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第42話 3度目の

第42話 3度目の



「ナ〜ンてナ、今ノハ単ナル時間稼ぎダ.......」



山羊悪魔は不敵な笑みを浮かべそう呟くと、口から血を吹き出しながらも大きな声で叫ぶ。



「サキュバス! コッチへ来イ! オマエが役二立ツ時ガ来タゾ!」



山羊悪魔が大きな口を開き、叫びながら左手を壁際に座り込むサキュバスの子へ向ける。



「ーーッ!? きゃああああっ!」



同時、サキュバスの子の腹部の奴隷紋が光出し、彼女は悲痛な叫び声をあげる。



「ーッ! おい、山羊! サキュバスの子に何をした!?」



「ガハハハハ! なぁ二、俺ノ奴隷二主人でアル俺ガ命令しタだケダ。ナニがオカシイ? さぁコッチに来ルンダ! 早ク!」



山羊悪魔に命令されたサキュバスの子は、悲鳴をあげながら悪魔の元へと近づいていく。

 

だが、意思に反して勝手に足が動いているのか、その足取りはまるで何かに無理やり引っ張られているようなものだった。



「ーッいやぁ!! もうやめて......!」



命令に背き後退しようとするのには激痛が伴うのか、サキュバスの子の体にはバチバチと電気のようなものが走っている。

 

立ち止まることでやっとなのか、彼女は少し進んだところで歩みを止める。



「......チッ、使エねェナ。まァコノ距離ナラ問題ナイ。我ガ奴隷よ! ソノ命、我ノタメに差シ出スがイイ! 『ヘル・フレイム』! 」



山羊悪魔が詠唱すると、こちらへ向けられていた左手から歪な形をした焔が噴出される。

 

黒く燃え盛る焔は、そのまま一直線に必死に後退しようとするサキュバス子へと向かっていく。



「ーーッ!?」



この魔法はやばい。


普段からレインやマオが魔法を使う場面を見てきた俺から見てみても、当たれば威力が桁違いなのは明白だ。

 

サキュバスの子への命令は継続しているのか、両手を使い必死に前へ進もうとする足を止めている。



「ーッあぶない! 」



そう思った時には、叫んだ声よりも、体が先に動いていた。

 

 サキュバスの子を庇うように前へ飛び出す。




 我ながら柄にもないことをしたと思うが、これで多分良かったんだ。

 


 幼いながら、小さき頃から困ってる女の子を守れる男になれと言われて育ってきた気がする。



 まだぶつかっていないとちうのに、皮膚が焼けるような熱さを感じると同時。


 瞬間、走馬灯のように淡く光る水色の記憶が脳裏によぎる。




 


ーーー


 

「ーーーー少年、いざって言う時に女の子を守れる強い男になれよ。…………もし、少年がそんな立派な男に成長したら。……できたなら。…………その時にまた、ーーを迎えに来てくれ」



ーーー 




 …………? な、んだ?この記憶



 

 こんな記憶俺にはないはずだ。名前も顔も、見た目さえも覚えていない。



 

 それなのに何故なんだ……?


何故、こんな、こんなにも



 




 

  懐かしい感じがするのは…………








 

「…………」

 


「ーーッ! ……ン! 大……夫?」


 

「……?」


 

「レン! 大丈夫?! ごめんね、怖い思いさせてしまったわ。もう大丈夫だから!」



「ーッあ。 そうだ、なにぼーっとしてたんだ、俺」



 黒い焔に体中を包まれ、焼死してしまったと思っていたが、前を見ると魔法障壁を張ったレインが俺の様子を気にかけてきていた。


 

「まったく、レンはお人好しなんだから 」



「......! レイン!」



「ーッ! ちょ、レ、レン!? どうしたの、急に抱きついてきて…………」



 俺の目の前に屈み、顔を覗かせてくるレインを思わず抱きしめると同時、ものすごい安心感が押し寄せてくる。



 怖かった。ただ、ひたすらに。

 


 いくら身体強化魔法で多少防御力が上がっていたといっても、あの魔法を直に食らっていれば流石に死んでいたと思う。


 考えなしというわけではないが、俺がここまで他人、ましてや初対面のサキュバスに対して命懸けの行動を取れるとは。

 

 自分の行動の無謀さに、流石の自分でも驚かざるを得ない。


 

「ごめんね、ほんとにごめんね…………」



「ううん、大丈夫。助けてくれてありがとう、レイン」



 抱きしめているとレインの方も余程怖かったのか、俺を強く抱きしめ返してきた。


 最愛の人が目の前で失われる辛さは、何故だか俺もよく分かる気がする。


 とりあえず、お互い無事でよかった。


 ひとしきり互いに抱きしめ合った後、レインの肩に手をおき、再び顔を見つめる。



「…………ひどい顔だな。涙に鼻水、顔中の穴という穴から体液溢れ出てるぞ」



「ーッ! こ、これは……仕方ないじゃない。レンがサキュバスを庇って前に出た時、本当に終わったかと思ったのよ。文字通り、なにもかも。……だから、「守ってくれてありがとうって」レンは言ってくれたけど、あたしからからしたら…………生きててくれて、ありがとう。レン」



 涙を拭いたレインはすっと立ち上がり、魔法障壁にぶつかり爆散した焔を確認するように前へ出る。


 

「…………」



 山羊悪魔の生存確認のため、煙が立ちこめる中、そいつの元へと近づいてみると、先のレインの攻撃でもう死んでしまっていた。


 レインの光の斬撃による上半身と下半身の分裂は、残り魔力量が少なかった山羊悪魔には致命傷だったらしい。


 最後に力を振り絞り放った魔法も、もしサキュバスに当たれば魔力は回復できたっぽいが、レインがそれを防いだおかげでそのまま力尽き息絶えていた。



「奴隷契約を結ばれた魔物が死んでしまったら、その魔物や魔族が生前所持していた魔力や生命エネルギーはそのまま主人の元へと還元されるの。この山羊悪魔はそれを狙っていたようだわ。一足先に気づくことが出来て良かったわね」



「そうか、だからこの子は……」



 山羊悪魔の命令に背いた罰なのか、腹部の淫紋が真っ赤に染まりあがり、最後まで抵抗していたことですっかり気絶してしまっているサキュバスの子へと目を向ける。


 レインはしばらく悩んだような顔を見せたあと、俺に問いかける。



「……で、結局この子はどうするの? 浄化するなら弱っている今が1番やりやすいわよ」


 

「うーん、でも一連のやり取りを見てみても、この子はアイツに奴隷として良いように使われていただけだったんだろ? 多分、俺や他の観光客にに呪いをかけさせて弱らせ、山羊悪魔は弱った人間をいたぶって殺していたと思う。要するにその子、被害者なんじゃないかって思うんだ。最初もどうやら山羊悪魔について教えてくれそうな雰囲気だったし……」



俺としてはこの子は生かしてあげたい。


 とはいえ、レインの言い分もわかる。


 この子もレインたちの世界から来た魔族な以上、生きていく上で、こちら側の世界の人間に少なからず迷惑をかけてしまうはずだ。


 じゃあ浄化してしまって全て無かったことにするかと言われれば…………うーん。


 ピクシーやさっきの山羊悪魔のような異形の類いならば幾分マシだろうが、ほとんど人間の女の子みたいな見た目をしているこの子をさくっと殺ってしまうのは流石に……


 俺が葛藤していると、レインははぁっとため息を吐き、サキュバスの子の額に手を当て、魔力を流し込む。



「せっかくレンが体を張って助けたんだから、浄化するのはやめておくわ。元いた世界に帰すだけにしておくわね」



「お、お前。そんな事できたのか……まぁ、出来るならそれが1番良い方法かもな」



 レインはこちらの世界に来てしまったレインの世界の住人を魔力を込めることで帰還させることが出来るらしかった。


 だが、世界の壁を越える魔法は効果が絶大なため、消費魔力もまた絶大らしく、サキュバスの子を送り返したレインはその場に崩れ落ちてしまった。






ーーー

 


「今日は色々と大変だったな……」



「そうね……せっかくのレンとのデートで遊園地に来たのに、アトラクションもあまり乗れなかったのが残念だわ」



「気にするとこそこ……?」



 魔力を消耗し、崩れ落ちてしまったレインをおぶりながら、2人ですお化け屋敷から脱出する。


 お化け屋敷の中は山羊悪魔との戦闘でぼろぼろに破壊されてしまっていたが、レインの『アイテムボックス』に入っていた"タイムジャック時計"という、数十分前まで時間を巻き戻すことの出来るチート時計を使って復元した。


 このアイテムはボスキャラクラスのエネミーを倒した際に低確率でドロップするアイテムで、1000周した俺でさえ10個ほどしか手に入れられなかった貴重なアイテムなので、使い所を考えなければならない。



「ーー! レン、あの乗り物、まだやってるみたいよ!」



 後ろにおぶられたレインが、俺が結構ギリギリで頑張って歩いているというのに突然暴れ出す。


 急にはしゃぎだしたレインが指を指していたのは、ライトアップされた観覧車だった。



「観覧車か。そうだな、最後にあれだけ乗って帰るか」



「え、いいの? ありがとう!」



 レインは俺の反応が予想外だったのか、少し戸惑いつも感謝の言葉を述べてくる。


 本音のところは早く帰って今すぐにでも寝てしまいたいが、今日は散々な目にあったのでレインといちゃいちゃしてメンタルを回復したいというのもある。



 決して、遊園地に着くまでの電車の中、パンフレットを熱心に見つめるレインが観覧車のページをキラキラした目で見ていたからとかではない……







「お2人様ですね。お次に案内しますので、少々お待ちください」



「はーい」



 やはり他のアトラクションと同様、平日は比較的人が少ないおかけであまり待たずに先頭に並ぶことが出来た。


 流石にレインをおぶったまま乗り込むのは少々骨が折れた。


 レインの頭を何度もぶつけてしまったせいでようやく乗り込めた時にはレインは少し涙目になっていた。






「わぁ……綺麗ね…………」



「……あぁ、そうだな」



 観覧車からは夜の街を一望できた。


 もうすっかり夜も深け、たくさんの建物に明かりが付いている。


 この小さな建物の明かり1つ1つに、それぞれの人生があって、生活があって、家族がいて……そう考えると、今日の出来事もなんだかちっぽけなものだった気もしてくる。


 レインは観覧車の頂上付近からの眺めを気に入ったのか、夜の街の景色を見つめ、うっとりとしていた。


 流石美少女、観覧車の窓から微かに入ってくる月明かりも映えるいい女だ。


 レインは外の景色を眺め、そんなレインの横顔を俺が見つめ、しばらく無言の間が続く。


 …………

 

 レインは途中から俺に見つめられていることに気づいたのか、少し耳を赤くしていた。


 

「な、なに人のことジロジロ見てるのよ」



 流石にこの無言の間は答えたのか、外の景色から視線を戻したレインは、横に座る俺に向き直る。



「用がなくちゃ見ちゃいけないのかよ」



「ーッ! べ、別にそんなことは言ってないわよ! いいわ、気が済むまで好きなだけ見つめてなさい! そ、その代わり、あたしもレンのこと見つめ返すから!」



 そう言うとレインは姿勢を正し、俺の目をじっと見つめ返してくる。


 困ったな、からかうつもりで言った言葉がかえってレインの対抗心を燃やしてしまうことになるとは。


 まぁ、しばらく見つめ続けてたらレインの方が先に視線逸らすだろう。もう観覧車の終わりも近いし。


  再びしばらくの沈黙が訪れ、空間に響くのは観覧車の揺れる微かな鉄の軋む音だけだった。



 高度が下がり、観覧車の終わりが近づいてくる。




 なんだかどっと疲れてしまった1日ももう終わりだな……



 ふと、そう思っていた時だった。





「ーッもう我慢できないわ!」



 レインがすっと立ち上がり、俺の正面に向かい立つ。


 ぼーっとしていたのと、突然のレインの予想外の行動に思わず少し驚き身をすくめる。



「レン。その……あたし、今日の朝からずっと、ずっと我慢してた事があるんだけど分かるかしら?」


 

 え、何? 俺なんかレイン怒らせるようなことしたっけ……?


 やっぱりサキュバスの子を庇ったのがいけなかったか……?


 でもあの時はレインに特に何も言われなかったし……


 俺を見下した状態で突然問いかけてくるレインの質問に全力で思考をめぐらす。


 

「ご、ごめんやっぱりサキュバスの子を庇ったのがいけなかったよな……レインが守ってくれなかったら死んでたと思うし、ほんとにごめん」


 

 数秒の間に脳みそをフル回転させ、導き出した心当たりをレインに告げる。


 出した答えが違かったのか、レインは首をフルフルと横に振ると、一歩踏み出し、俺へ近づいてくる。


 

「まったく、それはもう気にしてないから大丈夫よ。何よりあれはあたしにも非があったと思うし……それより、"朝"から我慢してることって言ったわよね? 正解を教えてあげる。答えは、これよ……………」



 

 

 観覧車の鉄作りの硬く、冷たい椅子の感触を感じながら



 

 

 立った状態から俺と目線が合うまで腰を曲げたレインは




 

 俺の唇を奪い、"正解"を教えてくれた。


 



 

最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)

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