第29話 ほとんどコクハク
第29話 ほとんどコクハク
「っええええええ!? 後夜祭のダンスに誘うこと自体が実質告白!?」
「むしろ意味知らないで誘ってたのかよ......、サヤ先輩に教えてもらったりしてないのか?」
「お姉ちゃんそんなこと言ってなかったです! あ、でも誰か年下の男の子を狙ってるとかは言ってましたね」
「......」
レインが俺の方を無言でじっと見つめてくる。
その瞳には何が映ってるのか、今までに感じたことの無い殺意と憎悪の念が込められている。
こ、怖い!目を合わせたら絶対に即死だ......
ここは一旦黙秘権を行使するしかない。
日本の司法には推定無罪の原則という素晴らしいシステムが組み込まれている。
そう。まだ何もしていないうちは有罪判決されることはないのだ。
堂々としていればいい。
ど、堂々と......
「す、すみませんでした。サヤ先輩の誘いには断りを入れておきます......」
「うむ、よろしい」
かといってレインの圧力に耐えられる程、屈強な精神はしていなかった。
ーーー
どうやらチナツちゃんは後夜祭に誘うことの意味を知っていなかったらしい。
新入生だから当然っちゃ当然だが、風の噂程度で聞いたことはあると思っていた。
城西祭の後夜祭に誘うことはほとんど告白に近い意味を持つ。
昔から伝わるこの街の逸話に基づいたものらしいが、文化祭の空気にあてられてか、この1年で最もカップルが成立しやすい時期と城西では言われている。
チナツちゃんが手紙を渡した翌日、その事を第2会議室で話すと知らなかったらしく大袈裟に驚いていた。
「ま、まあ好きな人なんだしいいじゃん。事故みたいなものだけど告白の時期が早まっただけだって」
「そ、そうね! その子が他の子にとられちゃう前に自分の存在をアピールできたんだから悪いことばかりじゃないと思うわ」
「う、うぅ、告白はもっとロマンチックにしたかったのに......」
涙目になるチナツちゃんを俺とレインが2人がかりで慰める。
告白の雰囲気をとても重んじるチナツちゃんは見た目が強烈な反面、とてもいじらしい。
「そういえば、先輩たちの告白の時ってどんな感じでしたか......?」
徐々に落ち着いてきたチナツちゃんはそんなことを聞いてくる。
「どんな感じって、特になにも面白くもないぞ」
「そうね、あたしが初めてレンに会った時、踏みつけらた挙句裸を見られて、着替えを観察されて......その後にプロポーズされたわね」
「めちゃくちゃアブノーマル!?」
「ちょっと待て! いや大体あってるんだけどほんとにちょっと待ってくれ!!」
「ね、ねえレン。よければもう1回踏んずけてみてくれないかしら」
何が目覚めたのか、はあはあと言いながら迫ってくるレインの口を必死に抑え込む。
ツンデレつよつよ勇者にドM要素まで持ち合わせるとほんとキャラが渋滞するからやめろ。
「や、やめろ手を舐めるな!!」
レインの口を塞いでいると苦しくなってきたのかぺろぺろと俺の手のひらを舐めだす。
チナツちゃんの俺たちを見る目が尊敬や信頼からどんどん軽蔑の類いなっているのでほんとにやめて欲しい。
ーーー
「はぁ、き、緊張するけど行ってきますね......」
俺とレインはひとしきりじゃれ合ったあと、返事を貰うべく昨日と同じ教室に向かうチナツちゃんの背中を見送る。
「心配すんな、チナツちゃんならきっと大丈夫だよ」
昨日同様親指を立てる俺たちに、昨日よりもスッキリとした顔でチナツちゃんが親指を立て返す。
俺とレインは再び昨日と同じポジションにつき、聞き耳をたてる。
「ヨチちゃん、その、昨日のお返事貰いに来たよ......」
「あ、チナツちゃん......」
チナツちゃんのことを見つめる市井さんは夕日に当てられてか、どことなく頬を朱に染めている気がする。
しばらくの沈黙のあと、口を開いたのは市井さんだった。
「手紙、読んだよ......チナツちゃんの凄く気持ちが伝わってきてほんとなんだなって思ったよ。特に修学旅行の時同じ布団で......」
「わ、わぁそれ声に出して言わなくていいから!」
「そ、そう......とにかくあの後私なりにたくさん考えて、私がチナツちゃんのことをどう思っているのか、そしてこの感情はどういうものなのか自分なりに結論を出したんだ」
「う、うん......」
市井さんははぁっと一呼吸間を置くと、ゆっくりと探るように、言葉を紡ぐ。
「わ、私もチナツちゃんのコトが好き、みたい......だから後夜祭だけとは言わずにその後も付き合えないかな、その、恋人、として......」
「ーーーッ!!はい、こちらこそよろしくお願いします!」
無事に想いが伝わり、結ばれた2人は手を取り合い互いの顔を見つめている。
3年間募った想いをそれがたとえ同性でも、今までの関係が崩れるとしても頑張って伝え、関係は今まで以上に発展する。
いい話だなー
俺がうんうんと頷きながら横を見るとレインは感極まったのか涙を流している。
そんなレインの頭を撫で、依頼が無事達成できたことを確認したのでその場を去ろうとレインの手を引き立ち上がる。
その場をそそくさと立ち去ろうとしていると......
「それで、その、修学旅行の時の事なんだけどアレはそんなつもりじゃなくって......」
「わ、わあ! その話はほんと忘れて! ほんとに声に出さなくてもいいからぁっ!!」
何かを言い争う2人の声が聞こえてくる。
......
いい話だなー。
最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)
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