第45話 第1回川崎家叱り役決定戦
第45話 第1回川崎家叱り役決定戦
「「「「叱り役トーナメント????」」」」
「......ってなんなのじゃ?」
当然の疑問をマオが投げかけると、得意げに鼻を鳴らしたヒナは、えっへんと主張の控えめな胸を張り
「文字通り川崎家における叱り役を決める大会です!審査員はヒナがやりますので、4人はじゃんけんでもして対戦相手を決めてください!」
「待て待て、なんだその独特な遊びは。中学校で流行ってるのか?」
知らないとばかりにふるふると首を横に振るマオの様子を見るに、どうやら俺の知らない流行りのゲームとかではないらしい。
これから何が開催されるのか訳も分からず、ヒナに促されるままに4人でじゃんけんをし、対戦形式としては俺VSアリス、そしてレインVSマオという形になった。
――――
「遂に始まりました第1回川崎家叱り役決定戦!ルールは至って簡単です!この決定戦は1位を決めるまで一対一のトーナメント形式で行われ、1ゲームでそれぞれ対戦相手を叱っていただき、その叱り方の姿勢や内容が的を得たものかでポイントをつけます! 司会進行及び審査員はヒナがお送りしますので画面の前の皆さん、チャンネルはそのままでお願いしますねっ!」
ヒナは何処を見ているのか、虚空に向かってきゃぴっとアピールしながら謎のポージングを決めている。
「なんでヒナちゃんははこんなにノリノリなのかしら?」
「こんなに楽しそうなヒナ、ヌシと一緒に寝られる前日の夜以外に見たことがないぞ。レン」
「俺と寝る前の夜のヒナってあんなテンション高かったの?」
嬉々としてマイクに見立てたテレビのリモコンを片手に持ち、リビングの中心で文字通り司会進行をしているヒナのテンションは今まで見たことがないほど高い。はっきり言って怖いくらいだ。
いつものお淑やかで穏やかなヒナはどこに行ったのか、今のヒナは目がぐるぐると回っていて、どこか様子がおかしいように見える。
「………ん?」
ヒナの目を注視していると、ある事に気がつく。
「どうしたのじゃ? レン」
「いや……」
思わず漏れ出た声にマオが反応し、俺の元へと近づいてくる。
頭一個分下から上目遣いで俺の顔を見てくるマオに、ヒナの目元にわずかながらにできている薄いクマから考えられる原因を問う。
「もしかしてヒナ、昨日あんまり寝れてない感じか?」
「我にそれを聞かれてもな。アリスなら何か知っているのではないか?」
そうだ、マオとヒナは別室で寝てるんだった。
ヒナの司会する番組に楽しげに合いの手を入れているアリスの肩を軽く叩き、マオに聞いた事と同じことを聞いてみる。
アリスは合いの手を止め、俺に向き直ると、うーんと顎に手を当て考えた後、探るような感じで答える。
「あ〜、多分あんまり寝れてないんじゃないかな? ご主人様とレインちゃんの取っ組み合いとかを叱ってるうちに目が覚めて、そのまま寝れなかったんだと思うよ」
アリスから返ってきた答えは少し考えれば分かるほどに単純で明確なことだった。
夜中にあんだけ騒いでいた俺たちをわざわざ叱りに来たんだから、それを機に目が覚めてしまい寝不足になってしまうのは当たり前のことだ。
ヒナがあんな風になってしまった原因が俺たちにあるとするなら。
もし、寝不足が原因で我慢強いヒナが普段から思っていることをこのような形で教えてくれているのだとしたら。
「……全力で付き合うしかないよな」
可愛い妹の為にも、お兄ちゃんが全力で遊びに付き合ってやるのは世の常だろう。
俺は袖を捲りあげ、再びヒナに合いの手を入れ始めたアリスの正面に向かい合う。
「......おやおや? ご主人様、ボクとやりあう準備万端みたいだね〜」
向き直るとアリスは、待ってましたと言わんばかりに合いの手をすっと止め、俺の顔を自信満々に見下してくる。
「当たり前だ。直接の原因じゃないアリスとやり合うのは不本意だが、俺の妹のためにも付き合ってもらうからな」
俺が指をポキポキと鳴らしながらアリスの出方を伺っていると、何を勘違いしたのか、アリスはみるみるうちに顔を赤面させる。
「……!? つ、付き合う?? えぇっと、ご主人様にはレインちゃんが居るけど、一夫多妻制がこの国で認められてるってことなら…… ふ、不束者ですが、その……よろしくおねが」
「ちょっと待ちなさい! アリス、あんたそれ以上言葉を続けたらタダじゃ置かないから! レンもレンよ、あんたはもっと言葉を選びなさい!」
「え、俺なんか不味いこと言ったか??」
突然変なことを口走るアリスの口元を抑えるために飛び込んできたレインに何故か俺が叱責される。
「はぁ? あんた、今アリスに付き合ってくれって、そんなのもうほとんど告白じゃない!」
レインは顔を赤面させながら激昂し、口元を押えられているアリスもレインに拘束されながらもブンブンと顔を縦に振る。
「何言ってんだ? 俺が言った"付き合う"ってのは"遊びに付き合う"って意味だし、何より今こんな状況で急に告白なんかするわけないだろ」
俺が真顔で言い放つと、興奮していた2人は我に返ったのか、すんっと落ち着くとレインがアリスの拘束をとく。
アリスはしばらく咳払いをし、息を整え終えると
「……まぁ、分かってたけど、分かってたけどね? ちょっとくらい……夢、見せてもらってもいいじゃんね」
死んだ魚のような遠い目をしながら、そう呟いた。
――――
「それでは第1回戦です! お兄ちゃんvsアリスさん! レディファイッ!」
ヒナの掛け声と共に、レインのアイテムボックスから取り出したのか、歪な形をしたゴングの音が鳴る。
気持ちのいい開始音じゃなく、どちらかといえば不協和音のような不快な音だったが、周りが誰一人として気にしていない様子なのはこいつらが何回か聞いたことがあるからなのだろうか。
そんなことを考えているとアリスが指をさして言ってくる。
「ご主人様がこないならこっちから行くよ。ボクがご主人様に対して怒ってることその1、健康管理がなって無さすぎること!」
ずばりと言われ思わず身構える俺に対してアリスは続けて言ってくる。
「ヒナちちゃんから聞いたけど、ご主人様はボクやヒナちゃんがご飯作るようになるまでインスタント食品しか食べてなかったんだよね?ご主人様はただでさえ他の人よりも不健康な生活リズムなんだからせめて食事くらいは気を使ってもらわないと! 今ボクがどれだけご主人様の健康に気をつけて朝昼晩のご飯を作ってるか分かる?」
「ぐっ……れ、レインが来てからはわりかし作るようになってたし……! それに、今どきのインスタント食品の栄養値なめんなよ? けっこうバランスのいいモノだってあるんだぞ!」
「レインちゃんが来てからって……それもつい最近の話だよね? ヒナちゃんが海外に行ってから帰ってくるまでの一年間、調べてみたけどほとんどインスタント食品だったよ? それに、栄養値がどうこうとか言ってるけどそんなもの全部無視した激辛ラーメンか大盛り焼きそばの2つだったじゃん!」
「おぉっと、アリス選手の口撃が止まりません! それに言っていたことは全てが紛れもない真実でお兄ちゃんにクリーンヒット! ここからの逆転は流石に厳しいか……?! お兄ちゃんはどう対応するのでしょう??!」
俺の抵抗も虚しく、一瞬にしてアリスに論破される。ヒナは俺の論破される様子が見ていて楽しかったのか、興奮した様子でリモコンを口に当てる。
確かにヒナが帰ってくるまでの一年間は、栄養なんか全く気にせず、好きなものをだけを食べていた。
特に好き好んで食っていたのは、アリスも言っていたような激辛ラーメンのインスタントか、大盛り焼きそばのインスタント食品だった。
辛いのが好きという訳ではないが、激辛ラーメンは定期的に食べたくなる味をしていて中毒性がとても高い。対して大盛り焼きそばは値段に対しての量が多く、味も美味しいので満足度が非常に高い一品だ。
インスタント食品というのはゲーム開発で時間の無い俺にとってはコスパの良い食品だったので、一人暮らしならば自ずとそれらに食事を委ねるのは自然な流れであろう。
「ぐぬぬ……こいつ、強い! 気にしてもいなかったのに栄養値がどうこうと言ってしまったのは自分の首を絞めるだっけだったか……。…………ん? なんでアリスは俺が食っていたインスタント食品知ってるんだ?」
「……!!」
俺の呟いた何気ない一言に、先程まで余裕そうな表情を見せていたアリスが肩をビクッと震わせる。
視線を合わせようとするも、アリスの目が泳ぎまくっていることからして、ここを突いたほうが良さそうだ。
「おやおや? アリスさんや、お主、ワシの一年前からの食事の記録……どうやって手に入れた? 当たり前だけど当時食べてた後の容器は全て捨ててあるし、まさか、まさかとは思うが、ワシのパソコンからの買い物の履歴を盗み見でもしない限り、そんな前のことを知ることはできないはずじゃが……」
わざとらしく老人の口調でアリスを責め立てると、アリスは一気にしおらしくなってしまい、顔から汗がダラダラとこぼれ落ち始める。
硬直するアリスの周りを数十秒うろうろしていると、観念したのかアリスは手を挙げながら
「すみません、ご主人様のパソコンの中、ご主人様が学校に行っている間に全部見ちゃいました」
「アウトーッ! それは不正アクセスといって立派な犯罪行為ですよアリスさん! プライバシーの侵害だ! 審査員、果たしてこれは認められていいのでしょうか?!」
相手の犯罪歴から勝ちを確信した俺が審査員長にジャッジを頼むと、ヒナはうーんと数秒考えた後、バツが悪そうに目を逸らしながらほっぺをポリポリとかいて……
「こ、この勝負はあくまで叱る方の姿勢や内容の的を得たものを参照するものであって……確かにお兄ちゃんがアリスさんの犯罪に対して叱るのは至極真っ当なことなのですが……それを言い出してしまうとヒナを含めるこの場に居る女子4人とも犯罪者という形になってしまうといいますか……」
「は? 何言って……」
頬をかくのを止め、にへらと笑みを浮かべたヒナが俺の方に向き直ると
「えへへっ、ごめんなさいっ。お兄ちゃん!」
てへぺろと言いながら銀河一可愛い仕草と表情で何故か謝ってきたヒナに対して、理解が追いつかないまま、"第1回川崎家叱り役トーナメント"は、勝者なしという形で幕を閉じたのだった。
――――
「ごめんなさい」「なのじゃ」
終わったあとついでにレインと赤面したマオも何故か謝ってきた。
「??? お、おう……」
俺は終始何が起こっているのか理解できないまま、今日という日を終えるのだった。
最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)
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