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第8話

第8話


ーーー暗い、怖い、暗い。


見渡す限りに広がる暗黒の空間。


永遠に続くとも思えるこの時空の中に囚われ続け、ひたすら死んでは行き帰り死んでは生き返りを繰り返してる。


死の瞬間の恐怖は何度経験しても克服できるものでは無い。


たとえそれが一瞬でも、痛みがなくとも、この暗闇の中で私はひたすらその瞬間まで動けずにいる。


全てが無と思えるこの時空に救いがあるならば、何度そう願っただろう。


生まれた時からここにいたような気もするし、そうでない気もする。


まるで私の生きる目的はその瞬間のためだけとも言われているような感覚に吐き気を催す。


感情など不要だと頭に響く声に再び感情を捨てようと努力するが、その瞬間にまた暗闇の中に一閃の光が差す。


抵抗することも出来ず一瞬にして崩れる視界に、またその瞬間を迎えたのかと自覚しながら目を閉じるーーー。







ーーー


「レン、起きなさい! 朝になったわよ」



もうすっかりと朝に猫から起こされることに慣れてきた俺は腹の上に陣取る猫を抱き抱え、起きずに抱いたまま二度寝をかます。



「ちょ、ちょっと苦しいってば! レン離しなさ.......」



俺に抱かれむぎゅうとなっている毛玉を撫でながらも目は確固として開けることは無い。


1度目を開けてしまえば朝日によって目が冴えてしまうため、最高のコンデションで二度寝するとこが出来ない。


意識が覚醒してからも目を1度も目を開けていないままもう一度寝るのは果たして二度寝と定義できるのかどうかは疑問だが、気持ちよく睡眠ができればそれでいいのだ。


俺がそんなことを考えながら二度寝の世界へと旅立とうとしていると腕の中の毛玉がむくむくと大きくなって(表現に他意はない)、目を開けてみるといつの間にか人間の姿になったレインが俺と鼻先がくっつく程に密着していた。


......



こんなに距離が近いのに当たるものが当たっていないのはなかなか残念だな。


と思っているとレインは



「今、エッチなこと考えていたでしよ」



俺の腹を見透かしたような顔でからかってくる猫に手玉に取られるのも癪なので俺は



「いや、レインは今日も可愛いなって」



とからかい返してやることにした。


いつもならそんなことをいうとレインはバカ! とかエッチ! とか言ってくるはずだが、今日のレインはひと味違うようだ。



「そう? 可愛いでしょ? なんたってあんたの奥さんなんだからね! 寝起きのちゅー、とか、してあげても、いいわよ......」



最初こそは自信満々だったのに言っている途中で恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら細々と言う。


朝からこんな美少女と同じ布団で寝てそれにちゅーするとか言われたらもう辛抱たまらんくなるのが男の子ってもんだ。



「じゃあ、お願いします」



「えっ!?」



まさかOKされると思ってなかったのかレインは見る見るうちに顔を赤くしていく。


俺は少し誘惑されただけで身を引くようなチキンではない。


ちょっとやそっとの誘惑は耐え、むしろ逆手にとって反逆する系童貞なのだ。


俺は再び目を瞑りレインからの口付けを待つことにした。


レインがわなわなとしているのがまぶた越しにでもわかるがレインから動くまでは不動明王の如くひたすら待つ



「じゃ、じゃあいく、わよ......」



目を瞑っているためか五感の中でも視覚以外の感覚が鋭利になる。


毛布の布ズレの音やレインの息遣い、パーカーから漂う僅かな柔軟剤の匂い、伸し掛るレインの体重......


レインの顔が近づいてくる気配を感じ、思わず唾を飲み込む。


俺の唇に息がかかり、とうとう来たかと思っていると.....


ちゅ


と頬に唇を押し当てられた感触を感じた。




...... こんだけ期待させてそりゃないぜ



「はい、おしまい! ちゅーしたんだから起きなさいよね! 朝ごはんにするわよ」



そう言うと赤面したレインはそそくさとリビングへと向かって行った。


その背中を見送りながら俺は



「なんかほんとに新婚みたいな感じでいいな、これ」



残された自室で1人、惚気けていたのだった。




レインと2人で朝食を食べ終え、ソファーで2人並んでテレビを見ていると俺のスマホから電話が鳴った。


電話をかけてきた相手の名前を見ると父だった。



「......親父?」



俺の父は仕事の転勤で今は海外で働いている。


父は海外で働きながら生活費やその他もろもろのお金を仕送りとして毎月俺に送ってくる。


だから実質この家には俺しか住んでいないし、金は必要に応じて今まで作ったゲームの売上利益の貯金を切り崩しながら生活している。


切り崩すといっても基本的に仕送りで送られてくる生活費が1人で生活するには多すぎるくらいなので、あまり貯金を崩すようなことはない。


欲しいゲームが出た時やゲームを作る上で必要なものくらいにしかお金は使わないのだ。


生活も上手くできているし、わざわざ父から掛けてくることなんてあまりないのだが.....



「おう、レン元気にしてるか?」



「元気だよ、親父こそ、また腹下したりしてないのか?」



久々に電話で聞いた親父の声は以前、海外での料理で腹を下して死にそうな声で変えてきた電話とは打って変わって、日本にいた時の頃と変わらず元気な様子だった。


俺と親父は久々の会話に少し世間話が弾み何分かダラダラと喋っていた。


その間レインはテレビに飽きたのかスマホが珍しいのか電話している俺のスマホを凝視していた



「.....ところで親父から電話なんて珍しいな。一体どうしたんだ?」



すっかり話し込んでしまいあやうく電話をかけてきた理由を話さずに切ってしまいそうになる親父を慌てて静止し、その理由を聞こうとする。



「あぁ、そうだった! お前、学校行ってるのか? さっきお前の担任から連絡があったんだ。川崎レンが新学期始まって早々学校をサボってるってな」



ぐっ.....すっかり春休み気分が抜けずに起きれない日が続いたばっかりに学校に行くということを忘れていた。



「今の時代学校に行かなくてもやりたいことがあるならそれでもいいかもしれない。けどな、レン。お前はまだやりたいことも見つけきれてないだろう。親としてはやっぱり心配になるわけだわ。大学までとは行かなくてもせめて高校は卒業してくれ。じゃないと仕事に身が入らないからさ」



親父の言うことは至極真っ当な意見だ。


多様性が謳われる今の時代にわざわざ学校に行かなくてもいいのではないかと思っていた時期が俺にもあったし、その時は散々親父に迷惑かけた。


それでも進学を許してくれた高校や親父に心配かけないためにもやはり学校には行くべきだろう。



「大丈夫だよ。心配かけて悪かった。ちょっと春休み気分が抜けてなかっただけ。明日からは学校に行くよ」



俺が親父を安心させようとそう言うと



「そうか、良かった! じゃあレンの担任にもそう連絡しとくから。あ、あと、ヒナが日本に帰るって言ってるからヒナの面倒もよろしく頼むぞー。じゃ」



「え、ちょ、待っ」



<ーーーーーー>



親父は一方的にそう言い放つと電話を切ってしまった。



「まじかよ...」



突然のヒナ帰国の知らせに頭を抱える俺。


そんな俺を見かねたのかソファーに座っていたレインは立ち上がり俺の方へと来、



「どうしたの?」



と上目遣いで聞いてくる。


そんなレインの顎の下をいつものように撫でながら俺はポツリと



「妹が、帰ってくる」



最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)

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