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13

レイは「ここで待っていろ」と言い残し、執務室を後にした。

静寂が部屋を包む。


――『鍵が死ねば、結界は崩れる』


内通者の声が耳の奥にこびりついて離れない。


「……俺が、鍵……」


胸元のペンダントをそっと握る。

だけど何かが伝わってくるわけでもなく、ただ冷たい感触が残るだけだった。


「俺が出来ることって……何だよ」


独り言が虚しく響く。その時――。


――ゴゴッ……


空気が揺れる。冷たい波が廊下の向こうから押し寄せてくるようだった。


「……何だ?」


背筋がざわりとする。

警備兵の足音でも、普通の物音でもない。

まるで『何か』が蠢いているような、暗く重い気配。


「まさか、まだ……」


俺は反射的に扉を押し開け、廊下へ飛び出した。


「カイル!戻れ!」


レイの声が遠くから響く。

だけど、廊下の奥から迫ってくる黒い影に目が釘付けになる。


「な、何だよ……あれ……」


人の形をしているようで、していない。

闇そのものが意思を持って動いているようだった。

俺は足がすくんで動けない。


「うわっ!」


影が跳びかかる。咄嗟に避けようとするが、視界が歪むような感覚に囚われる。


――冷たい。


影が絡みつき、俺の腕を、足を縛りつける。


「離せっ……!」


無我夢中で暴れるが、何を掴んでいるのかすら分からない。

それでも明らかに『何か』が俺を捕らえていた。


――ゴゴゴ……


「お前さえ消えれば、結界は崩れる……」


耳元で囁かれる声に、心臓が凍りつく。

その瞬間、体の奥底から冷たい刃が刺さるような感覚に陥る。


「レ……レイ……!」


叫ぼうとしたその時──胸元のペンダントが光を放った。


「っ!?」


眩しい光が廊下を照らし、影を貫く。


「グ……アァァッ!!」


影が苦悶の声をあげ、後ずさった。


「今の光……」


俺は息を切らしながらペンダントに触れる。

温かい。

冷たかったはずのペンダントが、手に馴染むようなぬくもりを宿していた。


――ふわり、と波紋のような光が広がる。


「何なんだよ……これ……」


光はさらに強く輝き、俺の周囲を守るかのように揺らめいた。


「カイル!」


その光と同時に、廊下の向こうからレイが飛び込んでくる。

剣を抜き、闇の影へ向けて一閃する。


「ぐっ……!」


影は呻き声を上げ、レイの剣が触れると同時に霧散するように消えていった。


「カイル、大丈夫か!」


レイがすぐに駆け寄り、俺を支える。その顔には怒りと安堵が滲んでいる。


「今の……何だったんだ?」

「恐らく――呪いの使いだ。お前を狙うために送り込まれたものだろう」


レイの言葉に、俺は思わず息をのみ、胸元のペンダントを見つめる。

呪いの使いって……ファンタジーすぎる……。あ、ここそういう世界……。

しかしさっきの光――あれは一体……?


「……お前のペンダントが反応していたな」


レイもそれに気づいたようで、真剣な目で俺を見つめる。


「やはりお前は……このフランベルクの“鍵”だ」

「……“鍵”……」


ペンダントを握りしめながら、俺は呟く。

その時、


「旦那様!邸内に、複数の侵入者が確認されました!」

「何だと?」


兵士がそう叫びながら俺たちの方へと向かってきた。

レイの表情が一瞬で険しくなる。さっきの影だけじゃない――どうやら、もっと大規模に仕掛けてきたらしい。


「カイル、お前は――」

「待って、俺も一緒に――」


俺が言いかけた瞬間、別の廊下から鋭い音が響いた。


――キィィンッ!


「っ何!?」


咄嗟に音のした方を見ると、そこには――信じられない光景が広がっていた。

何者かが放った短剣が、廊下の壁に突き刺さっている。そして――その短剣を素手で弾き飛ばしたのは、エミリーだった。


「……エミリー?」


いつもの穏やかな笑みはそこにはない。彼女の表情は冷静そのもので、まるで戦士のような鋭い眼光をしている。


「奥様、こちらへ!」


そう叫びながら、エミリーは俺の手を取り、護るように前に立つ。

その直後――廊下の影から黒装束の刺客が飛び込んできた。


「邪魔だ――!」

「邪魔はお前たちだ」


エミリーの手が一瞬、腰元に触れたかと思うと――次の瞬間、彼女は信じられない速度で短剣を抜き、襲い掛かる刺客の攻撃を軽々と受け流した。


――カンッ!ガギィンッ!


鋭い金属音が廊下に響き渡る。刺客が次々とエミリーに向かって斬りかかるが、その攻撃はすべて彼女の華麗な動きによって捌かれていく。


「えっ、ちょっと待って……エミリー、強すぎないか!?」


目の前の光景に俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。彼女の動きはまさに『護衛』そのもの――いや、それ以上だ。刺客の剣さばきすら凌駕するほどの技術を持っている。

てか、この場だと俺が一番役立たずな気が……!


「奥様、動かないでください!」


俺に指示を出すエミリーの声には、いつもの穏やかさとは違う、圧倒的な威圧感があった。


「お前……何者だ……!」


刺客の一人が声を震わせる。


「フランベルク家の忠誠なる護衛にして――奥様専属の守護者です」


淡々と言い放つエミリー。その短剣は一滴の血すら纏わず、まるで風を切るように涼しげだ。


「守護者って、聞いてないんですけど!?」


俺の叫びに、エミリーは小さく微笑むだけ。


「奥様には、余計なご心配をおかけしないようにと」

「いやいやいやいや!それ、先に言ってよ!?大事なことだよ⁈」


叫びつつも、安心感がどっと押し寄せる。

けれど――目の前の刺客たちは違った。

エミリーの冷静さに完全に気圧されている。


「……奥様、動かないでください」


エミリーがそう言った瞬間、空気が張り詰める。


――カンッ。


短剣が床を鳴らしただけで、刺客が一歩後ずさるのが分かった。

……エミリー、やばくない⁈

彼らは確実に「恐れている」。


「バケモノめ……」


刺客がそう呟いた瞬間――エミリーが音もなく消えた。


「っ……どこへ――」


次の瞬間、刺客の背後にエミリーの姿が浮かび上がる。

振り返る間もなく、エミリーの短剣が男の手から武器を弾き飛ばした。


――シャッ!


「ぐっ……!!」

「――フランベルク家に刃を向ける者は、容赦しません」


淡々と告げられる言葉に、俺は思わず背筋が凍る。

……エミリー、ガチだ。

普段の「奥様~」とか言ってる姿が完全に別人すぎる。


「奥様、私の背中から離れないでください」


そんな殺気満々の顔で「奥様」とか言われてもな⁈

でも逆らえるわけもないので、俺は頷いてピタッとエミリーの背後にくっつく。

俺が最高に役に立ってなくて泣ける。


――ドォンッ!


廊下の奥が爆音と共に崩れた。

黒い霧のようなものが勢いよく広がる。


「――呪いだ!」


レイがすぐに俺とエミリーの前に立ち、剣を構える。


「カイル、ここから動くな。エミリー、お前はカイルを頼む!」


「かしこまりました、旦那様!」


エミリーの声はどこまでも冷静で、絶対的な自信が滲んでいた。


「奥様、絶対に離れないでください。私が護ります」


「う、うん……」


もう完全に「護られる側」なのが悔しいけど……今はそれしかできない。


――俺が“鍵”だから、狙われている。

けれど、守られるだけじゃ、ダメだ。

ペンダントを握りしめる。

温かい光がじんわりと指先に伝わる。


「……俺が何とかしないと――!」


決意を固めた瞬間、ペンダントがかすかに震えた。

気のせい……じゃない。

俺の中に何かが目覚めようとしている――そんな気がした。

──レイが守り、エミリーが護衛してくれる今――この異世界での俺の役割はなんだ?

それをちゃんと理解して、果たさなければならない。

エミリーに護られながら、俺は無事に安全な部屋へと連れ戻される。

扉が閉まる音とともに、張り詰めた空気が静けさに変わり、俺はゆっくりと息を吐いた。

エミリーは扉の前で待機するとのことで、俺はベッドへと腰を下ろす。

あの強さを見た後だけに、少し息をつくことができる。

ほんっと強かった。すごいな、フランベルクの護衛……。

そして思い出す。


――『鍵』。


ペンダントにふと手を触れる。

この胸元にあるペンダントが少しだけ重たく感じた。

何か……何かが俺の中にあるのかもしれない。


──この感覚……なんだろうか……。

ぼんやりと意識が遠くなる――その瞬間、ふとまぶたの裏に「光景」が浮かんだ。

読んでいただいてありがとうございます!

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