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レイの目が月光を反射して鋭く光る。

その姿は、ただ立っているだけなのに圧倒的な威圧感を放っていた。


「なっ……!」


刹那、レイが音もなく間合いを詰める。

男が刃を振るう前に、その腕が鋭く捻り上げられた。


「……っが!」


鈍い音が響き、男の膝が崩れ落ちる。

その目には冷徹な怒りが宿っている。男は抵抗しようとするが、レイの力には敵わない。


「お前か――内通者は」


冷たく言い放つレイの目には、冷徹な光が宿っていた。

だが、俺の顔を見た瞬間、その鋭さがふっと和らぐ。


「……お前は何をしている、と言いたいところだが――今は無事で良かった」


そう言って、レイはそっと俺の頭に手を置く。


「カイル、お前はもう少し自分を大切にしろ」

「……レイ!」

「お前は何をしている、と言いたいところだが――今は無事で良かった」


レイが俺に近づき、そっと頭に手を置く。その手は温かく、優しい。


「カイル、お前はもう少し自分を大切にしろ」


そう言って、レイは短い溜息を吐く。


「――ごめん。でも……俺だって、レイの役に立ちたい」

「……なら、無茶はするな。それが俺の望みだ。部屋に戻れ」


レイが俺を見つめ、僅かに微笑む。

そのまま踵を返し、闇の中へと消えていった。

月光が彼の背中を照らし、遠ざかる足音が静かに響く。

俺はその場に立ち尽くし、心臓の音が鳴りやまない。


「……俺、推しにまた助けられた……」


額に残る温もりを手で触れながら、部屋へと戻る足取りは妙に軽かった。



レイの「お前はもう少し自分を大切にしろ」という言葉と、温かく頭を撫でる手の感触を思い出しながら、俺はベッドに腰を下ろす。


「……しっかし、俺……役に立ってねぇ~~……」


自分が狙われていること、そしてレイがその全てを引き受けて守ろうとしてくれていること――嬉しい反面、やっぱり俺は守られているだけじゃダメだと痛感する。

申し訳なさすぎる……。


でも、レイがいなければ今ごろ俺は――。


そう思えば、喉の奥がぎゅっと苦しくなった。

生まれてこの方、俺は安全な国で暮らしていたので、あんな殺気を受けたことはない。

喧嘩だってしたことがない。ただただ地味に生きてきた。


「……レイ、ありがとう」


小さく呟いたところで、ふと廊下から騒がしい声が聞こえてきた。


「――侵入者を連れていけ!」

「本当にこいつが……?」


バタバタと足音が廊下を駆ける音。俺は思わず立ち上がり、扉へ向かう。

そして、ほんの少しだけ扉を開けて外を覗き込んだ。

そこには、兵士たちに拘束された先ほどの男――あの内通者が引きずられていくところだった。男の顔には薄暗い笑みが浮かび、何かを呟いている。


「――鍵が、いずれ……」

「黙れ!」


兵士が男の言葉を遮るように怒鳴るが、その一言が俺の耳に強烈に引っかかった。


「……鍵?」


その言葉が気になり、俺は扉の前で一度立ち止まった。

レイの「部屋を出るな」という声が頭をよぎる。


――でも、このままじっとしていていいのか?


俺の中で、小さな迷いが生まれる。

だけど、今はレイだけに任せたくない。少しでも手がかりが欲しい。


「……行くしかないか」


決意をして部屋を出た。

……侵入者が捕まったということは、多分安全に近づいたのではなかろうか……そう思いつつ、兵士たちを追う。

辿り着いたのは、初日にエミリーが説明してくれた執務室だ。

そこに兵士たちは入っていった。


「……牢屋ではないんだな」


どこにあるか知らんけど。牢屋と言えば地下がセオリーっぽい……。


「また部屋を出たな……」


背筋が凍るような声が、すぐ後ろから降ってくる。


「ひゃっ!?」


慌てて振り向くと、そこにはレイが立っていた。


「……!」


反射的に胸を押さえる。心臓、壊れるかと思った……!


「お前は、少しも学ばないな」


レイは静かに溜息を吐き、俺を見下ろしてくる。


びっくりした……!ほんとに……心臓に悪い……。

レイはそんな俺を見つめ、少しだけ口元を緩める。


「本当に油断ならない奴だ」

「えっと、違うんだ!ただ、今の男が『鍵』って――」

「――聞いていたのか」


レイの目が一瞬だけ光る。その目に圧されて、俺は思わず口をつぐんだ。

ふう、と大きく溜息をレイは吐く。


「……ついて来い」

「えっ?」

「――お前にも知る権利がある」


そう言うと、レイは俺の手を取った。

手を引かれるまま廊下を進み、邸内の奥まった――執務室へと連れていかれる。

部屋に入ると、そこには先ほどの男が椅子に拘束されていた。周囲には数人の兵士、そしてレイの側近らしき男たちが睨みを利かせている。


「カイルはここで見ていろ」


レイの言葉に頷きながら、俺は部屋の端に立つ。

レイはゆっくりと男に近づき、鋭い視線を向けた。


「お前の背後には誰がいる。言え」

「……ふん、何も答えるつもりはない」


男は挑発的に笑うが、レイの目は微動だにしない。その冷徹な視線に、男の余裕が少しずつ崩れていくのが分かる。


「――言え。でなければ、ここで終わりだ」


レイが腰に下げた剣に手をかける。彼の気迫が部屋全体を覆い、俺でさえ息が詰まりそうだ。


「……っ、は……お前がどれだけ守ろうとも、いずれ終わるさ」


男がついに口を開いた。


「青二才がこの地を治められるわけがない……!真の統治者はあの方こそが……!」

「――アルベルトか」


レイの声が低く響き、部屋が凍りつく。


「やはり、お前は叔父の手先か」

「お前の『鍵』――その命が絶たれれば、結界は消える」


男の視線がこちら――俺の方へ向いた。


「っ……!」


一瞬で全身が冷たくなる。俺を、カイルを狙う理由――それは『鍵』という力にあるということか……?


「カイル!」


レイが俺の前に立ち、背中で男の視線を遮る。


「いくら守っても、どうせこの『鍵』はすぐ壊れる」


男はレイの背中越しに俺を見つめ、にやりと笑った。


「俺が壊させはしない」


レイの声が低く響く。


「お前らがどんな手を使おうとも……たとえ命を賭しても、カイルを失わせはしない」


男の顔が悔しそうに歪み、兵士たちによって引きずられていく。

その間際、男はもう一度俺に向かって吐き捨てた。


「……どうせ、すぐ死ぬさ」


その言葉が呪いのように、俺の頭に焼き付く。


「……レイ」


心がざわつく。冷たい侵入者の言葉が、まるで毒のように心に沈んでいく。

その瞬間、レイがそっと俺を抱き寄せた。


「……お前は何も気にしなくていい。」


レイの腕は強く、だけど温かい。

心臓の音がすぐ耳元で響く。


「俺が、お前を守る」


耳元で囁かれる声が、まるで誓いのように聞こえた。


読んでいただいてありがとうございます!

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