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目が覚めると、いつもの部屋だった。

オシャレでもなんでもない、ただの部屋。

入った当初は色々と頑張ろうと思ったのだが、どうにも俺にはインテリアをどうこうする才能がないらしく、諦めた。そもそも汚れないようにするだけでも精一杯。

そんな普通の1DKに大学のころから、そして俺は社会人になった今も住み続けている。


「会社行きたくねぇ~……」


ベッドの上を転がって、俺は呻いた。

仕事自体は嫌いじゃない。

同僚にも恵まれていると思う。ただ上司は最悪だ。

とにかく仕事を押し付けてくる。

そのくせ立ち回りがうまいそいつは、人にさせた仕事も自分の手柄にしやがるのだ。


「ああいうの本当にどうにかしてぇわ……」


溜息を零しながら起き上がると、手に昨夜の夜にやっていたゲーム機が触れた。

現在ハマっているのは「クレセント・ナイツ」という乙女ゲームだ。

中でもレイという騎士にハマってしまい、部屋の一角にはグッズコーナーまで作ってしまった。


「いっそこのレイが上司ならなぁ~~眼福だったのに」


ゲームを起動させると、オープニングが流れ出す。

それを見ながらも、会社行きたくないな……と思うあたりそろそろ辞表でも書くべきかもしれない。


「レイとならうなくやれそうなんだけどなぁ……」



「……ル!カイル……!」


気がつくと、柔らかい毛布の感触が頬に触れていた。


「……ん……?」


ぼんやりと目を開けると、すぐそばに見慣れた顔があった。レイだ。レイ・エヴァンス。


「レイ……?」


レイは俺を抱きかかえるように支えていて、その顔にはいつになく険しい表情が浮かんでいる。


「起きたか」


低く響く声が耳に届いた。


「……どうして、ここに……だって……」


俺の言葉に、レイの眉間の皺がさらに深くなる。

その目は冷たく見えるけど、どこかに焦りが混ざっているような気がして、息苦しさを感じた。


「しっかりしろ、カイル……頼むから……」


辛そうに目を細める彼の顔に、なぜか胸が痛んだ。

少しずつ意識がはっきりしてくる。思い出すのは、自分が一人で馬を走らせて――そして倒れたこと。


「俺は、ただ……」


頭がぼんやりしていて言葉が出てこない。そんな俺を見て、レイの声が鋭くなる。


「ただ、なんだ?理由も言わずに一人で馬を走らせて、こんなところで倒れるまで無理をする理由が、何だ?」


その声には、怒りだけじゃなく、心配が滲んでいた。それが余計に胸に刺さる。


「頼む、放してくれよ…!」


身を捩ろうとしたが、力が入らない。自分の体力の限界を知りながら、それでも逃げたかった。


「レイ……俺はここにいるべきじゃない……」


自分の声が震えているのが分かった。それでも止められない。胸の奥に押し込めてきた感情が堰を切ったように溢れ出していく。


「俺じゃきっと、お前の役にはたたないよ……結界がどうとか、フランベルクを守るとか、そんな立派なこと、俺には無理なんだよ……」


涙が滲んでくるのを感じた。


「お前だって本当は、俺がいない方が楽なんだろう……?噂も消えるし、結界だって揺らがない……俺が全部悪い」


絞り出すような声で叫んだ瞬間、レイの目がわずかに見開かれた。その瞳に、驚きと悲しみが混ざっているのが分かった。


「俺だって……俺だって怖いんだよ!お前が最近ずっと冷たくて、遠くて……俺が嫌いになったんじゃないかって思うくらい!」


体が熱くなり、涙が止まらない。自分でも何を言っているのか分からなくなる。


「俺がここにいる意味なんて、もう分からない……!こんなに孤独で、こんなに辛いのに、誰も気づいてくれない……!」


声が途切れると同時に、レイから顔を背ける。力が抜けて、もう何も考えられなかった。


「……俺は、どうしたらいい……?」


静寂が降りる。すべてを吐き出した後の空虚感が、胸の中に広がっていく。

レイは動かない。俺の声に押し黙ったまま、俺を見下ろしている。


「……お前、俺の気持ちなんて……」


そこまで言いかけた瞬間、レイが膝をついて俺を抱きしめた。

その力強さに驚く暇もなく、耳元で低い声が響く。


「お前は、俺のそばにいなければならない。俺がそう望んでいるからだ……!」


その声には、抑えきれない焦燥と切実な想いが滲んでいた。


「俺を置いていくな……俺にとってお前は必要なんだ、カイル……」


その言葉が胸に突き刺さるようだった。涙が止まらないまま、俺はただその場で俯き続けるしかなかった。

読んでいただいてありがとうございます!

応援いただけると嬉しいです♪


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