顔尻だと……
少しして、ようやく全員が目を覚ました。
隠し部屋に関しては、全てのアイテムを取り終えた後、起きる前に壁を戻しておいた。
近くで見れば隠し部屋があるとわかるくらいで、普通はわからないくらいには元通りになっていたこともあって起きたヒロインたちにバレることはない。
「ふあ、寝てた」
「ん、よく寝た」
呑気にそんなことを言うナオとリーヤだ。
リーヤに関してはいつも寝てないか?とツッコミたくなったが……
「剣を振るえなかったな」
「お、犯されていない……」
「金を稼ぐ時間が……」
そして残念そうに口を開く三人ではあるが、一人だけ確実にアウトなことを言っている。
まあ、慣れることなないがエロゲーのヒロインに一人くらいは変態が混じっていても不思議ではないか……
そう自分を納得させた。
「ようやく起きたし、まだ行くのか?」
「当たり前でしょ。今度は油断しない」
俺としては、疲れたので帰りたかったが、面倒なことに借りがあるせいで終わりにするとは言えなかった。
次こそは寝てないで戦ってくれ……
心の中でそう願いながらも、俺たちは進んでいく。
ある程度進んで、今度こそは油断することもなくモンスターを倒せた。
ネーリに対しては、チカの銃が役に立っていた。
この三階からは、出てくるモンスターが変わるのは、すでに戦闘があったのでわかるのだが、それと同時に落ちるアイテムも変化する。
いいところでいえば、落ちるお金が増えたことだろう。
これによって、お金の心配がなくなったチカがかなり役に立った。
魔法よりも威力は落ちるものの、速度があるおかげでモンスターに当たりやすい。
それだけで今回のようなネーリなどの面倒なモンスターを対処できるようになり、かなり楽になった。
「使えるわね」
チカを見てナオはそう言葉にする。
いや、俺のほうがよく頑張ってるだろ……
思わず言ってしまいそうになるくらいには、一番頑張っていた。
ネーリの攻撃をなんとかできるのは俺だけなため、全てはカバーでなんとか防いでいた。
それがなければ、先ほどの二の舞だったはずだ。
まあ、ナオもそれがわかっているからか、チカが攻撃を外したネーリに向かって、積極的にナイフを投げている。
面倒なモンスターを先に処理するというのは、ゲームであれば定石というものだ。
そもそもの話し、大人数でやっているせいで面倒が増えているような気がするが……
だけれど、その後は怖いくらい順調に進んでいた。
モンスターからの攻撃は俺が受け、トレントには魔法のヤンと剣のカナで対応し、ネーリは銃のチカと短剣のナオが、その他のモンスターとバフに関してはリーヤがというように、役割分担がしっかりできるほどには成長していた。
「順調ね」
「そうだな。満足したか?」
「まあね。四階以上いくなら、装備を整えてから行きたいし、今日は終わりね」
ナオもようやく満足したらしい。
後はエロティックタワーから出るだけだ。
「で……う」(では帰りましょう)
「ああ」
「あ……にん……た」(いいトレーニングになった)
「もう……うの……を……ね」(もう少し魔法の精度をあげたいわね)
「ね……」(眠い)
「さ……るぞ」(さっさと出るぞ)
だから油断していた。
俺含めて、全員の喋り方が倍速へと変わる。
それだけで、新しいイベントが起こることだけはわかったものの、何かはわからない。
「しゃ……びた……すね」(シャワーを浴びたいのですね)
「それはいいな」
「きゅ……か……わね」(休息は確かに必要ですわね)
「ん」(ん)
「だな」(だな)
普通に会話だけのイベントなのだろうか?
いや、このゲームでそんなことはあり得ないか……
すぐに俺は警戒を強めると、さらに会話は続く。
「おい、あれはなんだ?」
「なに……みつ……た……か」(何かを見つけたましたか?)
俺は何もなかったはずの場所に視線を向ける。
すると、何処から現れたのかわからないが、一体のモンスターが現れた。
まじかよ……
どうしてこのタイミングで出てくるんだ?
俺は心の中で嘆く。
そこにいたのは、通常であればまだ出会うことがないモンスター。
このエロゲーにおいて、ヒロインたちの一部と仲良くなることによって戦うことができる。
言ってしまえば、勝てば好感度があがるようなそんなモンスター。
その中でも、確かに一番弱いとされているキメラだ。
見た目はライオンの顔と羊の顔、尻尾は蛇。
よくある見た目だと思うだろうが、こいつはどういうわけか二足歩行だ。
足は熊、腕はゴリラになっており、魔改造されていることからわかる通り、かなり手強いモンスターだ。
俺としても、最低でも五階まで確実にあがれるような装備でしか挑戦することもしないようなモンスターが、どういうわけか自分から向かってきている。
変わってしまった物語によって、出てくるモンスターすらも変化が起こる。
それについては警戒はしていたが、ここまでエロティックタワーの中では違和感がなかった。
だから油断していた。
「きょ……な」(強敵だな)
「どう……すか」(どうされますか?)
「ん」(ん?)
「そ……たた……か……な」(そりゃ、戦うしかねえよな!)
「ぼ……ま……で……い」(坊ちゃま、選んでください)
▶キメラと戦う
なんとか逃げる
アイテムを使う
選択肢が出てきた。
これについては何を言っているかがわからないとはいえ、わかる。
勝てる気がしない。
よって、やることとしては逃げる一択ではあるものの、書いてあることからわかる通り……絶対ではないってことだよな。
一旦アイテムを使うか?
どうせあれだろうが……
キメラと戦う
なんとか逃げる
▶アイテムを使う
俺は選択肢を選ぶ。
すると、少し前に見た光景である、懐から本を取り出した。
えっと、何々……
キメラのレベルは十五、弱点はそれぞれの部位によって異なっており、ライオンであれば魔法。羊であれば剣。蛇には銃。熊には槍。ゴリラには短剣か……
盾はやはり防御しかできないか……
後、これ見よがしに弓なら全部が弱点と書くな。
誰も使えないんだよ。
書かれているのはキメラの内容だ。
これをわかったから、さあ戦おうという気にはなれない。
なんだよレベル十五って……
俺たちは今、この階で一応レベルは一つ上がって四にはなったとはいえ、レベルが十以上離れている。
絶対に倒すの無理だろ。
せめて装備が揃ってれば、なんとかできるかもしれないが、可能性があるだけで絶対ではない。
俺は一通りキメラに対してのことが書かれた本を読み終わると閉じる。
▶キメラと戦う
なんとか逃げる
そして出てくる選択肢……
くそ、見れば見るほどこっちだ!
キメラと戦う
▶なんとか逃げる
「逃げるぞ、あれは危険だ!」
俺の声が全員に届くと動いているのが見えるかわからないくらいの勢いでヒロインたちは頷いて肯定する。
すぐに踵を返し、全員が走り出す。
言っていいかわからないが、体が自分の思い通りに動いていないことを考えると、まだ物語として機能しているということなのだろう。
俺を最後尾にして、全員が走る。
倍速なため、足がもげそうな勢いだ。
大丈夫だ、逃げ切れる。
頭の中では必死にそう考えるが、嫌な考えが頭によぎる。
そのタイミングだった。
俺の前を走っていたナオが躓いたのだ。
「は?」
俺がそう言葉にすると同時に向かってくるのは尻。
どういう体勢によって尻が俺の顔に向かってくるのかは理解はできないが、倍速のせいだということにしておこう。
こうして俺とナオはその場に倒れるとともに、強制的にキメラと戦うことになるのだった。




