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閑話 1 メイドの極意

閑話 1 メイドの極意



 


「おっはよーご主人様! 朝だよ起きてー!」



「うぅん、あと5分......」



「だめ! この間甘やかしてそのまま寝かしたらそのあと1時間は起きなかったじゃん!」



「俺の"あと5分"は"1時間"なこと、ヒナかレインに聞いてなかったのか?」



「え、ボクが悪いのコレ……」



 休日だというのに先日から家に住み込みでメイドをしているアリスにやかましく叩き起される。


 せっかく補講も受け終わって休日にゆっくり出来るようになったというのに、生活習慣の整った人間がいるとどうも惰眠を貪ることは阻止されてしまうらしい。


 まだ重い瞼を開けカーテンを開けて見てみると、外はまだ朝というには少しばかり暗すぎるように思える。


 

「……おい、アリス。今何時だ?」



「え? 何時って…………もう朝の4時だよ?」



「ねえアリスは馬鹿なの? 見てくれと働きぶりは立派なメイドさんだけど、健全な男子高校生を休日の朝4時に叩き起こすとか馬鹿の所業にしか思えないんだけど」



「なっ……! 馬鹿とは心外だなご主人様。ボクはご主人様と数秒でも長く一緒に起きて過ごしたいから、ボクが起きる時間に合わせて起こしに来てあげてるんだけど! 」



「起こされたのが朝4時じゃなかっら、少しはときめくものなんだが……」


 

 ぷくーっと顔を膨らませるアリスに朝っぱらから頭を抱えながら、もう2度寝するにははっきりとし過ぎてきた意識の中、むくりと体を起こす。


 伸びをしつつベッド脇にに置いあったスマホに手を伸ばすと、時刻は4時丁度だった。


 ほんとに4時ぴったりじゃねぇか……


 俺と少しでも長く一緒にいたいというなら、俺の充分な睡眠時間を確保して寿命を伸ばす方向に持っていく脳みそはないのだろうか


 呆れつつ枕元へ目をやると、相変わらず俺の横に丸まりよだれを垂らし寝息を立てるレインがいる。


 ......ここ最近猫化したレインを見ることは随分と少なくなってきた気がする。


 マナがどうこうとか言っていたが、これも環境への適応と言うやつなのだろうか。


 

「むにゃむにゃ……うーん、もうピーマンはいやぁ……せめて地を這うパプリカにしてちょうだい…………」


 

 何言ってんだコイツは。


 俺は眠い中朝4時に叩き起されてるのに呑気に寝言をいいながら眠っているレインにムカつき、布団を剥いで俺と同じ目に合わせてやった。


 

「ーッ!? な、なに!?…… あ、ピーマン! ピーマン大佐はどこに行ったのかしら!? 」



 ほんとに何言ってるんだコイツは…………



「寝ぼけてないでお前も起きろ。アリスが用があるってよ」



「え!? ぼ、ボク……? ボクが起こしたのはご主人様だけなんだけど……」



 アリスは戸惑いながらも何かを思考をめぐらすような顔を見せ、ふと何かを思いついたかのように俺と未だ寝ぼけているレインに提案してくる



「そうだ! 今日ピクニックに行かない?」









 


「ねぇ、アリス。あたしはお休みの日に皆でピクニックに行くのはとっても賛成するわよ。楽しそうだし。でもね、でも…………何もこの格好で行くことはないんじゃないかしら」



「ダメだよレインちゃん。今日は皆でピクニックに行くんだから! それと、ご主人様に仕えるメイドの心構えも教えなくちゃならないからね! 【メイドの極意その1】ご飯はメイド服で、愛情を込めて作るべし!」



「どうなってるのよ、レン……?」



「し、知らない。俺も何が何だか……でも、レインさん。やっぱりメイド服似合ってますよ」



「そ、そう……」



 休日の午前4時、自宅のキッチンに並び立つのはメイドの格好をした2人だった。


 アリスは基本的に毎日メイド服しか着ていないが、今日は何故かレインもメイド服を着せられていた。


 アリスのメイド服は黒を基調としたザ・メイドといった感じの服装で、立派な乳房はその黒の布の内側に窮屈そうに閉じ込められている。


 レインは城西祭で使用したメイド服をアリスが改造したものを着ていた。


 こちらはアリスとは対照的に白を基調としたもので、メイド喫茶やコンカフェなどを彷彿とさせるメイド服である。


 アリスが改造したこともあり、胸がしっかり隠れているアリスのメイド服とは違い、レインのメイド服は鎖骨から胸の少し上にかけて穴が空いていて肌色の部分が少し顔をのぞかせている。


 天才だ……


 この鎖骨から上胸部にかけての適度な露出が世界を救う。


 アリスサイズなら谷間が見えてしまうだろうほどの肌の露出も、推定Aカップのレインが着ると縦に入ったI字のラインは見えることがない。


 そこにあるのは男の子の夢と希望、そしてわずかながら垣間見える影にはロマンが詰まっている。


 レインのメイド服にこの魔改造を施したアリスは間違いなく天才だと思う。



「そ、そんなに見つめないで!エッチ!」


 

 レインの肌の出ている部分を凝視していると久しぶりにエッチだと激昂されてしまった。




 




 その後は3人で仲良く朝食と昼食を作った。

 

 朝食はいつも通りトーストとサラダという簡単なものだったが、昼食は5人が満足できる分作らなければいけなかったので、いくら3人がかりとはいえ時間がかかった。


 とは言っても、アリスの料理の手際が良すぎて俺とレインは調味料をとったり、味見をしてみたりなど雑なものばかりだったのだが。


 途中、レインが味見に夢中になりすぎてアリスに怒られたり、弁当にピーマンを詰めようとするアリスに向かってレインが「ピーマン大佐はいや……」などと訳の分からないことを言ってピーマンを拒んだり……など色々とあったが、小一時間ほどでなんとか完成させることが出来た。



「ふーっ。初めてお弁当作ったけれど、中々楽しかったわね!」



「お前は味見しかしてないだろ、ピーマン大佐」



「ちょっと、今度その名前で呼んだらぶっ飛ばすわよ」



「あはは、せっかく3人でキッチンに並んだのにほとんどボクがやっちゃったもんね……でも、今からする仕上げは2人にもできることだよ!」



「あたし「俺たちにも……??」」



「そう! ボクが最初に言った【メイドの極意その1】は覚えてるかな?」



【メイドの極意その1】?確かアリスがさっきそんな事を言ってたような……


 思い出そうともそれとなく流していたためぼやっとしか思い出せなく悩んでいると、レインは思い出したのか、はっとした表情で手を挙げる。


 挙手をしたレインはアリスに指されると


 

「はい! 【メイド極意その1】は、"ご飯はメイド服で、愛情を込めて作るべし! "です。先生!」

 

 

「正にその通りだともレイン君、100点満点だ」



「ありがとうございます! ありがとうございます!」



「………………」

 


 料理をしている間に何故か師弟関係を結んだらしいレインがアリスに向かって頭を下げる。


 そんなアホらしい光景をぼけーっと見ていると、アリスが俺とレインの手を取り、最後の仕上げと言って指でハートの形を作る。


 なんとなくこの後の展開が予想できた俺はアリスに向かって



「お、おい。まさか、"愛情を込める"って……」



「そうだよ、ご主人様の予想通り!ほら、2人も早くこのポーズをとって! 」

 


 アリスに従わざるを得ない状況になってしまい、俺とレインは渋々指でハートを作る。


 俺たちの様子を見たアリスは満足気な表情を見せると、弁当に向き直り



「それじゃあいくよ! 美味しくな〜れ! 萌え萌えきゅんっ!」



「「も、もえもえきゅん…………」」



 元気よく定番のメイド魔法を唱えるアリスに続き、俺とレインはアリスとは対照的に生気がない声で魔法を唱えたのだった。





 





「よ〜し、ご飯作った後は洗濯物干すよ!【メイドの極意その2】洗濯物はメイド服で、愛情を込めて干すべし!」



「「はーい…………ん?」」



 すっかりアリスのペースに乗せられた俺たちは、脱衣所へと向かうアリスに追従する。


 

「お洗濯は夜のうちにタイマーをかけて予約しとくことで、朝から干せるから午後の分の負担を減らすことができるんだよ!」



「「なるほど………」」



 流石は宇宙一のすーぱーメイドを自称することもあり、料理以外の家事スキルと理解力が相当高い。


 洗濯機から昨夜のうちに洗っていた洗濯物を取り出すアリスの手際は非常に素早い。下着類やタオル、普段着からパジャマまである中、その見事な手腕は素早い分別を可能としていた。


 

「…………ん?」



 その素早い手際の中、一瞬違和感を覚える。


 そんな俺に気づいたのか、アリスは顔を向けないまま声だけで気にかけてくる。



「どうしたのご主人様? 何か変なことでもあった?」



「いや、今一瞬俺のパンツが……」



「……パンツ? パンツがどうかしたの?」



 俺の言葉にびくっと肩を震わせたアリスは、先程までの見事な手際が嘘のようにもたつき始め、洗濯物を取り出した途端ぐちゃぐちゃにしてしまっていた。


 何故かアリスがものすごく動揺していた気がするが、多分俺の見間違いだろう。



「いや、やっぱりなんでも、な…………」



 ………………



 いや今明らかにアリスが俺のパンツをポケットに詰め込んでたな。



「おい」



「…………さ、もう全部分別し終わったから干しに行こっか!」



「お前………あ」



「ご主人様にはこれを進呈するから、この事はお互い見なかったことにしよう?」



「お、お前コレって…………」


 

 アリスはバツが悪そうに顔を逸らすと分別し終えた洗濯物を干すべく、それらを持ち脱衣所を後にする。



「どうかしたの、レン?」



 アリスに手渡されたソレを2度見し、本物であることを確認した俺は素早くポケットへとソレをしまうと



「なんでもないよ、さぁ洗濯物は待ってくれない!干しに行くか!」



「突然どうしたのよ……」



 アリスに手渡されたソレが在りし日のレインが履いていた水色のパンツであることを確認し終えると同時、レインに変に疑われない内にその手を取ってアリスの元へと向かうのだった。




 



「さぁ2人とも。さっきボクが言った【メイドの極意その2】覚えてるかな?」



「"洗濯物はメイド服で、愛情を込めて干すこと"です。先生!」


 

「正解だよレン君!120点!」

 


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 

「……レンはいつの間に先生に弟子入りしたのかしら」



「ついさっきだ」



 なんだかこの茶番も楽しくなってきた俺たちは、まだ朝の6時だというのに変なテンションで洗濯物を干していた。


 外は丁度朝日が登り始め、少しばかり明るくなってきている。


 アリスは洗濯物のシワを1枚1枚伸ばしながら、丁寧に物干し竿に干していく。

 

 それを見た俺とレインも続き、3人でせっせと洗濯物を干した。


 途中、俺の手にお宝が舞い降りる。

 


「おぉ、これは……」


 

 白色の布を広げ、朝日に掲げてみるとそれはもう立派な後光が差してるらっしゃるレインのありがたい下着だった。



「ーーッ! それはダメー!」


 

後光の差しているレインの下着を拝んでいると、それに気づいたレインに下着を取り上げられる。


 

「夢と下着は儚い(履かない)ものってな……」



「上手く言ってるようで言ってないよご主人様……代わりといっちゃなんだけどボクの、いる?」



「お構いなく」



「なんでなの!」


 

俺をそんじょそこらの男子高校生と一緒にしてもらっては困る。俺は別に女性の下着だから欲しいという訳ではない。

 それがレインのものだというから欲しいのである。


 アリスの提案を丁寧に断ったあと、3人がかりということもあってか整理された洗濯物は数分で全て干すことができた。



「やっと終わった……」


 

 朝4時から体かを動かしっぱなしだと流石に疲れる。

 

 ベランダで凝り固まった肩を思い切り伸ばしていると横に来たレインが真似し始め、2人で朝日を見ながら気持ちの良いストレッチをする



「よ〜し、じゃあ最後の仕上げいくよ!」


 

 ストレッチをしていると、キリの良い所まで終わった所でアリスが話しかけてくる



「仕上げ……? 洗濯は干したらもう終わりだろ」


 

「分かってないなぁ、ご主人様」

 


 アリスはちっちっちっと指を振りながら俺の肩に手を置くと、まるで重大なことのように真剣な目つきで語り出す


 

「最初に言ったよね? "愛情"を込めるって」


 

「愛情を込める……? お、お前まさか」


 

 ゴクリと唾を飲み込む俺にアリスはウィンクすると


 

「分かったみたいだね! それじゃあいくよっ!」


 

 天真爛漫をそのまま絵に描いたような様子で


 

「綺麗にな〜れ、萌え萌えきゅんっ!」


 

 洗濯物へと魔法をかけた。


 

「「も、もえもえきゅん…………」」



 

 これ、合ってる?



 


初の番外編です。これからは物語のあいだあいだにちょくちょく挟んでいきます。


最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)

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