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燻り烟り熒り憂い

 「よぉ、ユーリ。」


 信じられない。貴方は私が焼き殺した。その筈だ。あの日、あの時、私はこの炎で貴方を焼いた。


 「ラスメラノラス、やっぱ兄さんやったか...」


 幽羅燚鬼(ユウライツキ)...あたしの兄さん。あたしが強かったせいで狂ってしまった可哀想な人。救うべきだった人。


 「そうだ、ユーリ。アマテラに組みするお前を、今一度改心させる為に灰から蘇った、貴様の兄だ。」


 どうしたものか、青炎封印柱を建てたといえ、ここで兄さんとまともにやりあえばアマテラは30分と保たない。


 「そう、そやったらお引き取りお願いします。あたしにとってアマテラは守るべき場所になりました。」


 条約を盾にここで話し合いを長引かせて援軍を待つ。そうしないとノアとメイヒメ様が死んじゃう。サンデルあたりが早く来て欲しいけど、あの子は支度が長いからな。最低でも10分、長くて30分は保たせないと。


 「それはいけないな、ユーリ。例え貴様にとってアマテラが守るべき場所だとしても、サカシロの我らにとっては忌むべき場所だ。」


 兄さんはあの日にずっと閉じ込められてる。


 「いつまで過去のこと引き摺ってるん。いい加減現実みいや。そろそろ兄さんもいい歳や、結婚とかしはりな。」


 兄さんは笑った。嘲り笑った。


 「過去か、ならなぜお前はあのガキを守る?過去の約束じゃないのか?」


 ノアのことは貴方に任せるわ、貴方なら結婚とかしても許すから、だからお願いだからノアのこと...

 鮮明に憶えてる。その声も冷たさも、その火の熱さも。


 「それとな、ユーリ。勘違いしてるとこ悪いんだが。」


 勘違い?何かあたしは前提を...


 「今の俺の籍はネイチャーズってことになってる。」


 あの条約はあくまでアルゴダとアマテラの間によるもの、ネイチャーズは条約対象外!


 「命響(メイメイ)骸骸骸(ムクロカラカラ)[藍日葬鎧(ランジツソウガイ)]!」


 瞳も髪も黒く染まる。ギスカナを解いたのだ。あたしのギスカナの解放、それはあたしの肉体をあの黒い鎌とすることだ。

 胸ぐらを掴み、炎で上昇、天井を突き破る。戦場はあそこだ!

 

 「旧東京から、この方向は鹿児島だな。ならあと12分くらいか。昔話には丁度いい。」


 青い炎は隕石のように通る。天剣を横切り、さらに南西へ。



 

 一手目は防げた。次はどうする?そもそもどう攻める?


 「これ対処されたの久々だなぁ。ドタマ貫いて戦意喪失させるつもりだったんだけど。」


 裾が引っ張られる。メイは完全に怯えている。自分で逃げるのも無理だな。そもそも出口全部塞がれてるし。こいつを倒す、いや、殺す。


 「それ捨てちゃうんだ。」


 覚悟の差をまず埋めよう。麻酔銃を捨てる。俺が使うのはこっち、実銃だ。朽葉弾を当てる。


 「燼滅鬼灯鎚[縛封](ジンメツホオズキツイ)


 彼女の目の前に槌を出す。この後ろに隠れてもらおう。どうせ使わないしな。


 「一応僕、炎王隊で3番目に強いんだけど。それ、流石に命取りじゃない?」


 舐めてる訳じゃない。どうせ使えないものを振り回して何になる?それならいっそ、この補助輪付きナイフの方がまだやれる。


 「佩颯霜颪[縛](ハイハヤテシロオモシ)


 あれは...なんだ?でかい木の窪みがないスコップみたいな?


 「コシキダだよ。ギスカナの形状が特殊だからいつもそう言う顔されるんだよね。」


 足に力を入れ、突撃する。


 「様子見用に麻酔銃は残しとくべきだったね。」


 近接先頭になる。こちらからナイフで切り掛かる、コシキダと鍔迫り合う。その音は意外にも甲高いものであり、鉄を殴ってみるみたいだった。

 次は右足で頭目掛けてハイキック、しかしそれは簡単に左手で防がれる。おかしい、籠手なんてない筈なのに、壁を蹴ってるくらいに硬い。


 「ヴァーゼだったかな、突撃じゃなくてね。」


 奴の言葉を無視して今度はナイフを突く。これも避けられる。そしてコシキダの後ろ側で軽く、横っ腹を突かれた。

 その動作の小ささとは無関係に俺の肉体は3mほど横に飛ばされた。骨が折れた、内臓に突き刺さってる。いや、ほぼノーダメージな訳だが、おかしい。あの動作でこの威力、何かカラクリがある筈だ。

 再び突っ込む。


 「大氷雪蓮ノ葉(シガマニョウボウ)、艶雪の微笑み。」


 一瞬にして目の前に氷山が現れた。いや、取り込まれたのだ。


 「はい、終わり。じゃ、その娘は殺すね。」


 彼はゆっくり、悠然として歩を進める。彼女はただ、槌の後ろで怯えるしかできない。


 「...ノア、助けて...」


 「喰い尽くせ(レヴィアタン)!!」


 右腕ごと空間を削る。そして右腕に樹力を纏う。そう、これだ、奴の硬さと強さの理由を理解した。

 右手を叩きつけて氷を割った。


 「おぉ、樹纏力を取得したのか。よくフィーリングでできたね。」


 「まぁ、遅いよ。」


 氷柱が俺の方に伸びる。


 「喰い尽くせ(レヴィアタン)!」


 それは最初と同じようにして防ぐ。だが、もう一つの氷柱が彼女の方に伸びていたのだ。


 「いけるか!?喰い尽くせ(レヴィアタン)!」


 彼女の目の前に黒い球が出現する。2個出せたことに自分でも驚いた。


 「ふーん、やるじゃん。」


 3度目の突撃。鍔迫り合い、搗合い、搗合い、搗合い。腹目掛けで右足で突き蹴る、まだ硬いが、しかし、さっきよりマシだ。今度はナイフで切り付けながら、左脚のローキック。避けたな、脅威になったってことだ。

 そしてさっきと同じ、締めの突き。これはかわされる前提だ。


 「喰い尽くせ(レヴィアタン)

 

 その場でバックステップをして脚に出現する球を避けた。まるでそこに現れるのがわかっていたかのように。


 「そりゃ左脚に出すよね。」


 しかし、これまでの攻防で相手は俺のナイフが複数ある可能性を排除した筈だ。上着を投げつけ、それと同時に上着の裏にあった2本のナイフを投げる。上着は両断され、2本のナイフは弾かれて宙を舞う。狙い通りだ。


 「また刺してくんの?」


 同じ姿勢で、刺しに行く。しかし、今度は空中にナイフを置いた。

 右手を奴の頭の前に出し、左手に樹力を溜める。今、奴の視線は俺の右手、この空中にある三つのナイフに釘付けだ。そして左手のストレートその土手っ腹に叩き込む!


 「うがっぁ!!!」


 血を吐きながら奴は吹き飛ばされた。そしてその隙を見逃すはずもなく、攻める。


 「燼滅鬼灯鎚[縛封](ジンメツホオズキツイ)!」


 さっきの槌を消して奴の頭上に槌を出す。あのときと同じだ、奴は慌てて右に飛んだ、それを俺が撃ち抜く。


 勝った...そう確信した。

 


 鹿児島県、桜島上空。


 「堕ちろ!!!」


 火口に向かってその男は投げ込まれる。


 「葬炎(ソウエン)焼爛水子(カグツチ)


 両手から火炎放射器のように深い藍色の炎が火口に向かって放射される。そしてやがてそれは、ある瞬間に収束し、一本のレーザーとなった。


 「藍滅天燼(ランメツテンジン)!!」


 そしてやがて、限界を迎える。凄まじい轟音を奏で、地を揺らし、天を焦がした。噴火したのだ。落雷と噴煙、溶岩、一瞬にして地獄に変わる。しかし、それも始まりでしかない。


 「2度と帰ってくんな!バカ兄貴!」

 

 噴火の灰は宇宙まで届くと言う。つまり、追放だ。

 しかし、そううまくはいかない。


 「葬炎!?なして!?」


 火口の中、噴煙の中心に青い炎が星のように輝いている。


 「煌煌(コウコウ)焔燄燄(ホムラエンエン)[赤日矮装(セキジツワイショウ)]」


 男の髪も瞳も赤く染まる。ギスカナを解いたのだ。


 「纏葬炎!」


 藍色の炎を纏いながら突撃。


 「纏滅炎!」


 対して男もその赤い炎を纏った。

 攻防、拳と脚がぶつかり合うまさに体術だった。しかし、その衝突一回一回で空気がゆれ、付近は内部は暴風域となる。

 埒が開かない、お互いそう思っていた。


 「滅炎(メツエン)焼爛奘母(メザナミ)天焼焱燚(テンショウエンイツ)!」


 飛び上がり、彼女に向かって火炎放射する。そしてさっきと同じようにそれは収束してレーザーとなった。


 「(ワカツ)天神(アマツカミ)葬炎(ソウエン)焼爛水子(焼爛水子)天羅辿壁(テンラテンヘキ)


 藍色の火の壁、それでこの赤の炎を防ぐ。しかしレーザーの輝きによって外は見えない。背中に何かがぶつかるまで、飛ばされる。

 樹纏力のおかげで、勢いよく何かぶつかっても大丈夫だった。


 「熊本城ね。」


 たどり着いた場所は熊本城。地面は飛ばされた軌跡がはっきりとわかるレベルで抉れ溶けている。


 「滅炎(メツエン)焼爛奘母(メザナミ)堕天転星(ダテンテンセイ)。」


 男は火の玉となり、上空から堕ちる。巨大な隕石のように。半壊した天守閣から女それを見上げる。太陽に挑むイカロス、だがこの場合、互角である。


 「葬炎(ソウエン)焼爛水子(焼爛水子)一間閂壊(ヒトマサカイ)。」


 300mはあるであろう藍の炎の翼が出現する。


 「葬翅(ソウシ)閃壊穿槍(センカイハソウ)!!!」


 その炎の圧縮し槍として、それを天に投げる。

 隕石と槍がぶつかり、巨大な爆発が起きた。その爆発の炎は恐ろしく強大で、熊本市全体と有明海の2割を消し飛ばした。炎の塊が九州全域に降り注ぐ。その一部は藍色の炎、制御を失った獄炎である葬炎であり、この炎は星を焼き尽くすまで消えない。

 景色はまさに地獄だった。チャノキに冒された人の世界が、死に体だった街並みが火葬されて行く。

 ただ、灰と火が雨となる。


 

 


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