」
「わかってるわよ。そもそも、何でこの子は向かっていくのよ」
「わからねえよ」
ズッコケたことで、一応の歩みは止められたが、リーヤの視線はキメラに向いたままだ。
まるで、恨みを持っているかのようだ。
どういう設定だ?
わからねえ……
もう、いろんなことが大渋滞してきてるんだよ。
それでも、リーヤはまた立ち上がるとキメラへと向かって行く。
「ああああああ!」
「ちょっと」
「ああ、くそ!」
どうするべきかを考えた結果、俺はリーヤの前に立つ。
向かってきたリーヤの槍が体を掠めたところで、俺はその槍を手で抑えたのだった。




