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レイII

静かな寝室に、月明かりが差し込んでいた。

カイルが眠るベッドの傍らで、俺はただ彼を見つめていた。


「……カイル」


掠れるような声が、無意識に漏れた。

目の前のカイルは穏やかに眠っている。


──それなのに、恐怖が消えない。


そっと指を伸ばして、カイルの頬に触れた。

温かい。確かに生きている。


それでも、俺の心はざわつくばかりだった。

目を閉じれば、思い出すのはあの夜の冷たさ。

腕の中で静かに沈黙していった、冷えたカイルの感触。

あの時、何度名前を呼んでも彼は目を開けなかった。


──もう二度と、あんな思いはしたくない。


俺は、無意識にカイルの喉元に指を当てる。

脈を確かめる。


「……生きてる」


それでも、心が落ち着くことはなかった。


──足りない。


脈が打っていても、呼吸が聞こえていても、次の瞬間には消えてしまいそうで。

もっと確かめなければ。


「……もっと、確かめさせてくれ」


俺は、カイルの唇にそっと指を這わせた。

柔らかく、そして温かい。


それでも、まだ足りなかった。


触れても、確かめても、安心できない。

今ここで彼が目を覚まさなければ、きっと俺は。


「……これでは、足りない」


もし、次に彼が目を覚まさなかったら──。

もし、再び腕の中から零れ落ちるのなら──。


「……いっそ、閉じ込めてしまえばいい」


無意識に漏れた言葉が、静かな寝室に響いた。

俺はハッとした。


──俺は今、何を考えた?


だけど、その答えはすぐに心の中で形を成す。


ああ、そうだ。

彼が消えないように、俺だけのものにしてしまえばいい。

他の誰にも触れさせないように、どこにも行かせないように。


「……そうすれば、二度と失わずに済む」


気づけば、俺はカイルの髪を梳いていた。

細くて柔らかな感触が指に絡む。


耳元でそっと囁く。


「カイル……お前がどこにも行かないなら、それでいい」


指先で髪を撫でるたびに、心が少しだけ落ち着いた。

カイルがいなくならないのなら、それでいい。

カイルが、俺の側にいてくれるのなら──それだけでいい。


──いや。


それだけでは足りない。

カイルが、俺だけを見てくれるのなら、それがいい。

彼が、俺だけを必要としてくれるなら──それが一番いい。

カイルが僅かに身じろぎ、瞼がまつげが震える。


──その反応すら、愛おしくてたまらなかった。


「眠れ。俺が見ている……」


その夜、俺は一睡もせずに彼を見守り続けた。

瞼を閉じることが、恐怖でしかなかったからだ。

彼がいなくなるくらいなら、いっそ自分の手で閉じ込めてしまえばいい。


──そう思いながら、俺はただ彼を見つめ続けた。


そして、それで構わないとさえ思っていた。

読んでいただいてありがとうございます!

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