第10話
第10話
俺がキッチンで3人分の昼食を作っているとバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。
足音がぺたぺたと裸足で駆け回るような音出ないことから、入ってくるのはレインではなくヒナだろうなと予想しながら料理を続ける。
少し味見をしているとリビングの扉がバンっと開かれ、そこに立っていたのは猫になり、白目を向いたレインを抱っこしたヒナだった。
き、気の毒に......
「お兄ちゃん、この白い毛玉はどうしたのですか!? ヒナが居ない間に飼い始めたんですか? とっても可愛いと思います! ヒナはネコチャンが大好きなので新しい家族は大歓迎です!」
とヒナは俺とレインの初対面を思い出させるような猫吸いをレインにかまし、とにかくたくさん愛でていた。
「それ、さっきまでいた金髪のねーちゃんだぞ」
「.....? お兄ちゃんは何を言っているのですか? 確かに目が覚めたらあの綺麗な女性の方はもう居ませんでしたが、現実的に考えて人がネコチャンになるわけないですよ? ヒナだってもう子供じゃないんです、からかわないでください!」
ヒナはふんすとそう言うと、再び猫吸いならぬレイン吸いを始めた。
俺がレインの表情を見て止めるべきかどうかなやんでいると、
「もうやめなさい! なんで兄弟揃ってこんなにも猫の匂いを吸うのが好きなのかしら? ほんとに変わっているわね.....」
猫の姿のレインがそう言い放ち、体から淡い光を放ち出す。
いや、猫吸いは猫好きにとって避けては通れぬ道というか.....
そんなしょうもないことを俺が考えていると、さっきまでレインの腹に顔を埋めていたヒナが衝撃を受けたような顔で俺に言う。
「お兄ちゃん! ネコチャンが光りだしました! なにがどうなっているのですか、しかもさっきの声は空港で会った女性の声にとても似てた気がします! まさか、まさかなのですかお兄ちゃん!」
「あぁ、そのまさかなのだよ我が妹。さっきも言った通りこの猫とさっきの金髪のねーちゃんは同一人物で名前はレインだ」
「レインさん、ですか.....」
さすが我が妹、物分りのいい子は説明をする必要がなくてお兄ちゃんとても助かります。
そんな風にヒナのことを心の中で褒め、頭を撫でてやると、ヒナは光る毛玉を見て不安そうになりながらも、撫でられて安心したような笑みを浮かべた。
光を放ち終わり人間の姿へと変わりいつものパーカーを着ているレインを見てヒナは
「信じられませんが、本当にネコチャンさんだったのですね.....」
などと呟いていた。
ちゃんなのかさんなのかどっちかにしろと思いながらもそんな所さえ愛おしいと思えるのはやはり俺も重度のシスコンなのかもしれない。
だが俺はシスコンであることを誇りに思う。
こんなに自分を慕ってくれている可愛い妹がいるのに素っ気なく対応する方がダメだと俺は思っている。
我が妹ヒナも俺には似つかないでレインにも勝るとも劣らない美少女である。
キリッとしているのに大きな目に長いまつ毛、鼻や口のパーツも言わずもがなである。
身長は俺より頭1つ分ほど小さく常に俺を上目遣いで見て来、髪はサラサラのストレートヘアーで思わずうっとりするほど美しい黒髪である。
立ち姿も凛としていて、その姿は正に大和撫子。
妹オリンピックがあればヒナは間違いなく優勝するだろうなと俺が想像をしていると
「改めまして、あたしはレイン。レンの作った世界から来たレンのパートナーよ」
とレインが俺の腕にひしっと抱きつきながらヒナに向かって自己紹介をする。
「パ、パ、パパ、パートナー.....?」
レインの自己紹介強烈な自己紹介を受け、ヒナはわなわなと震えだす。
パートナーと言いう単語がよほど強烈だったのか他のワードは全く頭に入っていないらしい。
ヒナは信じられないというような表情で、レインの言葉が本当かどうかを確かめようかと俺の言葉を待つように見上げてくる。
もう誤魔化すことも出来なくなったことを悟った俺は
「えー、この方は俺の妻です」
「1年ぶりのお兄ちゃんに彼女さんじゃなくて奥さんができちゃいました!!」
観念しレインを正式に妻と認めたことがよほど嬉しかったのか、レインは腕に抱きつく力をめきめきとあげ、俺の腕が悲鳴をあげ出す。
ヒナはわーんと絵に描いたような泣き出し方をし、そのままペタンと床に座り込んでしまう。
悲鳴をあげ続ける俺の腕をなんとかレインホールドから解放しヒナを慰めようと屈んだところ、膝に引っかかるエプロンの感触にまだ昼飯を準備していた途中だったことを思い出した。
ーーー
ひとしきり泣きたことで気が晴れたのか目を赤く腫らしたヒナが俺の隣で昼飯を食べる。
向かいにはレインが座り横にヒナが座っているという状況だ。
レインはいつも俺の向かい側の席で食事を食べているので俺の隣にヒナが座ることに特に何も文句は言わなかった。
しばらくの間無言での食事が続く。
き、気まずい......
レインもさっきのヒナの癇癪にあてられたのか、ずっと無言で食事を続けている。
ヒナは言わずもがなだ。
泣いた本人が1番気まずいのはよく分かる。
ここはお兄ちゃんとして一肌脱ぐべきかどうかと悩んでいると
「お二人は、どういった経緯でご夫婦になられたのですか?」
と食事をする手を止めたヒナが聞いてきた。
1年ぶりに会った兄にパートナーが出来ていたらその経緯が気になるのは当然だろう。
また、その経緯を聞かれたら答えるのも義務だと思う。
俺はヒナに全て話すことにした。
レインがゲームの世界から飛び出してきたこと、俺のゲームのせいで世界がやばいことになるかもしれないこと、何故レインがネコになったりなっていなかったりするのかなど.....
できる限り詳しく事の経緯を話した。
話している間ヒナは無言で俺とレインの顔を見つめていた。
俺たちの表情から冗談などではないことを察したのか、ヒナはため息をつきながら
「信じられませんが、お兄ちゃんがそう言うなら本当の事なのでしょうね。きちんとお父さんには報告しましたか?」
「......まだしてない」
俺の返事を聞くとヒナは更に深いため息をつき、俺の太ももを軽くつねりながら
「そのようなことは早く連絡をください」
と、お説教ぽく言ってくる。
俺はヒナに謝り倒し、親父にも連絡を入れることを約束した。
「ーーーで、これからどうするのですか? お兄ちゃんはその世界のバグの原因となるモノを回収しにいくのですか?」
ヒナの当然の疑問に俺は首を横に振り
「親父にも心配かけてしまったしな。明日から学校に行くことにしたよ。そのバグが起こることも滅多にないしな。バグの原因となるモノの収集は学校に通いながらでも出来ると思うんだ」
「分かりました.....私川崎ヒナ、レンお兄ちゃんの妹として力の限りサポートすることをここに宣言します!」
先ほどまでのテンションからは考えられないほどの大きな声でヒナは俺たちのサポートをすることを声高に宣言する。
レインはヒナの大きな声にびっくりしたのか驚いた表情で右手を掲げるヒナを見つめている。
ヒナは拳を握った右手を高く掲げたまま、にこっと素敵な妹スマイルを向けてきた。
......このスマイルは有料級だな。
ヒナに釣られて思わず笑ってしまうとレインはなにがおかしいのかときょとんとした表情で俺とヒナを見つめる。
そのレインの表情が面白くて余計に笑ってしまう俺に釣られヒナも笑いだす。
久しぶりの妹との食事は2人の笑い声で溢れていた。
最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)
よろしければ☆やリアクションで応援してくれるととても励みになります!




