表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/56

38

——ドンッ!!


突如として、耳をつんざくような爆音が響いた。

同時に馬が甲高い悲鳴を上げ、馬車が大きく揺れる。

俺はとっさに上手で座席にしがみついたが、それでも衝撃で視界が回った。


「カイル!」


レイが手を伸ばし、俺を支える。

その一瞬の間に、衝撃で開いた馬車の扉の向こうから敵の兵士たちが向かってくる。

黒い装束に身を包んだ間者たち——彼らの目標は、明らかに俺たちだった。

アランのついでに、といったところだろう。


「くそっ……!」


レイが敵の剣を弾き、素早く間合いを詰める。

同時にエミリーが短剣を取り出すと、それを振るった。


「奥様、ここはお任せください!」


一人の敵がその場に崩れ落ちる。

その間に俺たちは馬車の外へと出る。

しかし、敵はそれでも動じない。すぐに別の兵が馬車を包囲し、俺たちを狙ってきた。


「お前は下がれ、カイル!」


レイが振り向きざまに叫ぶ。

だが、下がれと言われても、敵がすでに俺たちのすぐ近くまで迫っている。


「どこへ——っ!」


言いかけた瞬間、視界の端に何かが見えた。

岩陰がそこにはある。

俺がこのままここにいても、足手まといになるだけだ。

ならば、せめて自分の身だけでも安全な場所に移さなければ。


「……分かった、俺は下がる!」


俺は荒い息をつきながら、岩陰に身を潜めていた。


「……なんとか避難はできたけど……」


そう呟き、遠くの戦場を見渡す。

レイとエミリーが隣国の間者と激しく交戦していた。

剣と矢が閃き、敵の兵士たちが次々と倒れていく。


「レイなら大丈夫だ……エミリーもいるし……」


自分にそう言い聞かせる。

今の俺には、戦うだけの力がない。無理をすれば、レイに余計な心配をかけるだけだ。


しかし——


「……っ!?」


視線の先、アランの馬車が、敵の奇襲を受けて傾いている。

それは炎に包まれつつあった。

馬車の扉はこじ開けられ、アランが乱暴に引きずり出されていた。


──このままじゃまずい……!


考えるより先に、足が動きかけた。


——でも、本当に助けるべきなのか?


俺の中で、一瞬だけ迷いがよぎる。

アランは俺を拉致し、利用しようとした男だ。ここで死んでも、自業自得だ。

むしろ、こいつが消えた方が、レイにとってもフランベルクにとっても都合がいいかもしれない。


——それでも。


「……ちくしょう!」


俺は歯を食いしばり、迷いを振り払った。


アランがどんな奴でも、生きて罪を償わせる。

そのためには、ここで死なせるわけにはいかない……!


「おい、お前ら!!!」


俺は叫びながら、燃え盛る馬車の前へ飛び出した。

敵たちが驚いたように俺を見る。


「……なんだ?こいつ」


刺客の一人が眉をひそめた。

俺はアランと敵の間に割って入り、腕を広げて立ちはだかった。


「こいつに死なれちゃ困るんだよ……!」


俺がねめつけながら叫ぶと、敵の一人がニヤリと笑う。


「ハッ、いい度胸じゃねぇか」


次の瞬間、鋭い剣閃が俺に向かって振り下ろされた。

俺は反射的に後ろへ飛び退く。


——けど、体が思うように動かない。


「っ……!!」


腹の奥が重く、息が詰まる。

視界がぐらりと揺れ、膝が折れそうになる。


(まずい……!)


「邪魔だ」


刺客の男が短剣を抜き、俺の胸元を狙って突き出した。

——避けられない!


その時——


「カイル!!」


レイの叫びが響いた。

鋭い音が鳴り、俺の目の前で男の剣が弾かれる。

敵の剣が砕け散るのを見て、俺は驚愕した。


「っ……な……?」


レイが俺の横に立っていた。その剣には血の跡がついている。


「動くな」


低く、冷徹な声が響く。

レイの剣が閃くと、敵の男は呻き声をあげて倒れた。

それを見ていた他の刺客たちは、焦ったように後退する。


「——撤退するぞ!!」


誰かが叫ぶと、刺客たちは一斉に森の中へと逃げていった。

エミリーが弓を構えて追撃しようとするが、レイが軽く手を挙げて止める。


「深追いするな。こいつらの目的はアランの始末だ。俺たちが邪魔をした以上、今は撤退するしかない」


エミリーは渋々、弓を下ろした。


「……ふん。ですが、また仕掛けてくる可能性は高いですね」


レイは無言で頷き、俺の方へ振り返る。


「お前……無茶をしすぎだ」

「っ……」


レイの腕が、そっと俺の肩を支えた。

その体温に安堵すると急に力が抜ける。


「お前がいなければ、アランは死んでいたかもしれない。でも……」


その瞳に宿るのは、安堵と……怒りに似た感情。


「お前まで死にかける必要はなかっただろう?……カイル、お前が死んだら、俺はどうすればいい?それに……お前はもう一人じゃないだろう」


静かな言葉だった。

だけど、それがどれほどの感情を込めたものなのか、痛いほど伝わってくる。


「……ごめん」


俺は俯きながら、小さく謝った。

レイは何も言わず、俺を抱き寄せた。


「もう、無理をするな」

「なるべく。気を付ける……」


そう言うと、レイはカイルの額にそっと手を当て、長く息を吐いた。“まったく、お前は……”とでも言いたげな目をして。

読んでいただいてありがとうございます!

応援いただけると励みになります♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ