男の全裸に需要はあるのか?
「すみ……ぼ……あ」(すみません、坊ちゃま)
「気にするな。こういうときもある」
いや、怒れよ。
後、ここはすぐに尻から離れるんだったら、もう一度逃げればいいだろ!
そうは思うものの、ゲームだと思い通りいかないのが当たり前だ。
現実でも理不尽なことは確かに起こる。
でも、でもだ……俺の足は戦える状態じゃないんだよ!
油断していたといえば、倍速へと急に移行したため、ものすごい速度で走って逃げていたのだ。
普通では動くはずもない速度であったために、俺の足はというと急激な筋肉痛になっているのか震えている。
強敵に対して武者震いしているようにゲームであれば見えるかもしれないが、現実に足が震える状況ではほとんどの場合疲れているだけだ。
だけどこうなった以上は、倍速のせいですでに満身創痍になってしまっているとはいえ、戦いは避けられない。
「やるぞ!」
「わ……た……ま」(わかりました、坊ちゃま)
そして、戦闘が始まる……
「って、おかしいだろ!」
「うるさいわね。やるしかないでしょ。こんな見たことがないモンスターくらい、さっさと倒すしかないじゃない」
が、ここに会話が二つしかないこともわかる通り、どういうわけか戦闘が開始したというのに、いるのは俺とナオだけだ。
他のやつらというのは、逃げたというのだろうか?声も気配も感じない。
これじゃ、俺とナオのために用意されたイベントみたいじゃないか?
すでにナオとのルートに入ったのか?
「がああ!」
だけど、考えている暇などないと言わんばかりに、キメラが咆哮を放つと戦いが始まる。
その脚力で向かってくると、ゴリラの大きな腕で突進してくる。
「うおおおおおおおお!」
俺は盾を構えると攻撃を受け止めるが、レベルがあまりにも違いすぎるせいでこれまでのようにタイミングを合わせればダメージを受けなかったが、今回ばかりはそうはいかない。
俺の制服が少しびりびりと破れる。
女子ならまだしも、男の制服が破れても、エロゲーなのだ。
誰も求めてはいないことだ。
「すげえ威力だ」
「みたいね。むしろよく防いだじゃない」
「ああ」
正直なところでいえば、防げるかどうかはわからなかったが、これもレベルが先ほど四に上がったときに覚えたパッシブスキル。
ジャストガードによるものだ。
タイミングよく攻撃をガードすることで、自分とレベルがそれほど離れていない場合であれば、今までもなんとかなっていたが、今回のように明らかに強い相手となれば、スキルがなければ服が破けるだけならまだしも、持っている盾までもが破壊されてしまう可能性も十分にあった。
だから戦いたくはなかったんだよ。
一撃をなんとか耐えたものの、今度は足だけではなく体すらもがくがくと震えてしまっている。
「ゴオオオ!」
そんな俺の状態がわかっているかのように、キメラは次とばかりに雷の魔法を放つ。
この攻撃は盾で防ぐことは難しい。
よって、俺がとれる行動は一つしかなかった。
「カバー!」
本来であれば近くにいるヒロインを助けるためのスキルではあるが、スキルによって高速で体を動かすことによって、普通では避けることができないはずの魔法は外れる。
「ふーん、やるじゃない」
「関心してないで、なんとか攻撃をしてくれ!」
「わかってるわよ。でもねえ、嫌な予感がするのよ」
ナオはそう言いながらも、短剣をキメラに向けて投げる。
その勢いというのは、先ほどまでよりもさらに速いというのを見るに、新しいスキルを覚えたということは確実ではあったが、向かっていった短剣はシュッと音が聞こえるくらいで、確実にキメラに直撃したというのにダメージが入っている感じがしない。
「まじかよ」
「だから、嫌な予感がするって言ったでしょ」
レベル差のせいによってダメージがほとんど入らない。
なんとなく予想はしていたものの、事実として突き付けられると、むしろ足手まといであった他のヒロインたちがいなくてよかったかもしれないと考えてしまうほどだ。
とはいえ、今のままでは絶対に倒すなんてことはできないこともなんとなくわかっている。
「ダメージが通ってないんじゃないか?」
「見たらわかるでしょ、その通りよ」
「逃げることはできないのか?」
「できるなら、とっくにやってるわよ」
ナオはそう言って、後ろに向かって短剣を投げると、何か見えない壁のようなものに阻まれた。
逃さないといわんばかりのものだ。
「だよな……」
また急にゲーム要素がでてきて納得はできないが、諦めるしかない。
できないということをわかっていていても、ナオに聞いたのは……何か一つでもいい案がないかと思ってだ。
ゲームであれば出てくるタイミングも、好感度が上がってからでしかなく、こんなタイミングで戦うことになるとは思っていなかったため、対策もない。
であれば、このゲームを現実として十回はやっているというナオであれば、何か変わったやり方で攻略の糸口があるのではと聞いたが、会話の通りないようだ。
どうする?
状態異常が使えれば奇跡が起こせるかもしれないが……
かなり強いキメラとはいえ、簡単に倒せる手段がないわけではない。
その手段というのは、状態異常のアイテムだ。
このゲームにおいては、敵は状態異常の魔法を使うくせに、俺たちは使えないという設定だ。
そのかわりとして、状態異常にできるアイテムというものは存在している。
かなりの貴重なアイテムなため、手に入るのも知っている限り、まだ先だ。
今手に入るわけがないものを気にしても仕方ないか……
俺は、このキメラを倒すというのを諦めるしかないと早々に見切りをつける。
そして、ある方法を思い出す。
だから嫌なんだ。
エロゲーが現実なんてのは……
逃げるために必要な方法。
エロティックタワーなどというゲームにおいて、このタワー内で受けたダメージというのは、全て服に影響する。
今も大事な場所は隠れているものの、服はびりびりになっている。
では、全てのダメージを肩代わりした服がなくなった場合どうなるのか?
モンスターの攻撃によって気絶し、後はまあ、エロゲーだなあということが起こり、二度とエロティックタワーに入ることはできなくなる。
そう、ゲームオーバーである。
ダメじゃね?
でも、一応救済の処置はある。
こういう戦闘。
選択して、決して選んではいないが!戦うことになってしまった場合。
通常逃げることはできない。
でも、後一撃で気絶する。
そんなタイミングでのみ、どんな戦闘であっても俺たちは逃げるということが、できるようになるというものだ。
ゲームのときは、ヒロインたちがまともな行動をしなかったときにはよくお世話になった。
そうなると、男の全裸確定か……
間違ってはいないか、言っておくがこの世界はエロゲーである。
決して男の裸姿など、誰も望んでいないことくらいはわかってはいるのだろうか?
だが、ナオの話しから、彼女自身がこの世界にきて十回目だというのに、よくわかっていないことを考えると、なんとかしなければいけない。
「いいか?」
「なによ、また突進してきそうよ」
「そんなもおおおお!」
わかってんだよと言いたかったが、歯を食いしばって耐えないとさすがに厳しいこともあり、最後まで言葉にできない。
三度目の盾受けによって、服はさらに破ける。
このままいけば、後三回も攻撃を防げば全裸になるだろう。
唯一よかったところは、攻撃は速いし、威力もそれなりにあるもののキメラという設定からか、次の行動までには戸惑いのようなものを感じることだろう。
「いいか?」
「何?変態」
「なんでそうなんだよ。ちゃんと攻撃を防いでるのによ」
「冗談よ」
ふっと笑いながら言うのは、ナオがどこかすでに諦めているからだ。
たぶん、彼女からすれば何度もこんなことがあったのだろうか?
「いいか?」
「何よ」
「選ばれなかった後は俺に選ばれなかった後はどうなったんだ?」
「特に何もなってないわよ。選ばれなかったら、そのまま私の役目は終わりってことで、ヒロインと主人公。あんたがくっつくのを見ることになるだけよ」
「それだけか?」
「それだけって言われてもそんなものでしょ?あとは何かあるの?」
あるだろ、普通なら……
でも、嘘を言ってるような感じではないよな。
そこから考えられることというのは、本当に何もしていなかったという事実だろう。
「じゃあ、その間はぼーっとしていたのか?」
「そうだけど。終わるまでやることもないわよ。そもそも、選ばれないとこのタワーにすら入れないじゃない」
「まじかよ……」
通りで、エロティックタワーのことについても詳しい感じではなかったのか。
だったら余計に、今は頼ることはできない。
しょうがない。
これをすれば、確実に俺がナオと同じようにこのゲームに連れてこられた存在だということがわかってしまうが、ゲームオーバーになってよからぬことになるのは見てられない。
いや、先に俺がやられるので、そもそも見れない。
だったら、モンスターにそんなことはやらすことはできない!
俺は覚悟を決めた。
「いいか?」
「何よ」
「今から俺がやることを信じてくれるか?」
「は?」
「ぎしゃあああああ!」
いい感じの言葉だったはずだが、ナオからはまるでバカにしたような感じだ。
さらにいえば、いい感じのところであるのに、キメラは空気を読むことなく、雷の魔法を放つ。
俺は盾を構えてその攻撃を防いだところで、服が全部はじけた。
「まじか」
「って、あんたは何してんのよ!」
攻撃によって裸となった俺に向かってナオは酷いことを言う。
「仕方ないだろ、避けられなかったんだからな」
なんとか魔法は防げたものの、どうやら突進よりも火力が高かったのとジャストガードができなかったせいで後三回はもつと思っていた俺の服は一撃で消し飛んだ。
だが、好都合でもあった。
「いくぞ!」
「な、何をいってんの?」
「逃げるぞってことだ」
「はあ?」
俺はこれ以上の話し合いをするのも不毛だと考えて、すぐに逃げるために走り出す。
「ああ、もう!」
一目散に逃げる俺について行かないといけないと考えたのだろうか、ナオは同じように逃げ始める。
「え?抜けれた?」
「だから言った……」
だろと言いたかっただけなのに、また口が勝手に動く。
「危ないところだったな」
「は……ぼ……」(はいです。坊ちゃま)
「合流するぞ」
「はい」(はい!)
笑顔でありながらも、顔の色を赤くしながらナオは俺の後ろをついてくるのだった。
全裸の男に着いてくるヒロイン。
すでにこのゲームがエロゲーだとは誰も信じてもらえないような状況になっているのではと思ってしまうのだった。




