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頬に触れる温かさと、規則正しく響く心臓の音。

穏やかな揺れが俺を現実へと引き戻した。


「……ん……」


ゆっくりとまぶたを開けると、最初に目に入ったのはレイの顔だった。

彼の腕がしっかりと俺を支えていて、俺はまるで抱き込まれるように彼の胸に収まっている。


「……レイ?」


俺が掠れた声で呼ぶと、レイは微かに目を細めた。


「目が覚めたか」


低く落ち着いた声が、馬車の静寂の中で響く。


「……なんで、こんな……?」


ぼんやりした頭で状況を把握しようとするが、まだ完全に目覚めていないせいか、考えがまとまらない。

けれど、すぐに自分がどんな体勢になっているのかを理解した。


「……え、あ……ちょ、ちょっと待って、なんで俺、抱えられてんの!?」


思わず身を起こそうとするが、すぐに腹部に鈍い痛みが走る。


「……っ!」


体が強張り、息を呑む。


「無理をするな」


レイが優しく肩を押さえつけた。


「お前、昨夜の疲れが取れていないんだ。ずっと顔色が悪かったし、今朝も熱があった」


「……俺、熱なんて……」


言いかけたが、確かに体が妙にだるい。

そうだ。昨日はあのアランの一件があり、心配したレイがもう一日付近の村に宿をとったのだ。そして今朝に再出発したわけだが──。


「気づかなかったのか?」


レイはため息をつきながら、俺の額に手を当てた。

彼の指先はひんやりとしていて、妙に心地よかった。


「……微熱だな。連日の疲労とストレスが溜まってるんだろう」

「……ごめん、俺のせいで遅れてるな……」


素直に謝ると、レイの表情が少しだけ柔らぐ。


「これくらい大丈夫だ。もう少し休んでろ」

「でも、もう王都に着くんだろ?」

「まだ時間がある」

「そっか……」


俺は大人しく、レイの腕の中に身を預ける。

……本当は、このままでいたい。

けれど、それを口にするのは恥ずかしくて、結局黙ったままでいた。

そんな俺の様子を見ていたのか、レイがふっと小さく笑う。


「なんだよ?」

「……いや。お前、だいぶ素直になったなと思って」

「……そうかな?」


俺が疑問を口にすると、向かいの座席に座っていたエミリーが、くすっと笑った。


「ええ、とても」

「エミリー、お前もかよ……」

「ですが、それも良いことです。レイ様にもっと甘えてください」

「……っ!」


俺は思わず口を閉じた。

レイは無言のまま、少しだけ俺を引き寄せる。


「俺は、お前が俺に甘えるのは歓迎するが?」

「もうお前ら黙れ……!」


顔が熱くなるのを感じて、俺はレイの胸に額を押し付けた。

ああ、でもこの平和な空気はいいな……。

ここ最近、ちょっと荒んでいたこともあって、すごく安心する。

そうして暫く、馬車は静かに進み続けていた。

外は静かで、鳥のさえずりが微かに聞こえている。

俺はうとうとしながら、レイの体温に包まれていた。

こんなに安堵できるのは、きっとレイだからだろう。

再び目を閉じようとしたその時だった。


——「……カチリ」


何かが鳴った。瞬間、レイの体が硬直する。エミリーも背を伸ばした。

俺も、遅れて違和感を覚えた。


「……レイ?」

「……静かに」


レイは小さく呟きながら、すっと俺の体を抱えたまま移動し、俺を馬車の座席の下に押し込んだ。


「レイ?何……」

「エミリー」


レイが短く呼ぶと、向かいに座っていたエミリーがすぐさま反応する。


「何があった!?」


エミリーが外に声を飛ばしながら、窓を覗き込む。

その直後、


——ズバンッ!!


矢が馬車の壁を突き破り、座席のすぐ横に突き刺さった。


「う、わっ……!」

「伏せろ!!」


レイが叫び、俺を抱えて座席の下へ押し込む。


——外から、甲高い声が響く。


「標的を確認!フランベルクの鍵ではなく——アラン・エヴァンスの抹殺が優先だ!」


その言葉に、俺は息を呑んだ。


「……まさか……!」

「……アランを殺しに来たか」


レイの表情が険しくなる。

俺はようやく、襲撃者の正体を理解した。

——隣国の間者たちだ。

彼らは、俺たちではなく、後方の馬車に乗せられているアランを狙っている。

恐らくアランは捨て駒にされたのだろう。


「……どうする、レイ?」

「決まっている」


レイは剣を抜き、馬車の扉に手をかけた。


「アランには生きてもらわないと困る」


外の気配が、こちらに向かってくる。

レイの表情がさらに鋭くなるのを見て、俺は唇を噛んだ。

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