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鋭い短剣、隠し持った毒針、そしてその動き……王都に潜むただの盗賊ではない。

隣国の間者として訓練を受けた者たちの動きだ。


「……レイ」


俺が低く呟くと、レイはすでに剣を抜き、俺の前に立つ。


「俺の後ろにいろ」

「いや、それは無理」

「は?」


俺は軽く笑って短剣を手に取る。


「戦えないわけじゃないし、それに……ここで大人しく捕まるわけにもいかないだろ?捕まったほうが危なそうだしな」


レイは一瞬だけ俺を睨んだが、すぐにため息をついた。


「……わかった。ただし、無茶はするな」

「お前もな」


俺たちは背中合わせに立ち、間者たちを迎え撃つ態勢を取る。

出来ればあまり派手な立ち回りはしたくないところだ。

……なぁ、名前が決まってない我が子よ。


「チッ、生意気な……!」


間者の一人が先に動いた。

鋭い短剣が俺の腕を狙って突き出される。

すぐに身を翻し、反撃しようとするが——


シュッ!


何かが空を切る音がした。


「──ッ!?」


間者の動きが止まる。

男の手元を狙って放たれた一本の矢が、短剣を弾き飛ばしていた。

あ、見覚えがあるわ、これ。


「……間に合いましたね」


冷静な声が響く。


エミリーだ。

黒い装束に身を包んだ彼女が、屋根の上から弓を構えていた。


「王都の路地裏で勝手に騒ぎを起こさないでくださいません?いま、奥様はお休みになっていただかないといけません。それをあなたたちが騒ぎを起こすから……」


淡々とした口調ながら、その声には明らかな怒気が滲んでいる。

エミリーが助けに入ったことで、間者たちは一瞬ひるむ。


「くそっ、余計な奴が……!」


間者の一人が舌打ちをしながら再び短剣を構えるが——


「まあまあ、こんな場所で騒ぎを起こしてもらっては困るわねぇ?」


──その声と共に、風が吹いた。


「!?」


俺たちの間に、突如として華やかなドレスが翻る。

淡い青の衣装を身にまとい、上品な微笑を浮かべた──伯母上だ。


「……伯母上?」


俺が驚いて名前を呼ぶと、伯母上は楽しげに微笑んだ。


「ふふ、何やら面白いことになっているみたいじゃない?」


その手には、細身のレイピアが握られていた。


「……まさか、伯母上、剣を?」

「当然でしょう?貴族の嗜みよ」

「強いぞ」


レイが一言付け加えた。

伯母上は優雅な足捌きで俺たちの間に入り、間者たちを睨みつける。


「……さて、私の可愛い甥を狙ったのはどちらの愚か者かしら?」


その声には、かすかに冷たい怒気が混じっていた。

間者たちは一瞬ひるんだが、すぐに構えを立て直す。


「……余計な邪魔が入ったな」

「だが、人数で勝っているのはこっちだ!」

「そうねぇ……でも、勝てると思って?」


伯母上は軽やかにレイピアを構えた。

その動きは、まるで舞踏会での優雅なステップのようだ。


「エミリー、援護は頼めるかしら?」

「もちろんです、大奥様」


エミリーがすぐに弓を引き絞る。


「……さて」


レイが剣を構え直し、俺も短剣を手にする。


「じゃあ、さっさと片付けるとするか」

「ええ、さっさとね」


俺たちは間者たちを囲むように配置し、一斉に攻撃に転じた。

剣がひらめき、弓が飛ぶ。

……あー、うん。俺が一番弱いわ、これ……。


「がっ……!!」


最後の一人が倒れ込む。

レイの剣が相手の武器を弾き、伯母上の華麗な一撃が喉元を掠める。

エミリーの正確な矢が敵の足元を封じ、俺は相手の動きを削ぎながら立ち回った。


「……終わり、か」


俺は息を整えながら辺りを見渡す。

間者たちは全員戦闘不能になっていた。


「ええ、これで一件落着……とはいかないでしょうね」


エミリーが冷静に言う。


「こいつらはただの一部に過ぎない。おそらく、王都にはまだ別の潜伏者がいるはずです」

「そうでしょうねぇ……」


伯母上も微かに眉をひそめる。


「まあ、とりあえず……あなたたち、大丈夫?」

「ええ、なんとか……」


俺が頷くと、伯母上は微笑んだ。


「よかったわ。……でも、カイル?」

「……はい?」

「あなた、絶対に無理してるわね?」

「……えっ?」


突然の指摘に、俺は一瞬言葉を詰まらせる。


「顔色が悪いわよ?戦ってる間も、何度か動きが鈍ったでしょう?」

「……」


レイがすぐに俺の側に寄り、俺の手を握る。


「カイル……やっぱり無理をしてるな」

「……そんなことない……」


そう言いかけたが、自分で言っていて違和感があった。

確かに、秘薬で一時的に体調は回復したものの、完全ではない。

そして今の戦いで、またじわじわと疲労が押し寄せてきていた。


「……はぁ」


俺はゆっくり息を吐く。


「……ごめん」

「謝ることじゃないわ」


伯母上が俺の肩をポンと叩く。


「でも、少し休まないとね」


レイも静かに頷く。


「帰ろう、カイル」


俺はレイの手を借りながら、ゆっくりと歩き出す。

戦いは終わったが、王都の危機はまだ去っていない。

俺たちは一度退き、次の動きを考えなければならなかった。

読んでいただいてありがとうございます!

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