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エロゲーは当倍速で  作者: 美海秋


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15/16

本来のラッキースケベはこれ

「逃げきれたか?」

「だい……と……ます……あま」(大丈夫だと、思いますよ、坊ちゃま)


 高速で走った後に、俺たちは後ろを向く。


 どうやら言葉の通り逃げ切れたようで、キメラが追ってきている感じはしない。


 死ぬかと思っていたから本当によかったが、今の不満を言うならば、俺の服装をなんとかしてくれだ。


 当たり前ではあるが、先ほどの戦闘がなくなったというわけではないため、盾を構えていなければ、ナオには全裸が見えてしまう。


「おき……をよ……い……ませ……ちゃ……」(お着替えを用意しないといけませんね、坊ちゃま)

「そうだな。学園では、メイドとしての役割をする必要はないはずだったのに、すまない」

「い……ぼ……がが……いる……し……から」(いいえ……坊ちゃまが頑張っていることは知っていますから)


 ナオが何を言ってるのか、わからないが、確かどちらかが全裸になって逃げた場合。

 いつも同じ会話が繰り広げられていた気がするので、今回もそういうことなのだろう。


 会話が終わったところで、俺たちの体は解放されたようで、自由に動くようになると、すぐにナオが詰め寄ってくる。


「ちょっと、私と同じじゃないって嘘ついてたでしょ!」

「仕方ないだろ、隠したほうがいいと思ったんだ」

「はあ?なんでよ、協力したほうがよかったでしょ!」

「こき使おうとしたいだけだろ!」

「そ、そんなことないわよ」

「目を逸らすとかわかりやすすぎるだろ」

「し、しょうがないでしょ!嘘つくの苦手なの」


 だったら、嘘などつかなくていいのでは?と考えるが、さすがに口にはしない。


 面倒な性格をしてやがる。

 とは思うものの、他のヒロインたちを思い出すと変わらないかと納得する。


「今失礼なここと考えたでしょ」

「そんなことはないぞ」

「ほんとに?」

「本当だ。そもそも助けてやったんだから、疑うなよ」

「はあ?」

「はあって、お前がコケるからあのキメラと戦うことになったんだからな」

「あんなの、不可抗力じゃない」


 ナオがそう言うのは理解できるが、それでもやったことにかわりはない。


「でも、助けたのは事実だろ?」

「それを言われたら、何も言えないじゃない。でもねえ、助けるならもっとまともな助けかたをしなさいよ」

「しょうがないだろ、逃げるためにはこうなるしかなかったんだ」


 未だに全裸の俺に対して言っているのだろうが、そもそも良い手がなかったから仕方ない。


「これが一番最善の手だったんだから、仕方ないだろ」

「最善って……」

「じゃあ、そもそもお前はこのゲームのことをどれだけ理解してんだよ」

「まあ、それなりにね……って、このゲームが発売されてもうかなりたつのよ、普通に考えて覚えてるわけないじゃない!」

「だったら、俺の全裸についてとやかく言う必要はねえよなあ!」


 俺は全裸で胸をはる。


 自信満々な態度ではあるものの全裸だ。

 普通に考えれば完全な変態ではあるが、今の状況では違ったようだ。


「く……変態にここまでの正論を言われるなんてね」

「だから、変態じゃねえからな。って、ずっとこんなくだらないことを言い合ってる暇じゃねえだろ」


 俺は会話を終わらせると周りを見渡す。

 当たり前ではあるが、見たところで他の誰かは見当たらない。


「なあ……」

「なによ」

「どこにいるかなんて知らないよな」

「知るわけないでしょ……そもそも知ってたら、全裸の男なんて放っておいて合流すると思わない?」

「確かにそうだな」


 使えないな、俺は次へ向けて考える。


 なんでこう、お互いに棘のある言い方ばかりしているのかは、正直なところわからない。

 だが、なんとなく負けたくないという思いが二人にはあった。


(何よ、結局はこれまでと同じで、他のヒロインに押し付ければいいだけじゃない。こんなことになったからって戸惑う必要ない)


 ナオはそう思いながら、主人公の隣に立つ。

 どうしてか?

 簡単である。


 尻と、時たま見えるあれを見なくてもいいようにだ。


 二人はこうして、四人を探すためにエロティックタワー内を歩くことになった。

 そして、ここからがこのゲームの本当の始まりだということを、二人が気づくのはさらに後であったが、歩みを止め……


「走るなよ」

「うるさいわね。そっちこそ、さっさと走りなさいよ」

「お前、キメラと戦ったときに俺がいかに頑張ったのかを見てないのか?」

「見てたわよ。全裸になったところわね」

「いや、そこだけじゃないだろ」


 あれだけ頑張れば、さすがの俺といえどキツかったということにする。


 ま、実際には倍速のせいでこうなってしまっただけなのだが、それについては隠すのが正解だ。


「で?最初迷ってたのに、発見できるのか?」

「はあ?当たり前じゃない」


 ナオはそう言うものの、視線は合わない。

 嘘をつくのであれば、もう少し隠してくれとは思うが、正直なのはいいことでもあるのであまり強くは言わない。


 実際には走りながらも、何度もこちらを確認してくるので、間違ってないかは不安なのだろう。


「そんなに急いでも、どこにいるのかわからなければ一緒だぞ」

「わかってるわよ、そんなこと」

「だったらゆっくり行くぞ、モンスターに会ったら面倒だ」

「そ、そうね」


 ここにいるのは俺たち二人だけだ。

 それのおかげなのか、それとも全裸のおかげなのかはわからないが、それなりに騒いでいたはずなのにモンスターが襲ってくる気配はない。


 俺たちは警戒しながらも歩き出す。


「そういえば、聞いてもいい?」

「なんだ?」

「どうして全裸になる必要があったわけ?」

「決まってるだろ、逃げるためだ」

「逃げるため?」

「そうだ。キメラと戦っているときに見えない壁のようなものがあったせいで逃げられなかっただろ?」

「うん」

「あれを解除するためには、必要な処置なんだ」

「ふーん」


 聞いておいてどこか興味なさげに返事を返してくるのは、さすがに酷いと思わないのだろうか?

 だが、そんなことを愚痴っても仕方ない。


(だったら、言ってくれればよかったのに、そしたら……いや、あり得ないか)


 ナオは何かを考えているのか、上を向いている。


 そのタイミングだった。


「ひゃああああ」


 声が聞こえた。


「坊ちゃま」

「ああ」


 ナオと顔を見合わせた俺たちは声のするほうへと向かって行く。


 そこで見たのは、トレントに捕まった四人だった。

 声を上げたのは、どうやら一人だけ眠っていないカナが剣を振り回しているが、ブンブンと振っているだけで全く当たる気配はない。


「はあ……」

「ナオ」

「わかってるわよ」


 俺たちは四人を助けた。


 こうしてなんとか合流できた俺たちは、キメラのことと全裸のことを質問されたのだ。


 六人そろった俺たちは、さっさとこのエロティックタワーから出たのはいうまでもない。


「終わったな」


 エロティックタワーから出た俺はしみじみ言葉にした。

 本当に終わった。


 今日頑張ったお金がほぼゼロになったからだ。


 どうしてなのかと言われれば、制服が全て破れてしまったせいだ。

 制服が多少破れたところで、そこはゲームなので、簡単に直るし金額もそれほど高くない。


 だけど、制服が全部なくなるほどのダメージをもらった場合には、制服を作り直すためにかなりの金額が必要だからだ。


「問答無用である財産のうち九割を持っていくとか……ゲームのときと一緒なのかよ……」


 嘆いたところで現実は変わらない。

 俺はとぼとぼと新しい制服で寮へと戻るべく歩いていると、背中を優しく叩かれる。


「なんだ?」

「ま、一応助けられたから、これ……じゃ」


 叩いたのはどうやらナオで、何かを渡すとさっさとその場を去って行く。


「ふべ」


 だが、そんな声とともにズッコケたのを見てしまった。

 性格はあれなのかもしれないが、盛大にこけたせいでパンツが露わになってしまったのは、さすがドジっ子ヒロインだろう。


 立ち上がるとすぐに俺のほうを向く。


「見たでしょ!」

「やべえ」

「こら、待ちなさい」


 俺は慌てて逃げだす。


 そのタイミングもらったものを見たが、封筒だった。

 中には少量ながらもお金が入っている。


 ふ、やっぱりいいヒロインってことなのか?


「待ちなさい!」


 だけど後ろから聞こえるのは、本気の怒り声。

 とはいえ、倍速ではないためエロゲーにありがちなラッキースケベイベントで体のどこかがなくなる感じはしない。


 うん、これぞエロゲーって感じだな。


 俺はそんなことを思いながら、捕まらないように走る。



 ※



「寝みい……」


 いつものように酒瓶を口にくわえながら言葉にすると、机に広げていた報告書に目を通す。


「いろいろ前途多難だろうが、ようやく光が見えたな」


 書かれている内容を読んだ結果、これまでとは違うようだということはわかる。


「全員のルートに入ったんだ。できることなら、全員を救ってくれ」


 我儘だということはわかっていながらも、女性はそう言葉にする。


 それほどまでにこれまでの結果というのは、うまくいっていない。

 いや、本来の計画通りではないというべきだろうか?


 だけどようやく見え始めた光。

 どうなるのかを見届けるしかない。


 女性は笑うと、残り少ない酒瓶を呷るのだった。

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