変化するエロゲー
「今日はまずは何をするか……」
昨日は散々な目にあったため、俺はナオに見つからないようにして、歩いていた。
あの後結局なんとか逃げ切れたものの、さすがに怒りが収まるまでは近づかないほうがいいだろうと考えた俺は、今も学園内をコソコソと歩いていた。
「何してるの?」
「おおって、リーヤか」
「ん」
こそこそとしていた俺に話しかけてきたのは、少し気怠げなリーヤだった。
ほんの少し子供っぽい見た目とダボッとした服装ながらも、下から覗き込むように見る仕草は、さすがはエロゲーのメインヒロインだけあって、かなり可愛い。
「ナオが探してた」
「ああ、俺のことをか?」
「そう……頑張ってた。悪いことした?」
「悪いことっていうか、不可抗力だ」
「そう……ちゃんと話し合ったほうがいい」
「いや、殴られるだけだぞ?」
「でも……こ……前……に」
「うん?なんて?」
眠そうではあったものの、普通に話しをできていたはずなのに、急に何を言ってるのか聞き取りにくくなってしまった言葉に、俺は聞き直す。
「なんでもない……眠くなってきた」
だけど、何を言ったのかはわからず、先ほどまでの雰囲気と少し違って見える。
まるで、少しの間だけ人が変わったようだった。
「それでナオはどこにいたんだ?」
「あっち」
リーヤがそう言って指さす方向ではナオがすでにいた……
「見つけた!」
「やべ」
俺はなんとか逃げるべく走りだそうとするが、いつの間にかリーヤに服を掴まれていたようだ。
「謝る?」
「ああ、くそ!」
「わあ、力持ち」
俺は彼女をひょいと持ち上げるとそのままお姫様抱っこをする。
モンスターと戦うときの恐るべきパワーはどこから湧いているのかがわからない程度には、リーヤは軽い。
ここだけなら本当にギャルゲーとかエロゲーのワンシーンなんだよな。
「こら!待て!」
中身がこの世界の住人ではない俺たちが追いかけっこをしていなければ……
俺はそんなことを考えながら、ナオから逃げ回る。
走る速度は、盾を装備できる程度には筋肉がついている俺のほうが速く、時間をかければ逃げ切れそうだが、時間がかかることは明白だった。
しょうがねえ……
こうなったら、ゲームの知識を活かすか。
俺は、いくつかの場所を思い出す。
その場所というのは、学園の中にある、とあるスポットだ。
あそこがいいな。
ナオの視界から外れたタイミングで、俺はその場所へ隠れた。
二人が入れるくらいではあるが、そこまでも大きくはない場所だった。
「おー、密着?」
「すまない我慢してくれ」
「ん……」
隠れたのが、あまり話しをしないリーヤとでよかったと思いながら俺はナオが通り過ぎるのを待った。
案の定というべきか、俺たちに気づくこともなく足音は遠ざかっていく。
完全に聞こえなくなったところで、俺はゆっくりと隠れていた戸棚から抜け出す。
「いなくなったな」
「みたい……あなたは大胆?」
「うわああ、すまない」
「いい……こういうことは新鮮」
戸棚の狭いところに慌てて隠れたからか、俺はどうやらリーヤを押し倒すようにしていたらしい。
テンション的に、リーヤは気にしていないようで、どちらかというと俺のほうが照れてしまった。
こういうときに慌てて離れると突っかかって余計にお互いの体が絡まるなんてことがよく起こるのをわかっているからこそ、慎重にやらなければならない。
「よし……」
「思ったより慎重?」
「思ったよりってなんだよ。俺は慎重だぞ」
「慎重なら、連れ込まない」
「ゔ……確かにな」
無表情ながらも的確に俺の言葉でおかしい場所をついてくるのはさすがリーヤといったところだろう。
離れたところで、リーヤは不思議そうに俺のことを見ている。
「どうかしたのか?」
「ん?今から何をするのか、少し気になった」
「気になるって、俺が何もしないってこともあり得ないか?」
「ない。だったら、ナオに捕まってる」
「だよな……」
逃げ回っている理由があるということには理由があるというのを、リーヤは理解していた。
まだ出会ってそんなにたっていないとは思うが、こういう勘が鋭いというのは、ゲームのヒロインだからなのだろうか?
いや、気にしても仕方ないか……
「じゃ、行くか」
「ん」
俺は目的の場所に向けて進む。
「ここ?」
「ああ」
「普通の場所」
「そうか?」
「ん」
リーヤが普通の場所と言ったこの場所というのは、学園内にある一つ。
購買だ。
ゲーム内であれば、多くのアイテムが買える場所であり、さらには素材などを持ち込むことで新しい装備を作ったりできる。
今更ながらに、このゲームにおいての装備について説明を簡単にすると、防具というものは制服が固定だ。
そこに腕輪というものが存在しており、これによって見えないバリアというものを制服に纏わせることで防御力としている。
これがなければ、モンスターの攻撃を食らっても制服が破れることもなく、一撃で気絶することになるだろう。
後は、首飾りに耳飾り、後は足飾りと武器となっている。
そう、見た目に関しては制服以外に変更することはない。
課金することによって衣装を変更することも可能ではあったが、結局衣装が変わったところで重要なシーンには反映されないことから、俺は意味がないと一つも買っていないこともあり、他を知らなかった。
「今回は、武器と首飾りを買いたいと思ってな」
「無難」
「仕方ないだろ、金がないからな」
言葉の通り、全滅しないために前回全裸にされたため、制服を修復するために金の大半を使ったため、手持ちは多くない。
素材を売ったところで、レアな素材。
例えば、あのときのキメラのような存在になるが……それを倒していないため、素材に関してはあまり大した金額にならない。
「売っても、やっぱりこれっぽちだからな」
「腕輪買わない?」
「買わないんじゃない、買えないんだ……」
リーヤが言う通り、最優先で買うべき装備といえば、腕輪になるがそんなものを買えるお金はない。
「うちが買う?」
「いや……それは……さすがにやめておく」
「そう……」
かなり嬉しい提案をされたが、リーヤに出してもらうのはさすがにダメだ。
少し残念そうにしているが、リーヤとチカ、ナオに関しては戦力として数えているため、俺の装備よりも自分のものにお金をかけてほしいのだ。
むしろ、奢ってもらうのであれば、あのポンコツ二人だ。
俺は店員に話しかける。
「きょ………な……か」(今日はどんな御用ですか?)
▶買い物をしにきた
ものを売りにきた
ここは、これだな。
素材に関しては、入口のところですでに売っていたため、ここでは買い物だ。
値段的に選べるのは多くない。
ま、必要なものだけを買うだけになるよな。
オンラインゲームとかなら他のプレイヤーから買ったり売ったりできるのだが、一人用のエロゲーにはそんなものはないため、買えるものの中に変わったものはあまりない。
いくつかを買ったところで、俺は買い物を終える。
「終わった?」
「ああ、終わったぞ」
「どうする?」
「ああ、これからか」
「ん」
リーヤに言われてもこの後についてはあまり考えていなかったため、戸惑う。
普通に考えれば、装備も整えたところでエロティックタワーに入るのだが……
「一ついいか?」
「ん?」
「ちょっとやりたいことがあるのを手伝ってくれないか?」
「楽しいこと?」
「ああ」
多分楽しいことだ。
俺がやりたかったこと、それは伝説の武器を手に入れるためにリズムゲームをすることだ。
「何、これ?」
「ま、ちょっとしたゲームだ」
「ん、ちょっと面白そう」
「じゃあ、一度やってみるか?やり方はだな……」
俺はやり方を説明する。
といっても、これに関してはよくあるものと一緒でタイミングよく、画面に光る場所を足で踏んでいくというものだ。
「じゃ、やるぞ!」
「おー」
数分後……
「ぜえぜえ……」
「大丈夫?」
「全然大丈夫じゃないな。そもそもリーヤはどうしてそんなに上手いんだ?」
「ん?わからない、でも得意」
ゲームでやっていたことを現実でやってみたらできなかった。
そんなことは確かによくあるが、ここまでできないと思わなかった。
「難しい?」
「俺には、そうみたいだ」
「そう……でも、頑張ってた」
「ああ、ありがとう」
俺がこれだけ励まされていることでわかる通り、リーヤはリズムゲームを完璧にこなしており、俺は散々だった。
なんでだよ……おかしいだろ、こんなの……
どうしてゲームの中に収録されていたリズムゲームとは全くの別物なんだ!
俺は心の中で憤る。
ここまではゲームと忠実なのかは知らないが、知っているような感じであったが、このリズムゲームだけは全く知らない曲だった。
まあ、実際にはオープニングの曲だったが、俺はほとんど見ることがないし、早送りのせいでわからない曲になっていた。
「まだやる?」
「いや、今のところは諦めておく」
「そう」
少しリーヤは残念そうに言葉にする。
リーヤの表情は確かにわかりにくい。
だけど、そこはゲームを何週もしてきた俺だ。
これくらいのことはわかる。
俺はエロゲーの世界だから、こんなことくらいはできるだろうと、手をリーヤの頭にやるとぽんっと優しく叩く。
「またやるか」
「ん」
ほんの少し嬉しそうな声を聞きいた後、俺たちはやることもなくなったのでエロティックタワーに行こうとする。
「行くの?」
「ああ、リーヤがいてくれるからな。大丈夫だろ」
そうして、リーヤがよく昼寝をするのに使っている木の前を通ったときだった。
「あ……ねる」(あなたも寝る?)
「急にどうした?」
「がく……どう」(学園、面倒)
「それは、そうかもしれないが」
「だ……る」(だから寝る?)
▶寝る
寝ない
本を見る
急に体の動きがいつものようにおかしくなったと思ったら、会話からの選択肢が出てきた。
いつものようにこういうときに出てくる本。
だが、今回に限っては必要ないことだった。
だって、この選択肢を知っているからだ。
これは、一つ好感度が上がったことによって生まれる選択肢だ。
どうしてとか、いつの間にとか、わからないが、物語が進んでいることに変わりはなかった。
リーヤのルートに入ったのか?
俺は、考える。
だけど、そのタイミングだった。
リーヤの目から一筋の雫が零れ落ちたのは……
それを見た俺はすぐに選択肢を選ぶ。
寝る
▶寝ない
本を見る
まだ先に進めてはいけない。
俺はそう感じたのだった。




