表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/56

18

レイに手を引かれ、寝室に入ったものの──

部屋の空気が妙に甘ったるい気がするのは、俺の気のせいじゃないはずだ。

レイは普段通りの顔をしているけど、こっちは**「推しと同じ寝室で寝る」という事実**だけで既に瀕死状態である。


「レイ……今日は本当に寝るだけだからな?」


念を押すと、レイは静かに微笑む。


「もちろんだ。……無理はさせない」

「あ、ああ、ならいいけど……」


ホッと胸を撫で下ろそうとした瞬間──


「だが、口づけくらいは問題ないだろう?」

「えっ」


その穏やかな声に、一気に眠気が吹っ飛ぶ。

ちょっ、え、なに? キス? いやいやいや、待て待て待て!

俺がパニックになっているというのに、レイは冷静そのもの。

むしろ「何を驚くことがある?」みたいな顔をしている。


「お前は俺の妻だろう……?」

「いや、それはそうだけど……いや、でも、えぇ」


必死に抵抗する俺をよそに、レイはさりげなく俺の頬に手を添える。


「そんなに力を入れなくてもいい」

「ちょ、ま……っ」


逃げようと体を反らすけど、後ろにはベッドがある。

気づけば、レイの腕に完全に包囲されていた。


「少し……久しぶりだからな」

「は!?」


ちょっと待って!久しぶりとか言わないで!? 余計緊張する……!!

けれど、そんな俺の必死な抵抗もむなしく、レイは顔を近づけてくる。

拒む暇すら与えられず、触れるか触れないかの距離でピタリと止まる。


「……カイル?」

「えっ、な、何?」

「震えている」

「震えてない……!」


むしろ動揺しすぎて、逆に硬直……いや、少し震えているかもしれん。俺。


「……俺とキスするのが嫌か?」


レイがふっと眉を下げる。

そんな顔するな!!推しの悲しそうな顔は致死量!!


「いや、その……嫌じゃないけど、心臓がヤバいんだよ!」

「それなら、尚更したほうがいい」

「えっ、なにその理論!?」


言葉の意味がまるでわからない。


「お前がどれだけ緊張しても、俺が受け止める」


そう言うと、レイは一瞬だけ優しく微笑み、次の瞬間──

ふわりと唇が触れた。


「っ……」


完全に固まる俺を見て、レイが目を細める。


「これだけで、そんなに驚くとは」

「お、お前が急に……するからだろ……!」


唇が触れた時間はほんの一瞬だったはずなのに、顔が熱い。

思わず顔を覆うけれど、レイは全く動じていない。

むしろ、落ち着いた声で囁いてくる。


「俺がお前が愛していることを忘れないでくれ……」

「忘れるわけないだろ……!」

「それなら良い」


俺の言葉を受けて、レイが軽く頷く。

すごく自然な流れでキスされたんだけど!?

推しから「当たり前」のようにキスされるの、心の準備が追いつかない……。


「さて、そろそろ休もう」

「あれっ⁈ これで終わり⁈」


思わず俺が小さく叫ぶと、レイは可笑しそうに微笑んだ。


「お前の体調が第一だと言っただろう」

「そ、そっか……」


キスだけして、そのまま普通に寝るらしい。

いや、むしろそれが一番ありがたいのかもしれないけど……心臓がバクバクして眠れそうにない。


「カイル」


レイが俺を離してベッドに横になり、静かに俺の方を見つめる。


「こっちへ」


そう言って、レイは俺のために布団を持ち上げた。


「ええ……」


さっきのキスで気持ちは完全に浮ついてるんだけど!?

でも、結局断れずに布団の中へと滑り込むしかなかった。

レイが優しく腕を回し、俺の肩を抱き寄せる。


「お前が隣にいると、安心する」

「……うん」


ふわりと漂うレイの香りが、ますます意識を持っていく。

やばい、これ、寝られる気がしない。

推しのそばで眠るって、こんなに大変なことだったんだな……。

そんなことを考えながら、俺はレイの胸元に顔をうずめた。


「おやすみ、カイル」

「……おやすみ」


レイの囁きに包まれながら、眠れない夜が静かに始まった。



──眠れない。


どれだけ目を閉じても、意識が妙に冴えてしまってどうにも寝つけない。

隣にレイがいる。しかもさっきキスされたばかり。

これで寝ろって方が無理がある。

レイはというと、穏やかな寝息を立てている。

俺の肩に回した腕はしっかり固定されていて、まるで俺がどこかへ行かないように抱き寄せているみたいだ。


逃げたりしないんだけどな。


心の中でこっそりツッコミを入れるけど、当然レイがそれを聞くわけもない。

ふと顔を上げると、レイの寝顔が目に入る。

普段の冷徹さが嘘みたいに柔らかくて、心臓がまた爆発しそうになる。


「……ずるいんだよな、こういうの」


俺がもぞもぞと身じろぎをすると、レイの腕が無意識に俺をさらに引き寄せた。

至近距離で顔を覗き込むような形になる。


近い!!


「ん……カイル?」


突然、レイが薄く目を開ける。

驚いて咄嗟に目をそらすも、もう遅い。


「眠れないのか?」


寝ぼけまじりの声が耳元で響く。


「い、いや!寝ようとはしてるんだけど……」


言い訳しながらも、こうして至近距離で話すだけで頭がパンクしそうになる。


「眠れないなら……どうする?」


レイがふっと微笑む。

その目がまだ眠そうなのに、なんでそんな甘い声で囁くんだよ。


「どど、どうするって……!」

「……どうしたい?」


レイは少しだけ体を起こすと、俺の髪に手を滑らせるように触れる。


「もっと……お前を落ち着かせる方法があるかもしれない」

「……レイ!?」


これ、完全にヤバいやつじゃない!?


「眠る前に、もう少し……触れてもいいか?」

「え、いや……ってかもう触れてるっ……」


レイは俺の髪を優しく指でとかすように弄びながら、俺の頬に指を落した。

先ほどのキスを思い出して、思わず視線を逸らす。


「目を逸らすな」

「……っ」


レイが俺の顎をそっと持ち上げて、強制的に目を合わせさせる。

近い近い近い!!


「……カイル」


レイがじっと俺を見つめる。

その瞳は、まるで何かを確かめるように深くて──


「……やっぱり、かわいいな」

「~~~!!?」


そんなこと言われたら、心臓が持たんわ!!

俺がじたばたしていると、レイは少しだけ口元を緩めた。


「冗談だ」

「……っ!! お前、冗談に見えないから!」


本気である。どう見ても本気である。

冗談のテンションで人をこんな状況に追い込まないでくれ……!


「カイルが可愛いのは事実だが……今夜はこのまま寝よう」


そう言って、レイは俺の額に軽く口づけると、再び横になる。

俺を抱き寄せる腕の力は緩まないままだった。


「……やっぱりずるい」


呟く俺の声は、レイの寝息にかき消される。

──そして俺は、その夜、一睡もできなかった。

……リリウム連れてくればよかったな……。



翌朝。

俺が朝食の席で、くあ、とあくびを漏らすと、


「眠れなかったのか?」


レイが俺の顔をじっと見つめる。


「……レイのせいだよ!!」


思わずフォークを持つ手に力が入る。

レイはしれっとしているが、俺の寝不足は完全に推しのせいである。


「隣で寝ていただけだが?」

「……いや、その“だけ”が問題だったんだよ!!」


レイはそんな俺の叫びを軽く受け流しながら、静かに微笑んだ。


「なら、今夜も一緒に眠ればいい」

「……は?」

「慣れれば、次はぐっすり眠れるだろう?」


お前、それ絶対次の夜も眠れないやつだろ!!


「レイ、お前ってやつは……!!」

「お前が可愛いせいだな」


そう言ってレイは紅茶を口に運ぶ。

完全に俺のペースが乱されているのが悔しい。


「はぁ……せめて、今夜は少し距離取らせてくれよな?」

「それじゃあ、慣れる訓練にならないだろう?まあ、考えてはおく」


絶対考えてない顔してる。

次の夜も眠れない未来がすでに見えた気がした。

読んでいただいてありがとうございます!

応援いただけると励みになります♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ